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メリーの居る生活 六日目 - (2006/07/21 (金) 01:26:46) の最新版との変更点
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*メリーの居る生活 六日目
>4スレ目>>311
>作: ◆Rei..HLfH.
>『[[メリーの居る生活 五日目 前編・後編]]』の続編
>「おら、隆一起きろ。学校遅れるぞ」
>「ん~…」
>まどろみに漂う僕のことを、誰かが呼んでいる。
>「今日は登校時間が遅めだが、そろそろ起きねえとアウトだぞ」
>誰だ?…メリーか?
>「ったく…、仕方ねぇ。目覚めの接吻を受けろ」
>…この声は――――!?
>
>瞼を開けると、ヤツの顔が目の前で、どアップで展開されていた。
>「ぬぁらああああああああああ!!」
>「うおっと…」
>「ハアッ…!ハアッ…!」
>今朝一番の力を使って、【目覚めの接吻】を回避する。
>「グットモーニング」
>「…変態はお帰りください」
>爽やかな笑顔の変態に、悪態をつく。
>「つれないねぇ、こうやって幼馴染が起こしに来てやったのに」
>「…『変態が襲いに来てやった』だろ?」
>「起きねえと、食っちまうぞ?」
>「わかった、起きる。起きるから貞操は勘弁してくれ」
>なんだかよくわからない起こし方をされて、とりあえず一階に行く。
>
>「何だって、お前が家にいるんだよ」
>「行っただろ?起こしに来たって」
>「だってお前、学校はどうしたんだよ?」
>「まったく…早く覚醒しろやコラ」
>呆れ果てたといった様子で、肩をすくめ、
>テーブルに着いた僕にゲンコを繰り出す。
>「いてて、何しやがる…」
>「昨日どれだけ大変な思いしたか忘れたか?」
>「昨日…?……あー!!そうかそうか!!今日は文化祭だっけか?」
>昨日は幼女の面倒を見てたおかげで、すっかりさっぱり記憶から抜けていた。
>「ったく…今何時か見てみ」
>「え?」
>壁掛け時計を見ると、9時45分を指していた。
>
>「俺が起こしに着たことを感謝するんだな」
>「いい時計だろ?」
>「顔洗って来い。朝飯はの仕度しておいてやる」
>渾身のギャグを放ったつもりだが、スルーされる。
>大人しく顔を洗いに洗面台にフラフラと歩いていく。
>
>ジャー…
>バシャバシャ!!
>「フヒー!!効いたぁー…」
>冷水を顔面に浴び、思考が冴えた。
>委員長補佐は、10時20分に来てくれとか言ってたな。
>のんびり歩いても着く時間だ。
>「まぁ、早めに出るに越した事は無いか……ん?」
>タオルで顔を拭いていると、風呂場に誰かが入っていることに気づいた。
>おばあちゃんかな?
>「おばあちゃん、僕今日文化祭だから、良かったら来t―――」
>
>そこには、湯船に使って鼻歌でも歌わんとばかりにご機嫌なメリーがいた。
>「♪~♪♪♪~―!!………」
>こちらA21部隊、ターゲットに接触。
>さらに先方はこちらに気づいた、これからスキンシップを試みる。
>「……100点」
>「死ねぇ!!」
>メリーは近くにあった風呂オケを力いっぱい僕に投げつけた。
>
>ガチャ
>「おう、卵とかいくつか使わせてもらったぜ―って、どうした?デコ痛そうにさすって」
>「…男の勲章だ」
>おデコを撫でながら、リビングに入る。
>「そういえば、お前が朝飯作るのって久しぶりだな」
>「あー…二ヶ月ぶりって所か?」
>「まぁ、そんな所だな」
>テーブルを見ると、黄色い物が皿の上にてんこ盛りに盛られていた。
>「…相変わらず、玉子焼き好きなんだな」
>イスに座りながら、良い匂いを放つ玉子焼きを口に運ぶ。
>「卵こそ最強の食材だ。…よし、食うか」
>後片付けしていた俊二がテーブルに着く。
>「玉子焼き以外に、何か作れるようになった?」
>「いや、全然ダメだ」
>「玉子焼き作れて、何で他のが作れないんだよ…」
>「食材に対する愛情だろうな」
>「この前、沸騰したお湯に卵の『中身』をぶち込んで【ゆで卵】とか言ったよな?」
>「…愛情だ」
>玉子焼きを二人で黙々と食べているところに、メリーが部屋に入ってきた。
>
>ガチャ
>「ふぅ…」
>自分専用のパジャマ(新調)を着た彼女の頬は、
>軽く赤らめていて、まさに風呂上りといった感じだ。
>「お?おはようさん。今日は早いんだな」
>俊二が風呂から出てきたメリーに軽く挨拶をする。
>「あら、俊二までいるの?…あぁ、今日は文化祭だしね」
>「…なんで、メリーが知ってて君が忘れてるのかね?」
>「陰謀ですよ。騙されんでください」
>「…なぁ、メリー。お前も学園祭来るか?」
>「え?」
>「―ぶっ!?」
>何を血迷ったか、俊二がメリーを誘い出した。
>「総督、お待ちください!!彼女は危険です!!(モゴモゴ)」
>「どういう意味よ!?」
>「そのまんまだ!!(モゴモゴ)」
>「口に物入れて喋らないでよ!!」
>ドス!!
>「ごはッ!?」
>鋭いボディブローをまともに食らい、口の中の物を吐きそうになる。
>「おーっと。コーチから牛乳が差し出された!!ここで試合終了ー!!」
>俊二が棒読みな実況を交えつつ、僕に牛乳を差し出す。
>「んぐ…んぐ…くはぁ…」
>今の一撃にいろいろな物を衰退させられ、そのまま机にうつ伏せになる。
>「…で、その文化祭に私も行っていいわけ?」
>「あぁ、学校の売り上げに少しでも貢献しないとな」
>「出費は隆一持ちね」
>「金さえ入ればOKだ」
>僕が反論できない状態で、事が進んで行った。
>
>―――――――――――
>
>「隆一、鍵閉めた?」
>「おう。カバン持ってこなかったが、いいのか?」
>「今日は必要ない。荷物になるだけだ」
>「必要なのは財布だけ~♪」
>手さげ袋を持ったメリーが能天気にはしゃぐ。
>(手さげ袋は、お土産を入れるために持っていくそうだ)
>「やけにご機嫌だな…」
>「さて、のんびり行くか」
>
>午前10時
>学校にはのんびり歩いても10分でつく。
>僕達は三人並んで学校に向かった。
>
>「ところでさ、今朝はメリー早起きじゃないか?」
>「ん?」
>「いつもはもっと遅い時間に起きるはずだろ?」
>「あ~…。まぁ、気にしない気にしない」
>言いながらヘロヘロと手を上下させる。
>「何か隠してるだろ?たとえば昨日寝れなくて、眠りの浅いまま朝が来たとか」
>「そ、そんな事無いわよ?」
>裏返った声で言われても説得力無いな。
>「たとえば、文化祭が楽しみだったり?」
>「ち、違うわよ!!」
>あ、ムキになってる。
>「やっぱりメリーって子d――」
>「うるさい!!」
>シュル カチャ―
>ドス!!
>「ぐふぁ!?」
>
>メリーが何かを出した瞬間
>迅速の速さで、その『何か』が僕の横腹を突いた。
>横っ腹に激痛が走り、崩れ落ちる。
>
>「か…かはっ…」
>「おーおー、見事に入ったねコリャ」
>俊二が方膝を付いて悶えてる僕を覗き込む。
>「ふん!!」
>カチャ
>見ると、メリーは怪しく光る棒を折りたたんで、腰に下げたポシェットにしまっていた。
>「あれで突かれたのかよ…いってぇ…」
>ズキズキと痛む横腹は、さするのも億劫なほどダメージを負っていた。
>
>痛みが引いて来て歩き出した頃、僕らは目の前に見知った後姿を見つけた。
>
>「おーい山やーん!!」
>のそのそと歩いているクマ…もとい、幼馴染に声をかける。
>「あぁ!?」
>すぐさま鈍く光る目がこっちに向けられる。
>
>「…んだよ、お前らか」
>「おっす」
>「よう、大将」
>近くまで行き、挨拶する。
>「おう。お前らも20分登校か?」
>「まぁな、お前地に戻ってるぞ」
>「おっと、………」
>俊二に指摘され、山やんはあわてて不良の仮面をかぶる。
>『地』とは、山やんの性格の事である。
>「………」
>「………」
>山やんとメリーの目が会った。
>このまま乱闘に発展するかと思ったが、意外にも…。
>「ッチ…」
>「フン…!!」
>お互いそっぽを向く。
>「何やってんだ?お前らは」
>「何か通じるものでもあったんだろ?」
>「いや、そうは見えないけどな…」
>
>「――ん?」
>俊二と話していると、山やんが何かに気付いた。
>「どうした?山やん」
>「あぁ…お前ら、先学校行ってな…」
>「またか…?ご苦労なこったな」
>「?…え?」
>状況を理解していないメリーが、一人困惑している。
>「先行ってるぞー」
>僕はメリーの手を引いて、さっさと歩く俊二に付いて行った。
>「……………フン」
>山やんは、無愛想に返事をした。
>
>「ねぇ、隆一どうして山…やん?を置いていったの?」
>しばらく歩いたところで、メリーが聞いてくる。
>「あぁ、他校の学生が山やんを倒そうとして、よく待ち伏せしてるんだ」
>「ずいぶん前から付いてきてたみたいだが、しびれ切らして出てきた…って所か」
>それに気付いていて、何故山やんに教えないのか…この男は。
>「…もしかして、日常茶飯事なわけ?」
>メリーが訝しげに聞いてくる。
>「どんぐらいの割合かな?」
>「二日に一回は確実に来るとか言ってたな」
>改めて考えると、山やんは凄い奴だ。
>…まぁ、僕の左には互角に山やんと渡り合える委員長と、
>右には、本気を出せば山やんを倒せるであろう女性が居るのも事実だ。
>
>「山やんの事だ、3分もあれば終わるだろ」
>「まぁ、奴もそれを予想して早めに出てきたのだろう」
>「あんた達…変わってるわね」
>メリーが付いていけないといった様子で、ぼやいた。
>
>―――――――――
>
>「おー!!やってるやってる」
>「賑やかなこったな」
>「へー…なかなか面白そうね」
>メリーは大人ぶってはいるが、内心うずうずしているのが見て取れる。
>「で、どこから行くの?」
>「まずは職員室だな。出席取らんと」
>「あぁ、欠席扱いになるしな」
>僕と俊二はスタスタと職員室のある校舎に向かった。
>「ムゥ…」
>ちょっとふて腐れたメリーも仕方なく後を付いていった。
>
>基本的に外では飲食店や、規模の大きい出し物が並んでいる。
>「焼きそばいかがっすかー!?」「焼きトウモロコシ美味いよー!!よっといでー!」
>活気に満ちた掛け声や客呼びの声。笑い声が絶えない人のざわめき。
>香ばしいトウモロコシの焼けた匂いが、夏に近所の神社で行われる祭りを思い出させる。
>そう。学校中が今祭り一色に染まりきっている。
>「今年もいい感じになってるな」
>俊二がサイフの中身を確かめながら店の配置を把握している。
>こいつは露店全制覇を目指しているのだろう。
>「今回もやるのか?よくそんな金があるな…」
>「今日と言う日に使わなければ、いつ使うというのだ?」
>「この日ぐらいにしか、金の使い道は無いのかお前は」
>
>
>職員室に着いた僕らは、メリーを廊下に待たせ出席を取る為に中に入っていった。
>
>ガララッ
>「うおっしゃーっす」
>「おはようございますっと」
>
>今日の職員室は、職員より生徒の方が多く出入りしている。
>全校生徒が出席を取るためと言う事もあるが、職員に宣伝している生徒もチラホラといるようだ。
>そのような理由もあってか、いつもはガランとしている職員室も、今日ばかりは騒がしい。
>「出席確認はあそこか…人ごみの核だな」
>「ははは。蹴散らしたくなる程の人ごみだな」
>二人で黒い笑みを浮かべながら、黒い山の塊を見る。
>
>こんな時こそ、あいつの出番。
>時間も丁度いい頃合だ。
>「3…2…1…」
>ガラララッ!!
>俊二のカウントが終わったと同時に、また生徒が一人職員室に入ってきた。
>生徒の群れの一人が、入ってきたその生徒見るやいなや、周りの生徒に声をかける。
>その会話の内容が群れ全体に渡り、アレほどざわめいた群れが一瞬にして静まり返る。
>
>「おう山崎、早かったな」
>「…ザコだ、あんなもん」
>入ってくるなり無愛想な返事をし、山やんは生徒の群れにズンズンと突き進んで行く。
>
>山やんの通り道は、生徒達が彼を避けるためいつも開いている。
>僕らは、その後ろについて行けばそのまま直通で出席を取る事ができる。
>山やんのすぐ後ろを歩けるような奴は、学校広しといえども一部の人間だけだ。
>
>こうして、コバンザメのような手口で、僕らは苦労もせずに出席を取ることができた。
>「…さってと。出席も取ったし、さっさと教室にでも行っておくか」
>「そうだな…、咲も待ってるだろ」
>騒がしい職員室を出て、メリーの座っているベンチに向かう。
>
>「あれ?メリーいないじゃん」
>「ぬ…?こんな時にいなくなるとはな…迷子にでもなられたら厄介だぞ」
>確かにこの祭り騒ぎじゃ、はぐれたらすぐには見つけられないだろう。
>…だが、その心配はいらなかったようだ。
>職員出入り口から外へ出たすぐ近くの屋台で、メリーはお好み焼きをジーっと見つめていた。
>
>「…もしかしてお前朝飯食ってきてないとか?」
>お好み焼きを見つめて、よだれでも垂らしそうなメリーに近づき、問う。
>もし今朝、浅い眠りから起きてすぐに風呂に直行してるのなら、メリーは朝食という朝食は取っていない。
>仕度して、玉子焼きを2.3個口に放り込んで、すぐに僕たちと一緒に出てきたのだから。
>
>「う…そ、そんなこと無いわよ?」
>と言いながら、彼女の視線はいまだにお好み焼きに行っている。
>「…ったく」
>300円か…。
>僕はズボンのポケットから小銭を探った。
>「一個くれ」
>「はいよ、300円になりまっす」
>「ん」
>ポケットから300円を出し、会計担当の学生に渡す。
>
>「はい、毎度あり。あちちちち」
>調理担当の学生が、出来立ての好み焼きを無造作にパックに詰め込み、僕のほうに差し出す。
>「ん、…あちちち」
>その渡されたお好み焼きを、そのままメリーに渡す。
>メリーはきょとんとした様子で、差し出されたお好み焼きを見ていた。
>「早く持ってくれ、熱いんだよこれ」
>「え?あ、…うん」
>慌てて僕からお好み焼きを受け取る。
>だが、彼女が持った場所は、最も触れてはいけない場所だった。
>「熱ッ…!!」
>メリーはパックの底面を持った。
>そのせいで受け取った瞬間、その熱さに驚いてそのパックを放してしまった。
>「ッ―――バカ!!」
>放されたパックは、万有引力の法則に忠実に真っ逆さまに落ちる。
>「――――あ!!」
>
>地面に落ちるスレスレの高さで、お好み焼きはその価値を落とさずに済んだ。
>「熱い…」
>時々自分の反射神経には驚かされる物がある。
>火傷になるかならないかの温度が僕の右手に当てられている。
>「…ほら、今度は横側を持て」
>呆然としているメリーに再度お好み焼きを渡す。
>逆さまになってパックの中身がシェイクされたが、お好み焼きだから大丈夫だろう。
>「ご…ごめんね。隆一…」
>両手でパックを受け取ったメリーが、謝ってくる。
>「あー…、こういう時に言う言葉は『ありがとう』だろ?」
>照れくさくなって、メリーから目を背けて頭をかく。
>「…………」
>「…………?」
>反応が無いのに気づき、後ろを向こうとした瞬間。
>ドガッ!!
>「ゴハッ!?」
>いきなり脇腹に凄まじい衝撃が襲いかかった。
>「な…何を…」
>痛む脇腹を押さえ、メリーの方を向く。
>
>見たところ棒では殴らなかったようだ。
>両手はお好み焼きを持っていて塞がっている。
>…ということは。
>「蹴ったな…いててて…」
>
>
>目の前でお好み焼きを持って仁王立ちしている人物の顔を見る。
>相当ご立腹でいらっしゃる。
>…何で?
>「何か悪い事したかな…僕…」
>「ふむ、あれにカラシをかけられたのが気に食わなかったのであろう」
>いつの間にか帰ってきた俊二が腕を貸してくれる。
>「いでででで…何でこんな目に…」
>痛みを和らげるためにと横っ腹を摩っていると、
>意外と早く痛みが引き、何とか背中を伸ばすのも平気になるほど回復した。
>「そろそろ行かないと、前の班からブーイングの嵐だな…」
>懐から懐中時計を取り出し、俊二がつぶやく。
>「もうそんな時間か…メリーはどこ行った?」
>また行方不明にでもなられたら、完全に時間に間に合わなくな……。
>
>……………
>
>メリーは何事も無かったかのように、既に近くのベンチでお>好み焼きをパクパクと口の中に運んでいた。
>
>
>――――――――
>
>「さて、メリーや」
>「ん?」
>チョコバナナを売っている教室の前で、メリーにこれだけは伝えておく。
>「いいか?ここは学校だ。Schoolだ」
>「まぁ、…そうね」
>「ここでは、騒動を起こさないようにしてくれ。頼むから」
>「…何で?」
>「とりあえず、鉄の棒で人を叩きのめしたり、脇腹を思いっきり蹴るようなことはしないでくれ」
>「そ…そこまでしないわよ!!」
>いや、やってたろ
>と、心でツッコミをいれる。
>「とにかく、目立った行動は取らない事。僕が変な目で見られるから」
>既に蹴りの事で話題が立ち始めている。
>そもそも目立つ容姿をしているメリーが、学校に訪れた時点で噂になるだろう。
>「…わかったわよ。で、これからどうするの?」
>「ここに入る」
>親指で、後ろの教室を指す。
>「チョコバナナ?」
>「そう、僕達の本陣だ」
>「ここで学校を(売り上げで)制覇する」
>「へー…」
>「と言う事で、中に入ろうか」
>
>ガラララララ…
>「おはよーさん」
>「おお、迷える子羊達よ。この俺様が来たからにはもう大丈夫だ!!」
>「……………」
>僕と俊二の後ろについて、こそこそとメリーも入ってくる。
>
>「あ、おはよー」
>「おーっす」
>「おう、おはよう」
>「やっほー」
>僕らの前の班は、新しくチョコを溶かす作業に入った所だった。
>
>「おー、今までどれだけ売れた?」
>売り子をしている(といっても、今は客は来ていないが)咲に聞く。
>「えーっと、大体30本くらいかな?」
>「すくねぇな…」
>「そうかな?開店から1時間ちょっとなら多い方だと思うよ?」
>「そういうものか…」
>
>咲(さき)はこのクラスで『委員長補佐』を勤めている女子生徒だ。
>勤めていると言っても、普通のクラスにはそんな役割はない。
>この極悪委員長が、時々とんでもない事を仕出かすのを止めるための『補佐』
>つまりお目付け役だ。
>彼女自身補佐として立候補しており、それなりにこの役割を楽しんでいるようだ。
>
>「ところでー…後ろの女の子って、お客さん?」
>咲が、僕と俊二の後ろに隠れていたメリーを見る。
>「……………わ、私は…」
>「こいつはメリー。僕の連れだ」
>「……こんにちは」
>「ちと照れ屋なもんでな。よろしく頼むぞ皆の衆」
>「…う、うるさい!!け、警戒してるのよ…!!」
>…小動物?
>「あはははは!!この子かわいー!!」
>「ほんとだー!!フリフリドレスー!!」
>咲と、一緒にいた女子がメリーに襲い掛かる。
>「可愛いって、僕達とそんなに歳は変わらないんじゃないのか…?」
>「女の子にはそういうのは関係ないのよ」
>「んぁー!!放せー!!」
>メリーは二人の抱擁から逃げ出そうと必死になっている。
>
>「で、俺たちは何をすればいい?」
>「そうねぇ…。とりあえず、チョコが焦げないように溶かしてくれる?」
>じたばたしているメリーをガッシリと捕まえながら、指示をくれる。
>「わかった。僕がやろう」
>僕か俊二。どちらかが料理関係の手伝いをする事になると、必ず僕がやるようにしている。
>「ふむ。俺はバナナの皮剥きか?」
>「ううん。俊ちゃんは客の呼び込みしてくれる?」
>「ぬ…。そうか任せておけ」
>そういうと、俊二はさっさと教室から出て行ってしまった。
>
>「流石に扱いが上手いんだな」
>「バナナやチョコにいらない事されたら困るもん」
>そのために調理に直接関係無いことをさせたらしい。
>「僕はこのままチョコをかき回せておけばOKなんだな?」
>「うん。私達はその間に校内を回ってくるから、よろしくね」
>「あぁ、後は俺らに任せておけ」
>ガタン!!
>「!!?」
>全員一斉にその声の主から飛び退いた。
>「お前いつの間に戻ってきた!?」
>いつの間にか俊二が教室の中に戻ってきていた。
>ヤツは肩の埃を叩きながら、不適な笑みを浮かべている。
>「地獄の底から這い上がってきてやったぞ」
>「今普通に窓から入ってきてたじゃん」
>男子学生Aが鋭くツッコむ。
>ピクッ…
>あ、俊二の動きが止まった。
>埃を叩いているポーズで、まるで一時停止したかのように、動きが停止してしまった。
>「…さ、さて俺は何をすればいいのかね?」
>少しシドロモドロになりながら、いつもの調子に戻る。
>
>「それじゃあさ、咲。俊二君に売り子やってもらおうよ?」
>「えー…。大丈夫かな…」
>「放してー…」
>ぬいぐるみのように抱擁されているメリーは、既に諦めモードだ。
>その気になれば振り払えるだろうが、さっきの約束を守っているのだろう。
>「俺の接客スマイルを甘く見るなよ。国宝級の笑顔だぞ」
>「お前の笑顔を国宝にするとは、相当価値観の狂った国なんだな」
>「何を!?そういうことは俺のスマイルを見てから言え!!」
>「いいだろう。拝見させてもらおうか?地獄の接客スマイルを」
>僕と俊二が対峙する。
>前の班の生徒達が、固唾を飲んでその様子を見ている。
>
>「ふ…あの世で後悔させてやる…」
>命を危険に晒す技なのか。
>「行くぞ!!」
>「!!」
>俊二は長くもない自分の前髪を、わざわざかきあげ、
>キザに、優雅に、そして爽やかに微笑んで魅せた。
>「フッ…」
>もともと俊二の容姿は、それなりの保障ができる。
>特別美形というわけではないが、明らかに一般的なレベルを上回っているのは確かだ。
>「…どうですかな、女性審査員の方々」
>僕は何とも言えないので、後ろの三人に決めてもらう。
>
>「うん、全然平気だよ!!」
>「流石は俊二君ね!!決まってるよ」
>「放してぇ…」
>どうやら決まりのようだ。
>
>
>――――――――――――
>
>
>「と言うわけで、よろしくね」
>「あぁ。なるべく早く帰って来いよ」
>「私も心配だから、気が済んだら戻るよ」
>やはり、俊二は信用されない運命らしい。
>
>ジー…
>「あ、メリー…」
>その視線に気づき、肝心な事を思い出す。
>咲達からの抱擁からは解放されたのはいいが、僕らはここで店番だ。
>メリーは露天を見て回りたいらしいが、僕もここを離れられないし、
>一人で行かせるのは危険だ…(いろんな意味で)
>どうするか迷っている僕を尻目に、咲が口を開いた。
>「ねぇ、メリー。私と一緒に学校を回らない?」
>「………え?」
>おぉ、いいアイデアだ。
>一人で歩き回ってそこらの男に手でも出されたら、かわいそうだ。(反撃にあう男が)
>その分女の子同士、咲なら信頼できる。
>「うん、それがいいな」
>「確かに…勝手が分らない混雑した場所での単独行動は、色々ややこしい事になりかねないぞ」
>「ね?みんなも言ってる事だし、一緒に行こう?」
>そう言って、手を差し出す。
>メリーは戸惑いながら、僕のほうを見た。
>「どうするかはメリーが決めるといいよ」
>もう一度、メリーは差し出された手を見る。
>そして、その手の持ち主を見る。
>
>
>―――――――――――
>
>
>彼女は、温かい笑顔の持ち主だった。
>大丈夫。
>隆一が信頼している人だ。
>この人となら、安心して学校を歩き回れる。
>それに、この人の笑顔には優しさがこもっている。
>
>私はその手を握り返した。
>
>「よろしく…えっと、咲…だっけ?」
>「うん。とことん楽しもうね?メリーちゃん」
>「よろしくね。咲」
>
>「楽しんで来いよー」
>「気をつけてなー」
>教室を出る間際、隆一と俊二が見送ってくれた。
>…もしかして子供扱いされてるのかな…。
>「心配してるのよ、二人とも」
>咲が私の気持ちを察してくれたのか、フォローを入れてくれた。
>「…ちょっと納得いかないかも」
>
>
>「ねぇ、まずはどこに行くの?」
>どこに何があるか分らない私は、とにかく咲について歩くくらいしか出来ない。
>「うーん…どうしよっか?」
>「き…聞かないでよ…」
>「じゃあ、まずパンフレット貰いにいこっか?」
>「パンフレット?」
>パンフレットって…なんだろ。
>「そ、学校全体の地図とか、出し物が載ってるからメリーちゃんにも役立つと思うよ?」
>「へー…」
>「職員室に行けば貰えると思うから、行ってみよう」
>「うん」
>
>さっきも来た職員室の前。
>咲は入ったっきり戻って来ない…。
>「遅い…」
>……私も入ろうかな。
>
>「おい見ろよ、あの女の子…」
>「ねぇねぇ、あれってコスプレじゃない?」
>「お人形さんみたいで、かわい~!!」
>「どこのクラスの女子かな?」
>
>…うるさいなぁ。
>咲早く帰ってきてくれないかな…。
>
>「なぁ、お前名前聞いてこいよ!!」
>「何でだよ、お前行ってこいよ」
>
>「………やっぱり入ろう」(関係者以外立ち入り禁止)
>ガラララララ…
>「うわ、何この人だかり…」
>職員室は、廊下の生徒たちの数にも劣らないほど、生徒で溢れかえっていた。
>これだけいると咲を見つけるのも大変かな―――…?
>「………何あれ」
>誰にとも無く、つぶやく。
>
>職員室の端の通路を塔のような物が、よたよたと危なっかしくこちらに歩いて来る。
>グラグラとゆれる塔――じゃない。何十にも詰まれた薄い本の影から、時折見える顔…。
>――あぁッ!!つまずいた!!
>「危ない!!」
>「わ!?――とっとっと…おおおお!?」
>転倒は避けたものの、天高く積み上げた本が、前につんのめって今にも崩れそう。
>「―――っく!!」
>私は素早い身のこなしで咲に近づき、文字通り体全体で本の崩壊を受け止めた。
>「…あ、ありがとう。メリーちゃん」
>「は…早く…姿勢戻して…」
>「え?」
>受け止めたのはいいものの、本の天辺を押さえるためには背伸びしないと届かない高さ。
>爪先立ちしてる足がピクピクしてたりなんかして。
>
>「よいしょっ…と」
>「ん…く……はぁ…」
>私と咲は、その体勢のまま近くの机に本を下ろす事にした。
>「何でこんなにいっぱい貰ってきたの?二冊で十分でしょ」
>当たり前なことを聞く私に対し――。
>「各クラスの委員長がこれ配る事になってたの忘れちゃってて…ね?」
>テヘヘと軽く申し訳なさそうに謝る咲。
>
>「にしても、凄い量ね…」
>裕に1mはある本の塔。
>これを一人で持って行こうなんて、無茶が過ぎると思う。
>「配ればすぐなくなるよ」
>「配ってたら時間なくなっちゃうよ?」
>咲は、あくまでもこの本を配るつもりらしい。
>仕方ないなぁ…。
>「それじゃあ、私も持ってあげるよ」
>「え!?それは悪いよー…」
>「私には、一緒に回ろうって約束したのに、パンフ配りで約束破られる方が、気に障るのだけど…」
>「あ…」
>「一緒にパンフ配ればその分早くなるでしょ?」
>「…じゃあ、お願いできる?」
>「別に、咲のためじゃないわよ。私を案内してくれる人がいなくなるから手伝ってあげるだけ。勘違いしないでね」
>「あぅ…ゴメンね…」
>「え!?…あ、その…、いいのよ。私が勝手にやってる事なんだから…」
>「…?」
>「とにかく、さっさと片付けちゃいましょ」
>「う…うん」
>
>私は咲のパンフの半分を持って、校門に向かった。
>校門で渡すのが一番早いそうだ。
>
>「それじゃあ、ここで配りましょうか」
>「わ…分ったわ」
>迂闊だった。
>よく考えたら、配るって人間に渡すって事じゃないの…。
>…どうすれば―――――
>
>「どうぞー、本校のMAPと出し物が載っているパンフをお配りしていまーす」
>咲は来る人々に積極的に渡していた。その顔には笑顔すら浮かんでいる。
>…あれを私がやるの?
>どうしよう…絶対無理だよ…。
>「ねぇ、咲…私渡せないよ…」
>手早くパンフを配っている咲にボソボソと話しかける。
>「え?…あぁ、これは私なりのやり方なの。メリーちゃんは普通に渡せばいいよ」
>「普通にって…」
>「普段の表情、普段のやり方で渡してみて?あ、はーいパンフレットどうぞー」
>中途半端なアドバイスをして、咲は行ってしまった。
>
>普段の表情…?やり方?
>…よし、やってみる!!
>
>私は、震えた右足を前に出し、一歩を踏み出した。
>踏み出してしまえば、たいしたことは無い。
>そう――――簡単なことだった。
>
>ツカツカツカ…
>「それでさー、あっちの校舎の中に―――」
>トントン
>「クレープ…って、ん?」
>「はい、パンフレット…」
>「え?あ…あぁ、ありがとう」
>「………………」
>ツカツカツカツカ…
>
>これが一連の動作
>別に愛想を振りまかなくても渡せばいい。
>スムーズに、円滑に。
>さっさと全部配ってしまおう。
>
>あの人は…持ってない。
>…よし。
>
>ツカツカツカツカ…
>「ねぇ、まずどこ行こうか?ってあら?」
>「…ん、パンフ」
>「あ、ありがとう」
>「それじゃ…」
>「…?」
>ツカツカツカツカ…
>
>ツカツカツカツカ…
>「はい…」
>ツカツカツカツカツカ…
>「ん…」
>ツカツカツカ…
>「パンフ…」
>ツカツカツカツカツカ…
>
>
>―――――――――――――――
>
>
>「あ゛ー…づーがーれ゛ーだー…」
>「…大丈夫?咲」
>あれから30分かけてパンフ配りを終わらせることができた。
>咲が動きつかれたから休憩しようと言うので、フラフラの咲を連れて食堂まで行く事にした。
>「なんだか最後の方、向こうからパンフを貰いに来てたんだけど…何でかな?」
>「私が配ってる時『向こうで人形みたいな子がパンフ配ってるよ』って聞こえて…それから渡す人が急に減って…あうー…」
>…私のせいだったようだ。
>ゴメンね咲…。
>「何か飲み物貰ってくるね?」
>「うん…お願い…」
>疲労困憊の咲をその場に残して、私は食堂のカウンターに飲み物を貰いに行く事にした。
>
>『カウンター 食券はこちらでお求めください』
>どうやらここらしい。カウンターの中には誰も居ない。
>呼んでみよう。
>「あの、すいませーん」
>「はいはい、いらっしゃい―――あら?あなたは…」
>「?」
>しばらく待つと、人の良さそうなおばちゃんが中から出てきた。
>「私が…どうかしました?」
>「『お人形みたいな、かわいい子が学校に来てる』って噂になってるけど、あなたね?」
>噂…になってるんだ…。
>隆一の言う『普段着』を着てくればよかったかな…。
>「さ…さぁ…。どうでしょう?」
>「いいのよ、謙遜しないで。それで、今日は何を買いに来たの?」
>おばちゃんに聞かれ、私は先に飲み物を持ってくることを思い出した。
>「咲の飲み物を買いに来たんです」
>「咲って、あの頑張り屋の咲ちゃん?」
>「あ、それ多分当たりです」
>「それじゃあ今日はタダでいいわよ」
>「え?」
>私が頭の上に『?』を出していると、おばちゃんはニッコリしながらその意味を教えてくれた。
>「『各学年で最も優秀な成績を収めたクラスの委員長は、その特典として学園祭では無償で各出し物を遊ぶ事が許される』―――――ってルールがあってね?」
>「うんうん」
>「それで、今あの子のクラスが最優秀を取ったって伝達があったの」
>「へー…いいなぁ…。でも何で今なの?」
>「なんでもサプライズイベントだとか…。そのほうが各委員長の士気が上がるからじゃないかしら?」
>「咲に言ったら喜ぶだろうなー」
>「そうね。はい、ジュース。咲ちゃんは『補佐』でも委員長だから、特典は適用されてるわよ」
>いつの間にか用意されたジュース入りの紙カップ2つが手渡される。
>「あれ、何で2つも?」
>「もう一つは、メリーあなたの分よ」
>「本当?ありがとう!それじゃ、おばちゃんまたね」
>「はいね。思いっきり遊んでらっしゃい」
>「うん。ばいばーい!!」
>私は紙カップを両手に持ち、咲のいるテーブルに向かった。
>
>「ねぇねぇ、知ってる?今回の弓道部は面白いのやってるらしいよ?」
>「へー、あとで行ってみようよ」
>「じゃあさ、先にチョコバナナ食べに行こうよ」
>「さんせーい!」
>「じゃあ行こう!」
>
>ここの生徒かな?みんな楽しそう…。
>私も早く咲と遊びに行こうっと。
>…?何か物足りないけど…。ま、いいかな。
>
>「咲ー。ジュース貰ってきたよー」
>「あー…ありがとー…」
>咲に紙カップを一つ手渡して、私は向かいのイスに腰掛ける。
>「学食のおばちゃんに聞いたんだけど、咲のクラスの委員長が最優秀だったんだって」
>「あーそー…よかったね――――――…え?」
>「何か出し物がタダになるんだって。いいなー…咲は―――」
>「ぃやったああああああああああああああああああッ!!」
>「きゃあ!!」
>今まで生ける屍状態だった咲が、急に叫びだした。
>私はもちろん、周りの人まで驚いたり固まっていたり、騒然としていた。
>「ちょっと、咲…恥ずかしいよ!!」
>慌てて私が咲を静める。
>「あ…ご、ごめん。でもそれって本当?」
>「うん、間違いないよ。このジュースだってその特典ってやつで、タダで貰ったのよ」
>「よかったー!!今日お財布がピンチで、出し物をどうやって回るか悩んでた所だったの」
>「あ、出し物といえば、キュウドウブって所が面白いって聞いたけど。行って見ない?」
>「弓道部?…何やってるんだっけな…。よし、これ飲んだら行ってみようよ」
>「意義なし。今日はとことん回ろう、咲!!」
>私と咲は急いでジュースを飲み干し、生徒達がはびこる廊下に歩いていった。
>
>
>―――――――――――――――
>
>
>「ここ?」
>「そう、ここ」
>私と咲は、校舎から離れた木造の小屋の前に立っている。
>重々しい引き戸の上には【弓道部】と書かれた威厳のある看板が掛けられていた。
>「待ってる人いなくない?」
>「多分中で待ってるんだよ」
>言いながら引き戸を開けて中に入っていく咲。
>私もその後について中に入っていく。
>
>「ごめんくださーい」
>「はーい、いらっしゃーい」
>中に入るなり、一人の女子生徒が迎えに来た。
>周りを見る。
>案の定。部室の中には殆ど生徒がおらず、部員がのびのびとくつろいでいる有様だ。
>「…営業中…だよね?」
>「はい、絶賛営業中であります!!」
>意味もなく敬礼を取る女子生徒。
>「…誰もいないじゃない」
>「あいたたた…一番気にしている事を…」
>私のツッコミに対して、今度は胸を押さえるジェスチャーをしながら、乾いた声で笑う。
>
>「まー、しょうがないんじゃないか?大体企画に無理があったんだろ?」
>奥でくつろいでる男子生徒が、それとなく言う。
>その言葉にカチンと来たのか、彼女はその男子生徒に言い返した。
>「それじゃあ、アンタ外で客呼びしてきなさいよ!!」
>「やなこった、めんどくせぇ」
>「あんた、一応部員なんだから何かしようとは思わないの!?」
>
>「あーあ…また始まった…。ごめんなさいね」
>痴話喧嘩になってしまった二人を見て、他の女子部員が出てきた。
>「あ、いいんです。何か色々大変ですね…」
>「元はと言えば、あの二人のケンカも原因でお客が来なくなっちゃったのよね」
>あ、わかるかも…(見てて邪魔だし)
>「それで、どうするの、一回やってみる?」
>「あ、はい。えっと、最優秀委員長って話は聞いてます?」
>「もちろん聞いてるわよ、そっちの女の子もタダね?」
>私の事らしい。
>「ありがとうございます」
>咲はペコリと頭を下げた。
>「あ、ありがとう」
>私もつられて、軽くお辞儀をする
>「いいのよ、それじゃあこっちに来て」
>私と咲は、その人についていった。
>
>「はい。それじゃこれ持って」
>女子部員は私達に弓を手渡した。
>「…これって、弓だよね?」
>「そう。弓」
>「それで何をするのよ…」
>「あの的を射ってもらいます」
>女子部員の指をさした先には、的がかけられていた。
>「私達初心者なんだけど…」
>「ガッツでカバーしてください。はい、アナタの分」
>「…客が来ないわけが分った気がする」
>弓を持つ。
>意外と軽く出来ているソレは、作りこそ荒いものの、あの的を射るには十分な物だ。(と思う)
>「いい案だとは思ったんだけどねぇ…」
>「で、アレを射るだけなの?」
>「いえ、ここでは占いも兼ねてるんです」
>「…占いって、どういうこと?」
>咲が弓をまじまじと見ている。
>「的に外れたら、大凶です」
>笑顔で恐ろしい事を言う女子部員
>「あ、当たれば今日一日良い日になるので頑張ってくださいね?」
>…隣の咲の口から、「来なきゃ良かった…」という言葉が漏れたのはそのすぐ後だった…。
>
>――――――――――――――――
>
>キリキリキリ…ヒュン!!
>タンッ!!
>「おー。すごいねー」
>私と咲は、まずやり方を見せてもらう事になった。
>部員だけあって、放たれた矢は上手く的に命中した。
>「大体の形はこんなもん。ま、あとはがんばってね」
>「え、それだけ?」
>「いろいろ説明すると長くなっちゃうからね。じゃあ先に委員長さんがやってみようか?」
>投げやり部員にポーズだけは教えられた咲が、射ることに決められた。
>「いや、私は補佐であって――――――え?え?え?」
>説明している間に、立ち位置まで連れて行かれる。
>「うぅ…やるしかないか…。行きます!!」
>震える左手で弓を構え、震える右手で矢を持ち。
>はるか遠くに見えるであろう的(実際には10m程)に向かって、矢を放つ!!
>
>咲の矢は勢いはあったものの、的の方向には飛ばず、大きく左にそれて壁に刺さってしまった。
>
>「はい、残念でした。大凶」
>「うわーーーん!!」
>「じゃあ次は、そっちの女の子。やってみて」
>「はい…」
>今度は私の番らしい。
>私はさっき咲が立っていた場所に立ち、弓を構えた。
>
>弓―――…
>
>――――――――私の命を奪った道具を――――――――
> ――――今私が持っている――――
>
>「…ッ!!」
>すぐ近くの的を見たとき、ズキッと、頭痛が走った。
>
>さっきから嫌な予感がしていた。
>万が一、自分が弓矢を持つ事になってしまったら…。
>
>さっきから自分が分らなくなっていた。
>なぜ、自分を殺した道具をわざわざ見に行こうと思ったのか…。
>
>そして今、私は弓矢を持って、それを構えている。
>
>狙いは『的』
>『私』じゃない。
>
>でも、私を射った人間は、私を『的』として、射った。
>
>『的』は『私』じゃない。
>『私』は『的』じゃない。
>止めて…。もう…思い出したくない…。
>
>キリキリキリキリ…!!
>
>『私』は『的』じゃない…。
>狙わないで…。射らないで…。
>「―クッ!?」
>頭が…痛い…!!
>
>突然の頭痛に、私は思わず矢を押さえてた指の力を緩めてしまった。
>そして、矢は抑制力から開放され、弦の力で放たれる。
>
>ヒュン!!
>ストン!!
>
>「――――あ…」
>私の射った矢は真っ直ぐに飛び、見事に的の真ん中に刺さった。
>「大当たりー!!おめでとうございまーす!!今日一日はいい事ありますよー」
>「今…私…」
>なんだろう…、今の頭痛は…。
>あれほど痛かった頭痛は、今ではすっかり収まっている。
>
>「メリーちゃんおめでとー!!」
>咲がボーッとしてた私に、横からガバッと飛びつく。
>「やったじゃない、本当に初めてやったの?」
>「え…う、うん」
>「いやー、いい腕してるわねー。どう?弓道部に入らない?」
>的の真ん中に刺さった矢を見て、彼女は私を気に入ったようだ。
>でも、私は…。
>「嫌です…」
>弓矢を持つなんて二度とゴメンだ…。
>今の私なりの、精一杯の否定だった。
>「あら、そう?勿体無い…」
>「さりげなくスカウトするのは止めてください。まったく…」
>「そうでもしないと、廃部になっちゃうのよねぇ…はぁ~」
>女子部員は方をガクンと垂らし、深いため息をついた。
>「それじゃ、私達はおいとましますね。出し物頑張って下さい」
>「………それでは」
>「はいはーい、文化祭楽しみなさいねー」
>
>私と咲は、弓道部から出て、次の目的地を決めることにした。
>「次はどこに行こうかしら…」
>「…………」
>「あれ?メリーちゃん、どうしたの?」
>「え?あ、うん。なんでもないよ?」
>「そう?ならいいけど…」
>さっきの事は、今は忘れよう。
>楽しいはずの文化祭だし。思いっきり楽しもう。
>そう自分に言い聞かせ、私は咲の広げたパンフレットを覗きながら、次の目的地を決めることにした。
>
>
>―――――――――――――――
>
>
>「咲、あそこじゃない?」
>「えーっと…そうね、間違いなさそう」
>パンフレットを頼りに勝手知ったる校舎を歩く咲。
>「ところで、あの中で何をやってるの?」
>「行ってみてのお楽しみってね。早く行きましょ」
>小走り気味な咲を追いかけて、私もその教室に向かった。
>
>「…ナニコレ」
>「友達が部長やってる演劇部の出し物なんだけd―――え…」
>私と咲はその教室の前に来るなり絶句した。
>「…メイド喫茶って思いっきり書いてあるね」
>「おかしいなぁ…ファンタジー喫茶って言ってたのに…」
>廊下からの外見も妙な装飾がされ、入り口には『おかえりなさいませ ご主人様♪』と書かれたプレートが掛けられている。
>「結構並んでるね…」
>「め…珍しいからじゃないかな?」
>客層はさすがに男子生徒が多いものの、女子生徒も混ざっている。
>「どうする?並ぶの?」
>「いやー…。メイド喫茶に堂々と入っていく委員長補佐も微妙じゃない?」
>「うーん…」
>私達が他の場所に行こうかとパンフレットを広げた時、中から出てきた一人のメイド―――もとい、女子生徒が咲に気づいた。
>「あ、咲ー」
>「え?あ、雫ちゃん…。すごい格好してるね」
>「へへ~ん、可愛いでしょ?」
>「可愛いっていうか…何というk――――」
>答えに迷っている咲に、この雫という人は詰め寄って、もう一度、今度は重い声で聞いた。
>「可 愛 い で し ょ?」
>「う、うん、可愛い可愛い」
>「でしょ~?結構気に入ってるんだよー」
>「あはははは…」
>咲が乾いた笑いで相槌を打つ。
>
>「…………………」
>
>「………。この生意気そうな娘は何?」
>「あ、この子はメリーちゃん。メリーちゃん、この人は雫ちゃん。私の友達で演劇部の部長なの」
>「…よろしく」
>他愛もなく挨拶をする。
>「ふーん…。結構可愛いわね」
>「!?…そ…そうね、それじゃ、メリーちゃん他の出し物行こうか?それじゃ、またね雫」
>「…?」
>咲が慌てて私の腕を掴み、ここから離れようとする…が。
>ガシ!!
>「そんなに慌てないで、お茶でもどう?」
>「あははは…遠慮します…」
>「それじゃ、メリーちゃんだけ、こっちにいらっしゃいな」
>「あぁ、メリーちゃんをそっちの世界に連れて行かないで!!」
>「………?」
>訳が分らない。一体何をしたいの?
>「大丈夫よ、ちょっときてもらうだけだから」
>「それがダメなのよぉ…」
>「固いこと言わない、ね?いいでしょ、メリーちゃん」
>「…?」
>咲の方を見る。
>(ダメって言っていい?)
>(言ったらひどいことされちゃうかも…)
>(…………)
>アイコンタクトでダメだと言われる以上、相当な被害があるのだろう。
>仕方なく私は承諾する事にした。
>「…わかった」
>「じゃ、決まりー。ささ、こっちに来て来てー♪」
>「変なことしないでよねー!!」
>「何着せようかなー」(聞いていない)
>「…………はぁ」
>私は、雫にズルズルとメイド喫茶に引きずり込まれていった。
>
>――――――――――――――――
>
>「……はぁ」
>あれから17度目のため息。
>「やっぱり断って逃げた方がよかったかも…、うんって言ってひどい目にあってるんじゃねぇ…」
>「何で私がこんなことしなきゃいけないのよ…はぁ」
>
>今私は、彼女が――――雫が着ていた物と同型の服を着ている。
>そう、いわゆるメイド服。
>私が着ていた服は、雫率いる演劇部の連中に奪われ、やむなく彼女達の【お願い】とやらを聞く事になった。
>
>――――――――――――――――
>
>メイド喫茶に連れ込まれた私は、雫に連れられ、奥の個室に入った。
>『今年は、このメイド喫茶で今年一番の売り上げを掴みたいの。だ・か・ら♪』
>『な…、何?』
>バッ!!と私の目の前に、メイド服を突きつける。
>『これ着て、学校を歩き回って宣伝してきて?』
>『…………(呆然)』
>『ということで…、出てきなさい!!』
>『はーい!!』『はーい!!』『はーい!!』『はーい!!』
>返事もしていないのに、四方八方から女子部員が個室に侵入してくる。
>『え!?え?いや…!!ちょっと、変なところ触らないで!!いやーーーー!!』
>『にょほほほほ。それじゃ、頼んだわよー』
>
>――――――――――――――――
>
>「それ着てうろついてれば返してもらえるんだし、気にしない気にしない。ね?」
>「人事だと思って…」
>…とりあえず棒は死守できた。
>騒ぎを起こすなとは言われてるけど、護身用として持つなら問題ないと思う。
>「あはははは…。あ、何だろあれ?」
>「え?………何あれ」
>はるか前方に見える、青色の巨大な二足歩行型草食動物。
>つまり、青い大きなウサギが教室の前で、ブンブンと手を振っている。
>「ねぇ、メリーちゃん。あれって、着ぐるみだよね?すごーい…」
>「うわ、気持ち悪…」
>「私達のクラスじゃチョコバナナだけなのに、他のクラスって頑張ってるねー」
>「何やってるのかな?」
>私達は、懸命に手を振る青ウサギがいる教室に歩いていった。
>
>「………ねぇ、この学校ってさ…」
>「うん、分ってる。でもね?今年だけだよ?いつもは平凡すぎてつまらないくらいの文化祭だよ?」
>「今年は当たり年なんだ…」
>青いウサギが、わざとらしいジェスチャーで、曲げた腕の肘から先を横にしたり立てたりしている。
>そのウサギのジェスチャーが伝えたい事は、教室に大きく、かつ自信に満ちた字で張り紙に書かれていた。
>
>【ファンシー・アーム・レスリング!!】
>
>「アームレスリングって、腕相撲のことだよね?」
>「そうだね…。ねぇ、ちょっと中見てみようよ」
>咲が、突然おかしなことを言いだす。
>それは私だって興味が無いって言ったら嘘になるけど、中に入って見ようなんて思わない。
>「えー…つまらなそうだよ?」
>「でも、中でどうやって腕相撲してるか見たくない?」
>「それは気になるけど…」
>「じゃあ、入ってみようよ。つまらなかったら出ればいいことだし。ね?」
>ここまで言われちゃったら、断るのも悪いか…。
>「つまらなかったら、すぐ出るからね?」
>「それじゃ、入ろっか?ウサギさん、案内して」
>さっきの着ぐるみに案内してもらい、私達はその教室の中に入っていった。
>
>「――――――…ふむ?」
>二人が教室の中に入っていくのを偶然見かけた男は、2.3度うなずいて、その教室に近づいていった。
>
>――――――――――――――――――――――――
>一方、メリーが演劇部の女子部員に襲われている同時刻。
>
>「いらっしゃいいらっしゃい!!今のブームはチョコバナナ!!食わなきゃ時代に乗り遅れるよー!!」
>教室内にけたたましく反響する声にイライラしながら、僕は灼熱地獄のプレートを使って、チョコを溶かしていた。
>「うるさい…、ただのセール品バナナに業務用チョコを塗りたくっただけだろ…」
>今のグループは、僕と俊二を入れて5人の男どもで営業している。
>華が無いので、余計暑苦しい。
>「精進足らんぞ小僧。それ程のことで心を乱すとはな」
>その中の売り子として大活躍中の俊二が、僕を嗜めるように言う。
>「うっさい、この暑さと単純作業に加えて、あの騒音。やってられんよ」
>「ま、確かに教室で客呼びしても効果は今ひとつだろう。だが、静かな店よりはマシだろ?」
>「楽しそうだな…お前達」
>恨めしそうに睨む。
>さっきからうるさい客呼び1人
>売り子2人(内の一人が俊二)
>雑用1人(バナナを売り子に渡したり、キッチンの仕事やったり)
>全員が全員楽しそうな顔して言いやがる。
>「いやぁ、中々忙しくてやりがいのある仕事だな」
>「まったく、メニューはバナナだけだから、ファーストフードのバイトより楽でいいわ」
>「思いっきり大声出す機会なんて、カラオケ以外じゃ早々ないからな。爽快だぞ?」
>「と、皆思い思いに職務を楽しんでいるわけだ。お前は不満があるみたいだな?」
>……ここでぶーたれてたら、ただの子供だな。
>「…チョコ溶かすのって、すっげぇ楽しい」
>あくまで棒読み
>「ノリノリだな料理長。そのまま頑張ってくれ」
>「チョコをぶっ掛けられたくなかったら、黙ってろ」
>殺意を帯びた目で俊二を睨む。
>暑さで気が立ってるんだよ。
>「おお恐い。俺、小休憩がてらちょっとぶらついてくるわ」
>「すぐに戻って来いよ?ピーク過ぎたみたいに客いなくなったが、またいつ来るか分らんからな」
>「看板娘ならぬ、看板美形がいなきゃ客も集まらん。安心しろ」
>「バナナの皮を食らえ」
>近くの生ごみ入れから、バナナの皮を掴み投げつける。
>「無駄だ」
>ヒョイっと避ける。
>「そんじゃ、行ってくるー」
>「まったく…」
>スタコラと教室から出て行く俊二。
>他の奴らは、既に脱力モードだ。
>ちゃんと作業してるのは僕だけか。…僕も休憩するか。
>
>
>――――――――――――――――――――――――
>
>
>それから数十分経って、俊二が教室に戻ってきた。
>…中に色々詰め込まれたビニール袋を大量持って。
>「どうしたんだ?その袋。全部買ったのか?」
>「聞いて驚け皆の者!!今年の最優秀委員長をこの俺が取ったのだ!!」
>「な、なんだってー!!」
>教室の中にいる全員(といっても、店員の僕らだけだが)が、耳を疑った。
>何せ、今目の前にいる袋を持ったバカが、委員長の仕事をちゃんとこなしていたとは知らなかった。
>実際、ほとんど委員長らしい仕事をした所を見たことが無い。
>本当にやっていたとしても、他のクラスの委員長を越える成績を収めたなんて信じにくい。
>「………咲に感謝するんだな」
>俊二以外の全員が頷く。
>「待て、それは俺が何もやらずに、咲に仕事を全部任せていたと言いたいのか?」
>「そこまでは言わないでおこう、クラスメイトの情けだ」
>またも全員で頷く。
>「………俺ってそんなに信頼感薄いか?」
>「いい評価として厚紙程度か」
>
>「……ま、まぁいい。さっき校内でメイドとやらを見かけたぞ」
>「…無理やり話し切り上げとは珍しいな」
>「そんな日もある」
>「そうかい…で、何で学校にメイドなんだ?」
>「あぁ、他のクラスの連中だろ。なんたって今年の文化祭は、まさに祭り状態だ」
>そんなにか…。
>くそ、先に学校を回っておくべきだったな。
>「山崎のクラスの出し物は知ってるか?」
>「ん?山やんの所は…腕相撲するとか言ってたよな?」
>「あぁ、山崎のやつ着ぐるみ着て腕相撲してたぞ」
>「なんだそりゃ?」
>意味が分らん。
>腕相撲と着ぐるみと何が関係があるんだ?
>「そのままの意味だ。名づけてファンシーアームレスリング」
>「今年は当たり年なんだな…」
>着ぐるみを着た山やんが、対戦者をバタバタとなぎ倒している姿を想像してみた。
>…よし、自由時間に様子を見に行こう。
>「ちなみに、その着ぐるみを倒したのは、一人しかいない」
>「何!!山やんを倒す兵だと!?」
>「あぁ…、それもさっき話したメイドにやられてた…」
>…マジかよ。
>「そのメイドって、男か?メイドでガイなのか?」
>「いや、女だ。しかもお前がよく知ってるやつ」
>「………誰だ?」
>僕はメイド服を着そうな知人をリストアップした。
>…該当件数ナシ。
>俊二に聞いても、含み笑いを浮かべるだけで答えなかった。
>山やんの様子見るついでに、その知り合いとやらの名前を聞いておこう。
>その間キチンと勤めを果たすか。
>僕は固くなり始めたチョコを溶かすために、電気プレートの電源を入れた。
>
>――――――――――――――――――――――――
>
>「メリーちゃんすごーい!!」
>「着ぐるみなんか着てる奴になんか負けないわよ」
>私と咲は校庭を歩いている。
>今度は校庭の出し物(主に飲食店)の食べ歩きで意見が合致したので、来たわけだ。
>「それで、まずはどれから行くの?」
>数十にも及ぶ露店を見渡し、隣にいる咲に訊く。
>「片っ端ってどう?憧れてたのよねー。片っ端」
>「いいんじゃない?どれもおいしそうだし」
>「だよね?だよね?よーし、それじゃ、今日は体重の事は気にしないで、ジャンジャン食べよー!!」
>「体重か…最近測ってないかな…」
>「食べる前から気にしてたら楽しめないよ?さあ、行こう!!」
>「わっとっと……」
>咲に手を掴まれ、一番端の店に向かう。
>
>最初の店は焼きそば屋だった。
>私と咲は一つずつ貰った。
>店員が水もいるかと聞いてきたが、邪魔になるので断った。
>二軒目に行く前に早速食べる事にした。
>
>
>「あ~…もうお腹一杯…」
>「え、まだ五軒目だよ?」
>四件目のタイヤキをクリアした時点で、咲がフラフラになっていた。
>私はまだ平気なんだけどな…。
>「う~…、とりあえず貰っておこうかな…」
>トボトボと歩き出す咲の後をついて五軒目に行く。
>五軒目はたこ焼きだった。
>「これなら自分のペースで食べれるよね…」
>「あんまり無理しない方がいいよ?」
>「だって、せっかくタダで食べれるんだし、もったいないじゃない」
>「そうだけど…」
>お腹壊しちゃうよ?と言おうとした時、この文化祭に相応しくない罵声が聞こえた。
>
>「んだとゴルァア!!」
>…近い。この校庭で叫んでる。
>「な…何、今の?」
>咲が辺りをキョロキョロと見回す。
>さっきの声の大きさからすると、2列先の露店通りかな。
>「さぁね?どこかのバカが何かやってるんでしょ。見に行く?」
>「い…委員長補佐として、現場を見ておかなきゃ!!」
>ちょっとパニクってる咲を従えて、私は声のあった通りまで走る。
>(ちなみにたこ焼きは、咲の分を含めて全部私が食べた。少し粉っぽかった)
>校舎に近いその通りには遠巻きだが、人だかりが出来ていた。
>
>「ちょっとすいません…通してください…通して…!!いたたた…」
>咲に道を開けさせ、人だかりの中に混ざる。
>「んぐ……、すいません…あ、ごめんなさい…ううぅ…」
>咲ファイト。
>「メリーちゃんも手伝ってよー…」
>何とか(私が)無事に人だかりを抜ける。
>「あー店員が絡まれてるんだ。何したのかな?」
>「はぁ…はぁ…はぁ…」
>咲は肩で息をしていて、返事は期待できそうにない。
>私は改めて騒ぎの本を見る。
>どうやら4人組の不良が、焼きトウモロコシ屋を恐喝しているようだ。
>「何で俺のトウモロコシだけ生焼けなんだよオイ!!」
>「す…すいません!!すぐに取り替えます!!」
>「あぁ!?弁償だろ弁償?違うかぁ!?」
>「え…な、なんで…」
>「うるせえ!!ゴチャゴチャ言ってねえで、弁償しやがれ!!」
>「ひ、ひー…」
>
>「……………」
>何
*メリーの居る生活 六日目
>4スレ目>>311
>作: ◆Rei..HLfH.
>『[[メリーの居る生活 五日目 前編・後編]]』の続編
>「おら、隆一起きろ。学校遅れるぞ」
>「ん~…」
>まどろみに漂う僕のことを、誰かが呼んでいる。
>「今日は登校時間が遅めだが、そろそろ起きねえとアウトだぞ」
>誰だ?…メリーか?
>「ったく…、仕方ねぇ。目覚めの接吻を受けろ」
>…この声は――――!?
>
>瞼を開けると、ヤツの顔が目の前で、どアップで展開されていた。
>「ぬぁらああああああああああ!!」
>「うおっと…」
>「ハアッ…!ハアッ…!」
>今朝一番の力を使って、【目覚めの接吻】を回避する。
>「グットモーニング」
>「…変態はお帰りください」
>爽やかな笑顔の変態に、悪態をつく。
>「つれないねぇ、こうやって幼馴染が起こしに来てやったのに」
>「…『変態が襲いに来てやった』だろ?」
>「起きねえと、食っちまうぞ?」
>「わかった、起きる。起きるから貞操は勘弁してくれ」
>なんだかよくわからない起こし方をされて、とりあえず一階に行く。
>
>「何だって、お前が家にいるんだよ」
>「行っただろ?起こしに来たって」
>「だってお前、学校はどうしたんだよ?」
>「まったく…早く覚醒しろやコラ」
>呆れ果てたといった様子で、肩をすくめ、
>テーブルに着いた僕にゲンコを繰り出す。
>「いてて、何しやがる…」
>「昨日どれだけ大変な思いしたか忘れたか?」
>「昨日…?……あー!!そうかそうか!!今日は文化祭だっけか?」
>昨日は幼女の面倒を見てたおかげで、すっかりさっぱり記憶から抜けていた。
>「ったく…今何時か見てみ」
>「え?」
>壁掛け時計を見ると、9時45分を指していた。
>
>「俺が起こしに着たことを感謝するんだな」
>「いい時計だろ?」
>「顔洗って来い。朝飯はの仕度しておいてやる」
>渾身のギャグを放ったつもりだが、スルーされる。
>大人しく顔を洗いに洗面台にフラフラと歩いていく。
>
>ジャー…
>バシャバシャ!!
>「フヒー!!効いたぁー…」
>冷水を顔面に浴び、思考が冴えた。
>委員長補佐は、10時20分に来てくれとか言ってたな。
>のんびり歩いても着く時間だ。
>「まぁ、早めに出るに越した事は無いか……ん?」
>タオルで顔を拭いていると、風呂場に誰かが入っていることに気づいた。
>おばあちゃんかな?
>「おばあちゃん、僕今日文化祭だから、良かったら来t―――」
>
>そこには、湯船に使って鼻歌でも歌わんとばかりにご機嫌なメリーがいた。
>「♪~♪♪♪~―!!………」
>こちらA21部隊、ターゲットに接触。
>さらに先方はこちらに気づいた、これからスキンシップを試みる。
>「……100点」
>「死ねぇ!!」
>メリーは近くにあった風呂オケを力いっぱい僕に投げつけた。
>
>ガチャ
>「おう、卵とかいくつか使わせてもらったぜ―って、どうした?デコ痛そうにさすって」
>「…男の勲章だ」
>おデコを撫でながら、リビングに入る。
>「そういえば、お前が朝飯作るのって久しぶりだな」
>「あー…二ヶ月ぶりって所か?」
>「まぁ、そんな所だな」
>テーブルを見ると、黄色い物が皿の上にてんこ盛りに盛られていた。
>「…相変わらず、玉子焼き好きなんだな」
>イスに座りながら、良い匂いを放つ玉子焼きを口に運ぶ。
>「卵こそ最強の食材だ。…よし、食うか」
>後片付けしていた俊二がテーブルに着く。
>「玉子焼き以外に、何か作れるようになった?」
>「いや、全然ダメだ」
>「玉子焼き作れて、何で他のが作れないんだよ…」
>「食材に対する愛情だろうな」
>「この前、沸騰したお湯に卵の『中身』をぶち込んで【ゆで卵】とか言ったよな?」
>「…愛情だ」
>玉子焼きを二人で黙々と食べているところに、メリーが部屋に入ってきた。
>
>ガチャ
>「ふぅ…」
>自分専用のパジャマ(新調)を着た彼女の頬は、
>軽く赤らめていて、まさに風呂上りといった感じだ。
>「お?おはようさん。今日は早いんだな」
>俊二が風呂から出てきたメリーに軽く挨拶をする。
>「あら、俊二までいるの?…あぁ、今日は文化祭だしね」
>「…なんで、メリーが知ってて君が忘れてるのかね?」
>「陰謀ですよ。騙されんでください」
>「…なぁ、メリー。お前も学園祭来るか?」
>「え?」
>「―ぶっ!?」
>何を血迷ったか、俊二がメリーを誘い出した。
>「総督、お待ちください!!彼女は危険です!!(モゴモゴ)」
>「どういう意味よ!?」
>「そのまんまだ!!(モゴモゴ)」
>「口に物入れて喋らないでよ!!」
>ドス!!
>「ごはッ!?」
>鋭いボディブローをまともに食らい、口の中の物を吐きそうになる。
>「おーっと。コーチから牛乳が差し出された!!ここで試合終了ー!!」
>俊二が棒読みな実況を交えつつ、僕に牛乳を差し出す。
>「んぐ…んぐ…くはぁ…」
>今の一撃にいろいろな物を衰退させられ、そのまま机にうつ伏せになる。
>「…で、その文化祭に私も行っていいわけ?」
>「あぁ、学校の売り上げに少しでも貢献しないとな」
>「出費は隆一持ちね」
>「金さえ入ればOKだ」
>僕が反論できない状態で、事が進んで行った。
>
>―――――――――――
>
>「隆一、鍵閉めた?」
>「おう。カバン持ってこなかったが、いいのか?」
>「今日は必要ない。荷物になるだけだ」
>「必要なのは財布だけ~♪」
>手さげ袋を持ったメリーが能天気にはしゃぐ。
>(手さげ袋は、お土産を入れるために持っていくそうだ)
>「やけにご機嫌だな…」
>「さて、のんびり行くか」
>
>午前10時
>学校にはのんびり歩いても10分でつく。
>僕達は三人並んで学校に向かった。
>
>「ところでさ、今朝はメリー早起きじゃないか?」
>「ん?」
>「いつもはもっと遅い時間に起きるはずだろ?」
>「あ~…。まぁ、気にしない気にしない」
>言いながらヘロヘロと手を上下させる。
>「何か隠してるだろ?たとえば昨日寝れなくて、眠りの浅いまま朝が来たとか」
>「そ、そんな事無いわよ?」
>裏返った声で言われても説得力無いな。
>「たとえば、文化祭が楽しみだったり?」
>「ち、違うわよ!!」
>あ、ムキになってる。
>「やっぱりメリーって子d――」
>「うるさい!!」
>シュル カチャ―
>ドス!!
>「ぐふぁ!?」
>
>メリーが何かを出した瞬間
>迅速の速さで、その『何か』が僕の横腹を突いた。
>横っ腹に激痛が走り、崩れ落ちる。
>
>「か…かはっ…」
>「おーおー、見事に入ったねコリャ」
>俊二が方膝を付いて悶えてる僕を覗き込む。
>「ふん!!」
>カチャ
>見ると、メリーは怪しく光る棒を折りたたんで、腰に下げたポシェットにしまっていた。
>「あれで突かれたのかよ…いってぇ…」
>ズキズキと痛む横腹は、さするのも億劫なほどダメージを負っていた。
>
>痛みが引いて来て歩き出した頃、僕らは目の前に見知った後姿を見つけた。
>
>「おーい山やーん!!」
>のそのそと歩いているクマ…もとい、幼馴染に声をかける。
>「あぁ!?」
>すぐさま鈍く光る目がこっちに向けられる。
>
>「…んだよ、お前らか」
>「おっす」
>「よう、大将」
>近くまで行き、挨拶する。
>「おう。お前らも20分登校か?」
>「まぁな、お前地に戻ってるぞ」
>「おっと、………」
>俊二に指摘され、山やんはあわてて不良の仮面をかぶる。
>『地』とは、山やんの性格の事である。
>「………」
>「………」
>山やんとメリーの目が会った。
>このまま乱闘に発展するかと思ったが、意外にも…。
>「ッチ…」
>「フン…!!」
>お互いそっぽを向く。
>「何やってんだ?お前らは」
>「何か通じるものでもあったんだろ?」
>「いや、そうは見えないけどな…」
>
>「――ん?」
>俊二と話していると、山やんが何かに気付いた。
>「どうした?山やん」
>「あぁ…お前ら、先学校行ってな…」
>「またか…?ご苦労なこったな」
>「?…え?」
>状況を理解していないメリーが、一人困惑している。
>「先行ってるぞー」
>僕はメリーの手を引いて、さっさと歩く俊二に付いて行った。
>「……………フン」
>山やんは、無愛想に返事をした。
>
>「ねぇ、隆一どうして山…やん?を置いていったの?」
>しばらく歩いたところで、メリーが聞いてくる。
>「あぁ、他校の学生が山やんを倒そうとして、よく待ち伏せしてるんだ」
>「ずいぶん前から付いてきてたみたいだが、しびれ切らして出てきた…って所か」
>それに気付いていて、何故山やんに教えないのか…この男は。
>「…もしかして、日常茶飯事なわけ?」
>メリーが訝しげに聞いてくる。
>「どんぐらいの割合かな?」
>「二日に一回は確実に来るとか言ってたな」
>改めて考えると、山やんは凄い奴だ。
>…まぁ、僕の左には互角に山やんと渡り合える委員長と、
>右には、本気を出せば山やんを倒せるであろう女性が居るのも事実だ。
>
>「山やんの事だ、3分もあれば終わるだろ」
>「まぁ、奴もそれを予想して早めに出てきたのだろう」
>「あんた達…変わってるわね」
>メリーが付いていけないといった様子で、ぼやいた。
>
>―――――――――
>
>「おー!!やってるやってる」
>「賑やかなこったな」
>「へー…なかなか面白そうね」
>メリーは大人ぶってはいるが、内心うずうずしているのが見て取れる。
>「で、どこから行くの?」
>「まずは職員室だな。出席取らんと」
>「あぁ、欠席扱いになるしな」
>僕と俊二はスタスタと職員室のある校舎に向かった。
>「ムゥ…」
>ちょっとふて腐れたメリーも仕方なく後を付いていった。
>
>基本的に外では飲食店や、規模の大きい出し物が並んでいる。
>「焼きそばいかがっすかー!?」「焼きトウモロコシ美味いよー!!よっといでー!」
>活気に満ちた掛け声や客呼びの声。笑い声が絶えない人のざわめき。
>香ばしいトウモロコシの焼けた匂いが、夏に近所の神社で行われる祭りを思い出させる。
>そう。学校中が今祭り一色に染まりきっている。
>「今年もいい感じになってるな」
>俊二がサイフの中身を確かめながら店の配置を把握している。
>こいつは露店全制覇を目指しているのだろう。
>「今回もやるのか?よくそんな金があるな…」
>「今日と言う日に使わなければ、いつ使うというのだ?」
>「この日ぐらいにしか、金の使い道は無いのかお前は」
>
>
>職員室に着いた僕らは、メリーを廊下に待たせ出席を取る為に中に入っていった。
>
>ガララッ
>「うおっしゃーっす」
>「おはようございますっと」
>
>今日の職員室は、職員より生徒の方が多く出入りしている。
>全校生徒が出席を取るためと言う事もあるが、職員に宣伝している生徒もチラホラといるようだ。
>そのような理由もあってか、いつもはガランとしている職員室も、今日ばかりは騒がしい。
>「出席確認はあそこか…人ごみの核だな」
>「ははは。蹴散らしたくなる程の人ごみだな」
>二人で黒い笑みを浮かべながら、黒い山の塊を見る。
>
>こんな時こそ、あいつの出番。
>時間も丁度いい頃合だ。
>「3…2…1…」
>ガラララッ!!
>俊二のカウントが終わったと同時に、また生徒が一人職員室に入ってきた。
>生徒の群れの一人が、入ってきたその生徒見るやいなや、周りの生徒に声をかける。
>その会話の内容が群れ全体に渡り、アレほどざわめいた群れが一瞬にして静まり返る。
>
>「おう山崎、早かったな」
>「…ザコだ、あんなもん」
>入ってくるなり無愛想な返事をし、山やんは生徒の群れにズンズンと突き進んで行く。
>
>山やんの通り道は、生徒達が彼を避けるためいつも開いている。
>僕らは、その後ろについて行けばそのまま直通で出席を取る事ができる。
>山やんのすぐ後ろを歩けるような奴は、学校広しといえども一部の人間だけだ。
>
>こうして、コバンザメのような手口で、僕らは苦労もせずに出席を取ることができた。
>「…さってと。出席も取ったし、さっさと教室にでも行っておくか」
>「そうだな…、咲も待ってるだろ」
>騒がしい職員室を出て、メリーの座っているベンチに向かう。
>
>「あれ?メリーいないじゃん」
>「ぬ…?こんな時にいなくなるとはな…迷子にでもなられたら厄介だぞ」
>確かにこの祭り騒ぎじゃ、はぐれたらすぐには見つけられないだろう。
>…だが、その心配はいらなかったようだ。
>職員出入り口から外へ出たすぐ近くの屋台で、メリーはお好み焼きをジーっと見つめていた。
>
>「…もしかしてお前朝飯食ってきてないとか?」
>お好み焼きを見つめて、よだれでも垂らしそうなメリーに近づき、問う。
>もし今朝、浅い眠りから起きてすぐに風呂に直行してるのなら、メリーは朝食という朝食は取っていない。
>仕度して、玉子焼きを2.3個口に放り込んで、すぐに僕たちと一緒に出てきたのだから。
>
>「う…そ、そんなこと無いわよ?」
>と言いながら、彼女の視線はいまだにお好み焼きに行っている。
>「…ったく」
>300円か…。
>僕はズボンのポケットから小銭を探った。
>「一個くれ」
>「はいよ、300円になりまっす」
>「ん」
>ポケットから300円を出し、会計担当の学生に渡す。
>
>「はい、毎度あり。あちちちち」
>調理担当の学生が、出来立ての好み焼きを無造作にパックに詰め込み、僕のほうに差し出す。
>「ん、…あちちち」
>その渡されたお好み焼きを、そのままメリーに渡す。
>メリーはきょとんとした様子で、差し出されたお好み焼きを見ていた。
>「早く持ってくれ、熱いんだよこれ」
>「え?あ、…うん」
>慌てて僕からお好み焼きを受け取る。
>だが、彼女が持った場所は、最も触れてはいけない場所だった。
>「熱ッ…!!」
>メリーはパックの底面を持った。
>そのせいで受け取った瞬間、その熱さに驚いてそのパックを放してしまった。
>「ッ―――バカ!!」
>放されたパックは、万有引力の法則に忠実に真っ逆さまに落ちる。
>「――――あ!!」
>
>地面に落ちるスレスレの高さで、お好み焼きはその価値を落とさずに済んだ。
>「熱い…」
>時々自分の反射神経には驚かされる物がある。
>火傷になるかならないかの温度が僕の右手に当てられている。
>「…ほら、今度は横側を持て」
>呆然としているメリーに再度お好み焼きを渡す。
>逆さまになってパックの中身がシェイクされたが、お好み焼きだから大丈夫だろう。
>「ご…ごめんね。隆一…」
>両手でパックを受け取ったメリーが、謝ってくる。
>「あー…、こういう時に言う言葉は『ありがとう』だろ?」
>照れくさくなって、メリーから目を背けて頭をかく。
>「…………」
>「…………?」
>反応が無いのに気づき、後ろを向こうとした瞬間。
>ドガッ!!
>「ゴハッ!?」
>いきなり脇腹に凄まじい衝撃が襲いかかった。
>「な…何を…」
>痛む脇腹を押さえ、メリーの方を向く。
>
>見たところ棒では殴らなかったようだ。
>両手はお好み焼きを持っていて塞がっている。
>…ということは。
>「蹴ったな…いててて…」
>
>
>目の前でお好み焼きを持って仁王立ちしている人物の顔を見る。
>相当ご立腹でいらっしゃる。
>…何で?
>「何か悪い事したかな…僕…」
>「ふむ、あれにカラシをかけられたのが気に食わなかったのであろう」
>いつの間にか帰ってきた俊二が腕を貸してくれる。
>「いでででで…何でこんな目に…」
>痛みを和らげるためにと横っ腹を摩っていると、
>意外と早く痛みが引き、何とか背中を伸ばすのも平気になるほど回復した。
>「そろそろ行かないと、前の班からブーイングの嵐だな…」
>懐から懐中時計を取り出し、俊二がつぶやく。
>「もうそんな時間か…メリーはどこ行った?」
>また行方不明にでもなられたら、完全に時間に間に合わなくな……。
>
>……………
>
>メリーは何事も無かったかのように、既に近くのベンチでお>好み焼きをパクパクと口の中に運んでいた。
>
>
>――――――――
>
>「さて、メリーや」
>「ん?」
>チョコバナナを売っている教室の前で、メリーにこれだけは伝えておく。
>「いいか?ここは学校だ。Schoolだ」
>「まぁ、…そうね」
>「ここでは、騒動を起こさないようにしてくれ。頼むから」
>「…何で?」
>「とりあえず、鉄の棒で人を叩きのめしたり、脇腹を思いっきり蹴るようなことはしないでくれ」
>「そ…そこまでしないわよ!!」
>いや、やってたろ
>と、心でツッコミをいれる。
>「とにかく、目立った行動は取らない事。僕が変な目で見られるから」
>既に蹴りの事で話題が立ち始めている。
>そもそも目立つ容姿をしているメリーが、学校に訪れた時点で噂になるだろう。
>「…わかったわよ。で、これからどうするの?」
>「ここに入る」
>親指で、後ろの教室を指す。
>「チョコバナナ?」
>「そう、僕達の本陣だ」
>「ここで学校を(売り上げで)制覇する」
>「へー…」
>「と言う事で、中に入ろうか」
>
>ガラララララ…
>「おはよーさん」
>「おお、迷える子羊達よ。この俺様が来たからにはもう大丈夫だ!!」
>「……………」
>僕と俊二の後ろについて、こそこそとメリーも入ってくる。
>
>「あ、おはよー」
>「おーっす」
>「おう、おはよう」
>「やっほー」
>僕らの前の班は、新しくチョコを溶かす作業に入った所だった。
>
>「おー、今までどれだけ売れた?」
>売り子をしている(といっても、今は客は来ていないが)咲に聞く。
>「えーっと、大体30本くらいかな?」
>「すくねぇな…」
>「そうかな?開店から1時間ちょっとなら多い方だと思うよ?」
>「そういうものか…」
>
>咲(さき)はこのクラスで『委員長補佐』を勤めている女子生徒だ。
>勤めていると言っても、普通のクラスにはそんな役割はない。
>この極悪委員長が、時々とんでもない事を仕出かすのを止めるための『補佐』
>つまりお目付け役だ。
>彼女自身補佐として立候補しており、それなりにこの役割を楽しんでいるようだ。
>
>「ところでー…後ろの女の子って、お客さん?」
>咲が、僕と俊二の後ろに隠れていたメリーを見る。
>「……………わ、私は…」
>「こいつはメリー。僕の連れだ」
>「……こんにちは」
>「ちと照れ屋なもんでな。よろしく頼むぞ皆の衆」
>「…う、うるさい!!け、警戒してるのよ…!!」
>…小動物?
>「あはははは!!この子かわいー!!」
>「ほんとだー!!フリフリドレスー!!」
>咲と、一緒にいた女子がメリーに襲い掛かる。
>「可愛いって、僕達とそんなに歳は変わらないんじゃないのか…?」
>「女の子にはそういうのは関係ないのよ」
>「んぁー!!放せー!!」
>メリーは二人の抱擁から逃げ出そうと必死になっている。
>
>「で、俺たちは何をすればいい?」
>「そうねぇ…。とりあえず、チョコが焦げないように溶かしてくれる?」
>じたばたしているメリーをガッシリと捕まえながら、指示をくれる。
>「わかった。僕がやろう」
>僕か俊二。どちらかが料理関係の手伝いをする事になると、必ず僕がやるようにしている。
>「ふむ。俺はバナナの皮剥きか?」
>「ううん。俊ちゃんは客の呼び込みしてくれる?」
>「ぬ…。そうか任せておけ」
>そういうと、俊二はさっさと教室から出て行ってしまった。
>
>「流石に扱いが上手いんだな」
>「バナナやチョコにいらない事されたら困るもん」
>そのために調理に直接関係無いことをさせたらしい。
>「僕はこのままチョコをかき回せておけばOKなんだな?」
>「うん。私達はその間に校内を回ってくるから、よろしくね」
>「あぁ、後は俺らに任せておけ」
>ガタン!!
>「!!?」
>全員一斉にその声の主から飛び退いた。
>「お前いつの間に戻ってきた!?」
>いつの間にか俊二が教室の中に戻ってきていた。
>ヤツは肩の埃を叩きながら、不適な笑みを浮かべている。
>「地獄の底から這い上がってきてやったぞ」
>「今普通に窓から入ってきてたじゃん」
>男子学生Aが鋭くツッコむ。
>ピクッ…
>あ、俊二の動きが止まった。
>埃を叩いているポーズで、まるで一時停止したかのように、動きが停止してしまった。
>「…さ、さて俺は何をすればいいのかね?」
>少しシドロモドロになりながら、いつもの調子に戻る。
>
>「それじゃあさ、咲。俊二君に売り子やってもらおうよ?」
>「えー…。大丈夫かな…」
>「放してー…」
>ぬいぐるみのように抱擁されているメリーは、既に諦めモードだ。
>その気になれば振り払えるだろうが、さっきの約束を守っているのだろう。
>「俺の接客スマイルを甘く見るなよ。国宝級の笑顔だぞ」
>「お前の笑顔を国宝にするとは、相当価値観の狂った国なんだな」
>「何を!?そういうことは俺のスマイルを見てから言え!!」
>「いいだろう。拝見させてもらおうか?地獄の接客スマイルを」
>僕と俊二が対峙する。
>前の班の生徒達が、固唾を飲んでその様子を見ている。
>
>「ふ…あの世で後悔させてやる…」
>命を危険に晒す技なのか。
>「行くぞ!!」
>「!!」
>俊二は長くもない自分の前髪を、わざわざかきあげ、
>キザに、優雅に、そして爽やかに微笑んで魅せた。
>「フッ…」
>もともと俊二の容姿は、それなりの保障ができる。
>特別美形というわけではないが、明らかに一般的なレベルを上回っているのは確かだ。
>「…どうですかな、女性審査員の方々」
>僕は何とも言えないので、後ろの三人に決めてもらう。
>
>「うん、全然平気だよ!!」
>「流石は俊二君ね!!決まってるよ」
>「放してぇ…」
>どうやら決まりのようだ。
>
>
>――――――――――――
>
>
>「と言うわけで、よろしくね」
>「あぁ。なるべく早く帰って来いよ」
>「私も心配だから、気が済んだら戻るよ」
>やはり、俊二は信用されない運命らしい。
>
>ジー…
>「あ、メリー…」
>その視線に気づき、肝心な事を思い出す。
>咲達からの抱擁からは解放されたのはいいが、僕らはここで店番だ。
>メリーは露天を見て回りたいらしいが、僕もここを離れられないし、
>一人で行かせるのは危険だ…(いろんな意味で)
>どうするか迷っている僕を尻目に、咲が口を開いた。
>「ねぇ、メリー。私と一緒に学校を回らない?」
>「………え?」
>おぉ、いいアイデアだ。
>一人で歩き回ってそこらの男に手でも出されたら、かわいそうだ。(反撃にあう男が)
>その分女の子同士、咲なら信頼できる。
>「うん、それがいいな」
>「確かに…勝手が分らない混雑した場所での単独行動は、色々ややこしい事になりかねないぞ」
>「ね?みんなも言ってる事だし、一緒に行こう?」
>そう言って、手を差し出す。
>メリーは戸惑いながら、僕のほうを見た。
>「どうするかはメリーが決めるといいよ」
>もう一度、メリーは差し出された手を見る。
>そして、その手の持ち主を見る。
>
>
>―――――――――――
>
>
>彼女は、温かい笑顔の持ち主だった。
>大丈夫。
>隆一が信頼している人だ。
>この人となら、安心して学校を歩き回れる。
>それに、この人の笑顔には優しさがこもっている。
>
>私はその手を握り返した。
>
>「よろしく…えっと、咲…だっけ?」
>「うん。とことん楽しもうね?メリーちゃん」
>「よろしくね。咲」
>
>「楽しんで来いよー」
>「気をつけてなー」
>教室を出る間際、隆一と俊二が見送ってくれた。
>…もしかして子供扱いされてるのかな…。
>「心配してるのよ、二人とも」
>咲が私の気持ちを察してくれたのか、フォローを入れてくれた。
>「…ちょっと納得いかないかも」
>
>
>「ねぇ、まずはどこに行くの?」
>どこに何があるか分らない私は、とにかく咲について歩くくらいしか出来ない。
>「うーん…どうしよっか?」
>「き…聞かないでよ…」
>「じゃあ、まずパンフレット貰いにいこっか?」
>「パンフレット?」
>パンフレットって…なんだろ。
>「そ、学校全体の地図とか、出し物が載ってるからメリーちゃんにも役立つと思うよ?」
>「へー…」
>「職員室に行けば貰えると思うから、行ってみよう」
>「うん」
>
>さっきも来た職員室の前。
>咲は入ったっきり戻って来ない…。
>「遅い…」
>……私も入ろうかな。
>
>「おい見ろよ、あの女の子…」
>「ねぇねぇ、あれってコスプレじゃない?」
>「お人形さんみたいで、かわい~!!」
>「どこのクラスの女子かな?」
>
>…うるさいなぁ。
>咲早く帰ってきてくれないかな…。
>
>「なぁ、お前名前聞いてこいよ!!」
>「何でだよ、お前行ってこいよ」
>
>「………やっぱり入ろう」(関係者以外立ち入り禁止)
>ガラララララ…
>「うわ、何この人だかり…」
>職員室は、廊下の生徒たちの数にも劣らないほど、生徒で溢れかえっていた。
>これだけいると咲を見つけるのも大変かな―――…?
>「………何あれ」
>誰にとも無く、つぶやく。
>
>職員室の端の通路を塔のような物が、よたよたと危なっかしくこちらに歩いて来る。
>グラグラとゆれる塔――じゃない。何十にも詰まれた薄い本の影から、時折見える顔…。
>――あぁッ!!つまずいた!!
>「危ない!!」
>「わ!?――とっとっと…おおおお!?」
>転倒は避けたものの、天高く積み上げた本が、前につんのめって今にも崩れそう。
>「―――っく!!」
>私は素早い身のこなしで咲に近づき、文字通り体全体で本の崩壊を受け止めた。
>「…あ、ありがとう。メリーちゃん」
>「は…早く…姿勢戻して…」
>「え?」
>受け止めたのはいいものの、本の天辺を押さえるためには背伸びしないと届かない高さ。
>爪先立ちしてる足がピクピクしてたりなんかして。
>
>「よいしょっ…と」
>「ん…く……はぁ…」
>私と咲は、その体勢のまま近くの机に本を下ろす事にした。
>「何でこんなにいっぱい貰ってきたの?二冊で十分でしょ」
>当たり前なことを聞く私に対し――。
>「各クラスの委員長がこれ配る事になってたの忘れちゃってて…ね?」
>テヘヘと軽く申し訳なさそうに謝る咲。
>
>「にしても、凄い量ね…」
>裕に1mはある本の塔。
>これを一人で持って行こうなんて、無茶が過ぎると思う。
>「配ればすぐなくなるよ」
>「配ってたら時間なくなっちゃうよ?」
>咲は、あくまでもこの本を配るつもりらしい。
>仕方ないなぁ…。
>「それじゃあ、私も持ってあげるよ」
>「え!?それは悪いよー…」
>「私には、一緒に回ろうって約束したのに、パンフ配りで約束破られる方が、気に障るのだけど…」
>「あ…」
>「一緒にパンフ配ればその分早くなるでしょ?」
>「…じゃあ、お願いできる?」
>「別に、咲のためじゃないわよ。私を案内してくれる人がいなくなるから手伝ってあげるだけ。勘違いしないでね」
>「あぅ…ゴメンね…」
>「え!?…あ、その…、いいのよ。私が勝手にやってる事なんだから…」
>「…?」
>「とにかく、さっさと片付けちゃいましょ」
>「う…うん」
>
>私は咲のパンフの半分を持って、校門に向かった。
>校門で渡すのが一番早いそうだ。
>
>「それじゃあ、ここで配りましょうか」
>「わ…分ったわ」
>迂闊だった。
>よく考えたら、配るって人間に渡すって事じゃないの…。
>…どうすれば―――――
>
>「どうぞー、本校のMAPと出し物が載っているパンフをお配りしていまーす」
>咲は来る人々に積極的に渡していた。その顔には笑顔すら浮かんでいる。
>…あれを私がやるの?
>どうしよう…絶対無理だよ…。
>「ねぇ、咲…私渡せないよ…」
>手早くパンフを配っている咲にボソボソと話しかける。
>「え?…あぁ、これは私なりのやり方なの。メリーちゃんは普通に渡せばいいよ」
>「普通にって…」
>「普段の表情、普段のやり方で渡してみて?あ、はーいパンフレットどうぞー」
>中途半端なアドバイスをして、咲は行ってしまった。
>
>普段の表情…?やり方?
>…よし、やってみる!!
>
>私は、震えた右足を前に出し、一歩を踏み出した。
>踏み出してしまえば、たいしたことは無い。
>そう――――簡単なことだった。
>
>ツカツカツカ…
>「それでさー、あっちの校舎の中に―――」
>トントン
>「クレープ…って、ん?」
>「はい、パンフレット…」
>「え?あ…あぁ、ありがとう」
>「………………」
>ツカツカツカツカ…
>
>これが一連の動作
>別に愛想を振りまかなくても渡せばいい。
>スムーズに、円滑に。
>さっさと全部配ってしまおう。
>
>あの人は…持ってない。
>…よし。
>
>ツカツカツカツカ…
>「ねぇ、まずどこ行こうか?ってあら?」
>「…ん、パンフ」
>「あ、ありがとう」
>「それじゃ…」
>「…?」
>ツカツカツカツカ…
>
>ツカツカツカツカ…
>「はい…」
>ツカツカツカツカツカ…
>「ん…」
>ツカツカツカ…
>「パンフ…」
>ツカツカツカツカツカ…
>
>
>―――――――――――――――
>
>
>「あ゛ー…づーがーれ゛ーだー…」
>「…大丈夫?咲」
>あれから30分かけてパンフ配りを終わらせることができた。
>咲が動きつかれたから休憩しようと言うので、フラフラの咲を連れて食堂まで行く事にした。
>「なんだか最後の方、向こうからパンフを貰いに来てたんだけど…何でかな?」
>「私が配ってる時『向こうで人形みたいな子がパンフ配ってるよ』って聞こえて…それから渡す人が急に減って…あうー…」
>…私のせいだったようだ。
>ゴメンね咲…。
>「何か飲み物貰ってくるね?」
>「うん…お願い…」
>疲労困憊の咲をその場に残して、私は食堂のカウンターに飲み物を貰いに行く事にした。
>
>『カウンター 食券はこちらでお求めください』
>どうやらここらしい。カウンターの中には誰も居ない。
>呼んでみよう。
>「あの、すいませーん」
>「はいはい、いらっしゃい―――あら?あなたは…」
>「?」
>しばらく待つと、人の良さそうなおばちゃんが中から出てきた。
>「私が…どうかしました?」
>「『お人形みたいな、かわいい子が学校に来てる』って噂になってるけど、あなたね?」
>噂…になってるんだ…。
>隆一の言う『普段着』を着てくればよかったかな…。
>「さ…さぁ…。どうでしょう?」
>「いいのよ、謙遜しないで。それで、今日は何を買いに来たの?」
>おばちゃんに聞かれ、私は先に飲み物を持ってくることを思い出した。
>「咲の飲み物を買いに来たんです」
>「咲って、あの頑張り屋の咲ちゃん?」
>「あ、それ多分当たりです」
>「それじゃあ今日はタダでいいわよ」
>「え?」
>私が頭の上に『?』を出していると、おばちゃんはニッコリしながらその意味を教えてくれた。
>「『各学年で最も優秀な成績を収めたクラスの委員長は、その特典として学園祭では無償で各出し物を遊ぶ事が許される』―――――ってルールがあってね?」
>「うんうん」
>「それで、今あの子のクラスが最優秀を取ったって伝達があったの」
>「へー…いいなぁ…。でも何で今なの?」
>「なんでもサプライズイベントだとか…。そのほうが各委員長の士気が上がるからじゃないかしら?」
>「咲に言ったら喜ぶだろうなー」
>「そうね。はい、ジュース。咲ちゃんは『補佐』でも委員長だから、特典は適用されてるわよ」
>いつの間にか用意されたジュース入りの紙カップ2つが手渡される。
>「あれ、何で2つも?」
>「もう一つは、メリーあなたの分よ」
>「本当?ありがとう!それじゃ、おばちゃんまたね」
>「はいね。思いっきり遊んでらっしゃい」
>「うん。ばいばーい!!」
>私は紙カップを両手に持ち、咲のいるテーブルに向かった。
>
>「ねぇねぇ、知ってる?今回の弓道部は面白いのやってるらしいよ?」
>「へー、あとで行ってみようよ」
>「じゃあさ、先にチョコバナナ食べに行こうよ」
>「さんせーい!」
>「じゃあ行こう!」
>
>ここの生徒かな?みんな楽しそう…。
>私も早く咲と遊びに行こうっと。
>…?何か物足りないけど…。ま、いいかな。
>
>「咲ー。ジュース貰ってきたよー」
>「あー…ありがとー…」
>咲に紙カップを一つ手渡して、私は向かいのイスに腰掛ける。
>「学食のおばちゃんに聞いたんだけど、咲のクラスの委員長が最優秀だったんだって」
>「あーそー…よかったね――――――…え?」
>「何か出し物がタダになるんだって。いいなー…咲は―――」
>「ぃやったああああああああああああああああああッ!!」
>「きゃあ!!」
>今まで生ける屍状態だった咲が、急に叫びだした。
>私はもちろん、周りの人まで驚いたり固まっていたり、騒然としていた。
>「ちょっと、咲…恥ずかしいよ!!」
>慌てて私が咲を静める。
>「あ…ご、ごめん。でもそれって本当?」
>「うん、間違いないよ。このジュースだってその特典ってやつで、タダで貰ったのよ」
>「よかったー!!今日お財布がピンチで、出し物をどうやって回るか悩んでた所だったの」
>「あ、出し物といえば、キュウドウブって所が面白いって聞いたけど。行って見ない?」
>「弓道部?…何やってるんだっけな…。よし、これ飲んだら行ってみようよ」
>「意義なし。今日はとことん回ろう、咲!!」
>私と咲は急いでジュースを飲み干し、生徒達がはびこる廊下に歩いていった。
>
>
>―――――――――――――――
>
>
>「ここ?」
>「そう、ここ」
>私と咲は、校舎から離れた木造の小屋の前に立っている。
>重々しい引き戸の上には【弓道部】と書かれた威厳のある看板が掛けられていた。
>「待ってる人いなくない?」
>「多分中で待ってるんだよ」
>言いながら引き戸を開けて中に入っていく咲。
>私もその後について中に入っていく。
>
>「ごめんくださーい」
>「はーい、いらっしゃーい」
>中に入るなり、一人の女子生徒が迎えに来た。
>周りを見る。
>案の定。部室の中には殆ど生徒がおらず、部員がのびのびとくつろいでいる有様だ。
>「…営業中…だよね?」
>「はい、絶賛営業中であります!!」
>意味もなく敬礼を取る女子生徒。
>「…誰もいないじゃない」
>「あいたたた…一番気にしている事を…」
>私のツッコミに対して、今度は胸を押さえるジェスチャーをしながら、乾いた声で笑う。
>
>「まー、しょうがないんじゃないか?大体企画に無理があったんだろ?」
>奥でくつろいでる男子生徒が、それとなく言う。
>その言葉にカチンと来たのか、彼女はその男子生徒に言い返した。
>「それじゃあ、アンタ外で客呼びしてきなさいよ!!」
>「やなこった、めんどくせぇ」
>「あんた、一応部員なんだから何かしようとは思わないの!?」
>
>「あーあ…また始まった…。ごめんなさいね」
>痴話喧嘩になってしまった二人を見て、他の女子部員が出てきた。
>「あ、いいんです。何か色々大変ですね…」
>「元はと言えば、あの二人のケンカも原因でお客が来なくなっちゃったのよね」
>あ、わかるかも…(見てて邪魔だし)
>「それで、どうするの、一回やってみる?」
>「あ、はい。えっと、最優秀委員長って話は聞いてます?」
>「もちろん聞いてるわよ、そっちの女の子もタダね?」
>私の事らしい。
>「ありがとうございます」
>咲はペコリと頭を下げた。
>「あ、ありがとう」
>私もつられて、軽くお辞儀をする
>「いいのよ、それじゃあこっちに来て」
>私と咲は、その人についていった。
>
>「はい。それじゃこれ持って」
>女子部員は私達に弓を手渡した。
>「…これって、弓だよね?」
>「そう。弓」
>「それで何をするのよ…」
>「あの的を射ってもらいます」
>女子部員の指をさした先には、的がかけられていた。
>「私達初心者なんだけど…」
>「ガッツでカバーしてください。はい、アナタの分」
>「…客が来ないわけが分った気がする」
>弓を持つ。
>意外と軽く出来ているソレは、作りこそ荒いものの、あの的を射るには十分な物だ。(と思う)
>「いい案だとは思ったんだけどねぇ…」
>「で、アレを射るだけなの?」
>「いえ、ここでは占いも兼ねてるんです」
>「…占いって、どういうこと?」
>咲が弓をまじまじと見ている。
>「的に外れたら、大凶です」
>笑顔で恐ろしい事を言う女子部員
>「あ、当たれば今日一日良い日になるので頑張ってくださいね?」
>…隣の咲の口から、「来なきゃ良かった…」という言葉が漏れたのはそのすぐ後だった…。
>
>――――――――――――――――
>
>キリキリキリ…ヒュン!!
>タンッ!!
>「おー。すごいねー」
>私と咲は、まずやり方を見せてもらう事になった。
>部員だけあって、放たれた矢は上手く的に命中した。
>「大体の形はこんなもん。ま、あとはがんばってね」
>「え、それだけ?」
>「いろいろ説明すると長くなっちゃうからね。じゃあ先に委員長さんがやってみようか?」
>投げやり部員にポーズだけは教えられた咲が、射ることに決められた。
>「いや、私は補佐であって――――――え?え?え?」
>説明している間に、立ち位置まで連れて行かれる。
>「うぅ…やるしかないか…。行きます!!」
>震える左手で弓を構え、震える右手で矢を持ち。
>はるか遠くに見えるであろう的(実際には10m程)に向かって、矢を放つ!!
>
>咲の矢は勢いはあったものの、的の方向には飛ばず、大きく左にそれて壁に刺さってしまった。
>
>「はい、残念でした。大凶」
>「うわーーーん!!」
>「じゃあ次は、そっちの女の子。やってみて」
>「はい…」
>今度は私の番らしい。
>私はさっき咲が立っていた場所に立ち、弓を構えた。
>
>弓―――…
>
>――――――――私の命を奪った道具を――――――――
> ――――今私が持っている――――
>
>「…ッ!!」
>すぐ近くの的を見たとき、ズキッと、頭痛が走った。
>
>さっきから嫌な予感がしていた。
>万が一、自分が弓矢を持つ事になってしまったら…。
>
>さっきから自分が分らなくなっていた。
>なぜ、自分を殺した道具をわざわざ見に行こうと思ったのか…。
>
>そして今、私は弓矢を持って、それを構えている。
>
>狙いは『的』
>『私』じゃない。
>
>でも、私を射った人間は、私を『的』として、射った。
>
>『的』は『私』じゃない。
>『私』は『的』じゃない。
>止めて…。もう…思い出したくない…。
>
>キリキリキリキリ…!!
>
>『私』は『的』じゃない…。
>狙わないで…。射らないで…。
>「―クッ!?」
>頭が…痛い…!!
>
>突然の頭痛に、私は思わず矢を押さえてた指の力を緩めてしまった。
>そして、矢は抑制力から開放され、弦の力で放たれる。
>
>ヒュン!!
>ストン!!
>
>「――――あ…」
>私の射った矢は真っ直ぐに飛び、見事に的の真ん中に刺さった。
>「大当たりー!!おめでとうございまーす!!今日一日はいい事ありますよー」
>「今…私…」
>なんだろう…、今の頭痛は…。
>あれほど痛かった頭痛は、今ではすっかり収まっている。
>
>「メリーちゃんおめでとー!!」
>咲がボーッとしてた私に、横からガバッと飛びつく。
>「やったじゃない、本当に初めてやったの?」
>「え…う、うん」
>「いやー、いい腕してるわねー。どう?弓道部に入らない?」
>的の真ん中に刺さった矢を見て、彼女は私を気に入ったようだ。
>でも、私は…。
>「嫌です…」
>弓矢を持つなんて二度とゴメンだ…。
>今の私なりの、精一杯の否定だった。
>「あら、そう?勿体無い…」
>「さりげなくスカウトするのは止めてください。まったく…」
>「そうでもしないと、廃部になっちゃうのよねぇ…はぁ~」
>女子部員は方をガクンと垂らし、深いため息をついた。
>「それじゃ、私達はおいとましますね。出し物頑張って下さい」
>「………それでは」
>「はいはーい、文化祭楽しみなさいねー」
>
>私と咲は、弓道部から出て、次の目的地を決めることにした。
>「次はどこに行こうかしら…」
>「…………」
>「あれ?メリーちゃん、どうしたの?」
>「え?あ、うん。なんでもないよ?」
>「そう?ならいいけど…」
>さっきの事は、今は忘れよう。
>楽しいはずの文化祭だし。思いっきり楽しもう。
>そう自分に言い聞かせ、私は咲の広げたパンフレットを覗きながら、次の目的地を決めることにした。
>[[メリーの居る生活 六日目(2)]]に続く
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