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7:保健室

Yo「ヨハネカイン・ホワイトだ。」
そう言って男が保健室に入ってきた。
筋肉質で長身、銀髪で彫りの深い顔をした彼こそが、
ヨハネカイン・ホワイト博士その人である。
Yo「…保険医は留守なのか?まあいい、患者さえいればそれでいい。」
ミル(…レオ先生じゃないのか…じゃあ、もうちょっとだけこのままで… )
ヨハネカインは椅子に座って眠っているミルクを見つけた。
Yo「これが患者か?…いや、違う。患者は女性のはずだ。だが、待てよ…」
ヨハネカインはミルクの手首を取り、それをよく確認した。そして悟った。彼は本来女性であると。
ミル(わかった…わかりましたよ…今起きますって… )
重いまぶたをこじ開けて薄目を開き、暗闇の世界に光を入れれば、知らない銀髪の男が見えた。
ミル「ん……誰…?」
Yo「なるほど。私がここに来たことを感謝するといい。今すぐ、楽にしてやる。」
そう言って男が手にした一本の棒には、ギラリと光る針が付いていて…針!?
ミル「ちょ!ちょっと待って!ストップストップ!!」
Yo「!?」
本能的に身の危険を感じて、ミルクは椅子から飛び起きた。
不意をつかれたヨハネカイン。
Yo「………」
よく見ると、針がついた棒に見えたのは注射器で。
そんなものを持っているからか身にまとう雰囲気からか、男は医者のように見えた。
まあそれはいい。問題は、保健室にいる注射器持った男が、あたしの知らない人だって事だ。
なんで部外者がこんな所にいるんだよ…紹介されてないから、学園祭の招待客じゃないはずだろ…
医者みたいだけど、新しい保険医ってのもなんか違うような気がするし…あ。医者?
頭の中で『ヨハネカイン・ホワイトだ。』という言葉がもう一度再生される。
ミル「…もしかして、ヨハネカイン・ホワイト博士…ですか?」
Yo「そう言う君は、レベッカ・ウォンではなさそうだな。」
ヨハネカインも少し打ち解けた様子になった。紳士的な言葉でミルクに語りかける。
Yo「君はもともと女性だったが、呪いにより男性化してしまったようだね。
 この注射には、体に残っている呪いを水と炭酸ガスに分解する効果がある。
 二分もすれば、元通りの体に戻るだろう。後遺症もない。」

うっそー。博士の到着は3日後のはずだろ、なんでもう島に来てるんだよー。
もしかしてあたし、3日ほど寝ちゃった?…んなわけないよなー…
冷や汗がダラダラ背中を流れるのを感じながら、まだ半分寝てる脳細胞をフル回転させる。
考えるのはもちろん、博士の持ってる注射器の中身だ。

推測その1・中身は毒薬で、ケルビムの秘密を知ったあたしを消そうとしている。
うーん、ありそうだけど、ロクーに与えた能力から考えるとちょっと遠回りかな…

推測その2・中身は普通の薬で、博士はあたしを治療しようとしている。
…別に風邪引いた覚えもないし、治療されることなんかな……!
あった。あったよありましたよ。
そういや、あたし男になっちゃったのを治してもらいに来たんだった。すっかり忘れてた。
…でも学園長ならレオ先生に連絡しそうなもんだし、博士は男になったなんて知らないだろうし…
あ――――もう!!わけわかんなくなってきたぞ!

あ、でも、待てよ、腕の良い医者は、見ただけで患者の症状を把握するとか聞いたことあるぞ。
よし!女は度胸!ここはひとつ、博士の実力を確かめてやるか!

ミル「あはは、ごめんなさい、ちょっと寝ぼけてたもので。
 いやー、有名なヨハネカイン博士に治療してもらえるなんて光栄だなー」
Yo「それほどでもない。それに、突然見ず知らずの男が注射しようとしたら、
 君のような態度をとらない方がおかしい。私こそ、さっきは失礼したよ。」
ミルクは腕まくりをして腕をヨハネカインに差し出した。
魔法医療が発達した今日、ヨハネカインのように、
アルコール消毒をして注射をする光景は滅多に見れるものではない。
ミルクが若干の不安を感じるのも無理からぬことだっただろう。

ミル「えーっと、その、なんというか…その…痛くないようにお願いします…」
針が刺さる瞬間を見ないで良いように反対側を見ながら、あたしは博士にそう言った。
Yo「ところで、君の名前は?」
ヨハネカインは何気なく聞いた。
ミル「え。ミルク・パウダーシュガー…ですけど」
しまった、要注意人物に自分の本当の名前を教えてどうするんだよ。

ミルクは本名を言うべきか悩んだかもしれないが、
今のヨハネカインにとっては、ミルクが注射以外のことを考えることだけが重要だった。

Yo「終わった。魔法は使えないが、私はプロだ。患者には最善を尽くす。」
ミル「えっ…もう終わったんですか!?」
内心舌打ちしながらどうすべきか考えている間に、さらっと終了宣言されてあたしはびっくりした。
確かに注射器の中身は空っぽで、腕にはそれらしき傷も残ってるけど、全然痛くなかったぞ。
うそだろじゃあ前に『流行病の予防に』とか言われて、ブスッと刺された痛い注射はなんだったんだよ。
言ってない呪いの影響は見極めるし注射は痛くないし、これがプロの本気ってやつですかー!?
…いや、まだだ。問題は、魔法も使わずに呪いが解けるかどうかなわけで…

ぽふっと、確かめた手に柔らかい感触が。
ぽふぽふぽふ……呪い解けてるよ――――!!
ヨハネカイン博士ってば凄すぎるぞ!
ミル「ありがとうございます博士!呪いが解けてます!」

ミルクに注射し終わったヨハネカインはあるものを探した。
ミルクもヨハネカインが探しているものが何かすぐわかるだろう。レベッカだ。
Yo「見つけた。…氷漬けになっているとは聞いていなかったがな。」
ミル「腐敗防止にって事で、あたしの友達が冷凍保存しちゃったんです」
なんとなく、このまま体に戻さない方が平和でいいんじゃないかなー、と思わないでもないけど。
さすがにそうもいかないか。
そんな状態でも、魔法医療の専門家レオは、すっかりレベッカの外傷を治してしまっていた。

Yo「さて、なぜレベッカの魂が槍に宿ったのか。私はこれに良く似たケースと遭遇している。
 肉体と魂は、普段生きている状態では上手に波長がシンクロしている。
 しかし、肉体が死ぬとその波長が狂い、魂だけが外に抜けてしまうのだ。
 本来はそこで“死”となるのだが、稀に魂が自分の波長とシンクロするものを見つけて、
 そこに宿ってしまう場合がある。呪いの人形の話は知っているか?
 人形は人に近い形をしているため、波長が人に近い。だからこそ、魂がそこに宿りやすいのだ。」
ヨハネカインはレベッカの症状をミルクに説明した。
ミル「波長…」
呪いの人形っていうと、髪が伸びたり血の涙を流したり夜中に走り回ったりするあれか。
波長が近いから魂引き寄せてたなんて知らなかっ…まてよ。
すると、レベッカは槍に近い波長だったって事?どんな波長だよそれは!

Yo「そこで、私はこれから彼女の肉体を、本来生きていた状態と同じ波長に無理矢理戻す。
ミル「あ、それじゃあ、今から槍レベッカと氷を溶かせる人に連絡を…」
Yo「(氷漬けでも、槍が近くになくても)
 関係ない、やる。………………………電気ショックだッッ!!」 
ミル「えええええええぇっっ!?」
電気ショックってあれでしょ?要するに雷撃魔法を当てるって事でしょ?
そんなんで同じ波長になんて戻るの!?

ヨハネカインは鞄の中から2本の電極を取り出した。電極同士をこすり合わせると、火花が飛ぶ。
Yo「WRYYYYYYYYYYYY!!」
ヨハネカインは豪快に叫びながら電気をレベッカの体に流した。
いろんな意味で、誰も彼を止めることができないだろう。
Yo「まだまだまだまだまだまだまだまだ!」
しばらくすると、氷の中から「イ゙ェアアアア!!」という叫びが聞こえた。
ミル「えええええええぇっっ!?」
永遠にも一瞬にも思える時間が流れた後、氷の中のレベッカが叫んだ。
まさか。まさかまさかまさか、本当の本当にレベッカが体に戻ってきた!?
ミル「だ、大丈夫!?レベッカ!」

ヨハネカイン博士がすごいのか、レベッカが単純すぎるのか、
とにかくレベッカの肉体にレベッカの魂が収まったのだ。
リリアーナの部屋にいるメンバーも、槍レベッカがうんともすんとも言わなくなったので、いずれ気づくだろう。

レベッカの肉体が入った氷が砕けて、中身が(つまりレベッカが)出てきた。
ヨハネカインが電流を流したり、そのショックでレベッカが暴れたせいだ。
痴「あ…頭が痛い…めまいもだ…誰だこんなプレイを考えついたのは…」
レベッカはとても元気と言える状態ではなかった。当然か。
ミル「……あんた以外誰もこれがプレイだなんて思わないから、安心しろ」
あれが治療だとも思わないだろうけど、とにかく良かった。レベッカ本人だ間違いない。

ヨハネカインは彼女にチョコレートを差し出した。レベッカも彼がヨハネカインだとすぐにわかったが、
とても策を弄するような状態ではなかったので素直に受け取った。
Yo「これを食べておとなしくしてるといい。安静にしていれば回復する。」
痴「おん。」
レベッカは既に誰かが入っているはずの、
周囲にカーテンが引かれているベッドにもぐりこんだ。
どんな時でも、やっぱりレベッカだった。
ヨハネカインは特にそれを気に留めることはなかった。
とにかくこれで、自分がこの学園にいる理由は無くなったのだから。
後はこの島を出るのだ。なるべく早く。なぜなら、学園長は“知っていた”からだ。
ミルクは気づいただろうか。ヨハネカインの影が、既に消えているということを。

ミル「…ありがとうございます、ヨハネカイン博士。
 おかげであたしも、レベッカも、無事に元に戻れました」
チョコレートを渡されたレベッカが、カーテンの向こうに消えるのを見届けて。
あたしは深々と博士にお辞儀する。
なんか…すごい漢だ。いろんな意味で。
それでも確実に名医に間違いない…よ…ね…?
お辞儀をして視線を下に落としたままの姿勢で、一瞬あたしは凍りついた。
影が、ない。ヨハネカイン博士の影がない。
えーっと、影が無い種族っていたっけ?
鏡に映らないとかなら知ってるけど、えーっとえーっと…

ミル「そ、そうだ!今ちょうどあたしたちの学園で学園祭してるんですよ!
 良かったら呪いを解いてもらったお礼に、学園祭の案内をさせてもらえませんか!?
 そりゃもう、美味しい食べ物から奇想天外な出し物まで目白押しですよ!」
長い間固まってちゃ怪しまれる。
またあのヘブンスマイルの笑い声が聞こえてこないかとヒヤヒヤしながら、あたしは博士にそう言った。
とりあえず時間を稼げば、学園長なり事情を知ってる仲間なりが来てくれるはず。
ヨハネカイン博士が悪人かどうかわからない以上、先制攻撃なんてできないし…
と思ったものの、どうも博士は早く帰りたがっている様子で。
もー、みんなどこ行っちゃったんだよー!



24で〆

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最終更新:2010年01月30日 00:23
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