アットウィキロゴ


           「第一章:Jという二つ名/最後の切り札」












 ――スマートブレイン学園都市。


 都内に存在するその学園は、中学から大学。

 最近は付属の小学校や幼稚園をも設立させ、まさに一大教育都市を建設させている。

 そんな学園の存在する街の、とあるビルの一角。


 そこに彼は――彼らは居た。



 年代じみたタイプライターを前に、黒い学生服を思わせるスーツの青年。

 英字新聞を広げて、顔に被せるようにしつつデスクに足を投げ出し、目を閉じる。

 そのほど近くのデスクに腰掛ける女性は、パソコンを前に眉を寄せる。


 最新式のタブレット、スマートフォンを卓上に並べて時折クリック音を交えながらタイピングを行うその指は細く白く、

 桜色の爪からは彼女の瀟洒さや或いは垢抜けた様を察するには容易い。

 憂鬱そうに髪を掻き上げてコーヒーを啜る様子は、それだけで一枚の絵になるような美しさを伴っている。



 一つの部屋に同居する現代と過去。


 青年の鎮座する一角は古風――悪く言えば時代遅れや時代外れと言った風貌であり、ともすれば胡散臭さを感じるほど。

 一方の女性が形成する一角は正しく現代風であり、弁護士事務所や或いは会計監査・司法書士の事務所を思わせる。

 それらの対立が、ますますこの探偵事務所を胡乱としてそこはかとない信用の無さを作り出す。



 というより、正確に全体を描写してみよう。


 まず、部屋自体はそう新しいものではなく、壁紙も燻んでおりレトロ風。

 証明もそう明るいものではなく、今は窓から入る陽光の方が強い。

 しかし、置いてある機材はどれも新しい。黒革の来客用ソファーも、テーブルも、作業用のデスクも。

 古いのは青年の周囲だけ。

 そこは置いて行かれた物悲しさや、或いは青年の静かなる頑固さを主張している風。


 何ともちぐはぐな内観であった。



 しかしこの探偵事務所には――ある秘密がある。


 学園都市を、いや日本全土――全世界を揺るがしたとある事件から十年。

 関係者以外の記憶からは薄れ、その事件を知らぬ少年少女が成長するには程よい頃合い。

 静かに噂される希望。絶望に抗うものが、最後に身に纏う事が出来る最強の武器。


 人の手に負えず、人の身に耐えきれず、人の心を食い荒らす怪物と戦う仮面の戦士。


 人に曰く――最後の希望。

 そう、“最後の希望”……だ。













                                            ,.ー-‐.、
                                          ヽ、   ヽ  __
                                          /,..-ニ‐- '"_,..)          ,. ァ                i
                                          ' ´/  , _ 、´          ,.r ´ ,.'   __       ,. r'´.:.:.,'
      .:_______.: . . . . . . . . . . . . . : '          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\       /.:.:.:/,.r ''´.:.:.:.:.:.:.: ̄` ー .''´.:.:.:.:.:.:/
    .:/ / r─‐'‐ァ r─‐'ニニニニ7:.,ィ─ァ‐===‐‐二/   , ',. -一' ./..'/     .}     /.:.:.:.:.:.:´.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
   .:/ /'  = フ'¨,r ュ,rフ/二二フ/  7´' ∠/ ∠¨_ / ,. '′  ,..,.  ,/    ./    ,..'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:_ ,._-==== ァ
   7 / /ク r'/ / 三/ /´//ー‐/ /-'´//─‐,≠/ /    {  \ヽ      i'     ./.:.:,.イ.:.:.:.:.:.:.:.:.:,. - ''´ ( ̄.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
  /─'ー‐‐^ー―――^ー―´   '==='  'ー‐´       ー'´        `´\ ヽヽ   !     ,'./ .,'.:.:.:.:.:,r.'´       ',.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,'    ,.イ
 /K A M E N  R I D E R _   _ .           ,.'⌒   `,. l   !  ー"ヽ ^  ,'.:.:.:/         l.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ__/ ,'
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l l  //.          ! ゝ-‐'´ /l  .!  `ー-、   }l/           |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,'
                         | |//         __. \  /  }  .}    ヽ/              |.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
                               l  、 ヽ   、-、 ,.-, ,' r‐、ヽ `ヽヽ  j  ノ                    ,'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,.'
              ._______| |ヽ ヽ_ヽ.∨ /__.ゝ ー’ノ___゙、`'   / ___     ,r '⌒ヽ       ,'.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄〉 ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./  ̄ ̄ ̄   ./.:.:.:.:.:.:.:.:|      /.:.:.:.:.:.:.:.:.:/   ,..,
                                  / ./.               ヽノ        ,'.:.:.:.:.:.:.:.:.:,'        /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`ー ''´/
                                     ̄                       |.:.:.:.:.:.:.:.:/      /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
                                                     l.:.:.:ヽー '      ,..'.:.:.:.:.:.:..::.:.:.:.:.:.:.:.:/
                                                     ',.:.:.:.:\     /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/
                                                  .   ヽ.:.:.:.:.: ̄ ̄.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:,  ´
                                                       \.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:, - ''´
                                                        ` ―  ´

 








「京太郎!」

「おう、どーした?」


 緩やかに身を起こし、青年は新聞を畳む。

 それから、淹れてあった珈琲を啜り、首を鳴らす。

 彼こそが――この探偵事務所の所長である。


 百八十を超える長身に、すらりと伸びた手足。

 くすんだ金髪と赤褐色の瞳からは、その人の好さや温和さが見て取れる。

 しなやかな肢体からは、見る人間が見れば、控えめな主張ながらも彼が荒事慣れしていることを感じさせる。

 誠実さというには若干の調子の良さが滲んで出るあたり、友人としたら楽しいだろうが、頼りがいのある男と言われたら小首を傾げる風情。


 実際のところ彼は、依頼者からも初めは軽んじられて見られがちだ。


「警察から依頼よ。……例の、行方不明者関係」

「警察か……まだまだ、笛吹さんも大変ってことだよな」


 彼に依頼を告げるのは、桃色がかった茶髪の女性――新子憧。

 勝気さが滲む猫の如き瞳からは、信念と気前の良さと知性が覗く。

 計算の高さや或いは処世術の巧みさといったものも窺えるあたり、彼女を見たなら誰もが「出来るいい女」と考えるであろう。


 腰ほどまで伸ばした長髪は左右に止められている、ツーサイドアップ。

 ここだけは、十年以上変わらない彼女のトレードマーク。触角みたいだと呟いた須賀京太郎は、鉄拳制裁を受けていた。

 赤い縁の眼鏡をずらして身体を伸ばす動作は何とも様になっており、それだけでやはりどこかのドラマのワンシーンのよう。


「セーラには感謝しなきゃね。おかげで、こんな零細探偵事務所がやってけるんだから」

「……その零細探偵に借金してるスタッフがそれを言いますか」

「あたしは出してなんて言ってないもーん。あんたが貢いでくれてるだけ」

「いや、そうだけどさ……」

「細かいこと気にする男はモテないわよ? お金関係とか、特に」

「……いい性格してるな、本当」



 やれやれと、溜め息を漏らす京太郎。

 とある事情から新子憧が背負った膨大な借金を、彼は肩代わりしていた。

 こうして話題に出すのはあくまでも彼らなりの諧謔であり、ちょっとした小突き合い。


 須賀京太郎は本気で新子憧に借金について恩を着せるつもりなどはなかった――それに見合うだけの対価を、彼女からは借りていた。

 もっとも新子憧もそれに甘えるつもりなどはなく、あくまでも仕事の成果で彼に返済する気概である。



 朝には遠く、昼とも呼べないそんな時間。

 言うなれば午前だろうが――デスクの上で足を組んでいた京太郎は、立ち上がりコーヒーを飲み干した。

 行儀が悪いから止めろと言われているが、退屈な日は顔を帽子で塞ぐか新聞を被るかして、こうやって過ごしていた。


 いつも変わらぬ、学生服染みた黒のスーツ姿。

 それが青年――私立探偵、須賀京太郎のスタイルだ。



「今から行くの?」

「ああ、悪い予感が本物になる前にな」

「何格好をつけてんのよ。似合わないって言ってるじゃない、そーゆーのはさ」

「……はい。行ってきます、はい」

「あ、ご飯はどうするの?」

「外で食うからいいって。なんか適当に」

「夜には帰って来なさいよ? ……大事な約束、忘れちゃいないわよね?」

「……流石に未来の伴侶との約束忘れるほど、老けちゃいないさ」


 笑いを零し、帽子を突っ掛ける。

 ロートルばりの、典型的な探偵ファッション。

 むしろあからさますぎて、ドラマや映画の撮影に間違われかねないほどの、あまりに型に填まったスタイルである。


 その所為か、柔和な風貌と相俟って二枚目半の雰囲気を纏っていた。



「……はぁ。格好つけ」






<BGM: 「俺たち二人で一人」 https://www.youtube.com/watch?v=e-EouE0vmeg>





「あれ、須賀君……仕事?」

「ああはい、これからちょっと」

「そ、頑張って」


 須賀京太郎の借り受ける探偵事務所の真下はボウリング場。

 鷺森ボウル――その店長、鷺森灼は箒片手に階段を降る京太郎へと笑いかけた。

 彼も彼女も、十年前の事件の関係者。


 灼は変わらずの外見。妙齢の女性と言うには幼すぎて、ひょっとすれば未だに学生と言っても通じそうな体躯。

 違いと言えば、かつてはおかっぱであったその黒髪を肩に掛かるまで伸ばしているところか。

 掃除をするときも嵌めているボウリンググローブに、知らず京太郎は顔を綻ばせた。


 何度か慰安として、探偵事務所のメンバーとボウリングに向かう。

 まあ、メンバーと言っても先ほどの新子憧しかおらず、大概は憧に負けてしまってそれで終わり。

 鷺森灼と、この街に来る以前からの馴染みである憧は、どうやら密かにボウリングのコツを教えて貰っているらしかった。

 ちょっとズルくないかと思うが、そういうちゃっかりとした要領の良さが彼女の魅力であるので、黙る。



「そう言えば」

「はい」

「なんだか最近、色々とよくない噂を聞くんだけど……それ絡み?」

「それは後で聞かせて貰いますとして……。えーっと、その……守秘義務で」

「それ、答えているのと同じだと思……」



 困ったなと笑う京太郎に、灼が溜め息で返す。

 それじゃあと手を上げて、京太郎は灼の横を颯爽と通り抜けた――が、水を巻かれていた下の段に滑り、転びそうになった。

 困ったような笑みに、灼は再びやれやれと返すのだった。


 ボウリング場。

 これも中々古めかしい遊びと言えば遊びであるが、体を適度に動かすのに行える手軽さと言ったらない。

 故に未だに学生やサラリーマンの客は絶えず、灼の耳にも街の噂話を届けるのだった。


 だから今は、情報源として須賀京太郎の手伝いを行う形となっていた。



(行方不明者は……スマートブレイン学園の生徒、中等部の一年生か。名前は……青山士栗。家族構成は姉との二人暮らし)


 プリンターから印刷された依頼用紙を眺める。


 個人情報保護の観点からそれは秘匿されてしかるべきものだが――ともすれば大事に発展する可能性もあるこの事件、多少の法の逸脱には目を瞑って貰おう。

 簡単な履歴書程度のそれは、警察に提出された捜索願以上の意味はない。

 写真を眺める――桃色の長髪、腰まで。瞳は青みがかったグリーン。中学生一年生とは思えないナイスバディ。

 昔ならどうか判らないが、流石にいい年齢。

 少女にその手の目線を向けると言うのは論外と言うのもあるし、何よりも愛する人一筋なので特段思うところはない。


 ただ――それとなく人気があるだろうなとか。優しそうだなとか。あまり派手な遊びはしないなとか。自分から事件に巻き込まれる立場にはありそうにないなとか。


 その手の、冷静な分析を行うだけ。

 物事に対して先入観を以って捜査――調査に当たるのは、この手の職業については鬼門。

 故に見たままの印象は見たままの印象として脳に留めて、本格的に考慮に入れるのはその他の情報。


 しかし、自分がどう見たか――即ち「他人がこの少女をどう見るか」と言うのは、何を探すにあたっても有用となり得る情報である。



 基本的に人間は、まずは見た目で判断する。

 そしてその判断を基に評価を下すのだ。この女は大人しそうだとか――或いは派手そうだとか、そういった具合に。

 そんな評価にそぐわない行動が行われていた場合、人は脳に強くその違和感を焼き付ける。派手な印象として現れる。


 たとえばヤクザ者がファンシーグッズの前に居たのなら、誰かしらは友人との会話でその事を話題に上げるだろうし。

 或いは、年配のサラリーマンが昼間から公園に佇んでいれば、何かしらの不幸を連想する。

 もしくは、落ち着いた進学校生がスタンガンを購入していれば、何事かと不審に思うだろう。


 思った以上に人は人を気にしないし、人は人を気にしている。

 だからこの手の第一印象というのは――調査するに当たっては、手がかりの一因を担う事も多い。

 外見は京太郎の判断道具にはならないが、しかし調査道具とはなるのだ。




(やるとしたら――まず、セーラさんから詳しい話を聞いて、次には担任教師に。それから、家族のところか)


 用紙を畳み、手帳にしまう。

 これまで起きた事件が簡易に記された手帳。京太郎の戦いの日々。

 探偵は足で稼ぐのが基本だ。捜査百篇。警察もそう、代わらない。

 取り出したるスマートフォンで、早速アポイントメントを取得する。


 十年前の知人/十年来の友人。


 共に苦難を乗り越えた仲間――その絆は、安くはない。

 もっとも流石にお互い、顔パスで出来るほど容易い立場ではなくなってしまっているが。






 待ち合わせの喫茶店に訪れた。

 待ち人は――まだいない。


「お、須賀さん」

「どうも、マスター。ちょっと待たせて貰ってるけど、大丈夫ですか?」

「俺の方は構わないよ。折角のお客さんだしね」


 広川大地――その青年は、京太郎に笑いかける。

 かつてはサッカーを行っていて、インターハイでもいいところに言ってプロ入りしたが、脚の怪我にて引退。

 それから、こうして趣味の喫茶店を始めたのだ。この街に戻って。


 京太郎とは顔なじみ。

 喫茶店というだけあり、やはり情報や噂話を耳にする事も多いため、京太郎もしばしば情報収集に利用する。

 大地は京太郎の情報提供者――というだけではない。


 かつて、凶暴化した同級生――森永幸平と言う名の――に襲われているときに、京太郎が助けた。

 それ以来、十年。

 そのときは御互いの名前も知らなかったが、つい先日顔を合わせて、それから交友が始まった。



「いらっしゃい、京太郎さん」

「あ、ありがとう。いつもので」

「マスター、いつものだってー」


 ライダースペシャルと名付けられたそれ。

 それはこの店で働く二人――そして京太郎にとっても、馴染み深いものだ。

 このウェイトレスの少女、仁科武美と京太郎に直接の面識はなく、お互いの関係は単純に客とウェイトレスでしかない。


 しかし武美はかつて、救われた。

 京太郎ではなく、京太郎が灯した炎に導かれて己の命を燃やした、一人の男によって。

 その男は、風になった――この街に吹く風に。


 かつては同郷であり、敵味方となり、最期には戦友だった一人の男。

 内木一太――――仮面の下に躰の/心の火傷を隠した、一人の戦士だ。

 直接その最期は見ていない。だけれども、きっと彼ならば最後まで前のめりだったとは、想像がついた。



「マスター、何か変な話とか入ってないですか?」

「うーん。……やけに家出人が増えてるとか、知り合いがいなくなったとは聞くけど」

「……。話題に上がった人物の名前とか、判ります?」

「ちょっと待ってくれるか? 一応、メモはしてるから」


 金属製の鈍色を放つポットが火にかけられる。

 取り出したるコーヒー豆を引きながら大地が戸棚を開けるのを、京太郎はカウンター越しに眺める。

 深入りのマンデリンとモカのブレンド――香りと苦み、そしてコクと僅かな甘味を感じさせるブレンド。

 矛盾や或いはどことない物悲しさ、そしてガツンと襲い来るコーヒー豆の風味。それが頼んだ、ライダーブレンドだった。


 さてどうなることかと、店内を見回す。

 流石に平日の昼に至らないこの時間に学生が要るはずもなく、看板娘である武美が常連らしきサラリーマンと談笑しているのみ。

 彼女が身に着けた、「N」を思わせる古代文字を表す髪止めを眺めながら、京太郎は店内を満たす珈琲の香りを鼻腔に満たした。


 この街に来て、暮らしてから長い。

 ここに住む人々とはそれなりに顔を合わせてきてはいるし、自分自身第二の故郷と呼んで差し支えないほど愛着が湧いた。

 十年経てば、街としても落ち着きが生まれる。

 だからこそ、街に潜む悪の気配に――その兆候に、京太郎は眉間に皺を寄せざるを得ない。


 十年。


 この街は、未だ年若い。

 故に街としても成熟に至らないための不便もある。同時に、熱意や活気に満ち溢れている。

 暮らす人々もまた同様で、昔日の想いは押し流されて、前へ前へと進んでいく。



 在りし日、こう言われた。


 ――この街は欲望に満ちている、と。


 欲望故に衝突し、衝突は摩擦や軋轢を生む。そして摩擦や軋轢は再び欲望へと還元される。

 欲望――即ちは願望や希望。

 そして、希望があればそこに絶望が生まれるのもまた必然であった。


「お待たせ。読み上げた方がいいか?」

「いや、ちょっと見させて貰えばそれで十分です」


 メモに目をやる。


 そこには話題に上がった名前と、そして話題に上げていた人物たちの簡単な特徴が記されている。

 ざっと眺めて、記憶。いずれ自分のところに、何らかの形としてそれが訪れる可能性もあり得る。

 しかしながら、目当ての人物は見当たらない。

 という事は――少なくとも、ここに記された客層が当たるような場所には向かっていないとも言えた。


 もっとも、この街の全ての人間がこの店に顔を出すわけではない。決めつけるのは、早計だが。


最終更新:2014年05月06日 01:19