「保住くん。なんで、私を……。その……構うの! いつも、いつも!!」
「かわいいから」
朝一番に生徒昇降口で交わされた会話。
相手の一言が加奈子を困惑させていた。いや、苛立させていたが正しい様子だった。
この春、中高一貫校の高等部へ外部入学した加奈子。
それは加奈子にとって、ここまでの人生一番の事業。
加奈子の就学地域は高校が公立高校一校だけで、ほぼ中学からそのままシフトする
のが定例だった。そんな先の見える道に疑問を感じたのか、はたまた冒険したくなっ
たのか。とにかく、この流れから抜け出したくなった加奈子。
地域の高校は評判も悪い訳でもなく、大学進学率もそれなり。当然、周囲も加奈子に
翻意を促そうとやっきになったが、彼女の意思は強く、中三の夏からの猛勉強の末、望
を果たしたのだった。
真新しい制服に袖を通し、中学時代は三網だった髪を下ろし、意気揚揚と入学式に
望んだのが……。
式場で隣り合わせた初対面の男子生徒に出鼻を挫かれる。
「眼鏡。似あってるね」
その一言が、加奈子に強く突き刺さる。
式での祝辞や、訓示も記憶に残らず教室へ向かう加奈子に、追い打ちをかけるかの
様に、この男子生徒とクラスメートとなる。それからと言うもの加奈子に何かと絡んでく
る棘のような存在になった保住だった。
そうして、実力テストの終わった、その翌日。保住の一言に加奈子は心乱された。
最終更新:2008年05月24日 20:00