Interlude「神代小蒔の現在――いかにして彼女はイマジンたちと出会い、戦うようになったか。そしてその後」
ふう、と小蒔は息を吐いた。
ミュージアム、財団Xと雌雄を決する戦いから三日。
彼女の表情は暗かった。
(……私じゃ、力不足なのでしょうか)
神代小蒔が参加できなかった、その戦いに於いて。
須賀京太郎は、まさに獅子奮迅の働きを見せた。
プトティラコンボとブラカワニコンボにて、囚われた江崎仁美を助け出し――。
タジャドルコンボとガタキリバコンボにて、財団Xの黒幕・仕掛け人を打破し――。
サゴーゾコンボとシャウタコンボにて、ミュージアムの首領を打ち取り、結社を崩壊させた――。
その身に宿したメダルの力を完全に活用しての、縦横無尽の大活躍。
彼が居なければ、この作戦は成功しなかっただろう。
それほどまでに、須賀京太郎=仮面ライダーオーズの力と言うのは、強力無比であった。
初めは――と、思う。
初めの彼は本当に弱かった。
言うには憚られたが、仲間内の誰よりも力がない存在であったのだ。
勿論、自分も強いとは言えないが……それでも。
彼の事をケアしなければならないと、どことなく思っていた。
あの年頃の少年と触れ合うのは初めてであり、兄弟も居ない為に。
なんとなく、自分がお姉さんだ……と思っていたのだ。
そうはいっても、やはり小蒔だって弱い。イマジンの力が無ければ戦えない。
そんな力が無いもの同士、一緒に強くなろう――と思っていた。
彼と二人で色々と、強くなる為の特訓だって行った。
弱いからって諦める理由にはならないというのは、小蒔が真実感じている事。
だから立ち止まらずに、共に進んでいきたいと思っていたのだ。
いたのだ。
そして結果、今、須賀京太郎は強くなった。
あの状態の彼を相手にして食い下がれるのは、江口セーラか大星淡ほどだろうか。
小蒔はその輪に、入れない。
置いて行かれたのも、それが理由だろうかと思う。
直接そうとは言われはしなかったものの、やはりそうなのではないかと思えてならない。
彼は優しいから言葉を選んでいたが、きっと、小蒔は戦力外に近かった。
だからと言って、ここで立ち止まる理由にはならない。
元々麻雀を打っていたときだって、小蒔の実力は高くなかった。
その身に有する特異な技能が故に、勝ち残れる程度である。
だから、弱い事に文句は無かった。
弱いと言うのは、可能性だ。
まだ強くなる先があるという事であり、進めるというのは、どんな自分にもなれるという事だ。
故に、弱さは問題ではない。
追い越されてしまったのならば、再び追いついて、追い抜いてあげればいいだけだ。
そう、判ってはいた。
頭で理解しているのだが、それとは別に――。
(なんというか……寂しいなぁ)
年下だと思っていた少年に。
自分がしっかりしてあげなきゃと思っていた少年に。
弱さに嘆いて、強さを目指そうとしていた少年に。
置いて行かれた事が、追い越されてしまった事が――。
何と言うか、嬉しい反面、寂しかった。
彼の成長は実に喜ばしいところである。
あの努力が報われて良かったというのもあり、強くなったんだねと目を細めたくなる。
でも、そんな彼と遠ざかってしまったのは、僅かながらにもの寂しい。
また別に――それとちょっと、思った。
こう、最初の頃は自分と色々仲良くしてたのに、最近冷たすぎやしないかと。
……いや、二日前一緒にお菓子を食べたのであるが。
こう、そういうのではなく――なんというかもっと、信頼関係と言うか相談と言うかなんというか……。
そう言うのが足りない気がする。
懐いていた犬が、自分以外に向かっていくような。
そんな面白くなさが、あった。
すっかりと、敵を倒せるのは当たり前……みたいに。
怪人をやっつけては、女の子を助けている。
助けられた女の子の中では、京太郎=ヒーロー像が確立するだろう。
それは……ちょっと違うなぁと言いたい。
本当はそんなにスマートに決めきれる少年ではなかったし。
余裕綽々風に振舞っているが、実際内心では色々悩んでいたり。
鷹揚な態度こそ表しているが、内面ではきっとやはり戦いに緊張がある筈なのだ。
元々の彼を知っているから猶更、最近の彼を見るとどうにも引っかかるものがある。
「昔はあんなに可愛かったのにねぇ……」という奴だろうか。
こう、元々の彼を知っている自分がいて、今、昔の彼を知らないで彼と知り合う女の子がいる。
なんだかちょっと面白くないのである。面白くないのである。
(……って、駄目ですよね。駄目です。こういう考え方は!)
頭を振るう。
折角彼が成長したのだ。それを喜んでやらねばどうするのか。
そして、負けていてはならない。追いつかねばならないのだ。
なんて思ったって――その、やはり寂しい。
試しにちょっと頬っぺたを膨らませてみる。
うん、今の気持ちを表しているようで実にしっくりきた。
自分は、仲間内――永水――で頼りない存在とされていた。
勿論、神を下ろすという能力が故に……その力を頼りにされるのも、
或いは、本家の姫として、ある種の線引きの上に敬われているというのもある。
尤も、皆はそのラインが故に足を止める事なく、手を差し伸べて友人となってはくれているものの……。
小蒔にとって、ある関係だけは存在していなかった。
小蒔自身が変な負い目を受けずに、「何とかしてあげたいな」と思う事。
嫌な言い方になるが、自分がしっかり者とみなされる相手との関係だろうか。
まあ、つまりは……頼られたかったのだ。
自分の方が年上で、大人で、色々知っているししっかりしているんだ……と。
そんな風に、ある種の先輩風を吹かす相手が、いなかった。
仲間内でもストッパーになったり、苦言を呈したりすることはあった。
だけれども、心のどこかでは思わなくはなかったのだ。
これは、自分の立場があるから――従ってくれているのではないか、と。
それは、霞たちに対する侮辱であろう。
きっと、小蒔が小蒔の立場でないとしても彼女たちは、受け入れてくれるはずだ。
そこまで、繋がりの薄い関係ではない。
また、彼女たちの人間性がそんな妙な“しがらみ”や“おべっか”だけとは、対極と位置しているというのも知っている。
それでも――だ。
それでも心のどこかで、思ってしまう事はあった。
きっと弱くて、卑劣で、彼女たちを裏切った考えであろう。
でもやはり、そんな疑念を抱かずに入れるほど、小蒔は大人ではなかったのだ。
それから、モモタロスたちと出会った。
あの騒動の事は、今でも覚えている。
悪霊騒ぎの一件として、解決を頼まれたのだ。
そんな事を言われても、自分たちは専門家ではない。
力はある。だけれども力があるのと、正しい結末に至るのは別の問題だ。
本家で選別された問題ならともかく、直接自分たちが判断を下すのはあまりにも重い。
それほどまでに、他人の人生に、小蒔たちは責任が取れないのだ。
それでも――と、頼まれた。
相談に乗ってくれるだけでいい。多少なりとも、気が軽くなればいい、と。
それでも渋った。散々ばら、皆は渋った。
本家を離れたこんな土地で、すべき事ではないと。
未確認生命体の事件もあった。
悪霊という形にみなされているだけで、現実は彼らシリアルキラーかも知れない。
だから、相談に乗る事さえ危険かもしれない……と。
それでも、果たして、その相談事を受け入れる事となった。
それが始まり。それが、小蒔のビギンズナイト。
悪霊と思われていた存在――イマジンと。
それと戦う、電王という存在との。
出会いと、幕開けであった。
その事件の過程で、悪霊――と相談されたのはイマジン。
そのイマジンは契約を行い、暴れまわった。
小蒔たちにもその刃が届かんとしたところで、間に入ったのはモモタロスたちだった。
戦う力を持たない小蒔と、戦う力を持たないモモタロス。
本来ならマレビトである彼らは実体を持たない。
契約を果たす事で、彼らは仮初の体を与えられてこの世に顕在する。
別の世界から来て、帰れなくなったモモタロス。
こちらの世界の住人ではない。
別に、付き合う必要などないのに。こちらの事に責任はないのに。
それでも、彼らは戦おうとした。
本来の電王への変身者がおらずとも、彼らはイマジンとの戦いを選んだ。
その姿を見て――小蒔は自分がその代わりになると決意した。
彼らの手助けをすると、決めたのだ。
自分に出来る事があるならと、戦いに向かう事にした。
そうして、まずは初戦を突破した。
問題は、そこからだった。
戦いは終わった。一先ず事件は解決したのだ。
一旦、物事が収束してくると、余計な考えが浮かんでくる。
有り体に言うなら、小蒔は卑屈になっていた。
結局こうしてモモタロスたちが自分に話しかけてきたのも、頼りにしてきたのも、それは小蒔の特質ゆえ。
やはり、自分は“それ”抜きでは語られない存在なのか、と。
大事なのは“神降し”であったり、“特異点”であったり――。
そこに小蒔自身の事などは、含まれていないのではないかと、考えてしまったのだ。
それから、やはり危険ではないか――という話が持ち上がった。
霞たちの懸念も尤もであろう。
自慢ではないが、小蒔は運動が苦手だ。
泳ぐのはそれなりにできるが、走るのは不得意。ましてや戦いなど猶更。
でも、求められるのならば、応えようとは思っていた。
時間が壊される事は少なからず小蒔たちにも影響を与えるであろうし、あの、未確認生命体の事件が起きた直後だった。
同様の存在が起こす騒乱に対する、義憤に燃えていた。
そこだけ見れば、小蒔が断る余地はなかったのである。小蒔自身の心情的にも、状況的にも。
それでも霞たちは異を唱えた。
更に言うなら、小蒔に頼った本人――モモタロスたちもそうであった。
誰もが、小蒔の身の安全を考えてくれた。
イマジンが起こす事態はそれこそ、未確認生命体と比肩するほどであり、
卑屈な考え方からするなら、小蒔が傷付いて“役目”を全うできなくなるそれよりも、リスクが高い。
それでも皆は、小蒔を第一に考えた。
“やる力があるからやらなければならない”。
そんな義務など、要らないと言った。
義務感にに囚われて本質を見失う事こそが危険であり、なによりも小蒔が大事なのだと。
そんな彼らの思いやりに、小蒔は己の内に存在していた卑屈さを、ただの思い込みだと知った。
また、思い至った。
何かの力があって、それを頼りにされる事は寂しい事ではないと。
その力が切っ掛けとなって、新たな縁と巡り合う事もある。
その力を言い訳に、勝手に壁を作る事こそが、勿体ないのだと。
それから――小蒔は戦った。現在を改変しようとするイマジンと。
その過程で、皆ともっと打ち解けられた気がする。
余計な負い目など、ほとんど感じなくなっていた。
それでも、小蒔には……ある関係だけが、なかった。
その関係を齎したのは――ある少年だ。
たまたま選ばれてしまった、居合わせてしまった、オーズの装着者。
須賀、京太郎である。
そんな京太郎は、小蒔にとって初めての相手であった。
初めてであった。
人を見て――その人となりを知って。
もういいのだと、言って上げたくなる人物は。
その先の幸福を、願い続けてならない人物は。
小蒔の知る人たちは皆、前を向いている人間だった。
自然と、善き方向へと向かう。善き方向を目指す。
小蒔がいる・いないでの不都合があったとしても、誰もが“幸せ”というものを理解している。
だけれども――彼は違った。
彼はたった15歳の、小蒔より年下の少年だ。
だけれども、どこまでも彼は疲れ切っていた。
時々覗く、年相応には見えない、草臥れた表情。
確かに小蒔の知る石戸霞もある意味、年相応ではないだろう。どこがとは言わないが。
でも――それとも違う。
どれだけの、どれほどの人生を送ったというのだろう。
少年とは思えぬほどの、諦めた顔。乾いた口に、過去の重さを思わせる背中。
笑いながら張り詰めて、身構えながら疲れていた。
とても、年下とは思えないほど――無邪気さとはかけ離れた、佇まい。
これは、駄目だと思った。
それから、助けてあげたいと思った。
彼の力になってあげたい。
15歳の少年が持つものではないほどの、翳りを見せる雰囲気。
せめて年相応に笑えるようになって欲しい。
涙を堪えたり、笑いを捨て去ったり、喜びを押し殺したりしてはならない。
そんなのは、間違っている。
小蒔は彼の、力になってあげたかった。
だから自分が年上として、彼を支えてあげなければと思った。
頼りにしてくれと思った。される人間になろうと、思った。
そんな風に、憔悴し切って幸福や安寧から遠ざかろうとするものを見るのは、初めてだった。
ましてやそれが年下の少年であるなんて……。
故に、小蒔は京太郎のお姉さんになってあげようと考えた。
そんな関係と言うのは真実、初めてであろう。
そう、だから今彼が楽しそうにしているのは喜ばしいのだ。
喜ばしいのである。
喜ばしいのだけど……。
(なんというか……寂しいです)
分かっちゃいるのだけれど。
確かにそれは自分の望み通りなんだけど。
非常に喜ばしい事で、祝福すべき事なんだけれど。
お姉さんは寂しいのです。
前みたいに、無理して誰かに頼ろうとしないのではない。
きっと本当に、自分でどうにかする余裕があるから、頼らないのだ。
余裕が出たなら、彼はもっと笑えるようになるだろう。
それこそ小蒔が望んだ通り、年相応の人生を送る事ができるようになるはずだ。
……。
……でも。でもですよ。
それとこれとは、またちょっと話が別なんじゃないだろうか。
そう、頭で分かっていても心はまた別だ。
嬉しいんだけど、やはり寂しいのである。非常に寂しいのである。
(今頃……どうしているんでしょうか)
ちょっと空を見上げて、溜息を漏らす。
祝福すべき事で、喜ぶべき事だ。
それは理解している。
嬉しい反面つまらないとか、そういうのが、彼にとって申し訳ない事を。
でも……。
それでもなんというか……お姉さんは寂しいです。寂しいのです。
――了
最終更新:2014年03月02日 16:29