アットウィキロゴ

【斗え! ゲッソー仮面】


 時坂祥吾は、間が悪い。
 だが注意して欲しいのは、間が悪いのと運が悪い事や不幸な事とは似て非なることである、ということだ。
 間が悪いというのは、つまりは「タイミングが悪い」という事だ。それだけのことである。
 故に。
 福引で賞品あたっても、何らおかしくはない。
「おめでとうございまーす! 三等のリゾート海水浴チケットです!」
 当選したのは、最近開いたリゾート地の家族用チケットだった。
 超豪華……というほどでもないが、海水浴場の傍にあるホテルの宿泊チケットである。
 それを手に入れたのはあくまでも運であり、間が悪いとかどうかは全く関係ない。
 だから。

「まさか……そんな、ああ……ありえません、そんな……!!」

 世界が終わるような顔をしないでくれメフィ。
 そう時坂祥吾は思った。
 ……彼女と一緒にいる時に福引があたったというのも、ある意味では間が悪いのかもしれない。



【斗え! ゲッソー仮面】



「しかしすごいねお兄ちゃん、うっわー、楽しみぃ」
 自宅にて。
 一観はその話を聞いて大喜びする。
「これ、最近出来たあれじゃない、大型リゾートの」
「ああ。海もあるしプールもあるらしい」
「すごいよねー、楽しみだよねー!」
 一観はうれしそうにはしゃいでいる。
 その笑顔だけで、祥吾は報われた気がする。
「ではしっかり準備しないといけませんね」
 メフィが言う。
「えっと、私達も……その」
 コーラルがそれに続き、上目遣いで言ってくる。
「……何言ってんの、当然でしょ? ほらほらここに、家族って書いてあるし」
 その言葉に、コーラルはうれしそうに笑う。
「しかし海か……久しぶりだな」
「海といえば?」
「海といえば!」
「「そう!」」
 祥吾と一観の言葉が同調する。

 そう、海といえば――





♪どこの烏賊かは知らないけれど
 誰もがみんな知っている
 ゲッソー仮面のおじさんは(お兄さんと呼べいっ!!)
 正義の烏賊よ美味しいよ♪


 BGMが海に響く。
 刺すような真夏の日差し、灼熱の白い砂浜を蹴って白い覆面の戦士が跳躍する。
 海上特設リングの白いマットに降り立つは……

『母なる大海原が生んだ純白のイカすファイター! 謎の覆面レスラー、ゲッソー仮面だぁあああっ!!』

 クルーザーに乗って解説が叫ぶ。
 砂浜に集まった観客達がいっせいに応援の声を張り上げた。

「うおおおおおッ! おい一観、生だよ、生ゲソ仮面!」
「さすが迫力違うよね、お兄ちゃんッ!」
 時坂兄妹もまた、拳を振り上げて応援する。
 そう、海といえばプロレスだ!

「……」
 その光景をメフィとコーラルは黙ってみている。
 というか、ちょっと引いている。
(え? 普通海と言ったら……もっとこう)
 気合を入れた水着が台無しだと思った。
 というわけで二人の水着の詳しい描写は避ける。今はもっと描写すべきことがあるのだ。そう……
『対戦者ぁ! その真紅のボディは返り血かぁ!? 多くのヒーローを血に染めてきた真紅の悪魔!
 その八本足は全てを貫く! オクトパニッシャーだぁあ!!』
 水柱があがる。
 その中から飛び出してきたのは、蛸を象った仮面をつけた真紅の悪役レスラー。八本の蛸足の触手を持つそれは、処刑人の名を持

つ魔人である。

「ちょちょちょっと祥吾さんっ!?」
「ん、どうした」
「あれ、どう見てもラルヴァじゃないですか!?」
「何言ってんだお前」
 祥吾は呆れ顔で言う。
「ラルヴァがこんな所でプロレスしてるはずないじゃん。あれは悪役レスラーだよ」
「そうだよ、ここは双葉学園じゃないし」
(ええ~~~~~~~~っ!?)
 祥吾たちの瞳は、純真だった。


『ゲストの灰児さん、この戦いはどうなるでしょうね?』
『そもそも何で私がこんな所にいるのか聞きたいんだけど』
『はい、実に見事な試合の予測でした、さすがは専門家! さて彼の予想通りに試合は進むのか』
『いや私はプロレス専門家じゃなくてだな、というか』
『さあ、ゴングです! 試合開始ィっ!』
「ぅぉりゃあああああっ!」
 ゲッソー仮面が走る。
 左足を軸にした回し蹴り。しかしオクトバニッシャーの触手によってからめ取られ、そのままリングロープへと投げつけられる。
「くっ!」
 オクトバニッシャーは、ロープの反動で跳ね飛ばされたゲッソー仮面へと走り、ラリアットを叩き込む。
 それも、腕で首へ、そして触手で頭、胸、腹、足へと……その触手を活かした、四段ラリアット攻撃――!
『出たぁ! いきなりオクトバニッシャーの伝家の宝刀、タコアシギロチンだぁーッ!』
「ぐはっ」
 マットにたたきつけられるゲッソー仮面。
 仰向けに倒れたゲッソー仮面をオクトバニッシャーは蹴り上げてうつぶせにし、そしてその無防備な背中に向かい、
『あ――――っと、まさかこれはぁ!?』
 触手を絡みつかせ、ドリルへと変える!
『タコドリルだぁーっ! これは危険、これはやばいッ!』
 唸りを上げたタコドリルが、ゲッソー仮面の背中を直撃する!
「ぐあああああああああああああっ!!」


「ひどい、フォールすればいいのにあんな……!」
 一観が悲鳴を上げる。
「大丈夫だ、まだ試合はこれからだ、ゲッソー仮面はこの程度じゃ負けないって」
 そういいながらも、祥吾の拳は不安を押し潰すように握り締められている。
「いやあの、プロレスじゃないでしょこれ、ドリルですよドリル!? というかあれどう見ても」
「ごめんなさい、私もどう見ても……」
 メフィとコーラルが言う。だが、
「悪役レスラーならドリルぐらい使うだろ」
 祥吾は一言でその質問を却下した。
 確かに、悪役レスラーに凶器攻撃はセオリーである。
 それがフォークだったりバットだったりするなら、触手ドリルだって何らおかしくない。プロレスは非情なのだ。


「とどめだあっ!」
 オクトバニッシャーがドリルを振り上げる。
 その一瞬の隙を縫い、転がってドリル攻撃から脱したゲッソー仮面は、そのまま背筋をバネにしてドリルを蹴り上げた。
「ぬうっ!」
「お前の攻撃パターンは知っている、とどめを刺す時に……大振りになる事はな!」
「おのれ、ゲッソー仮面め! 小癪な真似を……」
 歯軋りをするオクトバニッシャーに対して、ゲッソー仮面は指を振って笑う。
「違うな。そういう場合は、イカした真似を、って言うんだぜ?」
「ほざけぇえええっ!!」
 叫ぶオクトバニッシャー。
 その背中から八本の触手が襲い掛かる!
 だが――
「あイカわらずの触手攻撃か。だが――それならお前は俺には勝てない! なぜなら――」
 ゲッソー仮面も走る。そして……
「イカの足は――十本だからだ!」
 ゲッソー仮面の背中からもまた触手が走る。
 それはタコ足をかいくぐり、オクトバニッシャーの顔面に叩き込まれる。
「ぐはあっ!」


「ええええええええええ!? いやちょっ、あっちもラルヴァ!?」
 メフィが驚愕の声をあげる。だが、
「だからレスラーだって、メフィさん」
「レスラーなあれぐらい普通だろ」
 平然と観戦する二人にメフィはただただ首を振る。


「くそ、貴様ァッ!」
「そろそろ……ケリをつけようぜ!」
 右手から墨が噴出される。
 それが渦を巻き、螺旋状のドリルのようにオクトパニッシャーの眼前に突きつけられる。
「っ!!」
 渦を巻く隅がオクトパニッシャーの動きを拘束する。
 そして、ゲッソー仮面は跳躍し、ドロップキックを叩き込む!
 これこそがゲッソー仮面の必殺技――

「スパイラルインク・スクィッドハンマー!!」

 超高速でのドロップキックがオクトバニッシャーを貫く。
 マットに着地したゲッソー仮面の背後で、
「ぐ……ぅぉああああ!!」
 オクトパニッシャーが爆発四散した。

『決まったァ~~~~! ゲッソー仮面の必殺技ァ!! イカすぜぇ!!』

 ゲッソー仮面は指を天に突きつけて、勝利宣言をする。

「――カウントは、いらねぇな!」


 開場は勝利に沸く。
 それを見て、時坂兄妹もまたガッツポーズをとり、声援を送る。
 そしてメフィ達は、
(ええええええええええ!?)
 その光景に唖然としていた。
(今爆発しましたよね!? なんかすごいジャンプで飛んでキックしましたよね!? 相手が爆死しましたよ!? 異能者かラルヴァじゃ

ないと無理ですよね!?)
 メフィはそれを祥吾に告げる。いくらなんでもこれはおかしい。
「祥吾さん、あれどう見ても……」
 だが……
「何言ってんだ、お前。あれ見ろよ」
「え?」
 海からざばりと姿を現し、控え室に移動しているオクトバニッシャーの姿が。
「え、あれさっき爆発して……」
「プロレスだからな」
「ええええええええ!?」
 まあ確かにプロレスは入場の時の花火といい、火薬を使ったパフォーマンスはよくあるものである。
 だから必殺技を喰らって爆発四散するぐらい、基本なのだ。
「プロレスラーさんってすごいよね、お兄ちゃん」
「ああ、全くだよ」
「いやいやいやいやいやいやいや!」
 現実を直視しないメフィであった。




「すごかったよね、昼の」
「う、うん……」
 一観とコーラルは夜の砂浜を散歩していた。
「本当に……プロレス……好きなんですね」
「うん、大好きだよ。一家そろってプロレスファンだし」
「そうなんですか……」
「うん!」
 笑顔で頷く一観。
 その時、二人の耳に足音が聞こえた。
 振り向くと、
「へへへ、おじょ~ちゃんたち、こんな夜になにしてんの?」
「ナンパまちかな~? おにいちゃんたちとイイコトしようよ~」
 目の妙に離れた顔の、二人の男が笑っていた。



 祥吾とメフィは、それに気づく。
「祥吾さん、あれ……」
「な、一観たちが襲われてる?」
 祥吾は持っていたジュースのカップを握り潰し、駆け出そうとして――
 その祥吾と、メフィの肩にぼん、と置かれる手があった。
「?」
 それは二人の、たくましい青年だった。
「俺たちに任せろ」
「君達は此処で待ってろ」
 そう言って、一観たちの所に歩いていく青年二人。
 祥吾は、その後姿に――背中に既視感を覚える。
「まさか……」
 そして二人は駆け出し、
「変身!」
 一瞬で、その姿を変えた。
 純白の覆面レスラー、ゲッソー仮面。
 真紅の覆面レスラー、オクトバニッシャー。
(ええええええええ!?)
 メフィはその姿をみて驚愕する。
「祥吾さん、今あれ、変身しましたよ!?」
「そりゃ覆面レスラーだし変身するだろ」
「えええええええええええええええええええええええええ!?」
 そのメフィの驚愕をよそに、二人はドロップキックを男達に叩き付ける。
「ぐわっ!」
 直撃を受け、海に叩きつけられる二人。
「大丈夫か、君達」
「え……? ゲッソー仮面!?」
「さあ、彼らの所に行くんだ。ここは俺たちが引き受ける!」
 ゲッソー仮面とオクトバニッシャーは、一観とコーラルを安全な場所へと逃がし、そして海を凝視する。
 立ち上がってくる男二人。彼らは憎悪の視線をゲッソー仮面たちに向ける。
「貴様ら……よくも邪魔を!」
「邪悪なレスラー協会、インスマンス団の連中だな!」
「ちぃっ、女の子をナンパして我らのラウンドガールに洗脳・改造しようとした計画をかぎつけたかっ!」
「そんな計画は知らん!」
「なんだとぉっ!! ならば何故我らの邪魔をしたっ!」
「そんな事は知らん!」
 指を指して言ってのける。
「邪悪を阻み、正義の為に戦うのはプロレスラーの宿命だ!」
「ちいい! それに貴様……馬鹿な! 貴様は悪役のはず! 何故そいつに力を貸す!」
 男は、オクトバニッシャーに向かって叫ぶ。
「愚問だな。俺は悪役であって、貴様らのような悪党ではない!!
 そして、一度リングを離れたら……!」
「拳を交えた仲間と仲間!」
「拳は一つに重なって!」
「邪悪を討てと唸りを上げる!!」
「俺は真紅の処刑執行人! オクトバニッシャー!!」
「俺はイカした正義の戦士! ゲッソー仮面!!」
 二人の背後で、赤と白の爆発が起きた。
「おのれぇえええっ!!」
 インスマンス団の邪悪レスラーは、肩車の状態になる。
「合っ! 体! これぞ巨大レスラー、デビルマグーロ!!」
「くっ……!」
 その巨体に気圧されるゲッソー仮面。
「ひるむなゲッソー仮面!」
「判っている、ただでかくなっただけなど……!」
「甘いな、ただでかくなつただけと思うか……分離ィ!」
「何ぃっ!?」
 上半身と下半身が分離し、二人のレスラーへとなった。
 そしてそれらは、飛び掛りラリアット攻撃をしてくる。
「ぐっ!」
「はははははは、油断したな!」
 そしてそのままグラウンド技に持ち込んでくる。
「しまっ……」
 そう、ここでゲッソー仮面たちは重大なミスを犯した。
 それは、ここが砂浜だということだ。
「正統派レスラーなきさまらではリングの戦いに慣れているため、砂浜では思う存分に戦えまい! ましてや寝技から脱出など!」
「このまま砂の中に引きずり込んでくれる! ギョベ~ッベッベッベ!」
 彼らの言うとおりだった。砂に脚を取られ、これでは思うままに戦えない。
 だが……
「ぐぼっ!」
 絞められた苦痛ゆえか、黒い墨を口から盛大に吐き出す。
「ふははははは、どうした! もはや形無しだな……むうっ!?」
 そこで気づく。
 墨を盛大に吐き出した。
 それによって、砂浜は濡れ、硬くなる。
「まさか貴様、これを狙って……!」
「その通り! ましてや墨は固まれば、ガチガチになるのさ!」
 一気に絞め技から脱出するゲッソー仮面。オクトバニッシャーもまた同じである。
 そして……
「アルティメット・オクトパスホールド!」
 オクトバニッシャーはそのまま、八本の触手を使い、必殺ホールドをガキィ、と決める。
「アーンド……!」
 ゲッソー仮面が跳躍する。
「スクィッドパイルドライバー!」
 十本の触手で捕らえ、空中に持ち上げる。
「フィニッシュ!!」
 空中から流星のように叩きつけられ、二体の悪党レスラー、デビルマグーロは大爆発を起こした。




「すげぇ……!」
「本当、かっこいいよね!」
 感激する時坂兄妹。
 もはやメフィは、突っ込む気力すら失せていた。
(私が間違ってる……?)
 間違っているとか正しいとか、そんな事は関係ない。
 何故なら――真夏の海のプロレス、それはそれだけで十分なのだ!






 だが、彼らは知らない。
 その一部始終を、ホテル最上階から見下ろしていた視線を。
「全く、不出来なものだな」
「はい、お嬢様」
 和風の豪奢な部屋。そこから全てを見下ろすのは――敷神楽鶴祁。
「和の心が欠落している。やはり任せてはおけぬ。
 敷神楽グループ、プロレス部門の力を見せてやれ」
「了解いたしました、お嬢様」










最終更新:2009年08月28日 16:23
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。