東京湾に浮かぶ
双葉学園、そのはるか上空。成層圏の向こう側に人工衛星が浮かんでいた。しかし、その人工衛星の一角にあるはずのないものがそこにはあった。
それは人影であった。
少年らしき人物が宇宙服も着ずに学ラン姿で人工衛星の角に立っていたのだ。
その少年は黒い宇宙と輝く星々を背に悠々とそこに存在し、少年は片目が隠れるように長い前髪に、後ろ髪は流線形を描くようにウェーブがかかっていた。
一瞬宇宙人がそこにいるような、そんな神秘さを感じさせる雰囲気を感じさせる少年である。
『調子はどうだヒカル。能力に不具合は出ていないか』
その少年、一番星《いちばんぼし》ヒカルは通信機の声に答える。
「問題ないよ古畑先生。いつでも出撃可能だ」
『そうか、ならば作戦決行と行こうか』
先生と呼ばれた通信機の男は、声の質から老練さが伺える。二人には何か人にはわからない信頼で結ばれているようである。
少年は人工衛星から足を離し、宇宙に飛んでいった。
しかし彼は無軌道に飛んでいくわけでもなく、自分自身の動きを制御できているようである。これは彼の能力の応用によるものであった。
一番星ヒカルは典型的なサイコキノである。
酷く凡庸な超能力の一種ではあるが、それ故にその応用力は高い。高レベルのサイコキノであるヒカルは、念動力《サイコキシネシス》で宇宙空間での動きを操作している。また、念動力のエネルギーを圧縮して、力場を形成し、身体全体を包み込み、擬似的な酸素ボンベを作り出して宇宙空間でも呼吸ができるのである。宇宙での低い気温も、自身の肌を刺激することで熱を発して、凍死を防いでいる。
(しかし、空気が持つのは精々二十分程度ってところか。早めに決着をつけなければならないな)
異能者を育てる双葉学園、その高等部一年Z組に所属する彼は、突然今日の任務を言い渡された。宇宙に突然飛来した
ラルヴァの調査というものであった。
ラルヴァの存在などは秘匿されているため、大規模な操作はできない。故に単独で宇宙で活動できるヒカルに今回の任務が回ってきたのである。彼の念動力をもってすれば、自分自身を宇宙船のように飛ばして成層圏を越えることも不可能ではなかったからだ。
(まったくついてないな。今日は七夕だってのに。みんな学園で色々イベント楽しんでるんだろうけど僕みたいな奴の苦労もわかって欲しいね)
『気を抜くなよヒカル。問題の地点まで誘導するからしっかり私の言うことを聞くんだぞ』
「へいへいわかってますよ」
通信機の男、古畑は、今回の任務を担当している実戦教師である。彼自身は異能者ではないが、こうして任務をこなす生徒たちに指導をする優秀な教師である。
ヒカルがふわふわと地球の上を漂っていると、やがて“それ”が見えてきた。
まだ距離は随分離れてはいるが、あまりに巨大なもの故にそこからでも見ることはできた。なにしろ周りには何もないのだから、“それ”が目立つのも仕方の無いことである。
「なんだありゃ。なんの冗談だよ」
“それ”は巨大な笹であった。
いや、正確には笹のようなもの、と言ったところで、緑色の細い枝のようなものが宇宙に漂っていたのである。遠目から見たらそれは笹のようにも見える。今日が七夕ということもあるのだろうが、一瞬ヒカルはそう勘違いしたのである。
「あの笹みたいのがラルヴァなのか、そもそも生き物なのかあれは?」
『わからない。ゆえに今回の任務は調査なのだ。危険と判断したらそのまま討伐任務に変わる、気を引き締めろヒカル』
「あいよ。まかせろって」
ヒカルは念動力で浮遊の速度を上げ、笹ラルヴァに近づいていく。
目の前まで近づくと、その笹ラルヴァの巨大さがよくわかる。それは全長二十メートルはゆうにあり、枝のようなものは何本にも枝分かれしており、普通の笹よりも不恰好で、不気味で不可解な存在であった。
「ふぅん。あまり敵意は感じられないな。しかしこの笹ラルヴァなぜ突然宇宙に現れたんだろうか」
『この笹ラルヴァは毎年七夕になると現れるんだ。その理由は未だわからない。特に表立った攻撃をしてくるわけでもないから今までは放置していたが、今年はキミが入学してきたからね。宇宙空間で活動できるのはキミくらいなものだ』
「なるほど、ね。ようは当て馬ってことか。別にいいけどさ」
ヒカルは愚痴りながらも笹ラルヴァに接触を図ろうとぐんぐんと近づいていく。
しかし、突然頭の中に何かが響いてきた。
「ヘーイ。そこのエスパーボーイ。ちょっとウエイトするねー」
それは誰かの声であった。
ヒカルがばっと後ろを振り向くと、その宇宙空間には二人の人物がヒカルと同じように立っていた。
「ハーハ。そんな睨まないでくだサーイ。私たちは別に敵ではアリマセーン」
そんな声が頭に直接響いてくる。当然ながら宇宙は真空のため、音の振動は伝わらない。彼がつけている通信機のように骨に直接響かせる場合以外は声なんて聞こえない。つまりこれはテレパスによる脳会話であろうとヒカルは理解した。
そこにいる二人の人物は実に不釣合いな感じがした。
片方は若い男で、二十代前半といった感じの外国人であった。くせっ毛の金髪に黒いスーツを身に纏っている。
もう片方の人物は小さな女の子で、十歳前後のこれまた外国の少女である。綺麗に整った長いブロンドヘアに、ひらひらとフリルのついたドレスを着ている。
男のほうはヘラヘラとした軽薄そうな感じで、少女のほうは逆に表情ののっぺりした人形のような印象を受ける。
「誰だお前らは」
ヒカルは声には出さす、頭の中でそう念じる。
「誰だと聞かれたら答えてあげるが世のナサケデース」
どうやら声の様子では、男のほうがテレパスのようだ。彼は念波を送受信できるようで、テレパスではないヒカルの声も彼には届いているようである。
「私たちはステイツの異能者デース。私たちもこの笹ラルヴァの調査にキマシタ」
ヒカルはそれを聞いて少しだけ身構える。合衆国の異能機関である“アルファベース”は、軍に近い組織と聞いている。双葉学園のような育成機関とは少し毛色が違う。
「私の名前はジャンゴ・チョコレートサンデー少尉デース。ちなみに彼女はリリナ・フロール伍長デース。ヨロシクデス」
「僕は日本の異能機関の異能者、一番星ヒカルだ。それで、なんでまたアメリカの異能者がこんなところに?」
ジャンゴは指をちっちっちっと鳴らし、少しバカにしたようにしている。
「それはこっちのセリフデース。宇宙の管轄は我々ステイツのものデース。あなたには帰ってもらいたいデス」
「おいおい勝手言うなよ、宇宙は誰のもんでもないだろ」
その上からの物言いに少し腹が立ったヒカルは、ジャンゴを睨みつける。
「オーウ。ニポン人すぐ怒るネー。暴力よくないヨ。それとも私たちと“やる”んですか? 私はしがないテレパスですが、こっちのリリナ伍長はベリーストロングね」
ヒカルはジャンゴの隣で涼しげにしている少女、リリナに目をむける。彼女はどうやらヒカルと同じサイコキノのようで、同じように自分たちを宇宙空間を漂わせているようだ。だがリリナはジャンゴを含めて二人分を動かしているということは、ヒカルよりも上位の力を持っていることがわかる。ヒカルは自分自身を制御するだけで精一杯なのだ。それをあの少女は表情一つ変えずにいる。
『ヒカル、連中は合衆国の異能者か。ここは大人しく引いた方がよさそうだ』
「はっ、何言ってるんだ先生。あんなこと言われて引き下がれるかよ」
短気なヒカルは、目の前のムカツク外国人に怒りが沸いていた。
「まあイイデース。あなたも任務でしょうから見学は許しマショウ。同盟国と喧嘩はしたくありませんしね。ただし、我々の邪魔はしないでクダサイ」
ジャンゴはそう言いながら笹ラルヴァのほうに近づいていく。リリナは小さな手を動かし、ジャンゴの動きを制御する。
「この笹ラルヴァはまだ正体不明デスからね。私みたいなテレパスじゃないと解明できないデショウ」
そう言いながらジャンゴは笹ラルヴァの枝に触れようとした瞬間、突然笹ラルヴァの枝が動き出し、ジャンゴの身体に巻きついてきた。
「な、ナンデスカー! リリナ伍長助けてクダサイ!」
突然の笹ラルヴァの襲撃に、そこにいた三人が動揺していた。リリナは手を振りかざして、念動力の衝撃波をジャンゴに巻きついている枝に向かって放つが、また別の枝が動き、何やらシールドのようなものを張ってリリナの念動力を無効化している。
「!」
リリナはテレパスを介していないため、喋れはしないが、ヒカルにもリリナの焦りは理解できた。やはりこの笹ラルヴァは人間の敵なのか、討伐すべきかヒカルは迷っていた。
「何やってるんデスカ! 早く私をレスキューしなさいニポン人!」
「ちっ、しょうがねえ。おいリリナ伍長。二人で協力して攻撃するぞ」
ヒカルの声は届いてはいないが、リリナはアイコンタクトでそれを理解する。二人は一斉に念動力のエネルギーを笹ラルヴァに向かって放出する。
しかし、笹ラルヴァはバリアの張られた枝を鞭のようにしならせ、二人の攻撃を簡単に弾いてしまう。
「駄目か、なんて強力なエネルギーなんだ・・・・・・」
ヒカルが愕然としていると、ジャンゴの頭に細く分かれた枝が刺さり、侵入していく。
「アガガガ。な、何をされているのデスカ私は?」
ジャンゴは笹ラルヴァにされるがままであった。その細い枝はどうやらジャンゴの精神に介入しているようで、テレパス通信にもノイズが混じり始めた。
「ちっ、正体がまだわからないのに接触しようとするからだ――」
ヒカルもリリナもどうしたものかと考えていたところ、急に強い精神エネルギーが頭の中に流れ込んできた。
「ぐ、これは――」
どうやら笹ラルヴァはジャンゴのテレパシーを増幅して操っているようである。先程笹の枝をジャンゴに侵入させたわけはジャンゴのテレパシーをこうして意のままに操るためであった。
強く激しい精神の波が頭の中に流れ込み、ヒカルは気を失いそうになる。
あまりの苦痛にヒカルは目を瞑り、この衝撃が去るのを待った。
(なんだってんだこれは。畜生、今日は七夕だってのになんでこんな目に――)
やがて荒波のような精神波が収まり、痛む頭を抑えながらヒカルは目を開ける。するとそこにはありえない光景が広がっていた。
「な、なんだここは!」
そこは綺麗な自然が広がっている空間であった。
綺麗な森林に、透明で綺麗な川。まるで日本のどかな田舎の森の風景のようである。
周りには綺麗な花が咲き、芳しい香りがその場を包んでいた。
「そんなバカな、僕らは宇宙にいたはずなのに・・・・・・ここは何処なんだ!?」
ヒカルが混乱の中呆然としていると、後ろから人の気配を感じた。振り向くと、そこにはあの人形のような少女、リリナがいた。
「キミもここに飛ばされたのか?」
そう言ってヒカルはしまった、と思った。日本語で話しかけても通じないだろうな、そう考えていた。しかし、
「そうね。ここが何処かはわからないけど笹ラルヴァのせいで飛ばされたのでしょう」
リリナはそう答えた。その言葉はヒカルにも理解でき、彼女もヒカルの言葉を理解できているようであった。
「あ、キミは日本語が喋れるのかい?」
「いいえ、あなたこそ英語を――」
二人ともはっと気づいた。二人とも母国語で喋っているはずなのに何故か通じているのである。
「なるほど、僕たちの言葉が通じ合ってるのはここが精神世界だからか。どうやらこれは笹ラルヴァがテレパスを使って見せている幻覚ってことなのか」
「そのようね。テレポートで地上に戻されたのかと考えたけど、どうやらそうでもなさそうだわ」
大人びた口調でそう言うリリナの顔はやはり無表情である。この状況にも混乱していないようで、その強い精神が念動力の強さにも現れてるのかもしれない。
ヒカルはこの状況を報告しようと通信機をいじるが、どうやら無意味のようであった。
「無駄よ、ここはある種の閉鎖された空間だもの。本当の私たちはまだ宇宙空間にさ迷っていて、精神だけがここにあるのよ」
「それはまずいな。酸素が無くなったり念動力が切れたら地上に戻れなくなる」
「そうね、それは私も同じよ。早くこの状況をどうにかしないと」
しかしどうしたものかと立ち尽くしていると、突然綺麗な女性がその場に現れた。
「な、誰だ!」
その女性は日本の着物のような服を着ており、この花畑を歩いていた。ヒカルの呼びかけにも答えることなく、ただ花を摘んでいるだけであった。
「おいあんた」
とヒカルが肩を掴もうとした瞬間、手が女性の身体をすり抜けた。
「な、なんだこれ?」
「ふぅん。どうやらその人に話しかけても無駄のようね。その女性もこの背景と同じ映像でしかないのね」
「映像・・・・・・精神世界の産物ってことか。だとするとこれは誰かの記憶なのか?」
「記憶? 私やジャンゴ少尉は日本にきたことなんてないわ。それともこれはあなたの記憶かしら」
「バカ言え。生まれも育ちも東京の僕はこんな大自然見たこともない。だとするなら、これは誰の記憶なんだ。いや、遺された可能性が一つだけあるな」
「そんな、有り得ないわ・・・・・・」
ヒカルにはその可能性が無いとは言い切れなかった。ラルヴァの中には知性をもつものはいる。だとするならこのような記憶と精神を持つ者がいてもなんら不思議ではない。
「これが笹ラルヴァの記憶だとするなら、このラルヴァは地球に、それも日本に来たことがあるっていうの?」
「さあな。だがその可能性だってないわけじゃないだろう」
ヒカルとリリナはその女性を見つめる。着物を見る限り、これは大昔の日本の光景だと彼は考えていた。ならこの笹ラルヴァは、何百年も生きていることになる。
女性が花を摘んでいると、突然顔を上げて、笑顔になった。その視線の先を辿ると、新たな人影がこちらに向かってやってきた。
それもまた美男子であった。
綺麗な顔をした男がその女性のもとに駆け足で寄って来た。しかし奇妙なことに、その男性の服は着物ではなく、現代の服でも有り得ないような奇抜な服装であった。
それはまるで映画でよく見る宇宙人のようなシルバーの服。まるで宇宙服のようでもあるが、身体にフィットしていてかさばらないようだ。
「な、なんだあの人?」
「おかしいわね。ここが昔の日本ならあんな服。いえ、今でもあんな変な服装なんて着る人いないでしょう」
その男性と女性は互いに抱きしめあい、キスまでしていた。
それを見てリリナは少しだけ顔を赤くして目を逸らしている。
「おいおい、口では大人ぶっててもまだやっぱガキだな。あんなのが恥ずかしいのか?」
「う、うるさい!」
リリナは顔を真っ赤にしながらヒカルに蹴りを入れた。ヒカルは痛がりながらもこの人形のような少女でもこんな風に怒るのか、と少し安心していた。
「まあこの記憶の流れを見てみようぜ、何かここから脱出する手がかりが見つかるかもしれないからな」
ヒカルはリリナの頭をぽんぽんと叩く。リリナは少し頬を膨らませている。ヒカルはそんな彼女を見てこうしていれば普通の女の子みたいで可愛いな、と思っていた。さっきまでのは軍人として、ああいう態度でいたのだろう。この異常事態のせいで彼女の地が出てしまっているようだ。
「しかしジャンゴ少尉は何処にいるのかしら」
「ああ、あの人か。そういえば見当たらないな。多分あの人のテレパス能力がこの精神空間の依代になっているんだろう。だとするとあのジャンゴ少尉をどうにかすればあるいは――」
ヒカルがそう呟いていると、笑顔だった目の前の男性と女性の顔が曇っていった。何か不穏な空気が漂っている。
「どうしたのかしら、さっきまであんなに幸せそうだったのに」
「うん、なんだか変だ」
いや、どうも不自然に感じたのは、場面自体が変っていたせいである。場所は変わらずこのお花畑であるが、何時の間にか夜に変わっている。
「なんだ、いきなり夜に・・・・・・」
「どうやら記憶の映像を早送りしたようね」
よく見ると女性の着物も別の物に変わっている。どうやらさっきまでの光景とは日にちが違うようだ。そして何よりその精神世界の空を見上げると、それが何日かもよくわかったのである。
「これは、天の川!」
「・・・・・・きれい」
精神世界の夜空には、美しい星々の巨大な川ができていた。地上を圧倒するかのような星の集合体。精神世界の幻であるはずにも関わらず、ヒカルとリリナは今の状況を忘れるほどに感動していた。
「すげえ、こんな綺麗なの初めて見た。テレビや写真より何倍も輝いてる・・・・・・」
「私も、アメリカの都市部じゃあこんなの見れないわ」
「そうか、この記憶の中の日にちは七月七日、七夕なのか。現実の日にちも七夕だ、何か関係があるのか・・・・・・?」
しかし、その空の爽やかさとは対照的に、地上の男性と女性の二人はやはり悲しそうな表情をしていた。一体どんな運命がこの二人にのしかかっているのか、それはヒカルたちにはわからなかった。
二人の男女は涙を流しながら抱き合い、やがて決意のこもった表情で二人は身体を離し、距離をとっていた。
そして突然空が輝きだした。それは星の光とはまた別の、きっとこの時代にはありえない科学的な閃光がこの空間を照らしていた。
「な、なんだ。なにが起きてるんだ!?」
「まぶしい!」
眩い光が彼らの視界を奪うが、やがて光に慣れてきて空を見上げなおすと、そこにはまたもや有り得ない光景があった。
それは巨大な円盤。
ヒカルたちの時代の人間がUFOと呼んでいる飛行物体が光を放ちながら彼らの上空に飛来してきたのである。
「おいおいおいおいなんの冗談なんだこれは!?」
「いえ、これは本当にあったことなんだわ、ただの幻ではなく、実際にこの場所であった光景・・・・・・」
「まじかよ、だとするとあの珍妙な格好の男は宇宙人だってのか?」
「本当にそうなのかもしれないわ」
UFOの下にいるその男女は、最後にもう一度だけお互いを抱きしめ合い、唇を重ね、涙を流していた。
男は彼女に別れを告げるように手を振り、UFOから伸びてきた光に包まれて消えていった。女性は泣き崩れ、UFOは凄まじいスピードで夜空を駆けていった。
空に残ったのは美しく輝く天の川と、夏の歳三角形の星々だけであった。
「なんだったんだ今のは・・・・・・」
「これは、ただの男と女の別れの話よきっと・・・・・・悲しい別れの・・・・・・」
リリナは感傷に浸るようにそう呟いていた。
彼女もやはり女の子のようで、目の前の悲恋を見てなにか思うところがあるようである。
ヒカルはそんな彼女の横顔を見つめるが、茶化す雰囲気でもなさそうなので、何も言えなかった。ただ、目の前の出来事が一体何を表しているのかはわからなかった。
「男女の別れ・・・・・・か」
なんとなくやり切れない思いになりながらも、これからどうすればいいのかヒカルは考えていた。
しかし二人が途方にくれていると、突然場面が暗転し、またも強烈な念波が頭の中に濁流のごとく流れてくる。
目の前の美しい背景が崩れだしていく。
とてつもない精神感応の波に、ヒカルは頭を抑える。
「畜生、またこれか!」
今度は映像が見えることはなく、その代わりに誰かの声がヒカルの頭に響いてくる。
どうやら笹ラルヴァの力では、映像と音は別々にしか見せることはできないようである。無理矢理ジャンゴ少尉のテレパスを増幅して精神世界を形成しているためか、まるで衛星中継のテレビのように音がずれているのであろう。
「頭が割れそうだ、このラルヴァは一体何を僕たちに伝えたいんだ・・・・・・!」