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鮫島瑞紀はぼんやりと、並ぶ軍服たちを見ていた。
大人たちが考え出したこのゲーム。参加者は子供、操作するのは大人・・・


恋堂さんは言っていた。きっと皆、暇なんだろうって。
確かに、その通りだと思う。私たちの父と母は、私がまだ小さくて、和紀くんが生まれたすぐ後に
離婚した。その後、姉弟は父親に引き取られ、その父親も若い女性をあたらしい妻とした。
昔はよく遊びに連れて行ってくれたものだけど、私が中学に進学した頃からだろうか、両親の関係にヒビが入って、
父親はあまり家へ帰ってこなくなった。


母親も別男の人とよく何処かへ出かけて行って、次の日の夕方くらいに帰ってくるような生活。
たまに顔を合わせても口も聞いてくれなくて、そのせいで、和紀くんもだんだん笑ってくれなくなった。
子供が悪いんだって大人は言うんだろうけど、大人だって、似たようなものじゃないんだろうか?


「2年5組25番、波江香月さん」
意識が元に戻ると同時に、まだ生徒たちの名を呼び続ける恋堂さんの声が聞こえた。
それとほぼ同時に、ほぼ向かいの席に座った男子生徒が立ち上がった。


あぁ、そう言えばこの次って、私の番なんだっけ?
私はここで改めて思い出す。最初の氷山さんが出発した直後、これからの順番はすでに発表されていた。
私の手前が波江くんで、その次が私、その次は和紀くん。
弟が自分の次であるということに安心感を持った反面、これから先のことについて少し、悩んでいるのも確かだった。


生き残れるのは、たった一人。でも、私たちは全部で21人いる。
死ぬのが20人で、生きて島から出られるのは一人。


私だってこんな場所で、誰にも看取られずに死んでいくのはごめんだ、でもそれ以上に、最愛の弟までもを
この島で見殺しにするのも私には耐え切れない。もしも、最後に生き残ったのが私たち姉弟の2人だとする。
勝負が決まるまで、あと1人。そうなったとき、私は弟の為にこの命を捧げられるだろうか?
和紀くんを生き残らせるために、自分で死ねるのだろうか?


私も死にたくない。でも、それ以上に和紀くんだって死なせたくない。
先程はたったひとり、プログラムに対して意欲的な姿勢を見せていたけれど、あの子は元々そういう子だ。
同い年の子達が、私たちの同年代ですら知らないことをたくさん知っている。どこかズレている子。


それでも、私は今まであの子を愛してきた。あの子も、私には色んなことを話してくれた。
自分の最近好きなニュースとか、勉強のこととか。私には到底理解できないようなことでさえあの子は・・・


「3年4組17番、鮫島瑞紀さん」
自分の名前が呼ばれたことに気がついて、私はハッと顔を上げた。教卓の方で、恋堂さんが手招きしている。
私は吸い寄せられるように、席を立った。途中で和紀くんと目が合って、目で合図を交わす。


待ってるから。


「2日間、頑張ってくださいね」
恋堂さんの言葉に頷いて、私はリュックサックを受け取った。何も言われないが、小声で「ありがとう」と呟く。
今、部屋の中に残った生徒は6人。彼らの視線が私に突き刺さっているのが感じ取れた。
この部屋を出た時から、私たちが明日を生きるという当たり前のことが、当たり前でなくなるかもしれないのだ。
その不安に胸を押しつぶされそうになったが、恋堂さんは催促するように私の方へ視線を向けてくる。
「・・・・・・行ってきます」


誰にともなく呟いて、私は重たい教室の扉を開けた。
外から漏れてくる冷たい風が、私の髪の毛を撫でていく。窓はどこもかしこも鉄板を打ち付けられていて、
とても外の景色を確認できるような余裕は無かった。
そう長くない廊下を抜けると、やがて校舎も終わりを告げる。ここから見えるのは狭い校庭と林だけ。
入口付近に立った軍服の男が無言の敬礼をすると、私も深呼吸して一歩、夜の闇に足を踏み出した。

その時

「先輩、周りの警戒が薄いっスよ!!!」

突如響いた、少年の声に私は驚いた。
左右を急いで確認するが、どこにも人影なんて見当たらない。もちろん前方には深い林が広がるばかりだから、
ここからの声だということも有り得ない。だとしたら・・・

 

最初に見えたのは、銃口だった。
赤髪で黒縁メガネの少年が校舎の屋根から私を見下ろして、的確にこちらに銃口を向けていた。


「な、波江くん・・・?あなた、さっき出発したばかりじゃぁ」
「だから、先輩が来るまでこうして此処で待ってたんじゃないスか。俺の武器当たりっぽかったんで、試してみようと
思って・・・まぁ、当たるかどうかは分かんないけど・・・」
「試し撃ち、ってことねぇ」

私は平静を装ったつもりだが、恐らく焦っているのはバレバレだと思う。

波江くんはそれを言ってこないけれど。

地の利も、それから所有物も、明らかに相手の方が優位に立っている。私はどうする事もできず、その場に呆然と
立ち尽くすだけだった。軍服は、こちらなんてひとつも見ちゃくれない。もう終わりだと思ったその瞬間。
引き金が完全に引かれるのと激しい銃声を感じたが、時間差で訪れたのは僅かな痛みだけだった。


ただ地面には、しっかりと弾丸で抉れたような跡が残っていて、私が撃たれたのは間違いないらしい。
慌てて腹部や頭などを触ってみるが、どこにも異常はなかった。訳が分からずしゃがみ込むと、聞こえたのは、波江くんの残念そうな声。


「あー、外れた」


「え・・・えぇ?」
間の抜けた声が出る。ただ、波江くんはそれ以上何も言わなかった。私にもう一度照準を合わせるような行動も起こさない。
ただただ、無表情に私を見下ろしている。そしてこう言った。


「・・・外したけどまぁ、初心者の俺でも扱えない武器じゃないね」

もう、《試し撃ち》はこれで終わりのようだ。彼の目には、戦意の欠片も見当たらない。私はすっかり混乱した。
「・・・・・・わ、私のこと、殺さないのぉ・・・?」
「いやいや本当は殺す予定だったんスけど、外しちゃったから・・・恥ずかしいでしょ二回も狙うの。俺は一発で仕留めたいんです」


彼はひらりと屋根から飛び降りて、そのまま校舎後方の方へ走り去ってしまった。まだ頭の整理はできていないが、
どうやら私は助かったらしい。詰まっていた息を吐ききると、校舎から飛び出てきたのは和紀くんだった。


「姉さん・・・?」
「和紀くん!」
「どうしたの、さっき何かすごい銃声聞こえて・・・顔怪我してるけど、大丈夫?喋ってたの、誰?誰に撃たれたの?」
私自身は思いのほか軽い怪我で内心ホッとしているのだが、和紀くんはそうは思っていなかったらしい。
他の子とは趣味が違っていても、やはり私のたったひとりの弟であることに変わりはない。


「・・・大丈夫よぉ。全然痛くないしぃ・・・次は、誰だったかしらねぇ」
「・・・・・・椿先輩」
私の脳裏に、一人の少女の顔が思い浮かんだ。同じクラスの、六條くんの妹。
「・・・なら、早く行ったほうがいいわねぇ。あの子、なんだか私苦手だわぁ」
「そうだね、僕も、あの人は苦手。・・・立てる?」


弟の手を借りて立ち上がると、あの校舎の入口に立つ軍服と目が合った。彼(?)の目は間違いなく私を見ているはずなのに、
表情の変化はまったくない。これからもずっと、あんな顔なんだろうなと思った。


(もし私が政府の役人だったら、あんなになっちゃうかしら?)


およそ今思うには相応しくない考えを巡らせながら、私は波江くんの後を追わないように、校舎裏とは真反対の、
目の前に広がる林に足を進めた。和紀くんもそれに黙ってついてくる。
いつまで私たちは一緒にいられるのだろうか。

 

【D-6】
【鮫島瑞紀】
[状態]健康、右頬に浅い銃創
[装備]なし
[道具]支給品一式
[思考・状況]弟を生き残らせる
1.弟のためなら、自分は死んでもいいと思っている
※ 波江香月を要注意人物としてインプット

 

【D-6】
【波江香月】
[状態]異常なし
[装備]ウィンチェスターM73
[道具]支給品一式
[思考・状況]不明
1.鮫島姉を狙ったのは、単なる試し撃ち?
 

【D-6】
【鮫島和紀】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式
[思考・状況]不明
 

 

 

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仲は良いけど殺さない

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最終更新:2012年12月14日 14:18