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「遅かったわね」

 

校庭につっ立った女が言った。俺が、この世で一番嫌いな奴。
同じクラスの六條椿だ。
さっき前田先生が死んだときはあんなにギャアギャア喚いてたくせに、ちょっと時間がたったらこうだ。
それに、仮にも今は殺し合いの舞台。装備も無しにボーッと立ってられるなんて、俺には到底理解できなかった。

 

「あたしの事、まだ信じてないのね」
「・・・当たり前だろう」
「安心してよ、お互いの目的を達成するまで、あたしはアンタを殺さない」
何か企んだようにも取れる奴の顔だが、生憎こいつは元々こんな顔なのだ。
「・・・・・・」

 

他の生徒たちが出発していく最中、奴は俺に小声で言った。
「校庭で待ってるから、それから一緒に行動しましょう」と。
いつも俺に喧嘩をふっかけてくるのは奴の方なのに、一体どういう風の吹き回しなんだろうか。
そんな俺の気持ちは案外表情にも顕著に表れていたらしく、奴はまた小声で囁く。
「どうせ目的は同じなんだから」
なんとなく言いたいことは分かったから、その場でそれ以上問い詰める気は無かった。
私語がバレて、恋堂の機嫌を損ねでもすればそれこそおおごとになるからだ。
本当は断りたかったが、俺より先に奴が出発するのだから意味ないだろうと判断する。
そしたら、奴はやっぱり待っていた。何の装備もなしに。

 

「・・・支給武器は確認したのか?」
「まだよ。楽しみは後に取っとかないと楽しみじゃないし。それより、アンタも香月のこと探すんでしょ?
じゃなきゃ、あたしがアンタなんかと一緒に行動するはずないわ」
奴が言ったのは、やはりアイツ・・・波江香月の事だった。俺の幼馴染で、奴にとっては恋人。
俺がいれば香月も一緒だし、香月がいれば奴も一緒。俺たち3人は、普段から何かと一緒にいることが多かった。
決して、仲良しグループとは言えないが。

 

「香月は待っててくれなかったみたいね。出発したのはついさっきなのに・・・そこらへんで死んでないといいんだけど」
「この状況じゃ冗談にならんぞ」
「・・・そうね」

 

奴のブロンドのロングヘアーが風に揺れるたびに、何故か俺はひどく不快な気持ちになった。
やっぱりそれは表情に出てしまうが、基本いつもの事なので奴もとりわけ気にする態度は見せない。

軍服は相変わらず俺たちを無言で送り出すが、奴は軍服に向かって「行ってきます」と挨拶をした。
彼女らしいといえばらしい行動なのだが、この状況においてはただの変人である。
ほどほどにしとけよと釘を打ち、校舎入口から見て西の方向に歩みを進めた。

 

「そう言えば、アンタ見た?」
奴が前を歩きながら言う。
「何を」
「地面に銃弾の跡があったわ。丁度あたしが立ってたところの真下」
「貴様がそこに立ってたんだから、俺から見えるわけないじゃないか」
「まぁそうよね」

 

「・・・で、何が言いたいんだ」
「え?」
「だから、貴様がそれを俺にわざわざ報告する意味は」
「別に?誰か殺し合いに乗った馬鹿な奴が居るっていうことでしょ。教室の中で銃声も聞こえてたじゃない」
「・・・そうか」

 

まだ、奴の行動方針を俺は知らないし、俺も、自分の意思なんて伝えていない。ただあるのは同じ人物を探しているという
情報のみだった。にも関わらず、何の警戒も無しに並んで歩いているというのはおかしいかもしれない。
突然、奴は俺の視界から消えていなくなった。まぁ、ただしゃがみこんだだけだったのだが。

 

「なんだ、何かあったか?」
「武器の確認」
「ああ」

 

さっきは、まだ武器は確認していないといったが、実は分校を出る際に入口付近でデイパックを覗いていた。
入っていたのは救急箱。一瞬これは全員に与えられた支給品なのかと思ったが、他にそれらしいものは確認できなかった。

 

「アンタは確認しないの?」
「・・・あぁ。あとで、時間があるときに」
「・・・ふぅん、今も時間ならたっぷり・・・ま、どうでもいいんだけど」

 

奴がバッグの中身を確認しているのを、俺はただずっと上から見ていた。今なら、そこらへんにある石ででも、
奴の後頭部を割ることなんか容易にできるはずだ、と俺は思った。そんな事するはずないが。奴が香月を見つけるまで
俺を殺さないというのであれば、俺もそれに従う他ない。あくまで俺はフェアプレーを望む。

 

「あったあった、これで間違いないわね」

 

奴は、手馴れた動作で手に持ったバタフライナイフのグリップを開けた。中から勢いよく、小振りな刃が飛び出す。
「うーん、接近戦でしか使えないのは不利だわね・・・まぁ良いでしょう。慣れてるし」
ただの女子高生がバタフライナイフの扱いに長けているのはおかしいが、あえて黙っておく。
俺だって、銃器の扱い方には多少なりとも自信があったから。
でもこれで、多少の戦力になりそうなものは得られたということだ。ひとまず安心していいだろう。

 

「そう言えばアンタ、春花先輩は構わないの?」
そこで、久しぶりに姉の顔を頭に思い浮かべた。3年1組の東雲春花。勿論、このプログラムにも参加している。
姉さんが出発していったのは確か4番目だったはず。俺が18番目の出発だったから、いくら走ろうと追いつけないのは
目に見えていた。だから諦めていたのだが、今になってそれを少し後悔している気もした。
「・・・余裕があれば、最後に一度くらい顔を合わせたいな」
「呑気ねぇ。それに《最後》だなんて、まるで自分が死ぬこと前提でやってるみたいじゃない。春花先輩が知ったら悲しむわよ?」
「仕方ないだろうこんな状況なんだから。・・・それに、兄姉が参加してるのはお前も一緒じゃないか」
俺が言うと、奴はいつも伏せている目を更に細くする。そして、それ以上何も言わない。

 

どんどん開けた場所に出てくると、奴はしきりに周りをキョロキョロと見回すようになった。
「今、あたし達どのへん?」
言われて地図を取り出して、周りの風景と照らし合わせながら確認する。歩いた時間からして、まださほど遠くへは来ていないだろう。
「多分・・・西の方角へ歩いてきたから、今はD-4ぐらいだろう。ほら、向こうの方から波の音も聞こえる」
「まだ誰も死んでないかしらね、だって、校庭には血痕なんて落ちてなかった。銃弾を撃ち込んだ痕はあったから、
きっと誰かが誰かに向けて発砲したのか、あるいは、武器として銃を引き当てた生徒が試し撃ちをしたのか・・・
時間的に香月がそれに一枚噛んでる可能性もまぁ無くはないけれど、あの人に限ってそう簡単に死ぬとは考えにくい。
何だかんだでチキンだから、人に向けて鉄砲を撃てるとも思わないわ。ね、そうでしょ」

 

早口に奴は言ったが、それは自分たちの願望でしかないのかもしれなかった。
こんな状況に立たされれば、精神がおかしくなる奴だって出てきてもおかしくはない。現にさっき前田先生は、俺を殺さんばかりの
勢いで俺に掴みかかってきたのだ。香月がもし、人を撃っていたとしても不思議では無いんだろうと、秘かに思った。

 

「・・・あーぁ、最悪。あたし死んじゃおっかな」

 

ふいに奴は言った。あまりにも突然だったので、俺の口から自然に「は?」という疑問の声が上がった。
「冗談に決まってるでしょ、あたしはアンタを殺すまで死なないから、絶対に」
俺がいつ奴から殺されるほどの憎しみを持たれたのかは知らないが、兎に角奴が自分から死ぬようなことは有り得ないと断言できた。
徐々に潮風が届いてくる。そのせいで、俺たちの髪の毛も揺られてそのへんに靡く。少し強い風だった。
もしかしたら風のせいで、俺たちの束の間の共同精神も崩れ去ってしまうのではないかと、内心ヒヤヒヤしている。

 

そして俺は、当面の問題を思い出した。
(・・・・・・救急箱じゃぁ、戦えないな?)

 

 

 

【D-4】
【東雲月彦】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式
[思考・状況]幼馴染である波江香月を探して一緒に行動する。
何か、敵襲を防げるだけの武器がほしい。
※ とりあえず、六條とも仲良くしよう?と思ってはいる
※ でも、完全には信じていません

 

【D-4】
【六條椿】
[状態]健康
[装備]バタフライナイフ
[道具]支給品一式
[思考・状況]恋人である波江香月を探して一緒に行動する?
※ クラスメイトがいることで、心に多少のゆとりができました

 

 

 

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あれはクラスメイトですか?

http://www52.atwiki.jp/masuka1997/pages/32.html

 

最終更新:2012年12月14日 14:17