「わたしたち沙々貴」
言いかけて、翠はかぶりを振ると、肩をすくめてため息をついた。
「……いや、これもいい機会だ、隠し立てする必要もないだろう。沙々貴という名は、ここにやって来たときに郷《さと》から戴《いただ》いたものなんだ。わたしたち両面《リョウメン》の一族は、見た目こそ人間と同じ姿だが、分類では正真正銘の
ラルヴァだよ」
「そうですか」
津志雄がいやに強調していたから、大体の見当はついていた。翠はうかがうように由良の顔を見た。
「驚かないのかい?」
「それは驚きますけど。ですが、それくらいのことでいちいち驚いてたら、この学園島では身が持ちませんわ」
呆れた様子で由良は言った。住めば都とはよく言うが、異常に対する感覚が鈍くなってきたのかもしれない。自分の生活圏に、本来の非日常が深く根付いてしまっている。翠はちょっと面食らった顔をしたが、頬を緩めて微笑を作った。
「両面族は古くから日本に存在していたけれど、わたしの世代以前は人との不干渉主義を貫いていたんだ。今でこそラルヴァという分類だが、昔は河童や天狗みたいな妖怪天魔のソレでね。遠い過去を遡《さかのぼ》れば、人間と血生臭い諍《いさか》いも起こっていたからね」
そういう過去の経緯があってか、この島に初めて来て理事会との顔合わせで正体を話したとき、その場にいたほとんどは皆、険しい顔や複雑な眼差しを投げかけていたという。
「そこで一人の理事殿の提案で、名前を変えて暮らすことになった。もちろん素性もね。思えばこれが間違いだったのかもしれない」
ここではないどこかを宙に見ながら、翠は続ける。
「我らは誇り高く孤高であるべきだ。人間の庇護を受けて、あまつさえ誉《ほま》れある名を踏みにじられるなどあってはならない。……おかしな話だが『両面』という呼び名は、人間が作ったものなんだ。人もラルヴァも、頭に血がのぼると得てして自分の矛盾に気づかないのは同じさ」
由良は黙っていた。黙りこくったまま、両面族の女の横顔を見ていた。半分顔で、半分お面。
外部との接触を避け、隔絶された場所で旧態依然と生きる両面族は、不干渉を続け、生物としての生存競争からも退いてしまった。
「郷を支える数が減れば、それだけ文化も伝統も早く衰退していく。もう変えられないことかもしれないけどね。それでもわたしは、時に身を任せたまま、郷が滅んでいくのをただ憂いているわけにはいかなかった」
だから翠は一族の代表として、
双葉学園に正式な助力を求めた。
「学園側は両面族《こちら》の存在を古くから知っていたけれど、さっき言った昔の争いのこともあって冷えきった関係だった。むしろ敵対していたといったほうが正しい認識だろう。だが、お互いに組織は一枚岩ではない。わたしが学園と友好を結ぼうとしたように、学園にもラルヴァとの和を尊《たっと》ぶ御仁もいた。条件は多々あったが、学園はわたしたちを受け入れてくれた」
その反動が、これだ。
「わたしたちとは別に、郷の未来を憂慮した一部の者が、郷の宝とも呼べる勾玉《まがたま》を盗み出し、それをどこかへ隠してしまった。大方、学園にでも奪われると思い込んだのだろうね。そしてどういうわけか、わたしのいるこの学園島に勾玉があるという報告を受けた」
はっとして由良がようやく声に出した。「それが先月の六人……」
「どうやら刀工職人の装飾材に使われたらしくてね。元が小指ほどの小さな勾玉で、多少の魂源力《アツイルト》を増幅させる効果があったから、六つすべてが
異能力者の手に渡っていた。彼らには申し訳なかったが、事情が事情だから少しばかり強引な手を取らなくてはならなかったのさ。まあ、中には話しに納得して快く返してくれた子もいたけれど」
噂の段階で事件が終息したのは、各人に学園から正式な説明がなされたかららしい。
「事情は大体わかりましたわ」
「と言っても、まだ全て信じてはいないという感じだね」
「当然。ひとまずはそれで納得するというだけです」
「手厳しいな」翠は大げさに肩をすくめてみせた。
「あとは一昨日の事ですわね」
その返事に、意外なところから答えがあがった。
「スクナ様、申し訳ありません。その件に関しての非は自分にあります」
ベンチに座ったままの二人の前に、津志雄がきっちりと正座している。二人、というよりは翠の真正面に跪《ひざまず》いているというのが正しいか。由良と対峙したときと違って、妙にかしこまったな喋り方をする。
「だいぶんにやられたようだね、まだ体は痛む?」
と、津志雄の態度を当然のように翠はかまわず訊いた。
「毛ほどにございません」下げた頭のまま片目で由良を一瞥する。「しかしながら、かような小娘に不覚を取るとは我が両面族の名折れ、どうかこの不甲斐ない自分を」
「津志雄、今はそれは重要なことじゃない。キミが関わった一昨日の件というのを話してくれ。それと付け加えるが、人前ではわたしは翠だ」
翠の思いがけず厳しい口調に由良が驚き、津志雄は砂を噛み締めるような歯切れの悪さで言う。
「一昨日の一件は自分の独断でやったことであり、スク――姉さんの手を煩わせるつもりはありませんでした」
「前置きはいい。それで、キミは学生に危害を加えたのか?」翠の語気には苛立ちが垣間見える。津志雄の不始末が、郷の再興に差しつかえることを懸念しているのだろうと由良は思った。
「は? いえ、あれは郷の勾玉を学園島に運んだ者を誘い出すための狂言強盗。いわば罠です」
「狂言? どういうことですの」
ついて出た由良の疑問に、津志雄はふんと鼻で笑い飛ばすと得意げに話し始める。
「すでに六つの勾玉は姉さんが回収し終えていたが、とある情報からそれを奪おうと画策する輩《やから》がいると聞いてな。そこで俺自身が、まだ別に勾玉があると誤った情報を流すために囮になったってワケだ」
「となれば事の真相は」
「そうだ。だから誰も傷つけていなければ、誰にも迷惑はかけていない」
顔を上げ、どうだと言わんばかりな威勢の津志雄だったが、遮るように翠が口を開いた。
「自作自演とは……
風紀委員殿にとっては迷惑な話だろう」
ビクゥ! と肩を震わせ、再び頭《こうべ》を垂れる津志雄。
「被害に遭った中等部って、あなたでしたの?」
平均的な中学生の身長よりやや高い由良が女ということを差し引いても、同学年の異性で彼女の頭ふたつ分も背丈のある生徒などほとんどいない。由良は拳で軽く口元を隠して、津志雄の顔に向かってもう片方の手で指差した。
そしてぼそりと呟く。「言われてみれば老け顔……」
「おい、指をさすな!!」
違和感は不意にやってきた。
由良たちの周りをあてこすりながら流れていた夜の冷気が、横から何かで仕切られたようにぷっつりと途切れた。自動ドアが閉まる寸前に駆け込んできたような風が、ふわりと三人のもとに運ばれる。
「空気が停まった」
翠も気づいたらしく、ベンチから立ち上がると、暗闇に目を向けて言った。
「何か、妙ですわ」
津志雄は相変わらず正座したまま、周囲を見渡している。警戒というより、翠がそうしているからそれに倣っているだけの意味が強い。
「キミ、あー名前はなんだっけ」
「那由多由良」
「じゃあ那由くん。携帯機能のある学生手帳を持っていたら、どこでもいいから電話をかけてもらえないか」
「那・由・多が苗字ですわ」
由良がコートのポケットからモバイル手帳を取り出し、手首を軽くスナップさせてディスプレイを開いた。が、ぱちりとすぐにしまう。
「圏外ですわ」露骨に不信感を滲ませて訊いた。「どういうことですの、これ」
答えず翠は手近な小石を拾うと、靴のつま先で芝生を叩いた。そして地面の感触を確かめてから、目線より少し斜め上に形のいいフォームで遠投した。放物線という緩やか軌道ではなく、小石は比例グラフのように直線的に飛んでいく。常人離れした力。それは津志雄と共通しているが、頭に狐面をつけている以外やはり姿かたちは由良と違わない。翠の投げた小石はあっという間に闇へ消える。同時に、かつんと硬い反響音が耳に届いた。
「空間が閉じている」
「姉さん! 何者かが結界を張ったんですどわァ!」
ようやく事態を呑みこんだ津志雄が体を起こそうとしてひっくりかえった。足が痺れてしまったらしい。それを無視して翠は由良に向き直る。
「多由良くん、先に謝っておくよ。面倒に巻き込んですまない」
「わざとですよね? 人の名前が区切るとこ分かりづらいと知っててやってますわよね?」
しばらくじーっと見つめあったあと、
「てへっ」翠は学院生にあるまじきウィンクと作り笑顔で応えた。
手に掛けた国綱がギリギリと声にならない悲鳴をあげている。
「『稀代《きだい》の宿儺《スクナ》』と謳われしそなたが、こうも易々と術中に嵌《はま》るとは拍子抜けぞ」
そこに老齢な第三者の声が割って入った。由良たち三人は、糸で引かれたように一斉にその方向へ振り向いた。闇の帳《とばり》を潜り抜けたように、すっと人影が現れる。
「堂仙《どうせん》殿」
その姿を認めた翠が名を呼んだ。
老人は一人だった。全身を包み込む暗色のクロークを纏《まと》い。唯一露出している顔には、深く刻まれた額の皺《しわ》の下で力強い双眸《まなこ》が開いている。きりっと背筋を伸ばし長い白髪を後ろに絞ってまとめた姿には、若者と遜色ない気風が漲《みなぎ》っているのを感じられた。
「郷の重鎮の一人であるあなたが、なぜこのような場所に?」
「そこの馬鹿者はともかくとして、そなたがここに来て愚問を吐くとは思わなんだわ」
「なんだと!」
そういうことには察しの良い津志雄が叫ぶのを、一歩前へ踏み出した翠が手で制した。
「このような状況であるからこそ、わたしはお尋ねしているのです」
感情を押し殺した声で翠が言う。堂仙は響きのいい低音で答えた。
「郷の宝の回収と、それを持ち出した者の処罰」
時代劇の大名の重臣会議で見る、ゆっくりと評定を述べる家老のような喋り方である。
「ふん、勾玉はもう姉さんが集め終えている。盗んだ者もすぐ捕まる。あんたの出る幕じゃない」
「馬鹿者が。まだ分からんのか」
「あなたたちに盗みの罪をおっ被せて、その勾玉を手に入れると言ってるのでしょう、この老人は」
嘆息した由良は一人ベンチに座りこむ。身内の話は身内でやればいい、と最短の時間で結論を下した。
「じゃあ、俺が聞いた勾玉を狙ってる人物がいるってタレコミは」
「あの噂を流したのは儂《わし》だ馬鹿者」
「酷い道化《ピエロ》はですわね……」
由良が呟き、翠は無言で夜空を仰ぐようにして、右手で顔を覆う。
「この場合は当然、すでに勾玉は堂仙殿の手にあるのでしょうね」
「これほど淀みなく事が運んだことに、そなたの罠ではないかと空恐ろしく感じたぞ」
てるてる坊主のような堂仙のクロークからぬっと手が伸びた。指と指の間には色鮮やかな六つの勾玉が挟まれている。
「あっさり奪われてるんですか」
「郷から学園島へ移住した者は全員が住所を知られている。それは連絡を取りやすくするためであって、同郷から襲撃されるなど、欠片も想定していないからね」
苦々しそうに翠が吐き捨てた瞬間、由良の目の前で彼女の体が膝からがくりと折れた。同時に後ろで立っていた津志雄も、受身もなしに顔から倒れた。
「何が――」
「爺ィ!!」
「忘れたか、この辺りには儂が界を結んでおる」
大きな反応を見せず、堂仙は冷ややかな目で二人を見下ろしている。
「宿儺の名を冠した身でありながら、儂の動向に気を配らないその体たらく。『宿儺』とは、我ら両面族を体現する名であって、馬鹿者の称号ではないのだがな。落ちぶれたものだわ」
「信頼の裏返しだったと思っていただければ、嬉しいところですが」地面にべったりな津志雄と違い、翠は両手と膝をついてなんとか堂仙の術に抵抗する。涼しげな表情だが、額には玉のような汗が浮いている。「堂仙殿、あなたはこんな遠回りなやり方でなく、真っ向から挑む御仁であったはず」
「老いぼれがそなたらに正面からやり合えば結果は必定。元より儂の『般若の面』は術や奇策に長けた智恵の面。どこぞの馬鹿者でもあるまいし、仮にも宿儺のそなたを相手にそこまで頭は堅まっておらんよ」
すでにそれが決定事項であるかのように、堂仙は厳かに告げる。
「郷は儂が立て直す。そなたから宿儺の名を奪った後でな」
「世迷い言を」翠が小声で吐き捨てた。
そこでようやく堂仙は由良に視線を向けた。
「そこな小娘よ、儂の『鬼やらい』は人の子には効かん。両面族でなければ境界を出入りをするのに造作ない。早急に立ち去るがいい」
威圧をこめた眼光で、静かに言い放った。
「邪魔立てするのなら、命はない」
喫茶店〔ディマンシュ〕の外の通りが眺められる窓際席で、唐橋《からはし》悠斗《ゆうと》は狼狽えていた。テーブルを挟んだ向かい側の相手は、追加注文が運ばれるまでのあいだ、手持ちぶさたそうに爪の手入れをしている。毛先の柔らかそうな栗色の長髪を腰まで垂らし、豊満なスタイルをおくびもなく誇示し、椅子の座り方やカップに添える手の運び方、それらを上品に魅せる仕草が自然で女性らしい。のだが、
「あの……そろそろ帰ってもらえませんか」
悠斗は心底うんざりした様子で静かに言った。
「つれないわね」
目の前の女(厳密には悠斗と一つしか年齢の違わない少女だが)、弥坂舞は頬を膨らませて言い返した。
学園島での生活も落ち着いて、自分に使う時間に余裕が出来始めた頃、渡りに船とばかりに、悠斗は学園の掲示板で手頃なアルバイトをみつけた。さほど華美でない店構えや仕事がそれなりに気に入ったまでは良かったが、まさか見知った人間が働いているとは露にも思わない。
「かれこれ二時間、コーヒーのおかわりだけでいくら粘るつもりなんだよ」
「あたしが飽きるまでかしらねー。お店もいい雰囲気だし、気に入っちゃったかも」
「少しは店の迷惑を考えて……」
「あら、そういうことはお店の人が決めることでしょ。ねぇマキナちゃん?」
いつからそこにいたのか、盆にふたつのカップを載せたウェイトレスの森村マキナが隣に立っていた。突然呼びかけられたことに驚くことなく会釈を返し、丁寧な手つきでテーブルにコーヒーを置いてゆく。
「それだけくつろげる場所になっているのなら、わたしは歓迎ですよ」
ほーらと、弥坂はカップに口をつけながら目配せしてくる。 それから窓の外へちらりと視線を巡らせると弥坂は言った。
「でもこの季節は昼も短いし、夜中まで女の子が働くのはお姉さん感心しないなぁ」
「自分の心配はしないんだな」
悠斗は独り言のように呟いたが、弥坂は目ざとくそれを拾い上げる。
「あたしのこと気遣ってくれるの? でもいいのかしら、マキナちゃんがいるのに他の女にコナかけちゃっても」
「どうしてあんたはすぐそういう話にしたがるんだ!」
「ふふっ、わたしはマスターに帰りはいつも寮まで送ってもらっていますから、大丈夫ですよ」
お盆を胸のまえで抱えて笑みを隠しながらマキナが言う。
「残念ねえ悠斗くん、送り狼の出番はないみたいよ」
本気なのか冗談なのか分かりづらい軽口で答えて、メニュー立てに挟んであった伝票を掴むと立ち上がった。
「さて、と。お姉さんはそろそろお暇《いとま》しましょうかしらね。マキナちゃん、お会計よろしく」
マキナに先を促して、弥坂はスカートより丈の長いコートを羽織りにストールを首に巻きはじめる。慌てて悠斗が財布を出すより先に、弥坂がそれを遮った。「奢るわよ。可愛い後輩君には先輩風吹かせておかないとね」
「マジか! そういうことなら遠慮なくありがとうございます!!」
ドーモゴチソウサマデシタ! とやや大げさなリアクションで頭をさげて感謝する。
本当のところ、今月はお財布の事情が厳しいのである。最近になって、友人の鵜島《うしま》に誘われたゲームセンターで思いがけず散財してしまい、気がつくと専用のプレイカードまで作ってしまった始末だ。〔ディマンシュ〕でくつろいだりするが、唐橋悠斗は根っこのほうでは苦学生なのだ。だが、金にがめついわけでもないし、ましてや守銭奴ではない。出費を抑えるところは抑え、そのぶん使うべきところでは惜しみなく投資する経済的思考だ、と常々自身に言い聞かせている。アルバイトもその一環だった。
「……なんかだか現金すぎる態度がムカっ腹だけど、まぁいいわ。明日のシフトは今日より少し早いこと忘れないでね」
バーイと、弥坂はこちらも見ずに手を振って店を出て行った。清算を済ませたマキナが戻ってくる。
「お疲れ」
「唐橋さんこそ、お疲れ様です」
「うん? あー、どういたしまして?」
気のない返事をする悠斗だが、マキナが言っているのは弥坂のことだろうと思った。
弥坂と〔|ディマンシュ《ここ》〕にいた時間の大半は、幼馴染がうるさいとか店の常連の子に友達が少ないだの、彼女の身の回りの世間話ばかりだった。仕事でのアドバイスも的確で、世知にも長けて良い先輩なのだが、そういう女子高生全開なところは、悠斗としては苦手なタイプなのかもしれない。
そして、大きな欠伸が悠斗の口から漏れた。まだ仕事気分が抜けていなかったのだ。弥坂が帰ってからようやく疲労感を覚え、それを自覚すると急ふわふわした眠気が瞼《まぶた》を押さえてくる。
「客はもう俺だけなのか」
目をこすりながら眠気から逃れるように、思わずマキナに訊いた。子供っぽい仕草が面白かったのか、いつもこの店でピアノを弾く少女を見守るような穏やかな笑顔で応える。
「いいえ、唐橋さんの他にまだ奥の席に三名ほど」
軽く首を振って、白い手で通路の先にある隅のテーブルを指す。
「気がつかなかった。よっぽど疲れてるのかな俺」喋っていてもまたうつらうつらとしてきたので、悠斗は気付《きつ》けがわりにコーヒーを一気に流し込む。
「ふふふ、よかったら祈ちゃんの毛布でも貸しましょうか? 悠斗くん」
「――おぶッ!?」
出し抜けに名前で呼ばれて唐橋悠斗が咳き込んだ。何か言いたかったけれど、気管に熱いコーヒーが雪崩れこんできてそれどころではない。
「ご、ごめんなさいっ! 弥坂さんが呼んでいたのを真似したつもりだったんですけど!」
驚いたマキナが背中をさすってくれていると、離れた席から騒がしい声が聞こえ、
「何いきなり言い出すんですかあなたはッ!!」
「いや、郷の繁栄と学園島との友好にはやはり縁《えにし》を結ぶのが手っ取りばや」
「姉さん!! どうして俺がこんな野蛮な女とけ、けけけ結婚を前提に付き合わなきゃならないんですか!?」
「私だってこんな父っちゃん坊やみたいな面《ツラ》は御免被りますわ!」
「や、拳と拳で始まるロマンスとか、ね?」
「「知るかー!!」」