レヘ「あれー?ここにもいないのかしら?」
レベッカはライブ会場のステージの上から客席を見下ろしてつぶやいた。
ケオスのライブが終わり、客席にはほとんど人はいない。
ざわ…ざわ…ざわ…ざわ…
そのわずかに残った者達が、ステージに上がった“いいセンス”のレベッカを見てざわめいた。
客席の前の方にいた男子生徒が、勇気をだしてステージ上のレベッカに聞いた。
「いったい、何が始まるんです?」
レベッカは答えた。
レヘ「第三次性戦。」
あっけにとられる男子生徒を無視し、レベッカはステージに残っていたマイクを手にとって叫んだ。
レヘ「諸君、私はセ(ピーという効果音)が好きだ!
諸君、私はセ(ピーという効果音)が大好きだ!
(中略)
この地上で行われるありとあらゆる性(ピーという効果音)行動が大好きだ!
(中略)
諸君、私はセ(ピーという効果音)を、初夜の様なセ(ピーという効果音)を望んでいる!
諸君、私に付き従う天佑諸君!
君達は一体何を望んでいる?
更なるセ(ピーという効果音)を望むか?
情け容赦のない蜜の様なセ(ピーという効果音)を望むか?
怪力乱心の限りを尽くし、中華世界の天子を殺す嵐の様な性戦を望むか?」
ここまでくると、レベッカの変なカリスマに場の空気はすっかり支配されていた。
「性戦!性戦!性戦!」
レヘ「よろしい、ならば性戦だ!!」
「うおぉおぉおおおおお!!!」
レベッカは、頭にちょっとばかし残った理性で考えた。
レヘ「(あれ?そういえば私は何しにここに来たのかしら?」
ミル「…えーと…なんなんだ?これ…」
リリアーナに指定されたライブ会場は、すでに大変な熱気に包まれていた。
ブ「君に理解できないなら、僕にも理解できないよ。」
「よろしい、ならば性戦だ!!」
「うおぉおぉおおおおお!!!」
ミル「まー、これはこれで大変な事の気がするけど…聞いてた話と違う…」
熱気というより病気な感じの観衆に叫んでいるのは、大変センスの良い服を着たレベッカ。
どうやって生き返ったのか知らないが、死んでも変態は治らなかったらしい。
まさに不治の病である。
ステージ周辺は興奮のるつぼと化している。
レベッカは『いいセンス』の衣装で、ステージの上にたっている。
リリアーナは人ごみに揉みくちゃになりながら、ステージに近寄ろうと足掻いている。
リリ「レベッカさん!レベッカさんってば!!レベ・・・・・キャッ!!」
だがリリアーナの声は遠すぎてとても彼女までは届かない。
熱狂する人々に突き飛ばされたリリアーナは尻餅をついた。
彼女が泣きそうになっているのは、別に転んで痛かったからではない。
リリ『レベッカさん!ブルースさんに逢うんじゃなかったの?
時間が限られてるのに、こんなところで何やってるのよ!』
リリアーナは大音量のテレパシーをレベッカに送った。
リリ『また彼とお話すら出来なっちゃうのよ、本当にそれでもいいの?』
レベッカにはリリアーナの声が聞こえなかったが、テレパシーは別だった。
レヘ「ぎぃやぁああああ!?」
レベッカは悲鳴をあげて前のめりに倒れた。レベッカに限らず、黄家の妖怪はテレパシーが苦手なのだ。
しかも、リリアーナの発したテレパシーは大音量である。耐えられるはずが無かった。
リリ「え?・・・・え???」
レベッカを気絶させた張本人も、この時点では何故彼女が倒れたのか理解できなかったようだ。
「少佐が倒れてしまわれたぞ?何が起こったんだ?」
ライブ会場のキョニュリスト達がおろおろと互いの顔を見合わせた。
リリ「レベッカさん?!何がいったいどうしたの?」
ブ「あのステージの上にいる人、倒れちゃったよ。一体何があったんだろう?」
ブルースはまだこの時、倒れたのが自分の恋人であるとは気づかなかったようだ。
ミル「…まずは、レベッカ以外の知り合いを探そう。
ブルースもルズも、どこかに知り合いがいないか探してくれない?変態レベッカ以外の」
ブ「レベッカって誰だか知らないけど、僕はあのステージに倒れた人を見てくる!」
言ってみればブルースの行動はミルクの指示の全否定だが、レベッカ≠ジルなのだから仕方ない。
しばらくキョロキョロしていると、尻餅をついて涙目なリリアーナを発見しました。
おっし!さっそく話を聞くか!
ミル「リリアーナ大丈夫!?ユリから話を聞いてブルースを連れてきたんだけど、何があったの!?
マリオさんとリチャードさん、変態の生贄にされちゃったとか!?」
ヴ「ライブ会場が騒がしいと思ったら…。
なんじゃこりゃ!?」
変態さんの変態による変態のための演説が行われていた。
リリ「吸血鬼!ミルクにルズも!
いや実は、マリオさんとロウさんは、魔法使いで妖怪のターロンって奴に鉄像にされてたの。
メイレン様のおかげで、今は元通りだけど。
ああ、それも大事だけど、今はレベッカさんよ!
ねえ、ブルースさん知らない?一緒じゃなかったの?
レベッカさんの今の姿は、今夜0時までしかもたないの!
それまでに何とか一目逢わせてあげたいのに!!」
ミル「つまり妖怪騒ぎは収まったから、次はあの2人を何とかしたいってわけね!
ちょうどブルースが一緒に・・・!って、あれどこへ行った?」
後ろにいるとばかり思っていたブルースが、いつの間にか消えている。
ルス「あらーん、あんなところに『瀕死の白鳥』が~」
リリアーナはステージの上を見た。
そこにはレベッカに駆け寄るブルースの姿があった。
リリアーナはほっと肩の力を抜いた。
リリ「それと皆、あそこにいるのはレベッカさんじゃなくてジルさんだから。そういうことでよろしく。
レベッカさんが心配だわ。私たちも行きましょう」
ミル「あーそっか、レベッカじゃブルースに通じないんだっけ…」
道理であたしが言ったのにブルースがレベッカの所に行ってるわけだ。
でもなー、どうせばれるんだろうし、隠す必要ないんじゃないか?
嘘はバレたら後がコワいぞ…
ブ「大丈夫か、あんた!しっかりしろ!」
ブルースはステージ上に上がり、レベッカを仰向けにした。
ブルースが彼女の顔を見て、驚いたのは言うまでもない。
ブ「ジル!ジルじゃないか!」
ブルースの声を聞いたレベッカが目を開いた。
レヘ「ブルース…迎えに来てくれたの?」
ブルースは何も言わずにレベッカを抱きしめた。レベッカもまたそれに応える。
しかし、その光景を見たキョニュリスト達が怒りに顔を歪めた。
「貴様!俺達の少佐に何をしてくれてんだ!ああ!?」
何故レベッカが少佐と呼ばれるかは不明だが、
彼女に扇動されていたキョニュリスト達が一斉にステージ上の二人に向って飛び掛ってきた。
リリ「わー!大変!!ブルースさん、レベッカさんを連れて早く逃げて!」
リリアーナもステージに飛び乗ると、ブルース達とキョニュリストの間に割って入った。
ブ「!?」
レヘ「行きましょう。早く!」
レベッカはブルースの手を取り、二人は走り始めた。
リリ「ちょっと皆、落ち着いて!二人は友達なのよ。それに、具合悪い人を介抱して何が悪いのよ!」
キョニ「何だお前は!」
キョニ「貧乳はすっこんでろ!」
リリ「キャッ!!」
転倒したリリアーナは、そのままきゅうと伸びてしまった。
ロウはミルク達の後ろで騒ぎを黙ってみていたが、リリアーナが気絶したところで突如雰囲気が変わった。
ロウ「私の妹に何をする貴様らー!!」
ミル「おま…って、いいっ!?」
あたしより先に暴発したのは、今まで飄々とした態度を崩さなかったリチャードさんだった。
だが彼の叫びは、天空に走った稲光の轟音で聞き取れなかったかもしれない。
そして、まるでそれが合図だったかのように、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨がとうとう降り始めた。
ロウは目の前の障害物を全部投げ飛ばすと、ステージの上へと一直線に走った。
今までの飄々とした雰囲気をかなぐり捨てたロウは、途中の障害物を全ては全部投げ飛ばしている。
この雨では、集まった者たちの頭が冷えるのも時間の問題だろう。
ロウはステージに上がると、ブルースやレベッカを襲っているキョニュリスト達の襟首を掴んだ。
ロウ「そんなに血の気が余っているのなら、私が相手をしてやらんでもない」
ロウはキョニュリストを強引に引き剥がすと、ぽいとステージの下へと放り捨てた。
ロウ「私は誰の挑戦でも受けよう!私と拳で語りたいものはかかって来るがいい!」
本調子ではないと言っていたにも関わらず、ロウも相当血気盛んなようである。
上着を投げ捨てたロウは、ブルースとミルク達と目があうと、軽く目配せをした。
早くいけ、の合図のようだ。
「まずいぞ!来賓に手を出したら生徒会が…」
「この敗北主義者め!いいかこれは性戦だ!
さあ諸君!天獄をつくるぞ!!」
迫るキョニュリストの前で上着を脱ぎ捨てたリチャードさんが、こちらに軽く目配せする。
そうか、注意を引きつけてるうちにここから離れろって事だな。
ミル「誰か!リリアーナを連れて行くのに手を貸して!
ブルースはジルをお願い!今のうちにここを離れるよ!」
ミルクのそんな声が、余計にブルースの不安を煽った。
しかし、にわかに降ってきた大雨の最中、こちらに目配せするロウの意図を感じ取り、
ブルースはロウにリリアーナを任せてよいのだと判断した。
レベッカの手をぎゅっと握り、走り続けた。もうずっと、二人が離れることがないように…
ヒンヌ「いくぞ!みんな!」
ヒンヌ「我らの女神(ビーナス)を守れ!」
ヒンヌ「これは聖戦(ジハード)だ!」
どこから現れたのか、ヒンヌー教徒達まで乱入してきた。
彼らが叫んでいる通り、リリアーナは彼女達の崇拝の対象なのだ。
それを敵対しているキョニュリスト達に狼藉を働かれたら、黙って見過ごすわけがない。
しかも事態はそれだけでは終わらなかった。
ムツリ「我々の聖地(メッカ)を荒らす異教徒共め…死を恐れず、戦うのだ。」
ムツリ「殉教者は天国にて72人の神女(バージン)との官能的な生活が約束されるのだろう…」
ムツリ「俺この戦いが終わったら結婚するんだ。」
ムツリム教徒までもがこの戦いに参戦してきたのだ。
三教徒達は、互いの信念、希望、そしてエロスを主張しあい、一歩も引くことはない。
無論この騒ぎもすぐに教師や生徒会のメンバーに鎮圧されるだろう。
暴徒の一人と勘違いされないうちに、この会場からなるべく離れた方が懸命だ。
ミル「やれやれ、ここまで来れば一安心っと…」
その後、無事にライブ会場から逃げ出したあたしたちは、会場から離れた安全な場所で立ち止まった。
リチャードさんを狂信者の群の中に置いて来ちゃったけど、大丈夫かな…
ともかく、ブルースとジルをなんとかしないと。
ミル「リリアーナ、リリアーナ、起きてる?立てる?
明日の朝は早いから、部屋に戻るなら一緒に行こうか?」
リリ「ん・・・・・・痛たた・・・・・あれ?ここどこ?」
ミルクに声を掛けられ、リリアーナは目を覚ました。
痛む頭を擦りながら周りを見渡すと、コンサート会場とは別の場所にいた。
周りにはミルクとジルことレベッカ、ブルースなどがいる。
誰かが運んでくれたことは容易に察しがついた。
リリ「ありがとう。助けようと思ったんだけど、結局足手まといだったね。ごめん」
遠くからは生徒達の怒号や叫びが聞こえてくる。
リリ「なんか会場はやけに盛り上がってるね。レ・・・ジルさんは、いったいステージの上で何の演説をしてたの?
いきなり倒れたからビックリしたわ。 あんまり驚いたから、うっかり名前を呼び間違っちゃったじゃない」
リリアーナは「レベッカ」と呼んでしまったミスを、あくまで呼び間違いですませるつもりのようだ。
ミル「恋人と再会できて良かったねブルース、ジル。
あたしたちはもう行くから、後は2人でごゆっくり。また明日ね」
ブ「うん。ありがとう、ミルク。」
リリ「良かった。本当に逢えて良かったね、二人とも」
リリ「じゃあ、おやすみなさい」
リリアーナはそのまま女子寮に帰ろうとして、はっと気づいた。
リリ(0時になったら、レベッカさんは槍に戻っちゃうのよね?どうするつもりなのかな?)
リリ『レベッカさ――――』
リリアーナはまたテレパシーを使おうとしたが、レベッカの反応を見てはっとした。
リリ(そうだった、頭の中をかき回されるみたいでテレパシーは嫌いって女子寮で言ってたじゃない!
ああ、私ったらバカバカバカ!何で忘れてたのよ!!)
そう言えば、妖怪犬に化けたメイファも、リリアーナのテレパシーで苦しんでいたではないか。
リリアーナはやっと気づいた。レベッカの具合が悪くなったのは、おそらく大音量の――――。
リリ「ごめん、ホントにごめん」
その後リリアーナは、いかに長く二人が一緒にいられて、
なおかつ槍化したレベッカをブルースに見られない方法を探し、無い知恵を絞った。
リリ「募る話もあるだろうけど、遅くても0時までにはクラブハウスから出てよね。
ジルさんがちゃんとしてくれないと、エスコート役の私まで迷惑するんだからね」
リリ「それと、ブルースさんが女子寮まで送るってのは無しだから。
女子寮周辺はトラップが多くて、慣れない生徒は近寄るのも危険なの。、
何より身持ちが悪いなんて評判が立ったら、ジルさんがかわいそうでしょう?」
リリアーナは「いいわね?」ともう一度念を押した後、ミルクと一緒に女子寮へと向かった。
ブルースとレベッカはミルクを見送った後、お互いの服装を見回した。
ブ「ずいぶん塗れてしまったね。」
レヘ「ええ、あなたこそ。着替えはあるの?」
ブ「無い。でも、ゲストハウスの部屋に乾燥機があったよ。それで乾かせる。」
レヘ「そう…」
レベッカはブルースの次の言葉を待った。
ブ「ジル、その…雨が降り止むまで、僕の部屋で雨宿りして休んでいきなよ。」
レヘ「ええ、そうするわ。」
二人は来た時と同じように、手をつないでゲストハウスまで歩いていった。
雨はまだ激しく降り続いていたが、二人が寒いと感じることは無かった。
ミル「…それから…えっと、リリアーナってお兄さんはいる?
いや!リチャードさんが『私の妹になにしやがる』みたいな事言ってたから、ちょっと気になって…」
リリ「うん、いるわよ。でも・・・兄――――レオンがリチャードさんですって?ありえないわ。
だって兄は今、仕事で転移魔法が使えない地方にいるのよ。
そもそも兄が来るのなら、私に連絡無しで来るはずが無いじゃない。
私、例の杖のせいで学園から出られなくて、結局夏期休暇に帰省してないんだからね」
ミル(例の杖って…リバースで使ってたあの杖か?
なんであの杖を持ってたら学園から出れないんだ? )
リリ「何より、兄はものすごい熱血漢なのよ?
背だってもっと高いし、筋肉質だし、声だって全然違うしね」
ルス「わたくしもマンダもギズモも。本来の姿があるのですけれど~」
リリ「へえ、そうなんだ。
で、さっきの話だけど、ミルクの勘違いか聞き間違いじゃないのかな?~」
ミル「そっか、雷がうるさかったし聞き間違いかもね。
ややこしい事言っちゃってごめん」
帰省できなかったから余計心配してるんじゃって気もするけど、ま、いいか。
リチャードさんの事も杖の事も、今は知るべき時じゃないってことだろう。
またいつかその時がくれば、見えてくる物もあるかもしれないけど。
女子寮の灯りが見えてきた。
自分の部屋にも灯りがついているのに気づき、リリアーナは口元をほころばせる。
同室の彼女とは今日一度も顔を合わせなかったが、どんな一日を過ごしたのだろうか?
リリ「ミルクは今日の学園祭、少しは楽しめたかな?」
ミル「まあ楽しめたというか、楽しめなかったというか…いろいろあったからなあ…」
楽しい思い出もたくさん出来たが、それ以上に苦く重い記憶も多い。
リリ「本当に――――いろんなことがあったよね」
特に、レベッカを救えなかったことは、悔やんでも悔やみきれない出来事だ。
(まあ、レベッカが妙に明るいので、あまり落ち込まないでいられるのだが)
時限爆弾のようなメイレンの復讐も勿論だが、妖怪で魔法使いのターロンの存在も気になる。
ムウ大陸の事も、夜明けにいける話くらいしかわからず、不安も一杯だ。
ミルクのほうも、王様に振り回されたかと思えば、今度はメイファに振り回され。
レベッカが死んでなんとか生き返ったと思えば、メイレンさんのために若返りの薬を探しに行く事になり。
他にもいろいろいろいろ、楽しいこともイヤなこともあった。
厄介なのは、明日のムウ大陸探索がまだ残ってるって事だ。
ミル(あたし、ムウ大陸ってどんな所かぜんっぜん知らないんですが。
本当に若返りの薬あるんだろうなおい…)
リリ「・・・・・・明日のムウ大陸、頑張ろうね」
ミル「…そうだね、若返りの薬、見つかればいいんだけど」
見つからなきゃ代わりの物を探さないと、メイレンさんのお腹の中にコースインだ。
お宝探索なのに気が進まないなあ、もう。
図書館
女子寮
クラブハウス
学園内
(209で〆)
最終更新:2009年05月31日 07:11