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【もしも京太郎と淡がWだったら】


 目には目を、歯には歯をという言葉がある。
 毒を以って、毒を制する――という言葉もある。

 要するに彼ら、財団Xが行ったのは酷く単純な実験であった。
 仮面ライダーWを倒すために、最強の仮面ライダーWをぶつける。
 たった、それだけの事。

 その構成に使われるメモリは――ボディサイドが本来のWに倣ったジョーカー・メタル・トリガー。
 ソウルサイドは、その出力と特異性から、ただWを撃破する為に選ばれた。
 エターナル・ナスカ・ウェザー。
 どれも、理論上は単騎で最強のメモリだ。
 Wの持つメモリの組み合わせのような意味での相性は考えられていない、モンスターマシン。

 より高性能なメモリを。強力なメモリを。
 それだけの考えで、装着者の生死やメモリ同士の相性を考えられずに、それは作られた。


 そして――被験者を選んだ。

 これらメモリと強力なまでの運命で引き合う装着者を。
 メモリ自体の相性――ハードから制御できないのなら、それに見合うソフトを与えればいい。
 また、ソフトの相性はどうでもいい。ただ、戦って、Wを撃破出来るのならばそれでいい。

 被験体として名が挙がっていた新道寺の白水哩と鶴田姫子。
 彼女たちが持つ、麻雀に関するオカルト能力から考えるのなら――Wとしても十分な戦力として起動する。
 だが、ここではそんなものはどうでもいい。

 ジョーカーと最適に引き合う者。
 エターナルと最適に引き合う者。

 それだけが、必要だった。
 永遠の切り札として――財団の元で、破棄されるまで戦い続けてくれるのであれば。
 それらの相性や生死など、二の次以下の問題であるのだ。

 故に、彼と彼女は選ばれた。

 ジョーカーメモリの最大の適合者、須賀京太郎。
 エターナルメモルの最大の適合者、大星淡。


 彼らは、歯車の一つでしかなかった。
 エターナルジョーカーという、最強のモンスターマシンを操作する為の生き人形。
 財団X――加頭順の“切り札”であり、“永遠”の奴隷。
 彼と彼女の人格も、その適合性も関係ない。
 ただ、Wをも超える最強のWを動かせれば――それでよかったのだ。


 そして、物語は幕を開けた。


 囚われた須賀京太郎は――もう、何度目か判らない幻覚を味わっていた。

 彼には、他の人間の精神が搭載される。
 本来ならば、絶対に適合するはずがないそれ。
 それを無理やりに移植するのと同じである。
 生体間臓器移植と同じく、肉体と魂の間にも――拒絶反応(リジェクション)は存在する。
 同じく、魂と魂の間にも。

 器は一つ。中身は二つ。
 常識で考えて、耐えられるはずがなかった。

 ならば、常識を覆せばよい――京太郎に行われているのは、それである。
 まずは、精神が既に存在している器に別のものが搭載される際の反発の問題。
 解決法は、簡単であった。

 京太郎の魂――精神の容量を限りなく削る。
 最低限体を動かすに足るだけの意識を残して、後の一切合財を奪い取ってしまえばいい。
 心を殺す。
 有り体に言うなら、それだ。

 さらに、サイコメトリー……他者の精神に感応する能力。
 それを、後付的に搭載する。
 京太郎自身の精神を希薄にして、他者で塗りつぶしてしまえばよいのだ。
 これがまず、一点。


 次に二点目。
 精神と肉体の拒絶反応――リジェクションについてであるが。
 これもまた、単純な方法で解決が図られた。
 拒絶反応は、それを小さくする事が出来てもなくす事はできない。

 ならばいっそ――拒絶反応に耐えられる肉体にすればいいのだ。

 崩壊するたびに再生すればいい。
 崩壊が限度を超えたのならば、その肉体を取り換えて、新品を用意してやればいい。
 須賀京太郎が、生身である必要などどこにもない。
 勿論、完全なる無機物ではガイアメモリが適合するか不明。

 故に脳を残して――正確にはその脳も含めて――須賀京太郎は改造される。
 人を超えた人。仮面ライダーWを超えた仮面ライダー。
 パーフェクトサイボーグ、ジョーカーとして。


 計画は中盤。
 精神の洗浄及び、四肢や内骨格の置換は終わった。
 あとは内臓系を完全に生体機械や機械に置き換えてしまえば、完了する。

 その間の手術は――麻酔なしで行われた。
 これも、須賀京太郎の精神を破壊する為の一貫である。

 既に京太郎は、その髪すべてが白髪と化していた。
 ショックにより、色素を失い……囚われてから伸びた髪の毛は、その根元から白く色を失う。
 監禁以前に存在していた京太郎の毛髪は、実験の邪魔だという事で切り落とされている。

 故に今の彼はまさに、小説に登場する白髪鬼と同じだ。


 想像を絶する苦痛の中、京太郎は麻雀を打っていた。
 せめてもの気慰み。なんとか、己を保つ為の作業。
 一日一日をカウントしながら、短く過去を振り返る。

 己がここに囚われる前。彼女たちと囚われる前の記憶を、何度も巻き戻す。
 ひたすらに、カウントを続ける。数を数え続ける。
 そうでもしていないと、完全に気が狂ってしまう。際限ない痛みに、発狂してしまうだろう。

 カウントと共に、過去が蘇る。


 いつかの、部室。
 須賀京太郎は、麻雀を打っていた。
 宮永咲がいる。原村和がいる。片岡優希がいる。染谷まこがいる。竹井久がいる。
 自分がいる。からかわれている。

 そして、宮永照がいる。弘世菫がいる。渋谷尭深がいる。亦野誠子がいる。
 自分がいる。誇らしげにしている。


 ――。
 ――。

 誰だろうか、宮永咲とは。
 誰だろうか、宮永照とは。

 誰だろうか、原村和とは。
 誰だろうか、弘世菫とは。

 誰だろうか、片岡優希とは。
 誰だろうか、渋谷尭深とは。

 誰だろうか、染谷まことは。
 誰だろうか。亦野誠子とは。

 誰だろうか、竹井久とは。

 誰だろうか。
 誰だろうか。


 そんな人間に出会った覚えはない。
 自分は、そんな人間は知らない。

 なのに、名前が分かる。顔が分かる。
 見知らぬ人の中で、自分は話している。

 理解ができない。ひょっとして、気が狂ってしまったのだろうか。
 何が起きているのだろうか。死んでしまったのだろうか。

 死にたくない。
 死にたい。でも、死にたくない。誰か助けて。


 再び京太郎は、部室に戻った。
 今のヴィジョン。なんだったのだろうか。まさか、幻覚の中で幻覚を見るなど笑えない。
 ついに、想像や想起すらもままならなくなったのか。
 だとしたら、自分の精神もいよいよ駄目なのかも知れない。 


 いつもの部室。
 宮永咲が笑いかけた。
 片岡優希がからかってきた。
 原村和が呆れ顔をした。
 染谷まこがフォローを入れた。
 竹井久が意味深に微笑んだ。
 そして、誰かが泣いていた。


「助けて……誰か、助けて……」


 誰もがそれを見ていない。
 宮永咲も、片岡優希も、原村和も、染谷まこも、竹井久も気づいていない。
 いや、気付いているのだろう。
 だが、受け流していた。

 ひょっとしてこれは――思い出せなくなっているだけで、日常茶飯事だったのか。
 誰か、泣き虫が部室に居る。
 いくら慰めても泣き止もうとしない。いつだって泣いている。
 だから、もう皆相手をしなくなった。そういう事だろうか。


「なあ、咲……あれ、誰だっけ?」

「? どうしたの、京ちゃん」

「いや……あそこで泣いてる奴がいるだろ? 俺さ、ちょっと名前忘れちゃって」

「……誰も、いないよ?」

「えっ……」

「やめてよ。そうやって、私の事怖がらそうとしてるんでしょ! もう、京ちゃんってば……その手には乗らないからねっ」

「京太郎も、つまらない事を考えるもんだじぇ」

「そ、そうです……幽霊なんて、そんなオカルトあり得ません。ないったら、ないです!」

「……震えながら言われても、ねぇ」

「こら、久。そこは見なかった事にしてやれって」


 何事もない、いつもの風景。
 皆が笑った。
 それを見て、京太郎も息を漏らした。

 そうだ、ひょっとして麻雀の打ちすぎで疲れていたのかもしれない。
 それとも、咲の言うとおり、咲をからかおうとしたのだったか。
 どちらにしても、大した事ではないのだ。

 それより今は、親番だった。逆転のチャンスだ。
 麻雀に、集中しないと。つまらない事なんて、忘れよう。


「嫌だ……嫌、やだよ……! 助けて……! テル、菫先輩、たかみ先輩、亦野先輩……助けて……!」


 だけれども、幻覚は消えなかった。
 頭を抱えて、子供のように泣いている。
 これは幻覚だ。本当は何も見てはしない。きっと、妄想だ。
 それよりも、皆が待っている。笑っている。牌を切らねばならない。
 だから、気にしている暇はないのだ。


「誰か……助けてよ……! やだよぉ……」


 だと言うのに――それでも。
 須賀京太郎は席を立って、その少女の元に進んだ。
 皆が怪訝な目を向けた。優希が怒鳴っている。咲が呆けている。和が白い目を向けてくる。
 そう、こうしている理由などないのに――それでも。


「判った。俺が――助けてやる」


 そんな風に少女の手を取って、涙を拭っていた。
 顔は、見えない。誰だかも判らない。
 だけど――だとしても、泣いている少女を見過ごす理由などなかった。

 体温は伝わらない。匂いも分からない。感触もない。
 それでも、少女の嘆きが聞こえた。助けを呼ぶ悲鳴が、分かった。
 だから――京太郎は手を伸ばした。

 その涙を止めなければならない。



「な……っ!?」


 研究員は色めき立った。
 破られる筈がない拘束。千切れるはずがない繋縛。
 それが、引きちぎられたのだ。

 上体を起こす、被験者――須賀京太郎。

 警備員が、すぐさま銃を構えた。研究員も、麻酔銃を構える。
 神経への打撃の為、鎮静剤を利用していないのが仇となった。
 だが、彼のスペックではどうあがいても脱出できない。そんな、拘束であるはずなのだ。
 なのに――何故、そうなった。


 そんな、戸惑い。
 それが、須賀京太郎の明暗を分かった。


「……退、け、よ――ッ!」


 翻る炎。パイロキネシス。
 向けられた銃を持つ、人差し指だけを焼き散らした。
 落ちる、銃身。炭化して硬直する手首。
 それを一瞥もせず――パーフェクトサイボーグになる筈であった男は、実験台を抜け出した。

 超能力が、まだ発動するなんて聞いていない。
 気絶して意識を失う前に、研究員が思ったのはそれであった。


 大星淡は、嘆き続けていた。

 彼女に施された手術は、単純である。
 否、正確に言うのなら手術の目的は単純であった。だが、未だ実験の途中だ。
 肉体と精神の分離。
 一体、どのような刺激を与えれば精神はどれだけぶれるのか。
 そして、どう乱れるのか。

 その振れ幅を調べて――最適解で彼女の肉体から精神を解脱させる。
 そんな実験が、研究がおこなわれていた。


 ある時は外部電流による、局部ごとの苦痛の反応と抵抗を調べられた。
 ある時は生理的嫌悪感に起因される、精神の逃避を確かめられた。
 ある時は中枢神経刺激薬――いわゆるドラッグによる、解放からの精神の動きを探られた。
 ある時は志向性を持った幻覚による、身近なものの死を与えられた。
 ある時は志向性を持った幻覚による、自分自身への死を与えられた。

 精神に作用する薬を使用された。
 肉体に働きかける薬を使用された。

 苦痛が来た。快楽が来た。
 おおよそ人道的とは言えない実験が、繰り返され続けた。
 須賀京太郎とは対照的に、その肉体への影響は軽微であるが――。
 それでも怖くて、痛くて、辛かった。


 ああ、今日もまた――地獄が始まるのだ。
 そう淡は諦めた。

 助けを呼んでも、誰も来ない。
 痛みを嘆いても、誰も止めない。
 快楽に泣き叫んでも、誰も終わらせない。

 ひたすらに続く地獄。
 永遠の――拷問だ。


 いつしか淡は、泣く事を止めた。
 どうせ泣いても、何にもならない。
 誰も助けに来てはくれない。いるのは自分を観察する研究者だけ。
 どうあがいても逃げられたない。嫌だと言っても、それは止まらない。

 だったら――もう、諦めるしか道はなかった。

 昨日は何かがあった。
 今日もまた何かが起こる。
 明日もきっと何かあるだろう。

 それだけの観念。
 囚われてから、彼女の時間は三種類しかない。
 どれだけ時間が経ったのかなんてもう、関係ない。

 ただ、消えていく過去。過ぎていく現在。来てほしくない未来。
 それしか存在していないのだ。


 光を失った目で、虚空を見る。
 今日、何が起こるのか。考えても無駄だ。

 きっと遅かれ早かれこの肉体と精神は穢され歪められて、痛苦と汚辱に塗れて、心は墜落する。
 だから、明日を望んでも無意味である。
 過ぎてく果てに、死がある事を望むしかない。

 それだけだった。

 夢や、希望なんてない。
 だから、期待してもしょうがない。
 救いなんて願うな。光を目指すな。
 どうせもう、自分は最低に身を窶し続けるしかないのだから。


 なのに――この日は違った。

 大星淡は、運命と出会った。


「なんだ、うげ――ぁ」

「き、貴様、どこか――」

「動く、な――」


 炎を纏った、黒い怪人。
 銃を向ける研究員を、素手で蹴散らしていく。
 今にも息絶えそうなほど、足取りは重い。
 それなのに確たるもので、あまりの重量を持つ巨体が、無理やり人の大きさに縮められているとすら錯覚する。

 同じくマスクの怪人に変貌して――駆け寄った職員が、殴り飛ばされた。
 裏拳一発。宙を舞う、マスクの男。
 息も絶え絶えに片足を引きずりながら、それでも彼は歩く事を止めはしない。

 淡を囲んでいる、強化ガラスにマスクの戦闘員が激突する。
 その上から――黒い怪人は、殴りつけた。
 砕けるガラス。それと共に躍り込む、怪人。

 それが淡には――白色灯に反射するガラスの破片が――夜空に輝く星に見えた。
 膝から、着地する怪人。
 そしてそいつは――淡に手を伸ばした。


「俺が、助けにきた……お前の涙を、止めに来た」

「誰……?」


 怪人と思っていたそれは、ただの少年だった。
 周囲に纏う炎の所為か、見間違いでもしていたのだろうか。
 己自身、泣き出しそうなほどの苦痛に顔を歪めながらも――。
 その少年は、淡に笑いかけた。


 これが、淡と彼の始まりの物語だ。



 ――不仲があった。


「気安く話しかけないでよ。私に近寄らないでってば」

「……分かったけど、言わせてくれ。それでも俺は、お前の味方だ」



 ――対立があった。


「なんで、そいつを庇ってんの!? そいつ、敵でしょ!?」

「……こいつは、俺たちと同じだ」



 ――不協和音があった。


「だーかーらー、次はトリガーだってば」

「トリガーは全然言う事聞かないんだよ!」



 ――戸惑いがあった。


「へえ、だったら死になよ……当然だよね?」

(こいつ……思った以上に、危険だ――)



 ――危機があった。


「勝て……ないよ……。こんなの、無理……」

「それでも――笑え。俺がついてる。俺とお前なら、大丈夫だ」



 ――恐怖があった。


「やだ……も、やだ……。痛いのも、怖いのもやだよ……」

「……淡」



 ――日常があった。


「違っ! テル、違うってば! こいつは彼氏なんかじゃないから! ただ、そこに居たヘボだから!」

「そうっすよ! こいつとは何もないし、全然興味なんてないから――って、オイ……なんで足踏むんだよ、淡」



 ――代償があった。


「なんで、そんな事……隠してたの……?」

「リジェクションは……。別にお前が、気にする事じゃない……」



 ――血涙があった。


「きょーたろーが戦うって言っても、絶対に私は戦ってやらない! もう、変身はしない!」

「だったら……一人ででも、戦ってやる。誰かが泣いてるなら、俺は戦う」



 ――哀惜があった。


「そのままじゃ、きょーたろー……死んじゃうよ。だから、戦いなんてやめよう……?」

「……そうできたら、いいよな」



 ――悪意があった。


「どうして……。なんで、テルが人質に……! や、だ……やだよ、テルー!」

「……お前の涙は、止めてやる。俺が、あの人を助ける」



 ――約束があった。


「なら、誓って。絶対にもう、私を一人にしないって……最後まで、永遠のその先まで一緒に居てくれるって」

「……お前、思ったより泣き虫だもんな。判ったよ、お前が泣いてたら、すぐに駆けつけてやる」



 ――慟哭があった。


「それでも……生きてて、欲しかったのに……! 少しでも長く、生きてほしいのに……!」

「……でもさ、女の子の涙を止められたんなら――悪くないぜ?」



 ――戦闘があった。


「……これが、最後の戦いになる?」

「さあな……どうなるか、判らない。最後の最後まで、どうなるか……」



「でも、きっと俺とお前なら――大丈夫だ」

「どうして?」

「二人で一人の仮面ライダー。この街の涙を拭い、悪を砕く希望の象徴」


 リジェクションが、京太郎の体を蝕む。
 財団Xの軍門に下り、再改造や調整を受けたのなら戻るかもしれない。
 だがその時果たして――今と同じ自分で居られるのか。

 結局京太郎は、そのまま戦う事を選んだ。

 淡と共に変身するだけで、身体には絶え間ない苦痛が襲い掛かる。
 調整をされていない肉体の再生能力では追いつかず、仮面の下では血反吐をブチ撒ける。
 もう、何もしていなくても――ただ立っているだけでもそれは、地獄と同じ。

 伸ばした手の調節が聞かない。
 淡の手を取る事も、涙を拭う事も不可能となっている。
 一部を残して、機械となった代償。
 望んでいないメリットとデメリット。押し付けられた災禍と、掴み上げた希望。

 それでも京太郎は、立ち上がる。
 誰かの涙を止める為に。財団の野望を砕き、二度と同じ人間を生み出さないために。
 そして――いつか、いつの日か争いのないところで、淡が幸福に暮らせるように。

 京太郎は痛みを噛み殺して、不敵に笑う。


「だったら――その希望の象徴が、絶望するわけないだろ? 俺たちが泣く事も、ない」

「……」

「信じろ。俺とお前なら――絶対に大丈夫だって」


 言葉を紡ぐたびに、口の中を鉄錆の味が満たす。
 幸いにして、Wとしての相性が悪い淡にそれは伝わっていない。
 痛みも苦しみも、京太郎が受け止める。一片たりとも、誰かには向かわせない。

 この身は牙であり、盾である。

 そんな一心で、己を奮い立たせる。
 くじけそうになる膝に力を入れ、震えそうになる手を殺す。
 霞む視界に目を見開き、遠ざかる音に耳を澄ます。


「……そうだね。うん……そうだ。きょーたろーは約束を破ったり、しないもんね」

「……ああ、当然だろ?」

「だったら――二人で一緒に、どこまでもイケるよね」

「ああ、きっと――大丈夫だ」


 そうして彼らは、最後の戦いに向かう。
 どこかの世界、どこかの時間のお話である。
最終更新:2014年03月02日 14:59