/プロローグ
ある時点、ある場所。
そこに、彼らはいた。
「カザリ、アンク!」
「はいはい」
「……フン」
京太郎=オーズの叫びに呼応し、投じられる二枚のメダル。
クワガタ・トラ・コンドル――ガタトラドルへと姿を変えた京太郎が、
「“未確認(おまえ)”らは――ここで、消えろッ!」
裂帛の気迫とともに、未確認生命体の体へと、必殺の襲撃を叩き込んだ。
爆発とともに――世界は、歯車を狂わせた。
それが、物語の始まり。
◇ ◆ ◇
ことの発端は、イマジンによる契約であった。
例によって、契約を以って過去を変えようと目論むイマジンの被害。
それを止めるために――あるいは起きてしまったそれを拡大させないために。
京太郎、その仲間の神代小蒔=仮面ライダー電王は戦っていた。
そう、いつも通り。
ここまでは、いつも通りであった。
契約をされたのは三十歳も目前。
まるで童顔であるから笑い話で済まされるかと、四十近辺であると揶揄される女性。
契約内容は「恋人がほしい」。
イマジンは女性をホテルに監禁し、その女性の下に次々に美形の少年(男性ではない)を連れて行っていた。
そんな、事件だ。
唯一、いつもと違うのは、契約が完了してしまった事。
須賀京太郎と神代小蒔は、間に合わなかったのだ。
むざむざと、イマジンの逃走を許してしまった。
イマジンが女性の体に作り出したワームホールへ飛び込むのを目の前に、止めることができなかった。
そのことに歯噛みしつつ須賀京太郎は、オーズに変身したその拳を強く握り締めた。
「逃がさない……お前は、逃げられないぜ」
「観念するんだな、オイ!」
すぐさまトラから換装したカマキリソードを構える京太郎。
そして、肩に剣を担いだ電王ソードフォーム。
過去に飛んだイマジンは――碌に破壊活動をするまもなく、二人のライダーによって、無残に爆散した。
「お疲れ様です、京太郎くん」
「いや、本当に……お疲れ様です、小蒔さん」
先の時間で契約者となる女性を助け起こした京太郎。
その隣で、額の汗を拭う小蒔。
ちなみに女性は「イケメンで強いんだ……」と、へたり込みながら呆然とうわ言を呟いている。
これが原因で、彼女の知人である女子アナウンサーが「年下と付き合うのってどうしたらいいと思う」と、
熱っぽくワケありに女性から相談を受けることになるのはともあれ……。
二人は、あとは時を駆ける電車――デンライナーに乗り込み、帰還する。
それだけの予定だった。
「……どうしたのさ、京太郎?」
「いや……」
その女性とは別に、どこか茫洋とした様子であたりを眺める京太郎。
いち早く気づいたカザリは(アンクは京太郎の様子を眺めながら、眉間にしわを寄せ腕を組んでいる)、問いかけた。
だが、返されたのは生返事。
カザリはやれやれと肩をすくめ、伸びをした――。
(ここは……)
と、京太郎は振り返る。
見慣れた景色――現在は遠ざかってしまった/見ることができない景色。
その場所は、彼が幼少期からすごした場所であった。
――長野県。
イマジンが跳躍したその先は、当時何がしかの事情で女性が訪れていた、少年の故郷。
未確認生命体の事件によって焼け野原となった、彼の、思い出の地であった。
今は――正確に言うのなら過去の――ここは一体、何年の何月だろうか。
そう、京太郎が振り返るそのときであった。
人々の悲鳴とともに、破壊音が聞こえてきたのは。
当然ながら―― 一も二もなく、京太郎はその音源へと駆け出していた。
そしてその場所に訪れた京太郎は驚愕した。
目の前で行われていたのはまさに、虐殺であった。
川沿いのキャンプ場。
悲鳴を上げる人々。
「ああ、あれが未確認生命体ってやつかな?」
「……フン」
水中から飛び出す“何か”が、人体を突き抜け、川原の石を染め上げる。
なるほどね、と冷めた表情でそれを眺めるカザリと、不機嫌さをあらわにするアンク。
当の京太郎は、黙っていた。
ここで未確認生命体が暴れるというのは、京太郎の世界においては必然である。
止めたならば、過去が変化し――未来は変わってしまう。
であるが故にカザリは、それを見ても介入しようとせず――そもそも彼に介入の意思があるかはさておき――。
アンクもまた、黙認した。
どうすることもできない。
いや寧ろ、どうにかしようとすれば、それはより悪い方向に働く。
異邦人である彼らに、この時間へと介入する権利などはないのだ。
それの世の正着、時間の正解であった。
だが、口を閉ざした京太郎にとっては――。
(――――)
――子供のころ遊んだ川が、血に染められている。
――親子が悲鳴を上げている。
――憎きあの、未確認生命体がいる。
――自分には人を守る力がある/未確認を殺す力がある。
そんな事情など毛ほども意に介さないほど、目の前の凄惨な光景は衝撃的であった。
結んだ唇から血が流れ、握りこぶしの手のひらに、爪がめり込み音を立てる。
(――殺す)
ギリと奥歯を握り締め、京太郎は駆け出していた。
変身する余裕もない。いや――それを考え付かないほどに、頭に血が上っていた。
瞳が紫色に染まる。
水中から飛び出したカッターが京太郎めがけて殺到し、そして、弾き飛ばされる。
体内から怒りに任せて噴出した紫色のコアメダル。
宿主へと迫る危機を、振り払っていた。
怪人――メ・ビラン・ギは予想外の出来事に、静止した。
同時に京太郎はそこで、メダルのことに思い至る。
「アンク、カザリ……」
「……あァ」
「わかったよ」
静かに震える京太郎の声に、カザリとアンクは、メダルを手渡した。
「ゴラゲザクウガ?」
「……うるせえよ。黙れ」
変身を完了させた京太郎=オーズを見て、何事かを呟く怪人。
吐き捨てるようにその言葉を両断し、京太郎は両腕の刃を構えた。
一分一秒たりとも、生かしてはおかない。
静かな闘志とともにオーズが地を蹴るのと、怪人が再び潜行するのは同時であった。
飛び出す怪人。繰り出されるカッター。両腕のトラクローで、何とか防御。
その後ろで小蒔――仮面ライダー電王が人々を非難させている。
そんな様子を尻目に、再びの突撃を、回避。
三度目、足をとられた。そのまま川へと、弾き飛ばされた。
繰り出される斬撃を、構えたクローで正面から止める。その直後、遅い来る鋭い牙。
オーズの胸部で火花が散った。
装甲が砕ける。踏鞴を踏む京太郎目掛けての、一撃。捌けず、尻餅を付いた。
「京太郎、これを使え!」
たまらず、見かねたアンクがメダルを投げ渡す。
バッタの脚力で離脱し、メダルを受け取り、体勢を立て直そうと試みる京太郎。
「ジャラゾグスバッ!」
だが、早い。
雄たけびとともに牙を剥き出しに襲い掛かる、グロンギ。
いかなオーズの力とて、逃げ切るのは困難だ。
不可避の襲撃。そしてそのまま、メ・ビラン・ギの牙により、オーズの体表が食い破られる。
飛び散る鮮血が、メ・ビラン・ギの頬を染めた。
絶好の一撃。
だというのに、それを決めたメ・ビラン・ギの表情は――。
「――バッ!?」
見開かれた目。そして、閉じることがない口。
クジャクに換装したオーズの腕が、その口腔に突き入れられていた。
敢えての一撃。
敢えて繰り出される相手の口撃目掛けて、京太郎は腕を突き出していた。
早くて捕らえきれないというのならば、止めてしまえばいい。
実にシンプルな発想だ。
そして牙とは最大の武器でありながら、同時に弱点ともなる。
たとえば犬。
彼らは逃げようとする獲物を捕らえる、あるいは負傷させることが得意だ。
彼らの牙は、そのような進化をしている。
どんな生物とて、攻撃を受けたのなら怯み、そして振り払おうとする。
それを許さぬための牙。そんな構造。
だからこそ犬は、噛み付いたその部位を、余計に押し込まれることが苦手であった。
奥に押し入られれば押し入られるほど、犬の噛み付く力というのは弱くなってしまう。
――もちろん、メ・ビラン・ギは犬をモチーフとした怪人ではない。
だが、ここで京太郎が行ったのは同じ事だ。
噛み付かれる腕を構わず、相手の口腔に突き入れる。
筋繊維が裂け、靭帯にも少なからず損傷を負う。
しかし、口腔の奥――支点へと近づかれてしまった大顎は、対象を破砕するに十分な作用を発揮できなくなる。
そして――。
「……もう、喋るな」
メ・ビラン・ギの口中で、炎が弾けた。
あとは、単純であった。
川に逃げ込んだメ・ビラン・ギ目掛けて放たれる電撃。
水中であるが故に、逃げ場がない状況。
拡散し減衰するよりもなお強く、怪人の体を攻め立てる緑色の電撃。
痛みに喘いで顔を出せば、そこには逃れることのできない暴力の化身――。
「悲鳴も、後悔も、懺悔も何もかも……お前には、言わせねぇよ」
彼らの言葉で言い表すのならば……。
オーズは、『バ』『ダ』『グ』「『ギ』『レ』の力を持つものであった。
そして、物語は冒頭へと戻った。
◇ ◆ ◇
クウガにより倒されるべき怪人が、オーズにより倒された。
生き残るべきではない人々が、生き残った。
本来起こりえなかった事態は、世界を混乱させた。
イマジンによる世界改変、さらに未来の大星淡――仮面ライダーゼロノスにより切り替わってしまった世界線は、
人々の欲望――ある種時をも変えさせるそれ――の収束である、欲望の王の力により均衡を崩された。
自然と切り替わる、時のレール。
それは別の世界線との合一を意味していた。
ここから先は起こりえない物語。
英雄でないものと、英雄たちの邂逅である。
最終更新:2014年03月02日 16:16