スカ「物の怪か…たしかにあやつらも妖怪じゃが、
わしが思うに中つ国と東方では文化からして違うに、妖怪もまた…
おっと、失礼した。先程の少年(>176)はあの場所に残ったのじゃったかな?」
スカーフェイスはうっかり、マンダにそう話しかけた。
学園長室までの移動は意外ともたついた。
スカーフェイスが、食べ物の露店の前で時々立ち止まってしまうからだ。その度にスカーフェイスは、
スカ「メイリン!」
と叫び、思い出したようにまた足を動かし始めるといった調子だった。
それでも、なんとか学園長室まで辿りつく事ができた。
学園長室までの間、ルズはとても口数が少なかった。
それはスカーフェイスやミルクやマンダの話を聞き入っていた事もある。
だが主因は、謎の掛け声を上げるスカーフェイスをじっと観察していたからかもしれない。
ルス「そう言えば、妖怪犬を消したときも同じ掛け声をしてましたわね」
誰に言うでもなく、ルズはぽつりと呟いた。
魔法学園の敷地内に編集長の声で放送が聞こえた。
放送『あーあー、おほん。
こちらはでいりぃ・ふぃじる編集部であります。
現在、一部の場所で魔法障壁が無効になる不具合が発生しておるようです。
原因が判明するまでは、魔法障壁を過信して無茶をされないように注意してくだされ。
以上、でいりぃ・ふぃじるからの、学園祭を楽しむワンポイントアドバイスをお送りしましたぞ』
ルス「あら~ん、さすがはでいりぃ・ふぃじる、仕事が速いのですわ~。
パニックにならないようにという生徒会の意図を汲み、なおかつ的確な警告なのですわ~。
これで、万が一の被害が少しでも減ればよいのですけれど~」
スカーフェイスが扉をノックしようと近づくと、扉は待っていたようにひとりでに開いた。
その奥で、飴色になるまでよく磨かれたマホガニーの机と、椅子に腰掛ける学園長の姿が見える。
例えば、部屋というものにはその主特有の臭いが満ちているものである。
そして、学園長室にもまた独特の臭いが満ちていた。“冷たい怒り”である。
スカ「友よ、またお目にかかれるとはなんと喜ばしいか!」
学園長は、最低限の礼儀として椅子から立ち上がったが、その顔に歓迎の色は無かった。
学「友か…スカーフェイスよ、次に口にする言葉を慎重に選ぶが良いぞ。
これからも我々と変わらぬ友情を育みたいのであればな。」
今世紀史上、おそらくは最強の魔法使いは、
スカーフェイスの対応しだいによっては“本気”を出すことすら辞さないようだ。
しかし、何故スカーフェイスに対して学園長は怒っているのだろうか?
ミルクはさりげなくルズとマンダを近くに引き寄せながら、恐る恐る学園長に聞いてみた。
ミル「えーっと、学園長…。
実はさっき、メイファとか言う怪物に襲われてた所をスカーフェイスさんに助けてもらったんですが…
お二人はどんな…えー……お知り合いなんですか?」
学「古い友人じゃ。」
スカ「メイファは妖怪じゃ。怪物などという下卑た下等生物と一緒にするでない!」
ミル「あ、すみません!そんな意味で言ったわけじゃないんですが……」
ルス「怪我をした生徒の治療もしてくださっていましたわ~。えーと・・・マンダ、なんて薬でしたかしら~?」
マン「うん、た、しかキョー…タン……チェー
おじいちゃん、こわい……おこらない、で……」
それだけ学園長に伝えると再びサッとミルクの後ろに隠れる
学「そうか、そうか。」
学園長はマンダに優しい顔でそう言った。
学「この魔法学園では、自らの行いによって起こったあらゆる結果に対して、誰しもが責任を負わなければならん。」
何故かミルクの方を見ながら学園長が言った。次に学園長は、スカーフェイスの方へ顔を向けた。
学「君がメイファを見逃した落ち度を五分と見よう。そして、君がメイファに傷つけられた生徒達を助けた事を五分と見よう。」
学園長は、スカーフェイスを許すような発言をした。しかし…
学「しかし、ファン・メイファは別じゃ。“下卑た下等生物”の真似をして生徒達を傷つけた以上、
こちらもそれ相応の対応をさせてもらうしかない。例え、君の娘であろうとな。」
スカーフェイスは、一歩後ろにたじろいだ。手に持っているヒョウタンの中には、メイファが納まっているはずである。
スカ「頼む!それだけは勘弁してくれんか!?メイファはわしの後を継ぐことができる唯一の妖怪なのじゃ!
今後決してこのような事は起こさせたりはせん!だから、許してくれ!」
ミル(って、ええええぇぇぇ?!
君の娘って、メイファとスカーフェイスさん親子だったの!?
だからさっき怪物呼ばわりされて怒ったのかよ!
それにそれじゃあ、メイファのとても強力な妖怪の血筋ってあんたの血筋かい! )
学園長の顔を見る限り、スカーフェイスの言葉だけでは許してくれそうになさそうだ。
ルズは一歩前に出ると、何とか二人をとりなそうとした。
ルス「学園長、確かにメイファとやらが生徒達を傷つけたのは事実ですわ~。
ですが、それのみで相手を断罪するのは学園長らしからぬご判断なのですわ~。
ねえミルク様にマンダ、お二人もそうは思いませんこと~?」
ミル「そうそう。そりゃそうです。
周囲から見ればただの破壊活動でも、本人にはどうしようもない状況だったって事例もありますから」
ルス「とりあえず妖怪メイファ側のいい分も聞いてみてはいかがでしょう~?
スカーフェイス様、メイファとやらはなぜこんな事をしでかしたのです~?
何かお心当たりはございませんの~?」
スカ「おお、そうじゃ!是非娘の言い分を聞いて欲しい!『メイリン、ヒョウタンの蓋を開けるのじゃ!』」
中つ国の言葉を最後に喋ったスカーフェイスを、学園長が止めた。
学「落ち着くのじゃ牛魔王!」
牛魔王とは、どうやらスカーフェイスの事を指しているようだ。
ちなみに牛魔王とは、中つ国のとある物語に出てくる架空の妖怪の名前である。
学「勘違いしてはならん。これはメイファ一人を罰して済む話ではないのじゃぞ?
メイファは強力な妖怪じゃが、まだまだ子供じゃ。
その子供が易々とフィジル島に入ってこられた理由を突き止めなければならん。
さもなければ、我々はいまだかつて無い危機に瀕する事になる。」
スカ「何を想定しておるのじゃ?」
学「第三次文化革命じゃ。」
学園長はそうつぶやいた。
学「メイファの言い分はもちろん聞くべきじゃと思う。しかし、ここでメイファを開放するのは危険すぎる。
共にソーシュー(中つ国の地名)のメイレンを訪ねよう。メイレンならばメイファをなだめる事など造作も無かろう。
いや、もしかするとフィジル島へ行く方法をメイファに教えたのはメイレンかもしれんぞ?」
スカ「メイレンが?」
どうやら、メイレンも妖怪の一人のような感じである。
学園長はスカーフェイスと、メイファをそのメイレンのところへ連れて行くつもりのようだ。
学「友よ、メイリンをこの学園に残しておくが良い。メイファ以外の妖怪も侵入している可能性がある。
メイリンならばそれを制する事ができるじゃろうて。」
ミル(……メイリンって名前だったのか。 )
ミル「あの」
ユリ「ミルクー!今どこにいるのーっ!?」
声をかけようとした時、懐の遠話の水晶球からユリの大声が響き渡った。
あのバカ大事な時に!
ミル「学園長室だよ!今取り込み中だから後にしろ!」
最低限の答えを返して通信を切断する。
ミル「すいません、友達から急に連絡が入っちゃって……
後でよーく言い聞かせますから許してやってください」
学「構わんとも。」
学園長はそういって少し笑った。
ミル「メイリンさんが残るのなら、あたしが案内役を引き受けますよ。
学園に慣れてる人の案内があった方が、妖怪の襲撃があっても対処しやすいでしょうし。
ただ、あたし文化革命の事はよく知らないんで、教えられる範囲で教えてもらえれば助かるんですが……」
学「おお、それは助かる。是非そうして欲しい。メイリンも西方は初めてじゃろう?ゆっくり見学させると良い。」
学園長はスカーフェイスに向けてそう話した。スカーフェイスがメイリンなのだろうか?
ルス「それとわたくし、メイファとそっくりな声を聞いた事があるのですが・・・・・・。
同じ声の持ち主って、単なる偶然でしょうか~?
失礼ながら、スカーフェイス様とメイファはあまり声質が似ているとは思えませんが~」
スカ「そりゃそうじゃろう!わしは男じゃぞ!?」
スカーフェイスは何を馬鹿なといった調子でそう言ったが、
なにしろマントで隠れているのだから、スカーフェイスが男だとしても見た目でわかるわけが無い。
ルス「そういう意味じゃありませんわ~!!」
質問をあっさりかわされたルズは思わず地団駄を踏んだ。
学「牛魔王、友よ、そろそろ姿を見せてはどうじゃ?先刻の会話で、お主が妖怪であることは皆承知しておる。
今さら容姿を隠しても仕方が無かろう。それにメイリンを紹介せねばならん。」
スカ「…仕方ないのう。できれば他人に見せたくは無かったが…。」
スカーフェイスはマントを脱ぎ、その姿をさらした。
マントの下から現れたのは、歳は16程、中つ国の衣装を身にまとい、
黒い髪と黒い瞳、どう見ても“少女”であった。
スカ「諸君、紹介しよう。わしのもう一人の娘、メイリンじゃ。」
少女は決して口を開かず、その声は彼女のお腹の辺りから聞こえてくる。
ミル「え、と。この人がメイリン……って事は、スカーフェイスさんは?」
ルス「こ・・・これもしかして腹部が喋るという伝説の腹話術?!
すごいのですわ~わたくし初めてみたのですわ~!」
大興奮するルズをよそに、メイリンはお腹の辺りに手をやって、眼球のようなものを取り出す。
スカ「そして、わしがスカーフェイスこと、牛魔王じゃ。」
ミル「え。ええぇぇぇっ!?」
ルス「ええええええええ~!!」
そう、この目玉の親父こそがスカーフェイスなのだ。そして、皆がスカーフェイスだと思っていた体は、
スカーフェイスを運んでいた彼の娘、メイリンなのである。
ミルク同様ルズも二度・・・いや、三度ビックリしてしまった。
多分マンダも同じように感じていたに違いない。・・・・・・状況がわかっていれば、の話だが。
学「ミルクよ。申し訳ないが、わしらはこの問題をなるべく早く解決しておく必要がある。
文化革命については、魔法史のヘレン先生に聞くか、誰か中つ国の人間に聞くがよい。」
スカ「残念ながらメイリンは西方の言葉がわからない。失礼じゃが、ミルクとやら。中つ国の言葉をご存知か?」
ミル「中つ国の言葉ですか?
シーサンヤオチューとかチューレンポートンとかなら知ってますけど、日常会話はちょっと……」
学「友よ、心配には及ばん。ミルクは良き友人を持っておる。中つ国の言葉を語り、文化革命の真実を知る者をな。」
スカ「うむ、それならば安心じゃ。」
ミル「中つ国を語って、文化革命の真実を知る友人…?
あ、なるほど、わかりました」
メイリンは目玉の親父とヒョウタンを学園長に渡した。
二人はこれからすぐに中つ国へ行くのだろう。
スカ「娘達をよろしく頼むぞ。」
ミル「わかりました。お任せください」
ルス「いつ頃学園長が戻られるのか、うっかり聞きそびれてしましたわね~。
それにしてもメイリン様達がいるというのに、あの凶暴なメイファだけが後継者とは・・・・・・。
いやはや、スカーフェイス様もなかなか複雑な人間関係をお持ちのようですわね~」
学園長とスカーフェイスさんが退室した後、ミルク達はメイリンに自己紹介することにした。
ミル「それじゃ、中つ国語を話せるレベッカの所に行きましょうかメイリン。
あたしの名前はミルクで、こちらはルズとマンダ。よろしくね」
ルス「にゃ~ん。ごろにゃーん」
ミルクに紹介され、ルズはメイリンの足に体をすり寄せた。
たとえ言葉は通じなくとも、猫の愛情表現なら万国共通のはずだからだ。
言葉が通じないので身振りも入れてあいさつしてから、ミルク達はレベッカの所に戻ることにした。
ルス「ところで、今頃レベッカ様はどちらにいらっしゃるのかしら~。
怪我をしていたから保健室でしょうか~?」
ミル「そうかもしれないけど、案外まだゆっくりしていってるかもね。
一度ユリに知ってるかどうか聞いてみるよ。
知ってればラッキー、知らないんならその時考えよう」
ルズにそう答えてから、あたしは取り出した遠話の水晶に魔力を込める。
ミル「ユリ、聞こえる?
留学生のレベッカが今どこにいるかって知らない?
リリアーナ達と一緒だったんだけど」
ユリ「おー!ミルクおめでとー!!
さっきはごめんね。メラルからミルクの居場所を聞かれちゃってさー」
なぜかユリの奴は、おめでとーなんて返事を返してきた。
それに、メラルがあたしを探してる?
ちょうど良いや、あたしもメラルに聞きたいことあるし。
ミル「おめでとうってなによおめでとうって。
それよりレベッカとかリリアーナの居場所は知ってるの?知らないの?」
ユリ「あ、リリアーナ達?まだ中庭の方にいるよ。
どこかに行きそうな感じだけど、合流するなら急げば間に合うんじゃないかな?」
ミル「わかったありがと。
メラルに次出合ったら、あたしも聞きたい事あるから探してるって言っといて」
とりあえず必要な事は聞いたし、おめでとうの理由を聞くのはまた今度でいいや。
そう思って、あたしはユリとの会話を終わらせる。
ミル「リリアーナ達まだ中庭にいるってさ。
レベッカも多分一緒だろうから、急いで合流しに行こう」
(9で〆)
最終更新:2009年01月07日 10:14