231 名前:
リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage] 投稿日: 2008/10/16(木) 18:50:58 0
鍵を取った瞬間、リリアーナはゲームが終ったことを知った。
まるで夢から覚めていくように、視界がゆっくりと暗転し、感覚がぼやけていく。
そんな中、ぼんやりとヘレンの声が皆の耳に入ってきた。
「おめでとう。そして、さようなら。僕が君達によりふさわしくなるまで、しばしの別れを味わおう。」
しばしの別れという言葉に、リリアーナは素早く反応した。
「ヘレンありがと!またあえる日を楽しみにしてるから!!」
今度会うときは先生と生徒だ。
あの(元)金色狐が先生というのもなんだか変な感じがするが、教壇で会える日が楽しみでもあった。
気がつけば、そこは最初に集まっていた大広間。
目が痛くなるような金色の世界じゃなく、見慣れた日常の場所。
「帰って…きた?」
「・・・・・・・あれっ!服が元に戻ってる?なんでっ?」
リリアーナは驚きに目をしばたかせた。
ついさっきまでリリアーナはケオスから貰った服を着ていたはずだ。
なのに今は毒スライムの中で失ったはずの装備一式をリリアーナは持っていた。
まるで、リバースに入る前の状態に時間が巻き戻ったかのようだった。
手にリバースの鍵を持っていなかったら、今までの出来事全てが夢だったと思ったに違いない。
「「「優勝、おめでとうー!!!」」」
頭上でぽんとクズ玉が割れ、魔法で出来た花びらや鳥、花火や紙吹雪が飛び出した。
『祝!優勝!』の垂れ幕にリリアーナは目をぱちくりさせた。
「リリアーナ!何で自分で優勝するんだよー!!」
「今からでも遅くない、俺が嫁に貰ってやるぞ!!」
「え?えええええっ?!」
空はもう白んでいるというのに、まだ日は出ていないらしい。
「はい!そこどいて!邪魔邪魔!!」
突撃する男子生徒をなぎ倒しながら、編集機材らしきものを担いだ数人の生徒が近寄ってきた。
「こちら、でいりぃ・ふぃじる突撃報道班です!優勝されたリリアーナさん!今の心境を一言!」
「ぎゃっ!?」
「あっ、ミルク!!」
にゅっとマイクを押し付けられたリリアーナは目を白黒させつつも、とりあえず答えた。
「え、えっと・・・すごく嬉しいです。無事に帰ってこれたのも、皆が助けてくれたおかげで・・・・・・きゃっ?!」
がばあっと背後から抱きつかれ、リリアーナは悲鳴をあげた。
「麗しのリリアーナ、さあ、私との約束を果たしてもらいましょうか・・・・・・」
「て、テツコさんっ?!」
耳にふうっと息を吹きかけられ、リリアーナはひい~っと変な悲鳴をあげた。
「うふふふ、リリアーナ、恥ずかしがらなくったっていいのよ?
分かっていてよ、分かっていてよ!
プレゼントは私がちゃあんと貰ってあげるから。うふ、うふふふ」
うっとりとした目でリリアーナを見つめていたテツコだったが、ふと不穏な空気に顔を上げる。
「・・・・あら?あなた確かユリとか言ったかしら?私のリリアーナに何かご用かしら?」
ぴき、と空気が凍りついた気がした。
ジャーナリストの使命に燃えるユリと愛に生きるテツコ!
二人の戦いの火蓋は今・・・・・
「わーん!いい加減みんな正気に戻ってよ~!!」
そこに、明け方の柔らかな光が優しく差し込んできた。
リリアーナにとってはまさに天の助けだった。
テツコ達媚薬被害者の動きが止まった隙に、リリアーナは大声で叫んだ。
「く、詳しいお話についてはミルクを通すか、マオマオから聞いてくださーい!」
・・・・・・まさに、咄嗟の一言である。
232 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage] 投稿日: 2008/10/16(木) 18:52:25 0
簡単な表彰式の後、参加者を労うための立食パーティがあると告げられる。
参加した生徒達の間からわっと歓声が上がった。
ひと休みしたら参加してみるのもいいだろう。
リリアーナは人ごみをかき分けながら、エルザの体を探していた。
エルザがロックと同化してしまった今、彼女は抜け殻になっている。
そのままにしておくと、事情を知らない生徒の間で騒ぎになりかねない。
「ロック!ねえロックったら!」
リリアーナは息を弾ませながらロックに追いつこうとした。
「ねえロック、あなたエルザの体を見かけなかった?」
周りに聞こえないよう低く問い掛けるリリアーナの顔は、緊張のあまり強張っている。
エルザの体の行方もそうだが、どうしてもロックに確認したいこともあったからだ。
―――― 一言で言うなら、ロックは媚薬チョコを食べていたか否かだ。
243 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage] 投稿日: 2008/10/18(土) 02:47:42 0
235 >238-239
「見たぜ。」
怪訝そうな顔をするミルクをよそに、ロックは即答した。
「えっ、どこよ?」
今にも飛び出しそうなリリアーナをよそに、ロックは自分の巾着袋の口をごそごそ開いている。
「リリアーナ、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
「ちょっと、今はそれどころじゃ・・・・・・」
頭に血が上りかけたリリアーナだったが、巾着袋の中を見て思わず言葉を失った。
そこには10cm程の大きさのエルザの体が入っていたからだ。
「どれどれ、何が入ってるのかな?……うわっ!可愛い!」
「すごく・・・小さいです」
ミルクの言うように、本当にかわいらしい。
「本当に・・・・・かわいらしくなっちゃったね」
リリアーナは巾着袋の中に人差し指を差し込むと、小さな頭を指先でそっと撫でた。
「おめでとぉん。
これで
リリィも学園上位陣に仲間入りねぇん。」
「も~っ! アルったらからかわないで・・・よ・・・」
苦笑交じりに振り向いたリリアーナの顔が引きつった。
アルはいつもと変らぬ笑みを讃えているが、その目は全く笑っていない。
冷や汗をだらだら流すリリアーナをよそに、アルナワーズはそのまま立ち去ってしまった。
(そしてこれは後で知った事だが、パーティ会場にも一度も姿を見せなかったそうだ)
「あ、そうだ!あたしユリからチョコ事件の報酬もらわなきゃいけないんだ!
じゃそういう事だから、あたしはもう行くね!また後で!」
アルに気を取られていたリリアーナが戸惑っているうちに、ミルクは立ち去ってしまった。
(しっかりがんばってね)とリリアーナの耳元でささやいてから。
(がんばるって言われても・・・・・・)
リリアーナは少し赤い顔をしながら、ロックの方をちらりと見た。
リリアーナは自分のつま先をじっと睨んでいたが、意を決したようにロックを見上げた。
「あの・・・・・・ロック、その・・・・・・何か私に言いたいこととか無い?
その・・・・・そうだ、あの・・・ヴァレンタインのチョコの味、どうだったかな?」
取りとめのないリリアーナの言葉だったが、途中で水を差された。
例の媚薬被害者が何人かこちらに来たからだ。
「お前ら!しつこいぞ!」
ロックは怒って、懐から杖を引き抜いた…筈だった。
しかし杖は突然ロックの手の中で突然爆発したかのようにでっかくなった。
「嘘・・・ホントにフォルティシモなの?」
暫く呆けていたリリアーナが、ようやく口を開いた。
その声には信じられないという驚きと、押さえきれない歓喜が入り混じっていた。
「こ…これも、ヘレンがした事なのか?」
誰がしてくれたにしても最高の贈り物だとリリアーナは思う。
フォルティシモとは、以前闇の魔法使いと戦ったとき、完全に破壊されてしまったロックの愛箒なのだ。
そのときのロックの悲しみようを見ていただけに、リリアーナの喜びもひとしおだった。
「お帰り。」
(良かった・・・本当に良かった・・・)
244 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage] 投稿日: 2008/10/18(土) 02:53:00 0
涙ぐんでいたリリアーナの腕をふいに誰かがひいた。
「きゃっ?!」
よろけたリリアーナが驚いて振り向くと、そこには媚薬被害者だったクラスメート達が立っていた。
「リリアーナ、パーティ行くだろ?今日はワインも出るらしいぜ」
「魔法ろくに仕えなかったのにどうやって優勝したの?詳しく聞かせて~」
「あ・・・でもその・・・私、今ちょっと・・・」
リリアーナは困った顔でちらりとロックの方を見た。
「ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいだろ?」
やんわりと断わりかけたリリアーナの言葉を遮るように、被害者の一人が畳み掛けてきた。
「例のチョコのせいで、ここにいる全員それは貴重な体験をしたんだからさ」
そう言われては断わる術が無い。リリアーナの肩が力なく落ちた。
「ロック、私ちょっとパーティに顔出してくる・・・・・・」
あまり気乗りしないが、露骨に顔に出すわけにも行かない。
リリアーナは窓越しの朝の空を指差すと微笑んでみせた。
「ロック、楽しんできて。せっかくフォルティシモが戻ったんだもの」
朝の風はきっと気持ちいいに違いない。
260 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage 後日談は明日あたり] 投稿日: 2008/10/20(月) 23:19:47 0
ロックはにっこり笑って、箒の柄を媚薬被害者だったクラスメート達に向けた。
「ぺリキュラムだ!!」
「えっ?」
箒の柄の先から、大量の花火が飛び出し、クラスメート達を打つ。
突然の出来事に唖然としていると、ロックがさっとリリアーナの手を取った。
「行くぜ、リリアーナ!」
ようやく状況を理解したリリアーナの顔がぱっと輝いた。
ロックはリリアーナの手を引いて走り始めた。
「皆ごめんね、話はまた今度!」
数分後、ロックはフォルティシモにリリアーナを乗せて空を飛んでいた。
フォルティシモは蘇ってちょっとは丸くなったのかも、とリリアーナは思う。
「ふう、危なかったぜ!」
ロックは風にあおられながら、そう言ってため息をついた。
「よくはわからないが、どうやら俺達が逃げるのを誰かが手伝ってくれたらしい。
でなければ、とても目くらましの花火だけで逃げおおせられる連中とは思えないからな。 」
「そういえば、私達そっくりの偽者が走っていくのを見たような・・・」
それ以外にも見覚えのある面々が、なにやら仕掛けていたような気がする。
ロックの言うとおり、誰かが手を貸してくれたのは間違い無さそうだ。
「ところで、リリアーナ。あの媚薬飲んだ奴らが、解毒剤を飲むまでは下に降りるのはやめとこうぜ?
あいつらの媚薬から生まれる執着心は底なしだぜ…」
リリアーナは頷いた。
「ベアトリーチェちゃんの話では、日が昇ったら皆元に戻るってことだったんだけど・・・・・・。
食べた量や体質で個人差とかあるのかな・・・・・・」
リリアーナの声が次第に尻すぼみになった。
もしかしたら、本当に言いたい事は別にあるのかもしれない。
「安心しろよ、リリアーナ。ある意味申し訳ないけど、俺はお前のチョコレートを口にしてなかったのだ。」
リリアーナは一瞬体を強張らせた後、僅かに掠れた声で「本当に?」と囁く。
「だから、こんどは何か違うものを俺に作ってくれよ!
生憎とベアトリーチェのおかげで、チョコレートはしばらく見たくないからな!」
リリアーナは何度も何度も頷くと、弾んだ声で答えた。
「うん・・・・・・うん!じゃあ今度は特大のレモンパイなんてどうかな?」
、
人生は驚きの連続だ。
以前は、ロックが箒に乗る姿を地上から見上げるだけだった。
箒と一体になって自由に空を飛ぶロックは本当に楽しそうで、
一緒に乗せてくれたらどんなに良いだろう、とよく想像したものだ。
それが今日は、失われた筈のフォルティシモでロックと一緒に空を飛んでいる。
おまけにロックは、リリアーナの事が好きなのだ!
なんて幸せなんだろう。
リリアーナはロックに回していた腕にそっと力を込めた。
「…愛してるぜ。世界中のどこの誰よりも。」
―――― 本当に、人生は驚きの連続だ。
「わ・・・私も―――― っきゃああああっ?!」
フォルティシモの出力が突如フルスロットルになった。
どうやら今の言葉に感激したのは、リリアーナだけではなかったらしい。
(そういえばロック、誰を愛してるかは言わなかったっけ・・・・・・)
リリアーナもしばし固まっていたものの、やがてぷっと吹き出した。
明るい笑い声を、海からの風が運んでいった。
幸せな二人を乗せ、フォルティシモはどこまでもどこまでも大空を加速していく…
「・・・・・・・風、気持ち良いね」
リリアーナは長い金髪を風に遊ばせながら、満ち足りた顔でそう囁いた。
177 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage] 投稿日: 2008/10/23(木) 18:44:08 0
「―――― あれ・・・図書館に現れたアンデットの名前『死王』って名前だったんだ・・・・・・」
昼下がりのカフェテリア。
(『塩』じゃなかったのね・・・)
渋い顔でゴシップ雑誌らしきものを読んでいたリリアーナの上に影が落ちた。
「あら、久しぶりね!」
リリアーナは手にしていた雑誌をテーブルに置くと、立ち上がって椅子を勧めた。
「リバースの後のパーティ以来じゃない?あれからどうしてた?」
楽しそうに近況を聞くリリアーナの表情は、『週間フィジル自身』の表紙を飾っている写真と同じだった。
あのリバースのイベントが終って既に一週間が過ぎていた。
今の学園は、次のイベントの準備で少し浮き足立っている。
おかげで、リバース戦優勝者であるリリアーナの周りも、おかげでだいぶ静かになった。
ロックのことを聞かれ、リリアーナは課題に言っていると説明した。
後を追わなくていいのかと聞かれ、リリアーナはすっと居住まいを正す。
どうやら目の前の友人は、大体のあらましを知っているらしい。
「フィンカイラ島にいくのを『課題』にしてくれたのは、粋な学園長のはからいだったと思っているわ。
後を追いたくないといえば嘘になるけど、私は私でやるべき事が残ってるしね」
そう言って微笑むと、リリアーナは冷めかけた紅茶を口に含んだ。
舌先に残る苦い味と共に、リリアーナは学園長室でのやり取りを思い出していた。
優勝したリリアーナのために用意された副賞は、強力な封印の石だった。
神の杖と呼ばれたものは、今はリリアーナの内に封印されて眠っている。
もっとも、人の力でカドゥケウスを完全に封印できる筈も無い。
実際には、所有者の願いを聞き入れたカドゥケウスが封印に応じた形だ。
魔力探知に特化した優秀な魔法使いでも、今のカドゥケウスに気づく事は難しいだろう。
もっとも、封印した後もリリアーナの魔法は相変わらずだ。
所有権自体を放棄していないからだ。
なぜ所有権を放棄しないのかと学園長に尋ねられ、リリアーナはしばし躊躇った後、こういった。
「カドゥケウスが本当のご主人様のもとへ帰りたがってるからですよ
でも彼らの主は今、黒い扉の先――――冥界にいます」
カドゥケウスは異界へ渡る免罪符でもあるが、手放しては元の世界に戻る術は無い。
「でも、私が杖を持ったまま天寿を全うしたら、私は冥界に行きますよね?
その・・・つまり・・・・・・・カドゥケウスとはそういう約束なんです」
178 名前: リリアーナ ◆jntvk4zYjI [sage エピローグ] 投稿日: 2008/10/23(木) 18:45:16 0
しばし物思いに耽っていたリリアーナだったが、何度か呼びかけられハッと我に帰った。
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた。何?」
「ロックと一緒に行かなくて本当に良かったのか?」
リリアーナはああ、と納得したように頷くと、わざとらしく泣きまねをして答えた。
「いいのよっ、それに、ロックがアンジェリーナの後を追ったのなら私には止められないし。
だって、アンジェリーナ先生はロックにとって『トクベツ』なんだもの。よよよ」
そういって亡き真似をしたリリアーナの目は明らかに笑っていた。
一方、それを聞いた相手の行動は明らかに挙動不審だった。
慌てて周りを確認した後、「それ、絶対他人の前で喋らない方がいい」と何度も念押しされたのだ。
「う、うん?分かった」
きっとアンジェリーナにも熱狂的なファンがいるに違いない、そうリリアーナは納得した。
その冗談を真に受ける人間が存在するなど、考えてもみなかったのだ。
「あっ、もうこんな時間!じゃあ私、そろそろ学園祭の準備に行かなくちゃ!。またねキサカさん」
リリアーナは立ち上がると、ふと思い出したように一枚のチケットを差し出した。
「これ、猫耳メイド喫茶のコーヒー無料券なの。よかったら遊びに来てね」
カフェテラスを抜け外に出たリリアーナは空を見上げた。
今日もいい天気だ。
ロックはそろそろ次の転移ゲートについた頃だろうか?
それとも、フォルティシモと共に空を飛んでいる頃だろうか。
別れ際のロックの言葉を思い出し、リリアーナはかすかに微笑んだ。
「うん。・・・・・・・・・・・・・なるべく早くね」
リリアーナは秋めいた陽射しを左手で軽く遮る。
今にも抜け落ちそうな程ぶかぶかの指輪が、頷くようにリリアーナの指で揺れていた。
その夜リリアーナはとんでもない災難に見舞われるのだが―――― これはまた、別の話である。
最終更新:2008年10月24日 22:04