そうして俺たちは仲良く手を繋いで池のほとりを歩いていた。
彼女もいなさそうなさえない男子たちが俺のほうを恨めしそうに睨んでくる。
俺は得意げになって背筋を伸ばした。連中が羨ましがるのも仕方ないだろう。
留美子ちゃんは顔も可愛く、スタイルもいい。性格だって優しいし、そしてなにより今日から胸は特盛りだ。
ああ、おっぱい……。おっぱいは素晴らしい!
いつかこの巨乳を俺は揉むことができるのだろうか。勿論俺は紳士だから無理矢理なんてしない。留美子ちゃんが俺を受け入れてくれた時、俺は初めてこの巨乳に触れるのだ。そのためにも俺は留美子ちゃんに捨てられないように男を磨かなくてはいけないだろう。
俺がそう決意を固めていると、ふと留美子ちゃんが俺の服の袖を引っ張った。
「ゆーくん。あれ」
そうして指差したところにあったのは、涙目になっている子供の姿だった。どうしたんだろうかとよくよく見てみると、どうやら手に持っていた風船が手を離れ、木の枝に引っかかってしまっているようだった。
なんてベタなデートイベントなんだ!
男を磨くチャンスである。俺はその子供のところにさっと駆け寄った。
「どうしたんだい少年。おっと、言わなくてもわかってるよ。風船が木に引っかかっちゃったんだね。この頼もしいお兄さんに任せたまえ!」
ぽかんとする子供の痛い視線を無視し、俺は木をよじのぼってなんとかその風船を掴みとった。不審者を見るような目で俺を見ていた子供だったが、俺がそうして風船を手渡してやると「ありがとう」と呟いた。
「ゆーくんかっこいい!」
一部始終を見ていたる意味子ちゃんが俺の腕に抱きついた。
ぽよよ~~~~んという凄まじく柔らかな感触が俺の腕に伝わり、気持ちよさに背筋がぞくぞくとした。
これがおっぱい……。
こんなつもりで子供を助けたわけじゃないんだよほんとだよ。でも留美子ちゃんが抱きついてきたんだからしょうがない。俺は地面につくぐらいに鼻を伸ばした。
「ああ……」
だが喜ぶ俺とは逆に、子供は残念そうな声を上げた。
よくよく見ると、風船はしぼんでしまっていた。どこかが破けたわけではなさそうだが、長い間木に引っ掛かっていたせいか空気が抜けてしまったようだ。
これじゃせっかく取ってもしょうがなかったな。気の毒だけどどうしようもない。
慰めてやろうと俺は子供の頭に手を置いてやろうと思ったら、すっと俺の隣を留美子ちゃんが通り過ぎた。
「大丈夫だよ。ほら」
そしてそう言って留美子ちゃんが風船に触れた瞬間ぽんっと風船が一瞬にして膨らんだ。
「え?」
まるで手品でも見ているようだった。
俺が戸惑っている間に、留美子ちゃんは子供の頭を撫でていた。羨ましい。
「ね? 大丈夫でしょ」
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
子供は満面の笑みでそう言って、留美子ちゃんに手を振ってその場から立ち去った。
「ねえ留美子ちゃん。今何したの?」
戸惑う俺に対して留美子ちゃんは「べ、別になんでもないよ」と慌てて手を振ってまた歩き出した。
ううん。なんだったんだろう今の。
まあいいか。きっと俺が見えない間に空気を吹きいれたんだろう。特に気にせず俺もその場から離れた。
それから俺たちはまた公園内を散歩した。
すると今度は自転車のタイヤの空気が抜けてしまった女子と出会ったが、これまたなぜか留美子ちゃんが治してしまった。
「応急処置だからすぐまた空気抜けちゃうと思うの。だから帰りに自転車屋さんに寄った方がいいよ」
と留美子ちゃんは女子に言った。
ううむ。怪しい。
いったい何を留美子ちゃんはしているのだろうか。
そう思い悩んでいると、留美子ちゃんが何やらチラチラと時計を見て時間を気にし始めていた。
「どうしたの? 何かこれから用事でもある?」
「う、うん。今日はちょっと早めに帰らないと。ごめんね」
留美子ちゃんは心底申し訳なさそうにそう言った。何の用事かは詮索しないけど、俺はちょっと残念だった。でも仕方ない無理に引きとめるわけにはいかないだろう。
「そっか。じゃあもう帰ろうか」
「うん……ごめんね」
留美子ちゃんも残念そうにしゅんっとした。
そうして公園から出て街へ出ると、何やら大騒ぎが起きていた。
「人生に絶望したー! 死んでやるー!」
そんな叫び声がビルの屋上からしてきた。どうやら飛び降り自殺しようとしているようだ。みんな心配そうに「死ぬなー」「生きてりゃいいことあるかもよー」と励ましながら、
風紀委員や警察が来るのを待っていた。
しかし、屋上にいる男は説得にも耳を貸さず今にも飛び降りそうだった。
「大変!」
留美子ちゃんはそれを見て駆けだしていた。
俺もその後を追いかける。いくら留美子ちゃんが困ってる人を見捨てることができなくても、この状況で俺たちにできることはない。下手したら落ちてきた男とぶつかって留美子ちゃんも危ないかもしれない。
留美子ちゃんは野次馬をかき分けて、ビルの前に出た。俺はそれを止めようと必死で追いかける。
だがその直後、男はぴょんっと、とうとう屋上から飛び降りた。
ああっという街の人たちの小さな悲鳴と、息をのむ音が聞こえた。
男は真っ逆さまに地面に向かって落ちて行く。もう駄目だ。誰もがそう思った。
しかし留美子ちゃんはそれに構わずなぜか地面に手を置いたのだ。
「留美子ちゃ――」
俺がそう叫んだ瞬間、それは起きた。
突然地面が、コンクリートの地面が大きく膨れていったのだ。それはまるで風船のようで、柔らかな弾力をもっているかのように膨れ上がっていく。巨大な地面風船と化したそれは落ちてきた男をぽよんっと優しく受け止めたのだった。
「みなさんお願いします。これは時間が来るとしぼんでしまうのですぐに救助してください!」
留美子ちゃんはそう叫ぶ。
飛び降りた男は目をぱちくりしながら茫然としていた。そんな男をすぐに街の住人が飛びかかって取り押さえる。
「うおー! なんだかよくわからんが助かったみたいだぞー!」
「異能者だー! きっと異能者だー!」
野次馬から歓声がわーっと上がった。
異能者……。そうかあれは異能だったのか。いつの間に留美子ちゃんは異能者になったんだ。
俺がぽかーんっと立ち尽くしていると留美子ちゃんは申し訳なさそうに俺のほうに近寄り、恥ずかしそうに言った。
「ごめんねゆーくん。わたしちょうど昨日異能が覚醒したの。どんな物体も触れると膨らませることが出来る異能なんだ」
黙っててごめんなさいっと頭を下げ、顔をまた上げた時にはゆーちゃんのおっぱいはぺったんこになっていた。
その理由は言うまでもないだろう。
俺はクスッと苦笑し、留美子ちゃんを抱きしめた。
「いいよ。気にしないで。俺は今日から貧乳萌えになるから」
俺がそう耳元で囁くと、留美子ちゃんは「バカ」と嬉しそうに呟いた。