これは後に学園史上最も激しかった一年として名を残す、藤神門鈴会長の元集まった、第二十代双葉学園醒徒会の一幕である。
春。選挙によって集まった
醒徒会の面々は、まだ慣れていないうちに、これから一年の活動計画を立てなければいけないとあって、それぞれ膨大な仕事を前に悪戦苦闘していた。
そんな中、部活動予算の承認会議で事は起こった。
「何なのこれは!? どう言う事か説明してください」
醒徒会室に副会長水分の声が響く。普段大人しい彼女が声を荒げるのは大変珍しい。
「何って部活動の活動予定だろ。何か文句あんのかよ」
書類を突きつけられた会計の成宮は、作業中のパソコンから目を動かさずに答えた。
「高校の天文部に、どうして電波望遠鏡とプラネタリウムが必要なんですか?」
その計画書の中には億単位、兆単位の金額が並び、水分の感覚では理解不能な世界の代物だった。
「えー、ダメなのか? プラネタリウム……完成したら一番に見に行こうと思ってたのに」
藤神門会長が残念そうにつぶやく。
「ホラ、会長様がいいって言ってんだ、文句無いだろ」
「そんな訳あるか、この莫大な資金の出所はどこだ? 会計監査として見過ごす訳にはいかん」
藤神門を味方につけて押し通そうとした成宮に、ルールが待ったをかける。
「資金? ああ、ちょっとしたバイトを紹介したんだよ」
「どんなバイトをすれば、電波望遠鏡が建てられるようになるんですか!?」
未だに興奮冷めやらぬ様子で、水分は机を叩く。
「それは言えねーよ。クライアントとの契約があるからな。契約ってのは信頼で出来てるんだぜ」
「私は、あなたを、信頼させて欲しいって言ってるんです」
「はっはっは、そう怒るなよ、すいぶんさん」
場の空気を換えようと、広報の龍河が水分に声をかけた。
「水分《みくまり》です。」
「ああ、スマン」
しかしそれは逆効果に終ったようだ。
「龍河さん、あなたも年上なんですからもっと、落ち着いた事を言えないんですか」
「創立したばかりで少ない部費に泣いている弱小部がバイトして設備を整えようって言うんだ。いい話じゃないか」
「うむ、せい春の一ページというヤツだな」
「アタシも、アタシもー、楽しい事には大賛成だよ」
龍河の発言に、藤神門と書記の加賀杜も同意のようだった。なぜこんな常識の通じない人たちが集まってしまったんだろう。
「とにかくそんな予算、認める訳にはいかん」
「そうです。非常識です」
やっと味方が現れ、水分の勢いが増す。
「なんだ? 会計監査、部活動に部員の持ち出し金は禁止か? 金額が大きいからって禁止にする事の方が筋が通らないだろう」
確かに、部活動に関することを部費だけで賄える部の方が少ないのが現状だった。
「個人の経済活動にまで口を出す権限は無いなという訳か」
今のところこれ以上の追求は無理と判断し、ルールは矛を収めた。
「そんな、ルール君まで……」
「うむ、決まりだな」
一件落着といった様子で藤神門が扇子を拡げた。
「水分も少し落ち着け、何も悪い事をする訳ではないのだからな」
「はい、少し感情的になっていたようです」
藤神門の一言で、水分もとりあえずこの場は引き下がった。
「そうだよ、りおの姉御。何事も楽しく行こうよ」
「だが、忘れるな。少しでも不審な点があれば、必ず報告してもらうからな」
ルールはそう言うと提出された資料を手に取った。隅々まで読み込んで荒を探そうということらしいが、ビジネスの世界で活躍する金太郎を相手にどこまで有効かどうか。
「ところで、成宮、そのプラネタリウムはいつ出来るんだ?」
「あ? 三月だぜ」
「遅い! 遅すぎるぞ成宮!」
完成の予定を聞いて、今度は藤神門が叫んだ。
「これでもオレだからできる日程なんだが……、よし良いだろう」
成宮は再びノートパソコンに目を落とした。
「庶務、予算を倍増して工期を三分の一に短縮する。照明関連の資料を持って来い」
「おう。って先輩をナチュラルにパシリに使おうとするな」
これまで話題に上らなかった早瀬は、いきなりのパシリ扱いに異議を申し立てる。
「それと連中に話を通しておけ、打診するだけでいい。交渉は俺がやる」
「だから……、ああ、もうわかったよ。行ってくれば良いんだろ! 行ってくれば。くそぅ」
そんな捨て台詞を残し、早瀬は目にも止まらぬ速さで駆けていった。