239 名前: アルナワーズ=アル=アジフ ◆O.bcTAp6QI [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 22:15:18 0
「おめでとぉん。
これで
リリィも学園上位陣に仲間入りねぇん。」
人込みでごったがえす中、アルナワーズはすれ違いざまに一言だけ声をかけた。
変らぬ笑みを讃えているが、その目は全く笑っていない。
いつもなら盛大なパーティーになだれ込む所なのだが、アルナワーズはそのまま会場から姿を消した。
暫く後、アルナワーズとベアトリーチェは魔の森の置く、毒庭園にいた。
庭園のテーブルでベアトリーチェとカップを傾けながら話している。
「で、今更だけど、愛の存在の立証なんて、出来ようがなかったわけじゃない?」
「あらぁん?そぉ?
私は十分に立証できたと感じているわぁん。」
リバースで様々な体験をしたベアトリーチェだが、いざ目的が果たせたか、と自問すればよくわからなかった。
得るものは確かにあったが、それが愛の存在の立証なのか・・・と。
しかしそんなベアトリーチェとは対照的に、アルナワーズは満足気に微笑んでいる。
「ふんっ。それにしても、
リリアーナか。」
「ええ、リリアーナよ。」
それ以上お互い口を開く事無く、ただのんびりとお茶を啜る音だけが庭園に響く。
この静けさが嵐の前の静けさという事に、果たして何人の人間が気付いていたであろうか?
240 名前: アルナワーズ=アル=アジフ ◆O.bcTAp6QI [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 22:15:25 0
リバースイベント終了から一週間。
学園はイベントの熱気も冷め、平穏を取り戻していた。
そんな中、フィジル島北海岸で修練を積むメラルに一人の女が近づいてきた。
「はぁ~い、メ・ラ・ル。相変わらず凄まじい修行ねぇ。」
ひょっこりと現われ軽々しく声をかけるアルンワーズの姿にメラルは目を見開いて驚いた。
ここはメラルの秘密の場所であり、通常誰かが通りがかるという事はありえない。
また、探したとしてもそう簡単に見つけられるものではない、筈だった。
だからこそ、その出現に驚いていた。
先ほどまでの修行で肩で息をしていたが、数回で呼吸を整え向き直る。
「よくここが・・・わかったわね。」
注意深く応えながらその脳内では凄まじい勢いで様々な思考が捜索していた。
「結界は張ってあるようだけどぉ~、やっぱりエミュの代わりにはならないみたいねぇん。」
アルンワーズの応えにメラルの柳眉がピクリと歪む。
結界を張ってあるのを見破りここに辿り着いた。
それだけではないのだ。
以前はエミュの空間操作によってこの場を隠していた事も知られていたという事に。
メラルはアルナワーズの情報網は十分に理解していたつもりだったが、更にそれの上をだった事に小さく歯軋りをする。
だが、それを表情に出す事無く小さく言葉を紡ぐ。
「それで、何か用?」
ぶっきらぼうに応えたメラルにアルナワーズは嬉しくて堪らなさそうに目を輝かして口を開いた。
「ねえ、メラル?あなたには貸しがあったわよ、ねぃ・・・?」
その一言でメラルはアルナワーズの用件を理解した。
そしてそれが本気である事も。
「うふふふ・・・今日はわたしぃ、かつてない力が出せそうなの。
メラル・・・あなたが出来なかった事を私がやって見せるわ・・・!」
まるで熱に浮かされるかのようにふらふらと歩き出すアルナワーズ。
しかしその目に宿る光は、そして後をついてゆくメラルに映るその背中は・・・。
###########################################
夕暮れ、部屋で寛いでいたリリアーナは帰ってきたアルナワーズに気付く。
「おかえり」と言おうとしたが、そんな間は与えられなかった。
「はぁ~い、リリィ。リバースでの約束、果たしましょう。
お互い全力を以って死合いましょう!」
突然の事に持っていたカップを危うく落としかけながら咳き込むリリアーナ。
何とか呼吸を整え、アルナワーズの言葉を頭の中で反芻する。
「や、やあね。そんなのやるまでもないわ。アルが勝つに決まっているじゃ・・・な、い。」
苦笑しながら並べる言葉は最後には途切れ途切れになってしまう。
じっと自分を見つめるアルナワーズの目が尋常でない事に気付いたからだ。
「あ・・えっと・・・」
二の句がつかず、しどろもどろになるリリアーナにアルナワーズが畳み掛ける。
「駄目よぉん。死力を尽くすって約束でしょう?
本気を出してくれないとぉ~!」
ずずいとにじり寄るアルナワーズから目を逸らし、何とか躱そうとするが言葉が出てこない。
そんな様子にアルナワーズは小さく息を吐き、一旦間合いを開ける。
助かったと息をつくリリアーナだが、その息は直ぐに止まってしまう事になる。
「判っているわぁん。リリィは優しい子だから。
でも、私はメラルほど気を使うような人間じゃないの。
目的の為なら手段は選ばないわよん!」
その言葉と共に、部屋にぞろぞろと入ってくる人影。
241 名前: アルナワーズ=アル=アジフ ◆O.bcTAp6QI [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 22:15:34 0
部屋に入ってきたのはフリージア・ミルク・マオ・ベアトリーチェ・クリス・ケオス・レイド・・・
皆リバースでリリアーナと共に戦い勝利を勝ち取ったメンバーだった。
そして誰もに共通する事は目が虚ろで一目で正常な状態では無いという事だった。
「復讐という事も考えたのだけれどぉ、やっぱりリリィは誰かを守るからこそ本気を出せると思うのよねぇ。
だ・か・ら・!手当たり次第リリィと関係のある人間を集めてみたわぁん。」
「う、嘘・・・レイド先生まで・・・?
嘘よ、いくらアルでもこれだけのメンバーをどうこう出来る筈ないもの!」
必死に否定しようと頭を振るリリアーナにニタリと笑うアルナワーズはそっと囁く。
「ええ、私一人では無理よ。でも・・・」
「・・・ごめんなさい。アルには借りがあるの・・・。」
最後に入ってきたメラルがリリアーナの否定しようとする思考を打ち砕く。
メラルの存在、そしてアルナワーズのかつてない本気な目。
この二つが幻術ではなく、本当なのだ、と。
そして本気で戦わねば躊躇なく実行するとリリアーナは感じていた。
「ねぇ、リリィ?今、彼らは私の夢核結界に囚われているわ。
その気になれば直ぐにでも精神を崩壊させる事が出来る・・・。
あなた次第で、ね。」
「アル!あなたって人は・・・・!
いくらなんでもやっていい事と悪い事があるわ!」
静かに押し殺した声で睨みつけるが、アルナワーズは喜びこそすれど怯む事はなかった。
それこそがアルナワーズの目的なのだから。
十数回の深呼吸の後、リリアーナは落ち着きを取り戻した。
ゆっくりと上げたその顔は先ほどまでの怒りも、尚早も消えていた。
ただ覚悟に満ちた瞳だけが残って・・・。
「判ったわ。戦う。
でも、もう夕食の時間よ。しっかり食べて力をつけてにしてくれない?」
夕食後、部屋に戻ったリリアーナ、メラル、アルナワーズはテーブルに腰掛けていた。
テーブルの上にはチェス版。
「・・・リリィ?」
怪訝そうに尋ねるアルナワーズだが、リリアーナは堂々と言い放つ。
「あら、チェスだって十分戦いよ?
私はこのチェスに全てを賭けるは。全力を以ってね。
もし私が撒けたら皆を壊していいから!
その目の奥に讃えられる激情を感じ取り、アルナワーズも佇まいを直す。
こうしてリリアーナとアルナワーズの戦いが始まった。
両者順調に駒を進め、十数分後。
「ふぅ・・・リリィ・・・これで87手後にチェックメイトよ?」
決着はあっさりついてしまった。
あまりの決着に溜息をつき、アルナワーズは手を上げる。
「どうやら甘く見られていたようね。一人くらい壊されないと本気になってもらえないかしらぁん?」
夢核結界に捉えた人質の精神を壊そうと。
だが、リリアーナの戦いはここからだったのだ。
「あら、87手?それはアルの勝手な想定でしょ!」
珍しく強気のリリアーナは構わず手を勧める。
しかしメラルは盤を見ながら思っていた。
確かにこのままでは87手後にチェックメイトされリリアーナは負ける。
それどころかリリアーナの手によっては最短で34手に短縮される事も。
これは疑問の挟む余地はない。
だが別の疑問は残る。
仲間の命がかかっている中、何故リリアーナはチェスで勝負を挑んだのか、と。
242 名前: アルナワーズ=アル=アジフ ◆O.bcTAp6QI [sage] 投稿日: 2008/10/17(金) 22:15:42 0
しかしてその疑問は程なくして氷解する事になる。
六手目の順が回ってきた時、リリアーナが長考に入ったのだ。
10分・・・20分・・・
時間は過ぎてゆき、漸く一手。
誰の目に見ても情勢ははっきりしている。
だが、チェックメイトにはまだ手数が必要な状況で時間は22時を迎えた。
「・・・な・・・成る程・・・ね。
最・・初からこれを・・・。
うふふふ・・・負けたわ。
まさかとっさにここまで考えていただなんて・・・。」
フラフラと立ち上がり、ベッドに倒れこむアルナワーズ。
それと同時に人質だったフリージアたちが霞のように消えてゆく。
そう、フリージア達はアルナワーズが幻術で作り出した虚像だったのだ。
「ねえ、最初から判っていたの?」
アルナワーズが熟睡したあと、メラルとリリアーナがお茶を酌み交わしていた。
「アルとの付き合いも随分となるし、なんとなくね。」
くすりと悪戯っぽく笑いながらメラルに応えるリリアーナ。
恐ろしく規則正しい生活を送るアルナワーズの睡眠時間を利用したリリアーナにメラルは素直に賞賛を送っていた。
二人の笑い声が流れるお茶会が続くが、それは一陣の風によって途切れさせられる。
ベッドの方から唄のような呪文が流れ始めたのだ。
「いざや聴け 喚起されしモノ うぬが見立て 七とせの 鼓を打つ響きの間を以って 五芒の戒め六芒の枷、呪詛の楔を樽緩めん!」
「聖地バラナシより轟け 地霊を目覚まし 負界の底より 鳴動せよ 我が啓示となりて 汝が名はタイフーンアイ!」
「爆風よ デカンの怨嗟よ ポタラの果て 銀影の彼方 全ての軸を歪ませ吹き荒れよ 汝が名はクラウドオブダウンバースト!」
部屋中に溢れ変える暗雲。
渦巻く暴風に豪雨、雷。
それは荒れ狂う嵐。
アルナワーズがギリギリ限界まで起きていた事により、身に憑いた二つの嵐が封印の箍を外し顕在化し始めたのだ。
大型台風とダウンバーストと言う恐るべき嵐の具現が吹き荒れる!
慌てて部屋を出た二人は顔を見合わせ噴出した。
「アルの負け惜しみなのかしら?」
「あはは・・・そうかも。
これじゃ眠れないわね。メラルさん、今日部屋に泊めてくれる?」
「ええ、いいわよ。そういえばリリアーナが私の部屋に来るのって初めてだったかしら?」
荒れ狂う部屋を後ろに、リリアーナとメラルの弾んだ声が廊下を歩いていくのであった。
最終更新:2008年10月24日 21:53