砕けた友情(没SS)


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

バンカーの少年、コロッケは走っていた。
胸に宿る激情のままに、ただただ塔を走っていた。

「なんでだ!なんでなんだよ!プリンプリン!キャベツ!」

脳裏に浮かぶのは、最悪の光景。
ピザの斜塔二階戦で行われた戦い。
1対1の戦いの中、生き残れるのはどちらか一人だけ。
負けた方は塔の壁の一部となって死んでしまうというルールの中、コロッケはキャベツと戦う事となり、ウスターとプリンプリンも仲間同士で戦う事となってしまう。
周りが次々と決着をつける中、俺達二組は戦うことなどできずに時間は過ぎていった。
当たり前だった。
仲間と戦う事なんて出来るわけがない。
俺も、みんなも、そう信じていると思っていた。

しかし、現実は厳しかった。
プリンプリンは、戦わずに抗おうとしていたウスターを裏切って、彼を殺した。
そして、その直後キャベツもまた俺に対して…


「くそお!くそお!くそおおおおおおおおおおおおおおお!!」


コロッケは、キャベツの「びよーんパンチマグナム」によって今まさにトドメを刺されようとしている所だった。
しかし気が付いたときには、そこにキャベツや他のみんなの姿はなく、代わりに行われたのがポーキー・ミンチによる殺し合いの宣告と5人の罪なき人があっけなく殺される無惨な光景だった。

コロッケは許せなかった。
仲間同士の戦いを、死を強いるピザの斜塔の主催者も。
こんな殺し合いを始めたポーキーも。
彼が最初に飛ばされた場所はE-7に位置する天空への塔の前だった。
高くそびえるその姿に、あの悪魔の塔を思い出し、気がつけばその塔を全速力で登っていた。

「はあ、はあ、はあ……」

図抜けた体力とスピードで塔を登り切ったコロッケ。
頂上まで登っても、当然だがピザの斜塔の主もポーキーもいなかった。
脱力して仰向けになってその場に倒れたコロッケは、夜空を見上げる。

ポーキーは、どこにいるのだろう。
この塔なんかよりもっと高いとこにいるのだろうか。
そういえば、昔父であるバーグが言っていた。
天空には、沢山の禁貨があるのだと。
その話を聞いたときは、とてもワクワクした。
天空にあるという禁貨のこともそうだが、禁貨があるなら、バンカーもいるのだろうか、と。
しかし今は、夜空を眺めても、ポーキーたち悪魔の巣窟に見えてきて、憂鬱だった。

そんなことを考えていると、走った疲れからかコロッケはしばしの眠りについた。



―ここはどこだ?

「いやあ、お目覚めですかコロッケさん!」

―お前は、ピザの斜塔の!

そこにいたのは、ピザの斜塔で進行役を務め、憎たらしい実況をしていた丸い浮遊機械だった。

―なんの用だ!

「いえいえ、大した用じゃありませんよ。ただ、不幸にも殺し合いという過酷な場に招待されたコロッケさんを激励に来ただけですよ!他の参加者に負けないように、じゃんじゃん殺してくださいね!」

561 :砕けた友情:2014/02/21(金) 01:11:53 ID:???0―何言ってるんだ!俺は殺し合いに乗るつもりなんて

「ま~だそんな甘っちょろいこといってんですかぁ?ここはピザの斜塔と同じです!やらなきゃやられるんですよ!あのウスターという君の親友のようにね!」

―ウスター…

「どんなに信頼している相手だろうと、所詮は他人。自分の身を守るためなら平気で他者を犠牲にする生き物なんですよ!」

―俺の仲間は、そんなことしない!

「おかしなことを言いますねえ!ウスターさんを殺したのは、あなたの仲間じゃあないですか」

―そ、それは…

「他にも心当たりがあるんじゃあないですか?」

プリンプリンは、ウスターを裏切って殺した。
キャベツは、俺を殺そうとした。
リゾットは、何故か敵であるレモネードやヤキソバのことをかばって、俺達によそよそしかった。

「人は、バンカーは、裏切る生き物なんですよ!どれだけきれいごとを言っていても、自分の身が一番可愛い!この世は力こそが全てなんですよ!」

―違う!違う!違う!

「ほう?何が違うというのですか?あなたは仲間を裏切った彼らを許せますか?信じられますか?仲間と呼ぶことができるんですか?」

―俺は…俺は!

悔しかった。
目の前の機械に対して言い返すことが出来ない自分が悔しかった。

仲間なのに…彼らを信じているとただそれだけ言い返せばいいだけなのに、出来なかった。
コロッケの心はそれだけ迷っていた。
自分達の仲間が…本当に信じるに足る存在であるかどうか。
裏切りの場面を目撃し、自身も裏切られたその出来事が、彼の心に大きな影を落としていた。

「それに…あなただって裏切ったじゃないですか」

―え?


そして、そんな彼に追い打ちをかける一言が、かけられた。


「キャベツさんは、あなたを殺すためにとどめの一撃を行おうとしました。その時、あなたは何をしようとしました?」

―何を?

あの時の事を思い出す。
自分の制止に構わず攻撃をしかけ、とどめとばかりにびよーんパンチマグナムの一撃を放ち。
それに対して自分は、涙を流しながら拳を構えて…

―………あ。

「そうです。あなたは殺そうとしたんですよ!キャベツさんをね!」

その事実に辿り着いた瞬間、彼の頭の中は真っ白になった。
そうだ、この殺し合いの場に連れてこられていなかったら、きっと自分はウードンの一撃でキャベツを逆に倒し、壁の一部にしていた。
いや、コロッケの記憶にないだけで、キャベツは自分に倒されてしまったかもしれない。

「まったく笑わせてくれますね。どれだけ仲間だと言い張っても、結局あなた自身がその仲間を裏切ってるじゃないですか」

「分かったでしょう?この世は力こそ正義!いくら友達ごっこをしていても、弱いものは強いものに駆逐され、裏切られる運命にあるんですよ!あなたがキャベツさんを殺そうとしたようにね!」

「今回のこの殺し合いだって同じです!どれだけ協力して主催者への打倒を目指そうと、結局裏切ることになり、最後はみんな潰しあうことになるんです!」

「あなたが賢明な判断をしてくださることを祈ることとしましょう。それでは、頑張ってくださいね!」



ガバッ!
コロッケは目を覚ました。
時間は彼が天空への塔の頂上に辿り着いてからそれほどたってはいない。

「俺は…キャベツを殺そうとしたんだ」

実際に殺したのかどうかは分からない。
しかし、もしあのままだったら、確実にウードンの技がキャベツをとらえていた。

「仲間を…裏切ったんだ」

プリンプリンがそうだったように。
キャベツがそうだったように。
リゾットももしかしたら近いうちに同じようなことをしてきたかもしれない。
助け合い、協力するべき仲間を、友達を…殺そうとした。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


深い悲しみと絶望に、コロッケは吼えた。



仰向けに倒れた状態で泣いていたコロッケは、ゆらりと立ち上がった。
その瞳は、ひどく淀んでいた。

「殺さなきゃ…」

逃げられないこの場所では、そうするしかない。
仮に逆らっても、ピザの斜塔でタンタンメンが、フォンドウォーが、ピロシキが問答無用で壁の一部にされてしまったように、首輪を爆発されてしまうだろう。
最初の場所で殺された人たちのように。
それに、もし仲間を作ったとしても、裏切られるかもしれない。
プリンプリンが、キャベツがそうだったように。
あるいは、自分が裏切ってしまうかもしれない。
キャベツを殺そうとした、あの時のように。

だから、これは仕方がないことなのだ。
ポーキーに従って、殺し合いを行うしかないのだ。
大丈夫だ。ここにはかつての仲間たちはほとんどいない。
だから戸惑いなんてなく殺せるはずだ。
知り合いで呼ばれているのは…アンチョビだけだ。

「アンチョビ…あいつには会いたくないなあ」

彼とは、約束をした。
兄を生き返らせるという約束を。
だから、彼には生きてほしい。
生きて、カラスミを生き返らせる願いを叶えてほしい。
しかし、もし出会ったら…やっぱり戦わなければならないのだろうか。

「嫌だなあ…」

全てを諦めたような表情で、一人つぶやいたコロッケは、やはり全速力で塔を降り始めた。


―かつて、初めての友達に、「友達は助け合うもの」だと言った少年は、過酷な現実を前に、友を信じることを、友を信じていた自分自身を信じることが出来なくなってしまった

―絶望をその瞳に宿した少年を待っているものは、果たして…

【E-7 天空への塔/黎明】
【コロッケ@コロッケ!】
[状態]:疲労(小)、絶望、疑心暗鬼
[装備]:コロッケのハンマー
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに乗る 
1:塔を降りる
2:誰も信じない
※参戦時期は裏バンカーサバイバル二階戦でキャベツを殺す直前です

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最終更新:2014年02月22日 23:15