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B-8エリア、人首神社の周りを先程から何やらブツブツ言い歩き回る少女たちが居た。
2年5組の寄川桜子と、同じく2年5組の相田かなえである。
二人ともリュックサックを肩から下げて、相田はライフル銃を抱えていた。一方の寄川は、
握り締めたガラス瓶を振りながら、イライラしたような表情を見せている。


「あああああもう!!」
「ど、どうしたの桜子」
「どうして皆さっきからああもパンパンパンパン撃ち合いしてるの!わけわかんない!!」
「だ、だってそういうルールなんだよ、皆死にたくないだけなんだよ。分かるでしょ、桜子だってそうでしょ」
「いいや私は分かんないね!!皆で殺し合って何が楽しいの!ってか楽しくないじゃん!」
「わ、わかってるよ」


銃声が聞こえだしてから妙にヒステリックになった寄川をたしなめるのは相田の仕事だ。本当は誰かと合流して
彼女の相手をバトンタッチしたいところだが、こんな広い島に放たれたのはたったの21人。寄川と会えただけでも
かなり幸運な部類なのだろうと、相田は諦めムードだった。
しかし、まだプログラムが始まって以来、「やる気」になっている生徒と出会っていないのは、確かに幸運なのだ。


(月彦くん、元気かなぁ)


相田は、この高校に入学して、始めて好きな人ができた。
2年4組の東雲月彦である。
去年は同じ1年1組だった。そこで知り合ったのだ。
新年度が始まって早々に、クラスで風紀委員を決めることになった。
誰も立候補が無かったからくじ引きで決めれば良かったものを、その年の担任はまだ若くて、教師という仕事自体にまだ希望を抱いて
いたのだろう。誰かがきっと、手を挙げてくれるさと、立候補者か推薦が出るまで帰らせないと言った。
しかし自分はそういう誰かの模範となって活動することは苦手だったから、その時は誰に何と言われようと立候補する気など更々無かった。
その時、ある女子生徒が手を挙げたのだ。


『先生、あたし、今日東雲くんが中庭に落ちてたゴミ拾ってるとこ見ました』


事実上の推薦である。東雲は凄い勢いで、自分の名前を上げた女子生徒を睨みつける。
彼の視線の先には、凶悪な顔で笑う六條椿の姿があった。
勿論、彼女が言った彼の善行の事は全くの嘘である。でもまだ入学したての二人の関係が既に最悪である事など誰も知らない。
それに、皆さっさと終わらせて早く家に帰りたいと思っていた事もあり、結局一人目は彼に決まったのだ。
残った問題はあと一人の風紀委員だったが、これはすぐに解決した。合格発表の時に東雲に一目惚れをしていた相田が、
先程の考えを改めてすぐに候補に名乗り出たからだ。これも皆すぐに賛成して、ようやくその年の風紀委員は決まった。
今考えるとなんて盲目だったんだろうと思うが、実際彼のことが好きなのだから仕方がない。あの選択は間違ってはいなかったと、
相田はまだ信じていた。


「ちょっとかなえ、聴いてるの!!?」
「え、あ、あぁ、っと、ごめん」
「もう!!」


寄川の機嫌の悪さはピークに達していた。いや、しかしこれが本当にピークなのかは分からない。もしかすると、もう一段階上の
ランクが存在しているかもしれないのだ。
相田は小さくため息をついて、そばの石段に腰を下ろした。
と、その時


「うわああああああああああああああ!!」


男子生徒の悲鳴が聞こえ、何か銀色の物が空中を舞った。
相田が目を凝らしてよく見ると、それは斧の刃物部分のようだ。大きく円弧を描いて、相田の真後ろにあった賽銭箱に突き刺さる。
寄川は小さく飛び跳ねて、慌ただしく武器を手にした。
もしかして、やる気になった誰かの襲撃なんだろうか?


「だっ、誰かいますね」


アサルトライフルをマニュアル通りに構えながら、斧が飛んできた方向を睨みつけた。


「で、出てこないとこの・・・えっと・・・何酸かはわかんないけど、そう、なんとか酸、ぶっかけるよ!!」


ここで、寄川も加勢してのつもりか、手に持ったガラス瓶を前方に突き出した。
彼女がなんとか酸といったそれには、硫酸、と書かれていた。


「・・・で、誰なんですか」


飛んできた斧の刃先を考えると、隠れている何者かはもう、武器を持っていないはずだった。いや、既に誰かを殺して武器を
奪っているのだったら意味ないが。相田は前者の可能性だけを信じて、ただひたすら待っていた。


そしてやはり、彼女の予想は当たっていた。


「ご、ごめん・・・驚かせて」


両手を上げて姿を見せたのは、3年4組の六條柊だった。
彼は左手に木の棒を握っている。多分先程の斧の柄なのだろうと、相田はなんとなく想像した。


「ひ、柊先輩・・・」
「えーと・・・2年5組の、相田かなえちゃんと、寄川桜子ちゃん、だよな」
彼は目を細めて二人の女子生徒を指差しながら確認した。
「そうです・・・」
相田も慌ててライフルを下げる。寄川はまだ、瓶を握ったままだった。
「桜子、柊先輩は大丈夫っぽいよ、だから、その瓶。ね」
「あ、そ、そうだった」
六條は二人に近づいて、頼りなさげな笑みを見せ、斧の刃先を探しながら言う。
「俺は別に、二人を殺そうとか思ってないぜ。この斧見りゃ分かるだろ?えーと・・・あれ・・・何処行ったっけな・・・」
「あ、柊先輩、あそこです。賽銭箱」
「え?あぁ」


斧を元通りに修復して、今度は3人揃って石段に座った。
「で、かなえちゃんも桜子ちゃんも、別に俺の事殺してやろうとか、そんなことは思ってないんだな?」
「思ってないです。私たちはずっと二人で、此処でジッとしていましたから」
「そうか、なら良いんだ。いやぁ、何かちょっと俺、疑心暗鬼になってんのかなぁ・・・」
「無理もないですよ。こんな状況ですもん」


寄川が、六條の顔を見て言った。
「っていうか柊さん、顔のそれ、どうしたんですか?」
「顔?」
相田も六條の顔を覗き込む。確かにそこには、大きな擦り傷ができていた。
暗くてよく見えないが、恐らく制服も大分汚れているのだろう。
「あぁ、これな。さっき此処に来るまでに、林がたくさんあったろ?あそこで1回、派手に転んだんだよ。誰かが追って来てるような
気がして全速力で走ってみたのはいいが、自分の体力とか運動神経とか、すっかり忘れてた。木の根っこに足取られて、気がついたら
地面に這いつくばってて・・・銃声も何回か聞こえてたから、余計に変なモン見える気がしてさぁ」
「先輩クスリでもやってんじゃないスか」
「そんな妹じゃあるまいし」
「・・・椿はそんなことしてるんですか」
「・・・冗談だって」
兄妹なのに案外顔似てるんだな、と、相田は秘かにそう思った。


「柊先輩としては、このあとはどうやって行動するおつもりだったんですか?」
「そうだな・・・とりあえず、生き残るために逃げ回るって事しか考えてなかった」
「あぁ・・・」
その時、寄川は考えた。果たして、3人という大人数で行動していて優勝できるのだろうか?
さっきからやたら銃声が聞こえている事から、少なくとも数人はもう殺人鬼と化してしまった生徒もいるんだろう。
そいつ達が何かの騒動で全滅して、残りが寄川たちだけになったとする。その場合、当然だが今度は自分たち同士で殺し合わなければならない。
先輩後輩の遠慮は置いておくとして、果たして非力な自分にこの「仲間」を殺すことができるのか。
「死ぬのは怖いとか、そういうんじゃなくてさ。何か、自分が死ぬっていうその事自体があんまり現実味無いだろ?
生き残ってなくちゃならない気がして・・・うまく説明できないけど」
六條がぽつりと言った。相田もゆっくり頷く。
「それは・・・私も同じです」


二人の会話をよそに、寄川の思考は続く。
本当は敵同士なのに、何故か今は同じ場所にいて、あたかも「同胞」のように振舞っている。
これでいいのだろうか?
さっき考えた可能性が現実になれば、今ここで二人を殺しておかなければ後悔するのは自分のはずだ。
(いやでも)
自分の武器はこのガラス瓶に入った謎の液体だけ。酸、という漢字が入っているあたりから予想syれば、これだけで二人の人間を殺すのは
難しいと思われる。とりあえずの方法とすれば、相田のライフル銃を奪うか、六條の斧を奪うかするしかなさそうだった。
(・・・・・・眠た)
正直、頭の回転の速さには自信が無い。殺し合いという緊迫した状況の中でさえ、寄川の眠気はいつもと同じように襲ってきた。
(ダメだなぁ、私)
相田は成績が良くて、風紀委員で、モテモテで、その上可愛い顔をしている。
六條柊は、学年の中でも頼れる男子としての地位を確実に築いているし、そこそこのイケメンだ。
それに比べて寄川自身ときたら、風紀委員から目をつけられた問題児ときている。なんだか自分が惨めに思えてくるのも不思議はない。
二人を殺したほうが良いのではないかというこの考えも、きっとそのせいで浮かんできたのだろう。
(・・・うん、そう思っとこう)
相田には申し訳ないが、自分の不機嫌は治りそうにない。暫くはこのままになりそうだ。


「今が・・・・・・午前3時16分。うーん、明るくなるにはまだかかりそうだな」
腕時計を眺めて、六條は言った。その後大きく伸びをする。
寄川も相田も並んで同じように伸びをした。


【六條柊】
【B-8】
[状態]疲労・全身に軽い掠り傷
[装備]斧
[道具]支給品一式
[思考・状況]とりあえず安全な場所に身を潜めたい?

 

【相田かなえ】
【B-8】
[状態]健康
[装備]アサルトライフル
[道具]支給品一式
[思考・状況]争いに巻き込まれたくないから隠れている
※ライフルの使用方法は、すでにマニュアルを読んでいるので
だいたいわかっています。

 

【寄川桜子】
【B-8】
[状態]健康
[装備]硫酸
[道具]支給品一式
[思考・状況]優勝願望は薄いが、できれば生き残りたい。
一緒にいる二人を殺してしまおうかどうか思案中

最終更新:2012年12月27日 21:28