母を探して―――? ◆2kaleidoSM
「…こんな…酷い……」
黒のアサシン、もといジルを背負って森を抜けようと移動していたアベル。
そんな彼の目に入ったのは、見るも無残な2つの躯だった。
鋭い刃物で体を斬りつけられ、胸の辺りにはポッカリと中にあったものを抜き出されたかのような穴が空いている。
ジルを起こさないようにそっと地面に下ろした後、その躯を見つめる。
一人は自分より少し年上だろうくらいの男の子。
もう一人はそれと同じくらいか、あるいは少し年上といった女の子だろうか。少なくとも自分と同年代ではないだろう。
きっと、この二人もまたあの放送で名前を呼ばれたのだろうか。
そう思ったところで、アベルはある事実に気付く。
「あれ…?この子の服って…アイリと同じ……」
女の子の方の服、それは数時間前守ることができなかった一人の少女が身につけていたものとよく似ていた。
記憶を掘り起こす。さっきの放送で呼ばれた名前。
知ってる人間の名前は、聞いたことのある名前は確か………
――――三沢真帆
そうだ、確かアイリが友人と言っていた人の名前。
確かに呼ばれていたように思う。
だとしたら、これがアイリの友人のマホという子だというのか。
「………ごめんアイリ、君だけじゃなくて君の友達まで守ることができなかったみたいだ…」
最初にいた場所は東都スタジアム。アベルがいくら頑張ってもこの森まではそう簡単に向かえるような距離ではない。
アベルに責任があることではない。
だからといってそう簡単に割り切ることも、アベルにはできなかった。
何より目の前で死なせてしまったあの少女の友人なのだから。
「…君のあと二人の友達は、絶対に僕が守るから。いや、それだけじゃない、みんな死なせたりなんかしないから。絶対に…!」
物言わぬ躯の前でそう心に誓うアベル。
「……う…ん…」
ふと小さな声が聞こえる。
ジルが小さく寝言を呟いていたようだった。
一瞬目を覚ましたのかとも思ったが、起き上がるような様子は無く、静かに眠り続けるだけだ。
「……もしかしてこの人達とジルには、何か関わりがあるのかな…?」
あまり考えたくはないが、彼らの傷からはあの時自分の肩を刺した鋭いナイフを連想させる。
一応、彼女が目を覚ましたら聞いておいた方がいいかもしれない。
悪い子ではないと、信じたいが。
◇
森の中を歩くことには慣れていることもあってか、この木々の中を移動すること自体はアベルにとって難しくはなかった。
むしろきつかったのは少女を背負って移動していること。
まだ幼いアベルにはいくらそう大きなわけではないと言っても大きな負担となっていた。
それでもどうにか市街地へと向けて移動していたところで、森の中に大きな建物が見えた。
住宅というよりはカジノや食べ物屋に近い印象を受ける建造物。
その建物は学校というものであり、地図には海月原学園というのだが、文字を読むことができないアベルにはそれを知ることはできない。
ただそこに大きな建物があったという事実だけを認識する。
タケシ達との合流も重要だが、今はこの子が目を覚ますまでここにいるとしよう。
そう思って、校舎の扉を開く。
他に人はいないか、警戒と期待を入り交じらせた心で。
幾つかの部屋を覗いていくと、その中にベッドの置いてある部屋を発見。
ジルを寝かせるならここだろうかと、アベルは静かに、真っ白なベッドの上に横たえさせた。
「ふぅ…」
さすがに疲れたのか、置いてあった椅子に座って一息つくアベル。
部屋の中を見渡すと、透明な壁のようなものの中にたくさんの壷が見える。
手が届かないためそれを開くことは叶いそうにはないが、そういえばここは妙に独特の匂いがする。
まるで怪我をしてきた時に体につける薬草のような匂い。
知識のないアベルにはそこが保健室という部屋であることには気付かなかったが、怪我した時に使うような部屋なのかなということはうっすらと感じ取れた。
ならばと思い、とりあえず目についた場所に置いてあった薬らしき入れ物を取り出す。
一応ベホイミはかけておいたが、もしかしたら治りきらなかった傷がどこかにあるかもしれない。なら、薬くらいは塗っておいた方がいいだろうと。
字を読むことができなかったため念の為鼻を近づけてみる。
変な臭いはするが毒ではなさそうだと判断し、蓋を外してジルの元に持っていく。
実際にそれはただの消毒アルコールであり毒でも何でもなかったのだが、もしものことまではそこまで気が回っていなかった。
子供心には怪我をしたところにはとりあえず薬を塗ればいい、といった程度の考えしかないアベルはとりあえずジルの服を脱がしにかかる。
かつて父との旅の中で見たことがあったみかわしの服。それを脱がした下には、真っ黒で露出度の高い服。
子供に見せるには刺激の強いものではあったが、まだ6歳のアベルにはそんなことを気にするほど心は成長していない。
だから、薄汚れたその薄着をゆっくりと剥がして、その体の怪我を確かめるために地肌を見ることにもそんなに意識はしていなかった。
細かい傷や火傷の痕らしきものがところどころに見受けられるが、ほとんどは治癒されているようだった。
ただ、かすり傷レベルのものは見えたため、その手に持った消毒アルコールをその部位にかけていった。
直接、である。
本来ならばガーゼなどにつけるか霧吹きのようにかけるものであろうそれを、蓋を外した状態で直接体に撒いたのだ。
その結果、彼女の胸部から腹部にかけてを大量のアルコールが湿らせ、ジルの肉体にはアルコールの臭いが漂っていた。
だがそんなことはお構いなし、よかれと思ってアベルは自分なりにジルの体の処置を続ける。
ふとその手に巻かれた包帯に目が向く。
これもこの場で負った傷なのだろうか、治癒の必要はあるのだろうか。
それとも、触れない方がいいのだろうか。
しばらく迷った後、嫌な予感を感じて結局包帯はそのままに、ジルの体に消毒用アルコールを塗りたくり続けた。
「あ、そういえば…」
と、アベルの視線がその先、肘から先の辺りに向けられる。そこにあったのは、真っ黒な鉤爪。
あの時自分を刺した刃物のこともあるし、今手につけられたものも他の人に向けられたらあまりに危険だ。
話を聞くまでは一応預かっておいた方がいいかもしれない。
そう思って、その手に付けられた鉤爪に手を伸ばす。
「……あれ?」
鉤爪を外したアベルは、ふと気付く。
先ほど自分の肩を刺したあのナイフがどこにも見当たらない。
もしかしてバッグの中なのだろうかと考えてジルのバッグを開く。
だが、あのナイフは影も形もない。
「どこかで落としちゃったのかな…?」
そんな疑問を浮かべながらもジルへと視線を移した時だった。
「う…ん……」
眠っていたジルが、小さくうめき声を上げながら薄く目を開いた。
「あ、ジル、起きた?」
「アベル……?」
まだ意識が冴えきっていないのか、半目状態でアベルの名前を呼び。
静かに体を起こした。
「よかった、体に怪我とかなかったみたいで安心したよ」
「え?」
と、アベルの言葉にふとジルは視線を下に下ろし。
みかわしの服はおろか、その下に纏っていたボンテージ状の服すらも開かれた、露わになった素肌をその目に映し。
「――――?!?!!?」
その瞬間、まるで何かとんでもないものを見たかのように目を見開く。
ほんの一瞬だがその顔がまるで熟れた果実のように真っ赤になったように見えた。
どうしたのかと声をかけようとしたアベルの視界を、白い布が覆っていた。
思わず剥ぎ取り、それがベッドの周りに備え付けられたカーテンを投げられたのだと気付いた時には、ジルは部屋の隅に蹲っていた。
その体に毛布を巻きつけて。
「――――見た?」
「え……?」
「見たでしょ……」
「えっと、何を…?」
顔を真っ赤にしながら、そう問いかけ続けるジル。
そこから、何故か動こうとしない彼女をどうにか説得し、機嫌を取り戻してもらうまでにアベルは10分弱の時間を要した。
◇
そんな状態からどうにかジルを動かすことに成功したアベル。
彼女の機嫌を取り直すことができたきっかけはバッグに入っていた支給品だった。
基本支給品とは別の、支給品として混ざっていたもの。
挽き肉をこねて焼いた食べ物らしい肉料理だ。
ジル曰く、これはハンバーグという食べ物らしい。
これをバッグから取り出した時のジルの表情は輝いていたように思う。
この食べ物が好きなのだろうか。
と、そんな経緯で服を着直したジルと共に椅子に座ったアベルは、ここで朝食を取ることにしていた。
本来ならばタケシ達との合流も急ぎたかったのだが、そうするとまたジルは機嫌を損ねて蹲ってしまうかもしれない。
彼らならばきっと大丈夫だと思う自分の思いを信じることにしたのだ。
バッグに入っていたハンバーグを入れ物から取り出し、二人で分けるアベル。
何となく大きさに違いが出てしまったような気がしたので、ジルに大きな方を上げることにしたら、お礼と言って一口ほど口に放り込んでくれた。
「…おいしい」
「おいしいでしょ?これ、おかあさんの作ったハンバーグみたい」
「おかあさん?ジルの?」
「うん。優しくておっきくて、私達のこと大事にしてくれるおかあさん」
おかあさんのことを語るジルの顔は嬉しそうだった。
そんな彼女を見て、ふと羨ましく感じる自分がいることにアベルは気付く。
「って言っても、おかあさんで居られるの、私達がお願い叶えるまでの間なんだけど」
「?どういうこと?」
「私達のおかあさん、本当のおかあさんじゃないの。だから、本当のおかあさんに会うのが、私達のお願いなの」
「…そうなんだ……」
複雑な事情があるようだが、そう深入りするのも悪いと思い、ジルの話の追求はしなかった。
ただ、何となくジルに悪いような気がしたアベルは、ふと自分のことを話し始める。
「僕もね、お母さんを探してるんだ。お父さんが魔物に殺される前に、僕のお母さんはまだ生きてるから探せって言ってたんだ」
「アベルもおかあさんのこと知らないの?」
「うん…、お父さんから聞いた話だと、僕を産んだ次の日にいなくなったんだって。
お父さんのあの言葉を聞く前は、もうお母さんはいないものだって思ってたから」
顔も知らない自分の母親。
探すことができるのだろうかという不安も心の中にある。
それでも、いつかきっと会えると信じて生きていかねばならないのだ。
「そうなんだ。じゃあ、アベルも私達と一緒なんだね」
「一緒?」
ふと、ジルが嬉しそうな声色でそんなことを言ってきた。
何が一緒なのだろうかと疑問を持った次の瞬間。
ジルのその言葉が、口から放たれていた。
「うん、一緒だよ。だってさ、
アベルもお母さんに捨てられたんでしょ?」
「…………………え?」
その言葉の意味を理解するのに数秒。
そして、その言葉を頭が受け入れるのにさらに数秒。
脳が言葉を受け入れ、理解し、その意味を汲み取ったその瞬間、アベルは心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。
「だってそうでしょ?産んだ自分の子供を放って一人でいなくなったんでしょ?
それで、まだ生きてるかもしれないんでしょ?なら、きっとアベルは捨てられたんだよ、そのおかあさんに」
嘘だ。
そう言いたかった。
そんなはずはない、それなら、お父さんは死に際に自分にお母さんのことを教えたりなんか―――――
――――――なら何故今までそのことを誰も教えてくれなかったのだろうか?何故死んだのだと皆口を揃えて言っていたのだろうか?
――――――もしかして、捨てられた自分のことを気遣って黙っていたのでは?
なのに、否定したいアベルの思いとは裏腹に、それまでの旅でのあれこれがまるでそうであることを肯定するかのように見えてきてしまう。
「アベルも私達と一緒なんだね。きっと私達とアベル、仲良くできるよ」
にっこりと笑みを浮かべてそう言ってくるジル。
そのジルの言葉に、アベルは返答する術が無く。
ただ、嫌な思いが、考えたくない可能性が心の中で反響していた。
あの森の中の2つの死体のことについてずっと聞こうと思っていたことすらも、頭から離れていってしまうほどに。
◇
無論、アベルの母、マーサは彼を捨てたわけではない。
エルヘブンの民であるマーサの力を利用しようとしたミルドガースの手によって、魔界へと連れて行かれたというのが真相であり。
皆がアベルにそう言わなかったのも、彼の子供心に余計な負担をさせぬようにという気遣いから来たものだ。
しかし、今の彼にはそのような深い事情を知ることはできなかった。
本来、アベルがその事実を知るのはこれより20年近くも先の話。
今の彼には、母が生きているという情報だけしかないのだ。
それでも、もし彼が奴隷として働かされていれば、その間はそのような考えを持つことはなかっただろう。
生きているかもしれない母との再会、それだけを希望として辛く苦しい日々を過ごしてこられたのだから。
しかし、今のアベルには。
母の存在をそれほどの強い思いとするには時間が足りていなかった。
黒のアサシンには悪気があったわけではない。
むしろ、アベルの身を彼女なりに案じての、痛みを共有しようと思っての発現だ。
しかし真実を知らず、そして今の彼には知る術がないアベルの心には。
ほんの少しずつではあるが、小さな闇が沈殿していった。
自分を捨てたかもしれない母。
そんな人に、本当に会えるのか、と。
【E-3/海月原学園旧校舎 保健室/一日目 朝】
【アベル(主人公・幼年時代)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
[状態]:健康、左肩治療痕、MP消費(大)、心の中に大きな不安と疑問
[装備]:転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)@Fate/EXTRA CCC
[道具]:基本支給品一式、魔法の聖水@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁、ランダム支給品0~2、呉キリカのかぎ爪×5@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
[思考・行動]
基本方針:この島から抜け出して母を探す…?
0:僕は、お母さんに捨てられた…?
1:この島の脱出方法の調査とタケシ達との合流。
2:ジル(黒のアサシン)を守る。
3:タケシ(ジャイアン)達は無事だろうか。
4:アイリの友達を見つけたら、アイリのことを謝りたい。
5:美遊、君は…
※パパス死亡後、ゲマによる教団の奴隷化直後からの参戦です。
※参加者は皆奴隷として連れてこられたのだと思っています。
※ビアンカについて既に知己ですが、参加自体をまだ把握していません。
【黒のアサシン@Fate/Apocrypha】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、魔力消耗(大)、右肩治療済、全身からアルコール臭
[装備]:解体聖母×4@Fate/Apocrypha
みかわしの服(カスタム)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁、決闘盤(ミザエル)@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~2、三沢真帆のランドセルの中身(基本支給品一式、ランダム支給品1~3)
[思考・行動]
基本方針:アベル以外を殺しておかーさんのところに帰る
1:アベルは私達と同じ。きっと仲良くなれる
2:アベルとの安らぎを壊すモノは殺す。
3:何か(人間の魂)を食べて魔力を回復させる。
4:イリヤと金髪の子(ヴィヴィオ)は必ず自分の手で殺す。
5:頑張って街に行ってみようかな。
6:光は、やっぱり嫌い。
7:たまには脂の乗った魂(悪人)も食べたい。豚(ポーキー)は死ね。
※解体聖母について
本ロワでは条件が揃っていても即死は不可能であり、最大効果で内臓ダメージ(大)を与えるものとします。
また、使用には大きく魔力を消耗し、消耗ゼロから使用しても回復無しで使用可能な回数は4回が限度であるとします。
※“CNo.107 超銀河眼の時空竜”の存在を確認、ミザエルのデッキのカードの効果を大まかに把握しました。
※使用済カード:半月竜ラディウス×1、防覇龍ヘリオスフィア×1
※解体聖母は現在胃袋の中に仕込まれています。いつでも取り出すことは可能です
【六導玲霞のハンバーグ@Fate/Apocrypha】
アベルに支給。
黒のアサシンのマスターである六導玲霞が作った手作りのハンバーグ。
黒のアサシンの大好物である。
最終更新:2014年06月21日 17:41