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 アーキタイプ――「ドイツ語:Archetyp」「ユングが提唱した分析心理学の用語」「原型を意味する」。


 原型とは、人類の普遍的な観念の深層に内包される概念。
 精神に作用し、夢や空想の中に「典型的なイメージ」として発露する。
 過去未来問わず、様々な民族や集団において語り継がれる伝承。現れる伝説。

 つまり――


「……魔法? キマイラ? ファントム?」


 ――アーキタイプというのは、一つではない。

 それはあらゆる時代で、そして、あらゆる場所で存在するが故の原型。

 それが日本に存在していても――。
 それがこの時代に存在していても――。
 そして異なる世界に存在していても――。


「絶望と……ゲート……?」


 ――なんら、不思議ではない。

 これは語られるべきではなく、語られてはならない物語。
 どこかの世界、どこかの時代の物語。
 本来の原型とはかけ離れてしまった物語。

 これは、とある獣の異聞である。




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「なんだこの、指輪……もしかして、なんか価値があるものなのか?」


 夏の某日。


「おーい、父さん! 父さーん! なんか見つけたんだけどさー!」


 長野県のある遺跡から出土した金色の指輪。
 父の手伝いで遺跡に顔を出していた少年、須賀京太郎は――その指輪を手にしてしまう。
 持ちかけられる契約。明らかになる世界の真実。

 この世界“にも”存在する、ファントムという怪人。
 ゲートと呼ばれる魔力を持つ人々の希望を奪い去り、代わりに絶望と破壊を齎し、同族を生む現代の吸血鬼。
 それと戦えるのはただ一人。指輪の魔法使いだけ。

 突如の事態に、少年は混乱した。
 喧嘩など碌にしたこともない。仕合などは以ての外で、闘争などともほとんど無縁。
 彼は穏やかで優しいだけの、年相応の少年だった。

 所属する麻雀部は今、佳境を迎えていた。
 全国高校生選手権――所謂インターハイ。予選を終えて、高校生の頂点を目指して全国から少年少女が鎬を削る戦いの舞台。
 少年は初心者が故にその大会へと駒を進めることはできなかったが、彼の仲間たちは、見事その大会への切符を手に入れた。

 人々の希望を絶望に変えるからこそ、ファントムは生まれる。
 ならば全国規模の祭りであるインターハイは、その格好の餌場であった。

 少年は一つ、決意をした。

 そして少年の元に舞い降りたのは――戦う力と、絶望との戦い。



「ちょっと!? どうしたの、京ちゃん!?」

「……ん? いや、悪い……昨日ちょっと緊張して眠れなくてさ」

「もう……大丈夫?」

「ハハ、悪いな。別に俺がインターハイに出るわけでもないのに」

「そんなこと言わないでよ。私が、京ちゃんの分まで戦うから」

「……おう」

「元気ないなぁ……どうしたの、ちょっと変だよ?」

「んー。まあな。ちょっとらしくもなく色々考えて、暗くなっちゃってな」

「だったら――私がほら、京ちゃんの分も希望になってあげるから! ……なんちゃって」

「……」

「あれ、駄目……?」

「ばーか」

「……ちょっと、酷くない? 京ちゃんがらしくないから、私もらしくないこと言ったのに……」

「いや……。ありがとな、咲」


 ――彼がその力を受け入れたのは、ただ一つ。


 守りたかった少女がいた。支えたかった少女がいた。
 その少女に魔の手を及ばせない。
 ただそのためだけに少年は、血塗られた獣を身に宿した。

 平穏に暮らして欲しかった。平和に過ごして欲しかった。
 争いとは無縁でいて欲しかったのだ。
 その為だけに似合わぬ戦いに身を投じ、握りたくもない拳を握った。

 人を殴る感触の吐き気に耐えて、死と絶望と隣り合わせの戦いに堪えた。


 全ては――ただ一人の少女を、守るために。



「この姿なら……麻雀という競技なら、他者を絶望させるのは容易い。懸けるものが多ければ多いほど、絶望に惹かれる」

「お前が……ファントム……ッ」

「なんなの、京ちゃん……? なんで、お姉ちゃんが……! これは、どうして……?」


 しかし、その願いは儚くも吹き散らされた。
 少女の心を絶望に導かんがために仕組まれた運命の罠。
 波濤が如く押し寄せる、怒涛の進展。

 少年は戦士というにはあまりにも優しすぎて、そして未熟だった。
 その穏やかなる心は誰かを傷付けることもできず、ただその身を晒して盾となるばかり。
 人を護るために消費される魔力。
 釣り合わない支出と収入。逃れられぬエントロピーの渦。


「……う、ぁ」

「京ちゃん! しっかりしてよ、京ちゃん!」


 少年の身を蝕む、キマイラの呪い。
 戦う力と引き換えに与えられた代償。
 絶望を払いのけること、希望を取り戻すことへの対価。

 十分な魔力を、獲物を確保できない少年の命は破滅へと導かれる。


「私、今まで京ちゃんに助けられてばっかりだったから……いいよ。京ちゃんの為なら、ファントムになってあげる」

「よせ……! なあ、よせよ……!」

「これで、今までの分も……京ちゃんにお返しできるなら、怖くはない……かな?」

「頼む……やめてくれ。やめてくれよ、咲。それじゃあ俺、何のために……!」

「……ばいばい、京ちゃん」

「やめろぉぉぉぉぉ――――――っ!」




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                                     ̄                  異聞/THE BEAST





「おい、諦めるな。魔法使いってのはな、諦めが悪いんだ」

「俺は……魔法使いなんかじゃないんだ……。守りたかった奴に、逆に守られることになって……」

「……じゃあ、ライダーだ。どの世界であっても、人類の自由と希望の為に戦う……な」

「あなたは……?」

「――ウィザード。……諦めが悪い、魔法使いさ」


 ――その爪は、誰かの希望を護るために。

 ――その咢は、誰かの絶望を喰らうために。

 ――その身は、誰かの願望を背負うために。


 少年は今、獣となる。
 高貴と光輝を顕す、金色の守護獣に。


「だったら、俺が……! 俺が、アイツの……! 咲の、最後の――希望になってやる!」


 清澄高校一年、須賀京太郎。

 仮面ライダービースト/アナザービースト。

 これは――あるひと夏に起こった、少年と少女の、希望と絶望に纏わる異聞である。
最終更新:2014年03月02日 05:26