魔法少女――
それは万国共通、夢見る子女が思い描く理想のカタチ。
箒に乗れば軽やかに空を舞い、魔法の呪文を口ずさめばお菓子の山が現れる。
弱きを助けて悪を挫く、優しく可憐な小さな英雄。
フリルの衣装はお人形のように可愛らしいのに、ひとたび困っている人を見つければ誰よりも華麗に助けてのける。
希望を信じる魔法少女。時代が変わっても、子どもたちの心に姿を変えて在り続ける、存在。
――――夢の中にしかいない、都合のいい理想の象徴。
困っていたら助けてくれる。
可愛いお顔と可愛い衣装。
肩に乗せた妖精は不思議の国からやって来た光の使者。
違う。
希望を信じた“彼女たち”は知っている。
いつだって希望の反対側には絶望があって。
誰かの命が救われる度に、魔法少女たちの未来は消えていく。
妖精なんて嘘っぱち。
魔法少女を作り上げるのはいつだって破滅への運び屋。
不思議の国も、光の使者も、そんなものはどこにもないし、どこにもいない。
希望を持つ限り、誰も救われない。希望と絶望の相転移現象を生み出す為に消費され続ける乱造品。
けれど、そんな予定調和に霹靂が生じるとしたら?
現実の中に光り輝く、小説よりも奇怪な奇跡。
おとぎ話のように誰もが幸せになれるかもしれない、禁断の果実という可能性。
そんなものがもし、本当にあるのだとしたら――
一筋の光にすがって、彼女たちは果実を齧る。
奇跡を成す為に。
救済を成す為に。
何度繰り返しても手に入らなかった、理想の未来を手に入れる為に。
三画の縁(よすが)をもとに、目の前にぶら下げられた最後のチャンスに、彼女たちは手を伸ばす。
――懲りずに。
二度目の絶望へと、欲を剥き出して。
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第一部―― 『それが、私の願い』
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絶望で幕を閉じる、魔法少女の物語。
もう、みんな死ぬしかないじゃない。
それを“覚えている”少女は、ひとり膝を抱えて泣き腫らした。
「――いや、違うな。望みはまだ、潰えてなどいないよ」
そう言って、彼女の前へ現れたのは黒衣の神父。
凡そこれほど僧衣が似合わない人間が居るだろうかと、少女は思った。
救世主めいた装いで現れたその姿には、どこか冒涜の色彩がついて回る。
それでも――神父の甘言に、抗う術など、この少女は持っていなかった。
斯くして七番目の契約が成る。
祈りを抱く魔法少女の数、七つ。
杯を求め蘇った英霊の数、同じく七つ。
最早退路は断たれた。
少女達に残された道は、最後の一人になるまで皆殺しにし続ける事のみ。
イェホーシュアの逸話を彷彿とさせる殺陣の末にこそ、聖なる杯は存在する。
「さて、これで席は埋まったわけだが――」
剣の英霊。
弓の英霊。
槍の英霊。
騎手の英霊。
魔術師の英霊。
暗殺者の英霊。
狂戦士の英霊。
国を焼き尽くす近代兵器にも匹敵しよう武威の塊を侍らせて、希望同士の蟲毒が始まるのだ。
「この盤面。貴様は如何に思うのだろうな。インキュベーター」
絶望の運び手のいない世界で。
起こるはずのない聖杯戦争が、月夜の晩に開幕した。
最終更新:2014年11月09日 16:01