深まる闇、そしてやまない雨、そしてベッドの上には太陽がいた。
太陽がブルースに尋ねた。
レヘ「私と離れていた間はどうしてたの?ずいぶん溜まってるんじゃない?」
ブルースにとっての太陽…黄美天は、今は赤いチャイナドレスを着ている。
もともと来ていた白鳥の服(それと自分が着ていた学生服)はずぶ濡れになっていたため、
今は乾燥機の中でぐわんぐわんと頭を振り続けているのだ。
ブ「そんなこともないよ。一人でやることもやってたから。」
それを聞いて黄美天はニヤリと笑った。
レヘ「じゃあ、今日も一人でやる?私がずっと見ててあげましょうか?」
ブ「…ジルのいじわる。」
黄美天は、ポンポンとベッドを叩いてブルースを招いた。
ブルースはベッドの上にあがると、黄美天に背中を向けて座る。
レヘ「また新しい傷ができてるわ…」
黄美天は、ブルースの背中についた真新しい傷を下から上になぞった。
そして、黄美天もブルースに背中を向けて座った。
二人は半眼となり、気の流れに身をまかせた。
リュウオウ功と呼ばれるこの気功は、男女の陰陽の気を交流させる方法の一つである。
この非接触のコミュニケーションが、二人にとって最も親密なコミュニケーションだった。
レヘ「
リリアーナ…彼女のことをどう思う?(>211)」
黄美天がふと尋ねた。
ブ「…さっぱりわからない。人の足をわけもわからず踏んだりするし、
ライブに誘いに来たかと思ったら自分だけどっかに行ってたりする。
さっきも僕と君が会えたことを喜んでたみたいだけど、君がどこにいるのか隠したりしたんだ。」
レヘ「そう、あなたからはやっぱりそう見えるのね…」
ブ「ジルはどう思ってるの?」
レヘ「彼女は馬鹿だと思うわ。…でも、彼女はこの世界に一番必要なタイプの馬鹿よ。
イデオロギーではなく、人の情念を読んで選択するセンスを持っている。
あなたもきっと、彼女の力が必要になる時がくるわ。」
ブ「ジルは何でもお見通し、ごもっともだ。」
ブルースは皮肉を言った。
「でも、僕はどちらかといえばミルクの方がずっと信頼できる。
親切だし、話もわかりやすくていい。ジルもそう思わないか?」
レヘ「(妬ましい)…あなたはもっと人を見る目を鍛えた方がいいかもしれないわね。」
ブ「ジルは何でもお見通し、ごもっともだ。」
ブ「僕からも質問があるけど、いいかな?」
レヘ「何かしら?」
ブ「…ファン・スイションのことをどう思う?」
それからしばらく、二人の間に沈黙が続いた。
自分とは赤の他人、他人のそら似であると嘘をつく?
そんなこと、リュウオウ功で互いの気を交流している時にできるわけがない。
ブ「…母親なんだね。」
黄美天は何も言葉を返さなかった。それはブルースの言葉の肯定を意味していた。
ブ「さっき君が見た背中の傷。あれはメイファに襲われた時にできた。」
レヘ「…怒らないのね、ブルース。」
ブ「怒るわけがないよ。ジルとメイファは別の…“人”だから。」
レヘ「あなたにずっと自分の正体を偽ってきたのよ?」
ブ「ああ、たしかに驚くよね。でも、大丈夫だよ。ジルが妖怪だったとしても、
今までのジルと変わるわけじゃないんだ。だから、これまで通り仲良くしていけるさ。」
レヘ「…ありがとう、ブルース。」
黄美天はベッドから立ち上がった。
ブ「どうしたの?」
レヘ「もう行かないと…0時が来てしまう。」
ブ「送っていくよ。」
レヘ「来なくていいわ。」
ブ「大丈夫だよ、ゲストハウスの玄関までだから…」
レヘ「来ないで!」
ブ「………ジル?」
ブルースが黄美天の顔を見た時、彼女は目から大粒の涙を流していた。
レヘ「私だって…格好つけてもいいでしょ…?」
それは失意の涙だった。そんな黄美天を、どうしてブルースが追いかけられるだろうか?
彼女はわかったのだ。
優しい言葉をブルースがかけてくれた時、彼の気が氷のナイフのように彼女を刺したことを。
彼女はわかったのだ。
もう何もしらなかったあの頃の二人に戻る日が来ないことを。
ブルースは乾燥機を止め、中に入っていた学生服と白鳥の衣装を取り出した。
白鳥の首が、熱風と回転によってすっかりもげてしまったのを見て、ブルースもまた悟った。
ブ「そうか…やっぱり僕は、彼女が許せないのか…」
最終更新:2009年05月28日 23:12