第1章 天文学から宇宙論へ

  • 1.1 宇宙像の広がり

  • 1.1.1 天文学的単位

[長さの単位]
太陽‐地球間距離:1[\mathrm{AU}]=1.496 \times 10^{11} [\mathrm{m}]
長半径での年周視差が1秒角になる時の距離:1[\mathrm{pc}]= \frac{1 \mathrm{AU}}{\pi /(180 \times 60 \times 60)} = 3.086 \times 10^{16} [\mathrm{m}]
宇宙論用に大きな単位を使う:1 [\mathrm{Mpc}] = 3.086 \times 10^{22} [\mathrm{m}]

[時間の単位]
10億年:1 [\mathrm{Gyr}] = 3.156 \times 10^{16} [\mathrm{s}]
現在の宇宙年齢=13.7Gyr

[質量の単位]
太陽質量:1 M_{\odot} = 1.988 \times 10^{30} [\mathrm{kg}]

  • 1.1.2 星の宇宙から銀河宇宙へ

[図1.2:ハーシェルの天の川銀河の星の分布図]
すべての星が同じ明るさと仮定して距離を求めた断面

[図1.3:カプタイン宇宙]
年周視差、三角測量などを用いた宇宙の描像。
星の数が中心の1%になる距離を銀河の端とすると、サイズは8.5kpc、中心厚みは1.7kpcとされた。

[大論争]
シャプレイ:天の川銀河1つでできている
カーティス:たくさんの銀河からできている
後にハッブルがセファイド変光星の距離測定で決着。

  • 1.2 膨張宇宙論の確立

  • 1.2.1 宇宙の膨張

[1916年:一般相対性理論]
アインシュタインの登場による、宇宙の記述方法の変更。
宇宙項の追加による、静止宇宙の方程式。
ド・ジッターによる真空解。

[1922年:膨張宇宙解]
フリードマン方程式による膨張宇宙解
=銀河の赤方偏移の原因

[図1.5(1929年:ハッブルの法則)]
銀河の静止波長\lambda_e\lambda_oで観測されると、赤方偏移は、
z = \frac{z_o - z_e}{z_e}
ドップラー効果から(v<<c)
\frac{\lambda_o}{\lambda_e} = 1 + \frac{v}{c}
なので、
v = cz
の関係があることがわかる。ただし、z<<1。

現在のハッブルの法則。
v = H_0 d
H_0 [\mathrm{km/s/Mpc}]は、ハッブル定数である。
当時のハッブル定数は、500[km/s/Mpc]だったが、セファイド変光星の種類を混合したため。

[無次元パラメータの導入]
ハッブル定数が未決定なため、その不定性を残して議論することにした。
h = \frac{H_0}{100 \mathrm{km/s/Mpc}}
という無次元量の導入。
例えば、後退速度が1000[km/s]の銀河までの距離は、10 h^{-1} [\mathrm{Mpc}]となる。
すると、ハッブル定数は、
H_0 = 100 h \mathrm{km/s/Mpc} = 3.241 \times 10^{-18} h [\mathrm{s}^{-1}]
となる。

[ハッブル時間]
H_0^{-1} = d/v = 9.778 h^{-1} [\mathrm{Gyr}]
だけ遡ると、宇宙は0歳になる。よって、これを宇宙年齢の概算値にしている。
h=0.7程度とすると、140億年といえる。

ハッブル時間に光速をかけると、因果関係を持てる半径を表し、これをハッブル距離という。
cH_0^{-1} = 2998 h^{-1} [\mathrm{Mpc}]

  • 1.2.2 ビッグバンモデル

[ビッグバンモデル]
ガモフのビッグバンモデル。
原子元素合成で、ヘリウム、重水素、リチウムが生成されて、それ以外の元素が星で生成される。
CMBの発見による定常宇宙論からビッグバンへの移り変わり。

[インフレーション宇宙]
1981年、佐藤勝彦とグースが提唱。

[CMBの温度と非等方性]
COBEによるCMB温度の測定。
T_0 = 2.725 \pm 0.001 [\mathrm{K}]
COBEのあと、WMAPによるさらに高い精度での非等方性の確認。

  • 1.3 宇宙論的天体と宇宙の大構造

  • 1.3.1 いろいろな銀河

[図1.11 音叉図]
楕円銀河(E0-E7)→レンズ状銀河(S0)→渦巻銀河(Sa-Sc)
                 →棒渦巻銀河(SBa-SBc)
早期型銀河←→晩期型銀河

楕円銀河の数字は、(a-b)/aを10倍した値に一番近い整数。
不規則銀河はIrrで大マゼラン雲、小マゼラン雲が例。

  • 1.3.2 活動銀河

[セイファート銀河]
渦巻銀河の中に非常に明るく輝く中心核を発見。
500km/hの挟輝線と数千km/hの広輝線をもつ1型と挟輝線のみをもつ2型。
現在は、活動銀河の一つとされる。

[電波銀河]
電波で明るい銀河の発見。
挟輝線と広輝線をもつ1型と挟輝線のみの2型。
M87などが電波銀河。

[クエーサー]
3C48や3C273などのような可視光で広がりのない強い電波源。
スペクトル内の輝線が、水素のバルマー系列の輝線のシフトしたものと判明。
z=0.158とz=0.367であり、距離にすると440/h[Mpc]と900/h[Mpc]であった。
電波で明るくないものも発見され、QSOと呼ばれた。
現在では、電波強度にかかわらず、クエーサーと呼んでいる。
クエーサーも活動銀河の一つである。

[ブレーザー]
とかげ座BL星が代表的で、BL Lac天体と呼ばれている。
光が強く偏光していて、輝線がほとんどない。
ジェットの方向から見ている活動銀河と考えられている。
可視光観測で明るさが激しく変動するOVVもあり、これはBL Lacより明るく、広輝線をもつ。

[LINER]
通常の活動銀河よりも活動性が低く、ジェットが見えないことがある。
図1.15のNGC4261はダストトーラスが分解。

  • 1.3.3 突発天体現象

超新星爆発
I型超新星=スペクトルに水素原子のバルマー系列輝線が見えない
→Ia型超新星=ケイ素の輝線が見られる
→Ib型超新星=Ia以外でヘリウムの輝線が強い
→Ic型超新星=Ia以外でヘリウムの輝線が弱いか見られない
II型超新星=水素原子のバルマー系列輝線が見える
→IIn型超新星=比較的狭い輝線を持つ
→II-P型超新星=IIn以外で最大光度の後に光度の現象の鈍る時期がある
→II-L型超新星=II-Pとは逆に光度がリニアに減少する
→IIb型超新星=最初が水素輝線、あとでヘリウム輝線が強くなる

[コア崩壊]
Ia型以外は、コア崩壊でおこる。
初期質量が8Moより大きい場合は、Fe核まで反応が進む。
しかし、Fe核は安定で、核融合が起こらないため、熱が供給されず、圧力が下がり、星が収縮する。
密度と温度が上がると、高エネルギー光子がFeを光分解し、大量の熱を吸収する。
さらに、圧力が下がり、星は収縮する。
すると、電子による縮退圧で支えられるが、密度が上昇してくると、陽子に電子が捕獲されて、ニュートリノが放出される。
電子の数が減ると、縮退圧も減り、さらに収縮する。
今度は、中性子による縮退圧によって支えられるが、このとき跳ね返りで爆発が起きると考えられている。
25Mo以下の場合はそのまま中性子星になるが、それより大きいと支えきれずブラックホールになる。

[Ia型超新星]
0.5Mo<M<8Moの間の初期質量の場合には、炭素と酸素の核で反応が止まる。
このとき、進化の過程で1.4Mo以下になり、電子の縮退圧で支えられる白色矮星になる。
この白色矮星が連星系で、相手が赤色巨星などの場合、相手から質量が降り注ぐ。
その結果、チャンドラセカール質量(1.44Mo)を超えて、内部コアの炭素が暴走的に核反応を始めて星が爆発する。
ただし、理論的には、この機構は確実ではない。
しかし、経験的には、Ia型超新星は同じ絶対等級をもっているため、距離指標として使える。

[ガンマ線バースト]
ガンマ線が全方向から強く降ってくることがある。
一日に一回は起こるこのイベントをガンマ線バーストという。
持続時間は、0.01sから1000sまで幅があり、X線などの長い波長の放射が数日間続く残光が見られる。

  1. 継続時間が2秒以下の短いバースト=中性子星の合体などによる破壊が原因。一部はマグネターと呼ばれる強い磁場を持った中性子星が引き起こすフレア現象とも。
  2. 継続時間が2秒以上の長いバースト=超新星爆発の前に起こりやすい傾向があり、関連性が示唆されている

  • 1.3.4 宇宙の大構造

[銀河群]
50個程度の銀河の集まり。1.5/h[Mpc]程度の大きさ。

[銀河団]
50‐数千個の銀河の集団。5/h[Mpc]程度の大きさ。
  1. 規則銀河団=球に近い分布。楕円銀河が多い。中心にcD銀河と呼ばれる明るくて巨大な楕円銀河がある。
  2. 不規則銀河団=形が整っていない。渦巻銀河が多い。cD銀河はないものも多い。

形態・密度関係=銀河の数が多いほど楕円銀河の割合が多い。

  • 1.4 ダークマターとダークエネルギー

  • 1.4.1 ダークマター

[ダークマターの発見]
1933年、Zwickyによるかみのけ座銀河団の7つの銀河の解析によって、発見された。
  1. ビリアル定理で重力ポテンシャルを見積もり
  2. 銀河団の大きさから質量を推定
  3. 銀河団の質量・光度比の導出
また、渦巻銀河は、回転速度から近傍銀河の質量が推定でき、質量光度比を求められる。
比べると、銀河団の方が近傍銀河の約400倍大きかった。
つまり、銀河団の質量はなにか見えないものを含んでいると考えられた。

[回転曲線]
普通に重力と遠心力が釣り合っているとすると、ケプラー回転である。
\frac{GM}{r^2} = \frac{v^2}{r}
その結果、v \propto r^{-1/2}となるが、実際には、図1.20のようなフラットカーブが得られることが多い。
これは、円盤部分よりも広がったダークハローと呼ばれる質量が存在していることが考えられた。

[楕円銀河]
楕円銀河でも静水圧平衡を仮定することで、同じようにダークマターの存在が予言できる。
候補としては、いろいろ挙げられているが、まだ決定的なものはない。

  • 1.4.2 ダークエネルギー

[宇宙項]
アインシュタイン方程式の宇宙項が宇宙論にとって大きな役割を持つ。
素粒子物理の基盤である場の理論に基づくと、真空状態の空間も量子効果により一定のエネルギーをもつことが期待される。
この真空エネルギーの差から力が生じるカシミール効果も観測されている。

[宇宙定数]
場の理論から必要とされる宇宙定数の値は、観測的制限による宇宙定数の120桁大きな値。
宇宙定数問題と呼ばれている。
  1. クインテッセンスモデルの提唱。
  2. ブレーン世界仮説
  3. 人間原理に基づく議論

最終更新:2016年04月04日 23:18