年間行事:秋
松茸大学の秋は、発酵と祝祭の季節である。
キャンパス中にきのこの香りが漂い、誰もが「学問とは何か」より「香りの良い学問とは何か」を語り出す。
教授たちは学会よりも出店の出展に熱中し、学生たちはレポートを“作品”と呼び始める。
秋最大の祭典。三日三晩、大学全体が発酵する。
テーマは毎年異なり、過去には「菌と恋と経済学」「運動と祈り」「量子の森へ」などが採用された。
どのテーマも解釈不能だが、学生はとにかく楽しそうにしている。
屋台では「松茸うどん(多分シイタケ)」「幻覚スムージー」「発酵焼きそば」などが並び、夜には
理学部の光共鳴装置が照明代わりに点灯する。
民俗宗教学科は祈祷パフォーマンスを行い、経済学部はその隣で入場料を徴収する。
翌日には誰も正確な売上を覚えていない。
【マツフェス名物「無許可ライブ」】
毎年、誰かがどこかでライブを始める。
参加資格も申請書も存在しないが、出演者は例外なく「去年もここでやった」と主張する。
文学部の詩人バンド《発酵圏》が有名だが、演奏時間はいつも夢の中でのみ確認されている。
音響トラブルすら儀式化し、観客はそれを“共鳴”と呼ぶ。
【研究発表週間】
秋学期の最大行事。
学生たちは実験結果よりも“語り口”を重視し、スライドに詩を書き、グラフの代わりに踊る者もいる。
「論理は発酵する」「誤差は個性」などの名言が飛び交い、教授たちは採点を放棄し、最も楽しそうな発表に賞を与える。
【秋の風物詩】
キャンパス中で誰も拾わない落ち葉が舞い、それを文学部が“自然の提出物”として提出する。
図書館の胞子館では空調にキノコが発芽し、学生たちはそれを「文化の象徴」と呼んで育てている。
また、購買部では「マツフェス限定Tシャツ(発光)」が販売されるが、翌年には誰もそのデザインを覚えていない。
祝祭とは、理性の仮面を脱ぎ捨てて菌と笑う行為である。
最終更新:2025年11月02日 03:55