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俺、波江香月が最初の襲撃に失敗してからどれほど経っただろうか。
今は一人で、F-6エリアに点在する民家の間を行き来していた。


つい2分ほど前にマシンガンの銃声を聞いた。どの方角から聞こえたものか分からなかったので、とりあえず慎重に
隠れられそうな場所を探していたのだ。
さっき鮫島の瑞紀さんを撃ち逃がしたのが痛かった、俺のモチベーションはさっきから下がりっぱなしで、
今は誰でもいいから撃ち殺したかった。
俺に支給されたのは、西部劇なんかでよく見かけるあれ・・・説明書にはウィンチェスターとか書いていたような気がする。
確かに格好良いが、あんなもの、弾が当たらなければ宝の持ち腐れと言っても過言ではない。


しかし、瑞紀さんの後に控えているメンバーを考えれば、あそこでモタモタしているのもダメだったと思う。
鮫島の和紀くんはあいつ1年のくせに妙にラスボス臭漂ってるし、そのあとの椿や月彦には絶対会いたくなかったし、
宇佐美はあいつ何か先輩に媚売ってるみたいで俺は苦手だったし、星川先輩と源は馬鹿だし・・・
ということで、襲撃するには瑞紀さんしか、最適な標的が居なかったのだ。俺は自分のくじ運の低さをつくづく恨んだ。


それにしても、さっきのマシンガンは誰が撃ったんだろう。
俺以外にもやる気になった生徒がいる事に内心少々びっくりしていたのだが、まぁ、俺の作戦を手伝ってくれる奴が
いるならそれはそれで有難かった。


俺は、別にこの島から生きて脱出しようだなんて思っちゃいない。
勝利するのは俺じゃない。俺であるべきじゃなかった。


「香月」


聞こえたのは、自分にも聞き馴染みのある声だった。振り返る前に分かる。あれは・・・


「あっれェ、春花さんじゃないスか」


3年1組、月彦の姉の春花さん。月彦が俺の幼馴染なら、この人だって当然そうだ。
長い前髪に隠れた右目は相変わらずで、確かに美人だがどことなくミステリアスな雰囲気も持ち合わせている。
手には、俺からだと何も持っていないように見えるが、どうだか分からない。
しかし時間的に、マシンガンの犯人が春花さんだということは有り得ないだろう。


春花さんの右腕には、「新聞部」と書かれた蛍光のオレンジ色の腕章がかかっている。
確か、椿も雪子ちゃんもあれを付けたままだった。


「香月、お前どうしたんだ?やけに物騒な物握ってるじゃないか」


「やぁ、春花さんこそ何も持ってないように見えるんスけど・・・よくそんな無防備な姿で歩けますね」


「私は好きでこうやっているんだ。ちゃんと武器はあるさ」


彼女の顔からは、余裕も、焦りも感じられなかった。しかし、口元にはわずかな笑を見せている。
俺のことを挑発してるのかと、一瞬身構えた。彼女は何も仕掛けてこない。


「・・・お前は、もう誰か殺したのか?」


春花さんが、俺に向かって静かに聞いた。


「・・・殺しては、ないっスけど、・・・まぁ、鮫島のお姉さんにに向けて、一発、バンってね。やっちゃいましたよ」
「ほう、瑞紀にか。・・・で、どうだった?」
「見事に外れました。俺はおたくの弟さんみたいに、銃の扱いには慣れてないんで」

 

ため息をつくと、春花さんは俺の方を向いて小さく笑った。
「お前は、私を殺そうとしているな?」
「どうして分かりました?」
「どう見たって、お前の指はその銃の引き金にかかってる。何だ、優勝狙いか?」


この人は、俺から何か聞き出そうとしているのか?だとしても、もう隠す必要は無し。
あくまで俺がこの人を殺すのに成功すると仮定しての話だが。


「違いますよ、俺は月彦と椿の為に戦うんです」


春花さんの表情が一瞬崩れた。明らかに動揺しているというのが目に見える。予想通り。
俺はウィンチェスターを春花さんに向けて構えた。
強い風が吹く。しかし、彼女のブレザーは微動だにしなかった。
春花さんが言う。


「まぁ、そう急くな香月。私にも命乞いくらいはさせてくれ」


そう言うと、彼女はスカートのポケットに手を突っ込んだ。
出てきたのは、一本のライター。


「此処に、ライターがある。何の変哲もない、ただのライターだ」
「・・・確かに、ありますよ。それが春花さんの武器なんスか?」
「いいや、これは・・・おまけみたいな物だ。本命ではないな」


いきなり、春花さんが制服のブレザーに手をかけた。両側から左右に引くと、薄い裏地が露になる。
俺は思わず、姿を見せたそれを凝視してしまう。彼女はそれから、困ったような表情を浮かべて言った。


「そして此処には、10本のダイナマイトがある。今私がこれに火をつければ、ここら一体は一瞬で灰になるぞ?」


あまりにも予想外の対応に、正直俺はたじろいだ。
春花さんはやっぱり困った表情で、こちらをじっと見つめてくる。目を合わせることはできなかった。


「・・・それより早く、俺が春花さんを撃ち殺せれば、当然あなたの計画は失敗するはずですけど」


精一杯の反論をした。でも彼女の表情は何も変わらない。
それどころか、俺の言葉に返事を返してきた。


「お前がまた外したらどうする?」
「・・・・・・・・・」
「やめといた方がいいって事だ。死にたくないのならな」


「春花さん、本当に爆死する気なんですか?」
「あぁ勿論。私は別に、誰のために戦いたいとも、自分が優勝したいとも思わんからな。お前とは違って、
何の意味もなくプログラムに参加している駒に過ぎん」
彼女はそう言いながら、ライターをポケットにしまい直した。あとから考えるとここで襲撃すればよかったのに、俺はまた
攻撃失敗したことと、春花さんの肝の座り方にすっかり感服して、そんな事思いつきもしなかった。


戦意喪失した俺のことをもう警戒してはいないのか、春花さんはダイナマイトもしまって髪の毛を縛り直しながら聞いた。
「ひとつ聞いていいか、香月」
「・・・えぇ、どうぞ」
「お前は今、我が弟とそれから椿嬢のために戦うんだと言ったな。それは何故なんだ?」
もう既に核心を突く質問だった。春花さんは今度は、慈愛に満ちたとでも言おうか、優しげな微笑を浮かべてこちらの
目をしっかりと見据えている。最初に狙った瑞紀さんも、最後はこんな顔をしていた。


「・・・俺は、二人とも大好きです」
「えっ」
「いや月彦とはそういうんじゃないッスよ。幼馴染としてって事です。だから二人に勝ってもらいたい。生きてて欲しい。
それに、元々これはあいつらの2年4組で開催されるハズだった。ならば、本当に勝利するべきはあの2人のうちのどっちかって事になる。
少なくとも俺は、そう思ってるんですよ。俺が出る幕なんか無い。ならせめて、二人が優勝するために手伝いをしようと。
折角こんないい武器も手に入ったんだし」
「成程。だから無差別に殺してしまおうとそういう魂胆か。香月のくせにやけに頭が切れるな。お前はいつだって、低俗な春本の事ばかり
考えていると思っていたが・・・」
「俺だって、やる時はやりますよ」
「そうか。それは知らなんだ。・・・・・・・・・ん?」


春花さんがふいに視線を俺の目から外した。多分、俺の真後ろを見ているのだ。


「どうかしました?」
「・・・誰か居るな。はて、暗いからよく見えんが・・・誰だろうか」
俺の耳にもその時、誰かが茂みをかき分ける音が聞こえた。姿も見える。多分あれは・・・
春花さんも気がついたようだった。
「渡辺?」


180センチを超える長身、それだけなら月彦もそうなのだが、生憎彼には長髪というチャームポイント?がある。
ならあれは、間違いなく3年1組の渡辺健悟先輩だ。
俺たちの声は先輩には届いていないらしく、さっきから影はこっちを向いているのか向いていないのか、その場に立ち尽くしたまま
動くことは無かった。春花先輩もそっちにすっかり気を取られてしまっている。


チャンスだった。


俺は視力があまりよくないが、残念ながら暗いところは慣れている。ウィンチェスターをゆっくり構えて、照準を合わせた。
春花さんの視線が再び俺に戻ってくる。


「・・・おい香月、お前まさか」
「・・・・・・」
「・・・撃つのはお前の勝手だがな。・・・何も知らずに撃たれる方の気持ちも、少しは考えてやれよ?」


不思議なくらい静かなエリアいっぱいに、重たい銃声が響き渡り、標的の体が確かに真横に揺らぐのを、俺も春花さんもしっかり確認した。
ドサッという音を聞いて、俺は静かに銃を下げた。銃口からは、未だ細い白煙が立ち上っている。
春花さんが、肩を竦めた。


「・・・・・・まぁ、お前がそのつもりなら、私も口出しはせんが」
「・・・」
「・・・・・・気の毒になあ、渡辺?」
春花さんは、撃たれたばかりのクラスメイトの安否を確かめに行くようなことはしなかった。
結局この人も、だいたい俺と考えていることは同じなのだ。
そう思って、ひとつ質問をした。


「春花さん」
「・・・ん?」
「あんたは、人を殺せますか?」
彼女は少々驚いたようで、少しだけ目を見開いた。それでも考えることなく応える。
「殺せるよ」
「・・・・・・へぇ」
「それだけか?」
「ええ、それだけ」


「何処へ行くんだ」
「どこって、そりゃ別のエリアですよ。春花さんが簡単に「殺せる人」なら、俺だって安全じゃない。いつ爆発してもおかしくないんでしょ、
そのダイナマイト。だからですよ。あ、今度は絶対殺しますから」
「そうかそうか、期待してるぞ」


春花さんの言葉を背中に受けて、地図に示された道の通りに進む。
次会うときは、死体になってればいいのにと、ちょっとだけ思ったりもした。

 

 

残された東雲春花は、重い溜息を漏らした。

少しは役にたつものだな、と、先程そこで「拾ったばかり」の、「オイルの入っていない」ライターをポケットから覗かせる。

 

「爆発なんてしないよ、香月」

 

3年1組 42番 渡辺健悟 死亡 残り18名

 

【東雲春花】
【F-6】
[状態]健康
[装備]ダイナマイト10本
[道具]支給品一式
[思考・状況]不明

【波江香月】
【F-6】
[状態]健康
[装備]ウィンチェスターM76
[道具]支給品一式
[思考・状況]東雲月彦、六條椿のどちらかを優勝させるため、
できるだけたくさんの参加者を殺す
 

 

 

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最終更新:2012年12月25日 18:55