年間行事:夏
松茸大学の夏は、静寂と発酵のあいだにある。
学生たちは「動かないこと」を学び、「沈黙」を単位として換算される唯一の大学である。
授業中の寝落ちは“深層観察”として出席扱いになり、
起きた瞬間に「理解した気がする」と言えば追加点がつく。
【精神発酵週間】(Meditative Week)
7月下旬、大学全体が沈黙に包まれる一週間。
誰も言葉を発せず、筆談も禁止される。
代わりに、呼吸音のリズムで意思疎通を行う。
教授がうっかり咳をすると全員が拍手するのが恒例。
最終日に“最も発酵した学生”が表彰されるが、毎年、本人は深い黙想状態のため欠席している。
【夜間フィールドワーク】
松茸山の頂上で行われる恒例行事。
学生たちは夜通し「光の気配」を観測し続ける。
理学部は“量子共鳴”として測定し、民俗宗教学科は“神のため息”と記録する。
経済経営学部は「観光プランに転用できないか」と試算を始め、
文学部は「誰も話してないのに盛り上がってる」と詩に書いた。
【光共鳴実験】(理学部)
実験棟では、菌糸を通して光を増幅させる研究が行われている。
ただし、光を浴び続けた助手が「菌糸に話しかけられた」と報告して以降、実験は“観察する側が観測されないようにする訓練”として扱われている。
学生の間では「ラボの電気を消したら進級できる」という都市伝説も。
【夏期集中講座「沈黙と筋肉の共鳴」】
スポーツ健康学部による人気講座。
「動かない筋トレ」を提唱し、学生たちは動かずに汗をかく技術を磨く。
授業の成果は“汗の香り”で評価され、提出課題はバスタオル。教授はそれを嗅ぎ分けて採点する。
学生たちは真剣だが、教務課は迷惑している。
【夏のキャンパス日常】
夏になると、なぜか学内放送が1日遅れて流れる。
誰も気にしていない。
理学部の観測棟では、観測機器が「休講」という単語だけを拾う謎の現象が続いている。
そして、購買部では毎年恒例の「発酵アイス」が販売されるが、
販売開始から3日目には自力で動き出すため、学生は競争で捕まえる。
観察とは、理解しようとする祈りの別名である。
最終更新:2025年11月02日 03:40