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「最初の放送まで、あと20分程度っていう所かしらね」


腕時計に目をやりながら、奴が言った。
源を殺してから、およそ15分経っていただろうか。
俺は、ここに来てジッとしている事に耐えられなくなっていた。


「・・・何処行くの?」
「・・・安心しろ、放送までには戻ってくるさ」
「そ、なら良いけど」

 


「さっきの事もあるわ。あまりあたしを一人にさせないで頂戴」
「・・・あぁ、そうだな」

 


俺が北の方角に歩きだそうとした時だった。

 

「だっ、誰か、誰か助けてください、誰かぁぁ!!」


草を踏む音と、甲高い女子生徒の声が聞こえた。

 


「あら、お客さん?」
「そのようだ」


声の調子からして、本当に誰かに助けを求めているようだ。
足音も近くなっている。俺も、それを頼りに進んだ。


目の前に立ちふさがる草を払いのけると、いきなり、
小さな影が自分に勢いよくぶつかった。


「きゃっ」
「!!」


その影には見覚えがあった。


「・・・高里!」
「え・・・あ、だ、誰・・・」
「落ち着け、俺だ。2年4組の、東雲月彦」
「つ・・・月彦先輩・・・?」

高里は、足に怪我を負っているようだった。
ふらつく彼女の肩を支えて、奴の待っている場所まで連れて行くことにした。


「・・・その怪我は?」
「な、な、渚ちゃんが・・・」
「渚・・・宇佐美か?」
高里は黙って頷いた。制服は所々破れている。此処に来る途中に
何度も転んだりしたのだろう。


「それでお前は、此処まで逃げてきた?」
「そうです・・・でも、梨乃ちゃん・・・氷山さんが、殺されました」
「そうか・・・」


それにしても、足に怪我を負って此処まで走ってきたのだと言うのなら、
彼女の根性には感服せざるを得なかった。
この細い身体のどこにも、そんな体力があるようには見えない。
火事場の馬鹿力と言うやつだろうか。


「つ、月彦先輩は、お一人で・・・?」
「いや、お前の先輩もいるよ」
「・・・・・・春花先輩ですか?」
「違う、そっちじゃない方」
「あぁ、椿先輩・・・」


高里の表情が少し緩んだような気がした。
顔見知りの人物の名を聞いて安心したのだろうか。

 


俺が高里を連れて戻ると、奴は地面に座り込んで川の向こう岸を見つめていた。
草の音に気がついて顔をこちらに向けると、驚いた表情を見せる。


「雪子ちゃん」
「・・・そこで会ったんだ。さっきの悲鳴は高里のものらしい」
「そう・・・雪子ちゃん、大丈夫?」
「は、はい・・・何とか」
「それは良かった。あら、怪我してるのね・・・さ、そこに座って」


奴は今までに見せた事の無いような優しい表情を浮かべている。
先輩らしいと言えば先輩らしい顔だった。


「・・・こんな怪我じゃ、どうする事もできないわね・・・」
「だ、大丈夫です。私。我慢しますから」


そう言う彼女の顔は、明らかに苦痛の入り混じった表情だった。
そこで俺は、銃を手にしてからずっと忘れていたアレを思い出す。


「これ、使え」
奴が目を丸くした。
「救急箱?・・・アンタ、もしかしてもう一人誰か殺」
「俺に支給されてた武器だ。いざという時に使えると思ったから、
捨てずにそのまま持っていたんだ」
「あぁ・・・そう言えばそうだったわね。銃を持ってる姿がサマになりすぎて、
すっかりそれがアンタへの支給武器だと思ってたわ」
「あまり嬉しくないな」


俺の言葉に苦笑で返事をすると、奴は慎重な表情で高里の足を治療し始めた。
その手つきはぎこちない物だったが、本気で後輩を救おうという
奴の気持ちは汲み取ることができた。
俺はそれを遠目に眺めながら、ぼんやりと考える。
(・・・さっき源を殺した時には、ずっと笑ってたのにな)

 


高里の応急処置を終えると、奴は血で汚れた手を川で洗いに行った。
高里と二人で並んで座っていると、彼女がポツリと言った。


「椿先輩、悪い人じゃないんですよ」
「・・・・・・どうしたんだ、いきなり」
「月彦先輩と椿先輩、仲悪いですから・・・それに、今の2年4組の方って、
校内じゃ浮いた噂が沢山あるんです」

 

それには俺も思い当たる節があった。
廊下を歩いていると、やけに後輩は俺の周りを避けて歩くのだ。
まるでどこぞのヤクザにでもなったかのような気分だった。

 


「・・・椿先輩も、1年の間じゃ結構評判、悪いんですよ。今までに何人もの
男の人と関係を持ってて、それで、波江先輩は遊びで付き合ってるって」
(あぁ・・・)
「正直、私には椿先輩の気持ちなんて分かりません。・・・でも」
「でも?」
「波江先輩の話してる時の椿先輩は、本当に嬉しそうです。
あの二人の関係がただの遊びだなんて、到底思えません」
高里の目は真剣だった。
自分の先輩を本当に信頼している証なのだと、俺は思った。


「それだけじゃないですよ。椿先輩はかっこよくて、美人で、いろんな事を知ってて、
本当は優しくて、春花先輩の補佐もしっかりして・・・私にとっては、憧れの先輩です。だから」
「・・・・・・」
「月彦先輩も、誤解しないであげてください」


彼女の言葉はそこで途切れた。
当の本人が帰ってきたのだ。


「あら、二人で仲良く何のお話してたの?」
「あ、いや・・・えっと」
「貴様の悪口だ。そりゃもう沢山」
「なっ」
「へぇ、雪子ちゃんったら、なんだかんだ言って、やっぱりあたしの事
良く思ってなかったのね?」
「そ、そんな・・・」
「・・・冗談よ。はい」


奴が、自分の着ていた上着を高里に差し出した。
「寒いでしょ。これ着なさい」
彼女は急いで宇佐美の襲撃を逃れてきたのか、上着も荷物も何も持っていなかったのだ。
「そんな、悪いですよ」
「あたしは良いの。これから沢山動くことになるんだから。それに、雪子ちゃんは
怪我してるのよ、身体を冷やすのは良くないわ。何だったら水もあるわよ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」


高里は、俺の目を覗き込んで微笑んだ。
さっきの話は本当でしょ、と言わんばかりの顔だ。
それを見ると俺も、頷き返さずにはいられなかった。

 


と、その時。

 

 

『おはようございます、冴山第3高等学校の皆さん。
第一回目の放送が始まります』

 

 

あの耳ざわりな声が、再び頭上に降り注いできたのだった。

 

【Eー8】
【東雲月彦】
[状態]健康
[装備]ベレッタM92F
[道具]支給品一式
[思考・状況]幼馴染である波江香月を探す
島からの脱出方法を考える


【Eー8】
【六條椿】
[状態]健康
[装備]バタフライナイフ
[道具]支給品一式
[思考・状況]恋人である波江香月を探す?
プログラムを生き残るためには、殺すしかない
※ 高里雪子に、制服のブレザーと水を一本あげました

【Eー8】
【高里雪子】
[状態]精神的疲労(中)、右足太腿に銃創(応急処置済)
[装備]なし
[道具]水一本(150ml)、六條椿のブレザー
[思考・状況]高里雪弥の捜索

最終更新:2013年01月21日 06:51