和紀くんが、地図を見ている。
私は、そんな和紀くんの事を見ている。
なんて姉馬鹿なんだろうと、常日頃から思ってきた。
これでも一応、自覚はしてるのよ?
「此処は・・・多分、F-5エリアだと思う。ごめんねお姉ちゃん、こんなに長く歩かせちゃって」
「良いのよぉ、私全然疲れてないわぁ」
「そう・・・なら良いんだけど。僕もちょっと疲れたから、此処で一旦落ち着こうと思うんだけど」
「そうねぇ、そうした方がよさそうねぇ」
和紀くんが言う事だから、きっと全部正しいんでしょうね。
お姉さん、貴方には従うわよ。
ほんの僅かな距離の移動だったが、実は此処へ来るまでにおよそ4人の参加者を目にしていた。
まずは、宮田絵里。彼女の居場所は掴めている。
この隣りのエリアに見えるあの丘の上にいるのだ。
しかし、別段殺したい相手でもなかったし、戦意を持っているようにも到底見えなかったから、
そのままにしておいた。
次に、東雲春花、渡辺健悟、それから波江香月。
瑞紀は波江を要注意人物としてカウントしていたから、争いの中心には入らずに、
和紀と二人で茂みの中に潜んでいたのだ。
その選択は当たっていたようで、波江は意とも容易く渡辺を射殺した。
東雲もダイナマイトを持っていたが、波江が立ち去った後に口にした言葉から、
どうやらあれはフェイクだったらしいという事が分かった。
彼女が立ち去った後再び動き出したので、予想以上に時間がかかってしまったのだ。
「此処等辺でいいでしょ。隠れるにはちょうど位だと思うよ」
和紀くんは、私の分と自分の分、二つの荷物を大きな木の根元に置いた。
根元は背丈の高い草木で覆われているから、正面から見れば誰も居ないように見える。
それに、背後は見通しも悪く雑草が生い茂っているから、私たちの姿を捉えることは多分、容易ではない。
「放送までは・・・あと1時間ってとこねぇ」
「そうだね」
「さっきからパンパン聞こえてるけど・・・皆元気ねぇ」
「序盤からこんなにエンジンかけてるなんて、本当バカみたいだよ。こんな暗闇なんかだと、確かに
闇討ちはできるかもしれないけど、視界が悪くて外れたんじゃ結局、デメリットの方が大きくなっちゃうしね」
「明るくなるまでは、動かない方が頭が良いって事?」
「そういう事」
「ねぇ、和紀くん、一つだけ聴いても良いかしら」
「・・・一つとは言わずに、聞かれた事には全部答えるつもりだけど・・・何?」
私は、プログラム開始直前からずっと気になっている事を口にした。
「どうして和紀くん、プログラムの事知ってたのぉ?」
「・・・・・・あぁ」
和紀くんは一瞬目を丸くして、それから呟いた。
「お姉ちゃん、半年くらい前、僕の中学の頃の友達が死んだの、覚えてる?」
半年前・・・確かに、そんな事あった気がする。
いきなり夜中うちに電話がかかってきて、次の日和紀くんは「お葬式に行く」と言って家を出たのだ。
「えぇ、覚えてるわぁ。その子が、どうかしたの?」
「その子もね、プログラムで死んだんだ」
「・・・・・・・・・あらまぁ」
「表向きには、事故死ってことになってたんだけどね。僕偶然、その子のお母さんが泣きながら話してるとこ
聞いちゃったんだ。うちの子は事故死なんかじゃない。あいつに殺されたんだって。
それで、ちょっと興味持ったんだよ。プログラムに。
どうして今まで気がつかなかったのか不思議でならないんだけどね、プログラムって、1年に50クラスが選ばれて
実施されてるんだって」
「そう、そんなに・・・」
私も正直驚いた。年に50回も行われていながら、よく政府はその事を一般人には秘匿できたものだ。
「年に50回、でも対象は全国の中学高校の全てのクラスから平等にって言うから、僕に当たるなんて事まず
有り得ないと思ってたんだけど・・・今回は不運に不運が重なっちゃったかな。
ま、こんな事言ったら椿先輩とか月彦先輩に悪いんだけど」
確かにそうだと、私は思った。
あの二人には申し訳ないけれど、本来私たちはこんな理不尽な「ゲーム」に巻き込まれる筈じゃなかったんだ。
それが、あの日たまたま文化祭の準備で学校に来ていた、それだけで集められてしまった。
私たちは死ぬべきではなかったのに。
だがしかし2年4組の月彦くんに椿ちゃんは、どのみち此処で死ぬ(?)運命だったのだ。
これはもう仕方がないとしか言えない。
これも運ってやつかしら?
「・・・・・・お姉ちゃんはさ、優勝したいとかって、思ってる?」
和紀くんが上目遣いに私に聞いた。
大きな瞳にはちゃんと、月の光が宿っているのに和紀くんの表情からは、生気なんてもの感じられない。
「・・・私は・・・別に、優勝なんて興味ないわねぇ。和紀くんの為なら多分・・・」
「死ねる?僕のために?」
「・・・・・・えぇ。きっと、お姉ちゃんなら死ねるわねぇ」
和紀くんは、とても驚いたような顔を見せた。私よりも多く睫毛を生やした目をパチパチさせて、
それから少しだけ首をかしげた。
「参ったなぁ・・・僕も、優勝はお姉ちゃんにあげようって決めてたのに」
「へぇ?」
正直言って意外だった。この子がいくら姉とは言え自分以外の人間に勝利を譲るようなこと、今までなかったのに。
「・・・ありがとう。じゃぁ、約束ね。私、優勝するから」
「・・・うん」
とりあえずの約束。これが口だけのものだという事は私が一番よく分かっている。
私は、弟のいない世界じゃ生きていけない。だから私は、弟に生きていてもらいたいのだ。
(あと少し待てば、放送が始まるわね)
そうすれば、誰が死んだのか、何人死んだのかが分かる。
そして、これからの対策と行動方針を決めることもできるだろう。
もし、殺人鬼が湧いているようなら、どこかに隠れて時を待つ。
死人が出ていないようならば、自分で殺すという選択肢も選ばざるを得ない。
2日で終わらなければ、全員死ぬのだ。
「とりあえず、最初の放送次第ねぇ」
【F-5】
【鮫島瑞紀】
[状態]右頬に浅い銃創。出血は止まりました
[装備]包丁
[道具]支給品一式
[思考・状況]1回目の放送次第で、他の参加者への対応を考える
※此処に来る途中、東雲姉、波江、渡辺、宮田の4名を目撃しています
【F-5】
【鮫島和紀】
[状態]健康
[装備]フランス人形
[道具]支給品一式
[思考・状況]姉に優勝してもらう
※此処に来る途中、東雲姉、波江、渡辺、宮田の4名を目撃しています