「くしょん!・・・・・ふむ、誰か私のことを噂しているな」
その頃のロウは、雨に濡れながら一人夜道を歩いていた。
ミルク達を逃がした後、すぐにヒンヌー教徒とキョニュリスト、ムツリム達の三つ巴の戦いが始まった。
ロウは戦いを挑んでくる生徒は修整し、そうでないものは相手にしなかった。
そしてミルク達が遠ざかったのを確認した後、ステージから姿をくらましたのだった。
そして現在ロウは、学園裏手の森の中を一人歩いている。
「とりあえずクラブハウスに戻って着替えねば」
ちなみに、クラブハウスは全くの反対方向である。
リリアーナが超がつくほどの鈍感なら、ロウはありえないほどの方向音痴であった。
「全く、リンも相変わらずだな。一緒にいるだけでここまでトラブルに巻き込まれるとは・・・・・・。
おかげで、情報が全然集まらなかったではないか」
リチャード・ロウの本当の名は、レオンと言う。
レオンが今回学園に来たのは、魔法省の仕事の一環だ。
先日起こった闇魔法使い襲撃事件についての確認作業である。
だが今回身分を伏せて学園を訪れたのは、彼の妹の身辺調査をするためでもあった。
最近の妹はおかしかった。
あれほど楽しみにしていた夏期休暇の帰省を、いきなり取りやめる。
その連絡があった手紙の追伸で、実は先日から魔法が使えなくなったと爆弾宣言。
では何故そうなったかと何通も手紙を出しても、よく分からないとのらりくらり。
では都の高名な癒者に診てもらおうと言えば、絶対に嫌だの一点張り。
これでは心配するなと言うほうがおかしい。
魔法使いが魔法を使えなくなる理由はいくつかある。
主に魔力の枯渇や精神的ショックによるトラウマ、特殊魔法の後遺症や呪いなどなどだ。
そして妹の態度がおかしくなったのは、ちょうど闇の魔法使い襲撃事件の後くらいからだ。
(あの事件は、生徒や教師が協力して撃退したと報告されている)
となると、妹の変化と事件とは何らかの関わりがあると考えるのが自然だった。
久しぶりに会った妹は、相変わらずだった。
先ほどターロンから攻撃を受けた時の反応から見て、魔法が使えなくなったのは本当のようだ。
だが、彼女を魔力探知で探ってはみたものの、魔法が使えない以外のことは全く異常なしだった。
魔力が枯渇した様子も無いが、呪われたりトラウマを受けたというわけでも無いらしい。
もしかしたら何らかの手段で原因を隠している可能性も無いわけではないが、
たかが生徒一人に、そこまでするだけの理由が思い当たらなかった。
「しかし、ここまで変わってないと逆に拍子抜けだな」
何年ぶりかで会った妹は、随分と成長していた。
だが、中身は小さい頃と全く変わってない。
(馬鹿な子ほど可愛いとはよく言ったものである)
魔法が使えないこともすっかり受け入れているようで、特に気にしている様子も無いようだ。
「魔法使いでなくなって、どれだけショックかと心配したのだが・・・・・・。
人の気も知らないで、本人は楽しくやっているようだな。
―――― それは良しとして」
ロウは手帳を開くと、うむむと唸った。
そこには今日、ロウが目撃したリリアーナ関連の人物の画像とデータが記入されている。
「結局リンは誰と付き合っているのだ?
毎回毎回喧嘩したとか言ってるメガネ熱血男はこの際除外するとして・・・・・。
ケオス殿が違うとなると、やはりクールで寡黙なクリス殿か、知的で短気なグレイブ殿だろうか?」
ここにロウ以外の人間がいないのは幸いだった。
ロウはブツブツ呟きながら、更に森の奥へと分け入っていった。
その後。
シークレットパンツレスリングに巻き込まれたり、森の中を彷徨ったりしたロウだったが
それはまた別の話である。
(当然ムウ大陸出発の時間に間に合わなかった事も、蛇足ながら、付け加えておく)
最終更新:2009年05月31日 07:05