豚王遊戯 ◆AL/a4gt5dw


目を覚ました――というには語弊があるが、しかし彼らの現在の状況を説明する言葉として最も適したのはそれだった。
例えば授業を聞いている途中であったり、友人と取り留めの無い会話を交わしているなり、あるいは命の奪い合いをしている途中の者達だった、
決して目を閉じていたわけではない。
ただ何事かをしている途中に何の前触れもなくこの場所に投げ出された。
場所である――何事かわからないケーブルとパイプが内蔵めいて、血管めいて、張り巡らされていた。
何事かよくわからぬままに、ケーブルを踏む子どもがいる。ぐじゅりと生物的な音を立てて、それでもそのケーブルの活動が停止する様子はなかった。
状況がわからず泣き叫ぶ子どもの声がこの場所に響く。泣き叫ぶとまではいかなくても、戸惑ってきょろきょろと辺りを見回す子どもがいる。
知人の姿を見つけ、状況はわからぬままにひとまず胸を撫で下ろす子どもがいる。あるいは殺意のままに宿敵を殺しに行かんとする子どもがいる。
子ども、子ども、子ども、子ども――この場所には子どもだけがいた。
ネバーランド染みている、だがピーターパンはいない。

「ゴホンゴホンゴホ」
あらゆる音が内包される空間ながらも、この何者かが咳き込む音だけは誰の耳にもはっきりと届いていた。
何の事はない、咳は天から聞こえていた。
ならば、この場にある何の音をも上回ってもおかしくはない。

ジャラジャラと音がした。
空を見上げる子どもたち、どこまでもどこまでも遠い天井。そして降りてくる物がある。
地にある子どもたちからはその姿が遠目に見えてよくわからない。
だが、ジャラジャラという音が近づくに連れて、その物が――棺桶あるいはベッドめいた姿をしていることがわかった。
集められた誰もが皆理解していた。
この異常事態はあれによって引き起こされた、と。

この場に集められ殺気立った幾人かが地に降り立とうとする棺桶に攻撃しないのは、
事態の全容が把握できていないから、あるいは愛用の武器が無い、ただそれだけの理由に過ぎない。
そう、武器がなかった。いや、誰もが皆元の場所で持っていた道具を持ってはいなかった。
ただ、着のみ着のままにこの場所に連れて来られた。

今は未だ、あの棺桶が何事かをするのを待ってやっている。それだけに過ぎない。

「ゴホンゴホン……ゼイゼイ」
棺桶が地に降り立った。近くで見るとどうにもその姿は蜘蛛めいていた。何足も何足も機械の蜘蛛足が付いている。
棺桶の正面はガラス張りになっており、中には一人の老人が内蔵されたベッドに横たわっていた。
老人――そう老人のはずだ。
彼の髪の全ては白く染まり、顔には数えきれぬ程の皺が刻み込まれている。
ぽっかりと開いた口からは唾液が一条の線となって流れ、
顔色に留まらず体色は長年生き続けている内にありとあらゆる色素を落としていったようだった。

だが、冗談のように彼の着ている子供服が、そして彼の歳を考えれば異常に思えるその童顔が、
とても普通の老人であると子どもたちに思わせることをしなかった。

誰も何も言えない。
先ほどまでの混沌が嘘のように、老人の出現が世界を静寂に包ませた。

「よっ!」
静寂を切り裂いたのは、子どもならではの無邪気さといえるのだろう。
赤いTシャツに黄色い短パンを合わせた坊主頭の少年が、十年来の知己であるかのように老人に気安く声を掛けた。
しんのすけ、とどこからか咎める声が聞こえる。
そう、老人に声を掛けたのはさいたま在住の野原しんのすけである。

「あんた誰?オラ達なんでここにいるの?」
子ども故の無邪気さというよりは、彼が持つ性質が故なのだろう。
単刀直入に本題に切り込まれた老人は、怒るでも笑うでもなく、ただ三度ばかり咳をして、

 

「あああああああもうやだああああああ!!!!」
機械からミサイルを放ち、やけに身長の大きいブリーフ一丁の子どもを粉々に破壊した。
老人は破壊された彼を見て、薄っすらと下劣な笑みを浮かべた。
そして、子どもたちはぶち撒けられた彼の破片によって、
今自分たちが置かれている状況が身代金目当ての誘拐などではなくもっと恐ろしい何かであることを知った。
吐瀉音が聞こえる。
悲鳴が聞こえる。
再び、世界は混沌に引き戻された。
そして、混沌の海を掻き分けて老人に向けて駆ける子どもたちがいる。

「おぬし!一体なんでそのようなことをするのだ!!」
その名をガッシュ・ベル。
一見その姿は人間に見えるが、その実魔界より来た魔物の子の一人である。
だが、人間でないからといって目の前の暴虐を見過ごせるというわけでは決して無い。
彼は優しかった。

「なんでって……それはね」
「ポーキー!!」
「ゴホンゴホン……なんだネスじゃないか、久しぶりだなぁ」
老人が言い終わるのを待ったりはしない。
ネス――そう呼ばれた赤い野球帽を被った少年は、
ガッシュに意識が向いた老人へと攻撃を仕掛ける。

「PKキアイΩ」
老人へと放つは、PSIと呼ばれる人間を超越した力――超能力の波動。
その強大さを何と言おう、人間の創りだした最終兵器、核にも匹敵しようか。
だが、老人いや――ポーキー・ミンチ。
ネスにとって最悪の隣人はにやにやと、何をするでもなくその攻撃を眺めていた。
その瞬間、ネスは悟った。

サイコシールドβ――受けたPSI攻撃をそのままに敵へと反射するバリア。
棺桶に当たるや否や、あらぬ方向に飛んでいったPSIの波動は額ににくと書かれた少年を粉々に吹き飛ばした。


「ひどいことするなぁ!ネス!!君って結構ヤな奴だったんだな……ゴホンゴホン……ゼイゼイ」
老人の哄笑が響き渡る。ネスが絶望に沈み、ガッシュはより怒りを強くする一方で、
先程殺された少年に駆け寄っていた少年がいた。

「ザオリク!ザオリク!」
金髪の少年である、よく似た顔の金髪の少女が止めるのも聞かずに、
ただ必死に、少年の残骸に向け呪文を唱え続けている。
念仏ではない、まるでそうし続ければ生き返るのかのように。

「駄目駄目!人の命っていうのは儚いからね、僕は死なないけど……君達は一度っきりの命を大事にしなくちゃ! ゴホゴホ。ゴホ。
それにしても全く静かにならないね、おばかさんの正義の味方諸君、いいかい?静かにしてくれよ。
これからとってもスリルのあるゲームに君達を招待してやろうっていうんだ。君達が何かやらかすたびに、君達以外の誰かを殺していくぞ」
もちろん、とポーキーは続けて言った。

「今のザオリクも当然そのやらかしに入ってるんだぜ?殺れよ」
いつからポーキーの側に立っていたのか、仮面を被った少年はこくりと頷くと、
髪をモヒカンにし、黒いサングラスを掛けた長身の黒人男性――どう見ても子どもとは思えない彼に電撃を放ち、殺した。

「さて、もう静かにしてくれるね?それとも他にも何人か殺してあげようか?」
最早、ポーキーに逆らうものは誰も居ない。
怒りに身を震わせながらも、ただじっと自分を――溢れんばかりの感情を押し込めていく。

 

「それでいいんだ、あははは。あは あはははは。ゴホッ ゴホッ ゴホッゴホッ ゴホッ。
さて、まずは自己紹介させてもらうよ?
みらいと かこを じゆうに いききしてきた たびびと。
だれよりも おりこうで だれよりも チャーミングで だれよりも いたずらっこな ポーキー・ミンチさま でーす……拍手してくれよ、寂しいから」
ポーキーの隣に立つ仮面の少年が真っ先に拍手をすると同時に、この場所の至るところから拍手の音が聞こえた。
誰もが皆、そうせざるを得ない。
ただ、拍手のフリだけをする者や、そっぽを向く者などの中で、腕組みをした微動だにしない銀髪の少年――ゼオン・ベルは異常に目立っていた。
非常にプライドが高い少年である。全力が出せない状況ではあるが、かと言って天地がひっくり返ろうともポーキーに拍手を送る事はありえないだろう。

「さて、君達を呼んだわけなんだけどさ……ちょっと殺しあってよ」
あまりにも軽く、子どもに使いを頼むが如き気安さだった。
かといって、その真偽を疑うものは誰もいない。

「えーと、今ここにいるのが……57人か、まぁ丁度60人になるように後でここにはいない友達も呼んでやるから安心しなよ。
さて、今から君達に……ランドセルを配ります。武器とか殺し合いに役立つ物が1個~3個と、食事とスマートフォンが入ってます。配れ!」
ポーキーの掛け声と共に、どこから現れたのか豚を模した覆面の兵隊が一列に並ぶ。
その数57人、丁度ここにいる子どもたちの数と同じであり、手には皆ランドセルを持っていた。
機械的ともいえる正確さで、ブタマスクは子どもたちにランドセルを手渡していく。
今は未だ僅かな人数しか気づいてはいないが、ランドセルには名前が書いてあり、それを頼りにブタマスクはランドセルを配っていた。
ランドセルを持ったブタマスクがいなくなり、子どもたち全てにランドセルが行き渡ったことを確認すると、ポーキーは再び説明を開始する。

「ゴホッゴホッ……まず、先に言っておきますが君達のスマートフォンでは、パパやママに連絡は出来ません。
ママーッ!パパーッ!おしっこもれちゃいそうに怖いよう!って叫びたいだろ?悪いけど、無理さ。
じゃあスマートフォンで何ができるかって言うと、
細々としたルールの説明と会場の地図と現在位置にメモ機能、そして今ここにいる57人の名簿が見れるようになってます。
後から来る3人は特別ゲストってことでさ、内緒だぜ。
あと細々としたルールって言ったけど、まぁ安心してくれよ、そんなにきついルールじゃないからさ。
ああ、あと何人かは力が制限されてるんだ、やっぱり、ゲームは平等じゃないと楽しくないだろ?
不意打ち、裏切り、罠、なんでも使えば誰でも優勝できるからさ……まぁ、頑張ってくれよ」
あ、そうだ。と言って、思い出したかのようにポーキーが言葉を続けた。

「一応、僕に逆らうことなんて無いと思うけど、でもここには正義の味方きどりの大馬鹿野郎が何人もいるからね、
こういうものを用意させてもらったんだ、もう何人も気づいてると思うけどさ、首触ってみなよ」
子ども達の手に触れたひやりとした金属の感覚、首にそってぐるりと円の形になったそれはまさしく首輪だった。
何のため――その答えを求める間もなく、髪をおかっぱにした20歳ほどの少年の首輪が爆発し、
支えをなくした頭は、ゆっくりと宙を舞い、地面を転がった。

 

「それ、爆発するから……まぁ、ルール見ればわかるよ……ゴホンゴホンゴホ。
じゃあ、57人が56人になったから。名簿は訂正しておくよ……じゃあ、そろそろスター……」
自責の念ゆえに、ただ呆けていたネスが再び動いた。
ゼロ距離にまでポーキーの棺桶に密着し、再び放ちしはシールドα――物理攻撃を半減するバリアである。
なにゆえ、それをポーキーに放ったか。
それはシールドは新たに貼られたシールドに上書きされるという性質を利用するためである。
シールドαを貼られたポーキーはもはや、ネスのPSI攻撃を反射することは出来ない。

「PKキアイΩ」
再度、攻撃が放たれる。
全てが零になる。

「でもな……」
それでも


「いくらこうげきされても ぼくは しなないんだよ」
棺桶の機能がPSI攻撃によって停止し、ポーキーに少なくない打撃を与えてなおも、
ポーキーは死なない、それが永遠の子ども――彼に与えられた呪いと言っていい。

「さよならだ」
仮面の少年から放たれた雷撃が、ネスの体を撃ち貫き、ネスの命が潰え、
そして参加者全てが会場へとテレポートして、



「ネス……」
誰もいなくなった会場で、ただ一人ポーキーは親愛なる隣人の名を呟いた。




【主催 ポーキー・ミンチ@MOTHER3】

【ひで@真夏の夜の淫夢シリーズ 死亡】
【ミートくん@キン肉マン 死亡】
【ヘビィ・D!@ザ・キング・オブ・ファイターズ'94 死亡】
【メロ@DEATH NOTE 死亡】
【ネス@MOTHER2 ギーグの逆襲 死亡】

【追加参加者 5人】

※最後の一人になるまで殺し合えとは言ってません
※禁止エリア等のルールはルールブックに明記されていますが、OP会場で明言されてはいません。
※書き手枠の参加者(OP会場にいない参加者)の扱いに関しては登場話書き手の方にお任せします。

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最終更新:2014年03月11日 15:21