恋堂が軍服の男達に命令すると、教師の死体はあっという間に片付いた。
床や壁に飛び散った血痕は綺麗に拭き取られ跡形も無くなったが、生徒たちに直接付いた血液や
肉片までもを綺麗にする事はできないようで。
恋堂が促すと、未だ放心状態の生徒たちはすんなりと、元いた席について黙り込んだ。
中にはすすり泣きしている者も居たが、恋堂は特に静止させるような真似もしない。
ただ、説明の続きを話し始めた。
「・・・・・・プログラムにおいてタブーを犯すというのが、どれほど愚かしい結末を招くのか、皆さんは
よく理解してくださったと思いますがね。・・・さて、お待たせいたしました。これからがこの
プログラムについての本質的な説明となります。辛いお気持ちは分かりますが、どうかしっかり、
頭に入れておいてくださいね」
何の反応も示さない生徒たちを見て、恋堂はやれやれと首をかしげた。
だがしかし、彼女の瞳は未だ楽しそうに輝いている。
「ここ最近、この国では未成年者・・・謂わば学生による少年犯罪が急激に増加しています。みなさんもよく、
ニュースや新聞で目にするでしょう。特にそう、殺人とかね・・・・・・昔には無かったはずの物が、この20年あまりで
溢れてきているのです。大変嘆かわしいことですが。こう言ったことが起こってしまうのは、学生たちの《命》に
対する概念が大きく変化してしまったことに、事の原因があるのでしょう。
最近はインターネットも普及して、見ようと思えば誰だって、残虐な映像や写真を手に入れることができます。
そこで、気持ちが悪いと思う学生もいれば、人の死というものに僅かな好奇心を抱く者もいる。
ここまでは仕方ないんです、人間は何に興味を持とうが個人の自由ですからね。だがしかし、実際にそれを
体験してみたいと強く思うがあまり、愚かなことに人殺しを実行してしまう若者がいます。そういう人が増えれば、
当然犯罪数も増えて、少年院送りの学生も急増します」
彼女の言葉を、途中で遮ろうとする者はいない。話をちゃんと聞いているのかも怪しいが、皆が皆、恋堂の方に
視線を集中させている。恋堂は満足したように頷き、続けた。
「そうなれば、当然政府は焦ります。国民から非難を浴びることになりますから。この由々しき事態から、どうしても
脱却しなければならない。そこで考えつかれたのがこのプログラム。・・・通称《BR法》なんです」
「びーあーる・・・ほう?」
恋堂の言葉を復唱したのは、3年1組の星川杏太。恋堂は笑った。
「そうです。学生たちにもしっかり、命の大切さや、それを殺めることの痛みを知ってもらえるであろうと。まぁ・・・・・・」
「殺し合い、ですよね」
室内に流れていた時間が、今この瞬間に停止した。
先程まで人形のようだった生徒たちの目が、一瞬にして生気を取り戻したのだ。
反応したのは、明らかにその話題。
日常を生きていく上ではおよそ有り得ない、「殺し合い」の言葉だ。
「あれ、皆さん、えらく静かになりましたね、続けますよ?」
「ち、ちょっと待てよ!!」
「はい、何でしょう、えぇと・・・2年1組の、如月、千絵さん?」
「ハイなんでしょうじゃねぇよ!!なんだって私たちが殺し合いなんかしなくちゃならないんだ!?
私たちには殺し合う理由も、殺される理由も無いのに!」
如月は音を立てて椅子から立ち上がり、大声を張り上げた。
もう少しで恋堂に掴みかからんとする勢いだが、ここで軍服の男に銃口を突きつけられる。
「落ち着いてくださいよ如月さん。今からその話はしようと思っていたんです。どうか最後まで
聞いてください。ほら貴方も、そんな物騒なモノ、女の子に向けちゃダメです。折角の
可愛い顔に傷が付いてしまいます」
恋堂に叱咤され、軍服は銃を下ろして一礼した。それでも、如月の怒りは収まっていないようだ。
「ごめんなさいね、最近の兵隊は気性が荒くて仕方がない。・・・で、続きなんですが。
このBR法・・・プログラムの対象となる学校、それにクラスは、完全に公正なるくじ引きで行われます。
何もこれ、皆さんが始めてっていうわけじゃないんですよ。今までにも何百という学生たちが、
理不尽に殺されましたからね。私だって昔は・・・おっと失礼、関係のない話でした。
・・・本来ならばひとクラス、およそ40人前後で行われるのが普通のこのプログラムなんですが、今回
なんと、対象校に選ばれた冴山第3高等学校は現在秋休みということが分かったんです。
さすがに秋休みの途中にひとクラス揃えるのも難しいですし、くじ引きをやり直すのも公平ではありません。
だから偶然、あの日間近に備えた文化祭の準備のために学校に集まっていた皆さんが、プレイヤーとして集められた。
こういう経路です。こちらの勝手な都合で申し訳ありませんが、そういう法律、ですから」
これまで暫く黙って聞いていた六條椿が、突然机を叩いて立ち上がった。
「じゃぁ、前田先生は?どうして、あんな目に!?」
「あぁ、彼女ですか。・・・実はね六條さん、それに東雲さんも。今回実際、プログラムの対象クラスとして
選ばれていたのは貴方がたのクラス・・・2年4組だったんですよ」
「・・・・・・え?」
「本来対象クラスに選ばれたクラスの担任教師というのは、私の立場・・・いわゆる『担当教官』にならなければ
いけないのですが、なんせ今回は例外中の例外、学年もクラスも皆さんバラバラなわけですから・・・
彼女に『あの役』をして頂かなければならなくなってしまいましてね。そうでなければ、あの首輪の見せしめとして
死んでいたのは皆さん21名のうちのどなたかだった。今回はプレイヤーの数が少なすぎて、そういう無駄死にをさせられる
余裕が無かったというのが本当の理由です」
「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・」
六條は力なく、椅子に座った。実際にはよろけてバランスを崩し、椅子に尻餅をついただけだったのだが。
東雲も机に頬杖をついて、ただただ俯いている。
「まぁ、こんなことしてる暇があるっていうんなら、もっと刑罰を重くするとか警察のパトロールを増やすとか、
もっともっと対策もできたはずなんですが・・・要するに、大人も暇なんでしょうねぇ。
さて、次にこのゲーム・・・申し訳ない、プログラムの説明をします。いいですね。
えーまず、今が9月20日。プログラムの開催期間は、21日午前0時から23日午前0時までのまる二日間です。
2日間で、皆さんにはたった一人の生き残りをかけた殺し合いをしてもらいます。出発する際、
一人ひとつずつこちらで用意した武器を支給いたしますので、それを使って頑張って戦ってください。
次に、禁止エリアの説明です。今から配る地図を見てください」
軍服が、素早く全員に地図を行き渡らせる。それを確認すると、恋堂は始めた。
「ご覧の通り、この人首島はいくつかのエリアに細かく分けられています。ずっとこの広い範囲を自由に
動き回れるんじゃぁ、時間切れになってしまいますから、こちらが流す1日6時間おき、4回の放送で
『禁止エリア』を発表します。この禁止エリアに指定されたエリアからは、指定の時間以内に立ち去らないと
ペナルティを与えられます。そうですね・・・まず私が、次の、朝6時の放送で『8時からF4エリアが禁止エリアです』
と放送したとしましょう。ならば、放送通り、F4エリアは立入禁止となってしまいます」
生徒たちは、恋堂に反することを諦めたかのように地図に説明を書き込んでいた。
中には数人、不服そうな表情を浮かべる者もいる。それでも恋堂は咎めたりするような事は無い。
「禁止エリアは一度の放送で複数発表しますので、忘れないようにメモしてあったほうがいいでしょうね。
因みに皆さんが出発されたあと30分後に、この人首小中分校のあるD6エリアも禁止エリアに指定されてしまいます。
出発が一番最後の方は大変ですが、何とか30分以内にこのエリアから出てくださいね。・・・はい。
また、島から何らかの方法で脱出を試みた生徒がいた場合、その方にもペナルティが課せられることになります」
「あの・・・ペナルティって」
「首輪が爆発します。さっきみたいに。ああなるのが嫌なら、正々堂々と戦いましょうね」
「恋堂さん」
軍服の一人が口を開いた。若い男の声である。彼は恋堂に向かってこう言った。
「時間が」
恋堂が、腕時計を確認する。時計の針は、午後11時56分を指していた。
「ありゃりゃ、これはすいません。・・・じゃぁ、不安も多いでしょうが、そろそろ出発していただきましょうかね」
「え・・・・・・」
「私物の持ち込みは自由ですが、武器になるようなものはあらかじめ私が抜いてありますからね。さぁ、実は出発順も
こちらで事前にくじ引きを行っております。えっと最初は・・・1年2組36番、氷山梨乃さん!!」
「は、はいっっっ!!」
上ずった声で名前を呼ばれた氷山は答えた。顔には明らかな緊張の色。恋堂が声をかける。
「大丈夫です。一番最初なら、誰にも待ち伏せされる事はありませんからね。怖がることはありません」
「あぁ・・・はぃ・・・」
氷山が力なく応えて立ち上がる。まだ足取りもおぼつかない彼女に、軍服の一人が黒いリュックサックを手渡した。
「出発は午前12時丁度です。あと2分、待っててください」
プログラム開始まで、もう時間がない。しかし、今から怒鳴って反対しようとする生徒は一人もいなかった。
やがて長針が12をきっかり指した頃、廊下の向こうからベルの音が聞こえ、恋堂に促された氷山は、教室を
一度だけ振り返って出て行った。
9月21日 午前12時00分 プログラム スタート
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ファンファーレと試し撃ち |