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「・・・ねぇ、なんかさ、今変な音聞こえなかった?」
「え、うそ」
「・・・わ、私も聞こえた、よ?なんか・・・なんて言うんだろう。パラララって」
「銃声?」
「ど、どうなんだろう、私そういうのって、あんまり詳しくないから・・・」
「そりゃトウゼンだよ雪子ぉ」


1年の氷山梨乃、宇佐美渚、高里雪子の「仲良し3人組」は、島の北端、Aー7エリアの古びた小屋の中で座り込んでいた。
3人とも出発の順番は遠く離れていたが、島の中をウロウロしていると、自然に此処に集まってきた。
いつも一緒にいるからなのか、3人の表情はおよそほかの生徒よりかは柔らかいはずだ。


そして、3人の聞いた銃声というのは、そう遠くないB-5エリアで、西条が古谷をマシンガンで撃ち殺した音なのだが、
3人がそんなこと思い当たるわけがなく。かと言って確かめに行くような危険な真似もできなかったので、
この場にいることを迷わずに選択した。ここには何とか、2、3日なら籠城できるような広さと清潔さがあったのだ。
すると、宇佐美が言った。


「梨乃ちん、雪子も、もう眠いでしょ?宇佐美が見張ってるから、ちょっと寝てていいよ」
そう言いながら、彼女は地図を確認して、何やら印をつけている。まだ、禁止エリアは発表されていないのだが。
「え、でも・・・」
「大丈夫大丈夫、まず此処なんてかなり島の端っこの方だから、誰か他の人が来るっていう事はないと思うよ。鍵もかかってるし。
それに、宇佐美はまだ眠くないしね」


氷山と高里は顔を見合わせた。正直言って二人の方はというと、もうかなり精神的な疲労が蓄積されて、今すぐにでも
眠りにつけるようなそんな状態だったのだ。
「宇佐美、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよぉ、宇佐美は夜行性だから」
「じ、じゃぁ渚ちゃんもあとでちゃんと寝てね。その時は、私が見張り役やるから、ね」
「うん。了解!」
あは、と宇佐美は笑って、二人に手を振った。
「おやすみ、二人共」


その笑顔が、高里にはなんだかとても儚いものに見えたような気がした。


「雪子、行こう」
氷山が高里に呼びかける。幸い、小屋の中には寝室らしき設備がちゃんとあった。
二人は宇佐美一人を部屋に残すと、扉一枚を隔てた別室に移動した。


「・・・梨乃ちゃん、明日、どうしよう?」
不安げな顔で、高里は聞いた。
「どうするって?」
「ずっと、此処で待ってていいのかな?待ってたら、安全なのかな?」
毛布に包まった二人は、もう息に近い声で話始めた。
「大丈夫だと思うよ。それに私には、先輩とか同級生たちが人殺しを簡単にできるような人たちだとは思えない」
「でもさっき、銃声聞こえたじゃん。さっきだけじゃない。一発大きいのが鳴ったの、梨乃ちゃんも聞いてたんじゃないの?」
「・・・きっと、焦った誰かが引き金をひいちゃったんだよ。わざとじゃない。そう思っとこうよ」
「うん・・・」


本当に安全なんだろうか。此処にいれば、本当に安全?高里は考えた。
もし、3年生が此処を襲撃したとする。1年の女子3人集まったところで、たいした戦力になるとは到底思えなかった。
そう、それに、3人という人数。生きて帰れるのは、たった一人ではなかったのか?
もしも私たち3人が最後まで残ってしまったとする。その時私たちは、皆武器をとって身内で殺し合いを始めてしまうのだろうか。


恐ろしい考えばかり頭に浮かんでしまって、どうにも高里は落ち着かなかった。
となりを見ると氷山はもう眠っているのか眠っていないのか、背中をこちらに向けていてよく分からなかった。
もう一度声をかけるのも、もし眠っているのであれば申し訳ない話なので、高里も氷山に背を向ける。


ふいに、プログラムが始まってから一度もその姿を見ていない、自分の双子の兄、雪弥の顔を思い出した。
今頃どのエリアにいるのか分からないが、もし宇佐美や氷山が反対しても、ひとりでもいいから雪子は雪弥を
探しに行くつもりでいた。恐らく自分はこのプログラムでは生き残れない。それは薄々感じていることであったが、
それならせめて死ぬ前に、雪弥に会いたかった。


(大丈夫かな、雪弥・・・)


徐々に薄れ始める意識を、宇佐美の居た部屋からの突然の光がもう一度呼び覚ました。


(・・・誰?渚ちゃん?)


重たい瞼をこすって、高里が起き上がろうとした、まさにその瞬間だった。
一番、高里が恐れていた音だ、あれは。間違いなかった。


パン、と一発だけ、乾いた音が彼女の耳を切り裂くと、隣で寝ていた氷山の体が一度だけ大きく跳ねたのだ。


(撃たれた!!!)


間違いなく、今のは鉄砲の音だ。
氷山が撃たれた。


その証拠に、まだ眠っているように横たわる氷山の身体の下から、何やらドロッとした液体が流れ出ている事に気がついた。
次狙われるのは自分だ、と、高里は瞬時に悟った。氷山を撃った相手は、ここからじゃ部屋の中が暗すぎて見えない。
それでも、そんなこと流暢に確認している暇などない。一人で部屋に残っていた宇佐美や撃たれた氷山の安否が気になったが、
とりあえず此処から逃げなければならなかった。


毛布を勢いよく跳ね除けて、高里自身も大きく飛び跳ねて寝室を出た。自分の荷物を探している暇などない。
そして驚いたことに、居間に宇佐美の姿は無かった。


(渚ちゃん・・・?)


氷山を襲撃した相手は、今度は高里に向かって容赦なく引き金を引いた。
もう一度乾いた音が鳴り、右足の太腿に鈍い痛みが走った。が、しかし、これに構う暇はない。
死ねなかった。雪弥に会うまで。死にたくなかった。


「待ってよぉ雪子ぉ!!!」


「・・・ぇ」


体制を崩しながらも、高里は一生懸命に走る。しかし、一瞬頭の中に過ぎった起こりうる最悪のシナリオは、ほぼ現実の物となっていた。


(だってあの声って)


同じく撃たれた彼女が、高里に助けを求めた声だろうか?
違うだろう、さっきの声は明らかに興奮した異常者の声であったしそもそも、氷山が撃たれる以前に銃声なんて聞こえなかった。


(渚ちゃんが梨乃ちゃんを撃った?)


(そんな、そんなことって)


(有り得る?)


やがて、森の中に入った。宇佐美の気配も声も、もうとっくに無くなっていた。
それでも高里は、自分の気の済むまで走った。

 

 

 

 

小屋の中では、手に銃(ワルサーP99コンパクト)を握った宇佐美と、動かなくなった氷山が対峙していた。
宇佐美は、早々に高里を追うのをやめていた。
「ごめんね梨乃ちん」
宇佐美が言った。当然だが氷山は何も言わない。
「でもさぁ、こんな状況で他人の事信じ切っちゃうとかおかしくない?」
氷山の背中を革靴でちょん、とやると、氷山はごろんと転がって仰向けになった。
左胸には、指一本分くらいが丁度通りそうな小さな穴が開いている。そこからはまだ、ゆっくりと赤い液体が流れ出ていた。

「武器、まだ借りとくね。私のは折りたたみ傘だったから」


宇佐美は物珍しそうにワルサーを眺めると、最後に二人に向けたのとおんなじ顔で笑った。

 


【高里雪子】
【Aー7から移動中】
[状態]疲労、右足太腿に銃創(弾は貫通しています)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]宇佐美が親友を撃ち殺したことに動揺
双子の兄、雪弥を探す予定です
※ 支給品、武器は、小屋の中に置いて来ました

【宇佐美渚】
【Aー7】
[状態]健康・興奮状態
[装備]ワルサーP99コンパクト(氷山の武器)
[道具]支給品一式、高里、氷山の支給品
[思考・状況]不明
 

1年2組 36番 氷山 梨乃 死亡 残り19名

 

 

 

 

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最終更新:2012年12月15日 12:49