「憂、純」
「梓ちゃん、お疲れさま」
「梓ちゃん、お疲れさま」
全ての試験科目を終え、試験会場を出ると入口のすぐ横で憂と純が待っててくれていた。
私の席は会場の奥の隅っこだったから、出てくるのに時間かかっちゃったな。
私の席は会場の奥の隅っこだったから、出てくるのに時間かかっちゃったな。
「そっちもお疲れ。どうだった?」
「うん、やってきたことは全て出し切れたと思うから、私は悔いはない……かな」
「そっか……で、純は」
「うん、やってきたことは全て出し切れたと思うから、私は悔いはない……かな」
「そっか……で、純は」
横にいるモフモフ頭に目をやってみると、
「ヘヘ……ヤッパワタシッテ、フカノウヲカノウニ……」
モフモフからまるで煙りでも出ているかのように、普段使っていなかった脳みそをフル回転した結果が、今の純の姿らしかった。
「純ちゃんもすごく頑張ったみたいだから」
「そ、そうみたいだね……おーい、純ー」
「そ、そうみたいだね……おーい、純ー」
軽くぽこん、と純の頭を叩いてやる。
「おおっ、梓部長! よくぞ戦地から無事お戻りになられたようで……私は嬉しいでございまする!」
「なんで武士言葉なのよ……」
「ふふっ」
「なんで武士言葉なのよ……」
「ふふっ」
まだ試験の緊張感が残っているのか、妙なテンションの純に苦笑いしながらもとりあえずは無事にセンター試験が終わったことを二人と一緒に安堵する。
――今まで勉強してきたことは、十分に出し切った。
100%出し切れたかというと難しいかもしれないけど、99%は出し切れたと言ってもいいぐらい。
100%出し切れたかというと難しいかもしれないけど、99%は出し切れたと言ってもいいぐらい。
後は、合格発表の日を待つだけ――そう思っていると、
「ん、携帯鳴ってる」
「お、誰から?」
「お、誰から?」
携帯を開くと、メール着信ではなく音声着信。
電話を掛けてきた人は――
電話を掛けてきた人は――
「はい、梓です」
『梓、私だよ』
「澪先輩っ、どうしたんですか?」
『センター試験の全科目終わった時間だろうから、梓にお疲れさまって言いたくて』
『梓、私だよ』
「澪先輩っ、どうしたんですか?」
『センター試験の全科目終わった時間だろうから、梓にお疲れさまって言いたくて』
試験終わりにこうして澪先輩の労いの声が聞けるなんて。
澪先輩からこうして気にかけられるのは、やっぱりすごく嬉しい……。
澪先輩からこうして気にかけられるのは、やっぱりすごく嬉しい……。
「おやまあ、愛しの澪先輩の声であんなに嬉しそうにしちゃって……おっ」
「やっぱり梓ちゃん、澪さんのこと大好きだから……あっ」
「?」
「やっぱり梓ちゃん、澪さんのこと大好きだから……あっ」
「?」
二人がくすりと笑いながら私をちょっぴり冷やかしたかと思うと、急に驚いたような表情に。どうしたんだろ?
「澪先輩、今どこにいるんですか?」
『ん? 今?』
「もしよかったら私、これから澪先輩に会いたいです」
『そうだな……私なら今……』
『ん? 今?』
「もしよかったら私、これから澪先輩に会いたいです」
『そうだな……私なら今……』
そこまで聞こえたところで肩にぽん、と何かが置かれる感触を感じ、後ろを振り向く。
「え?」
「――梓のすぐ傍にいるぞ?」
「――梓のすぐ傍にいるぞ?」
――振り向いた目の前には同じ女性の私から見ても美人と言わざるをえない、綺麗な顔があって。
電話で話していたはずの澪先輩がすぐ傍に立っていて、びっくりしてしまった。
電話で話していたはずの澪先輩がすぐ傍に立っていて、びっくりしてしまった。
「みっ、澪先輩!? どうしてここに……!?」
「どうしてって、寮から大学にある試験会場まではすぐ近くだしさ」
「どうしてって、寮から大学にある試験会場まではすぐ近くだしさ」
そう言われてみれば試験会場は大学自体にあるのだから、寮からすぐやって来れるのは当然だ。
そのことをすっかり忘れてたな私……。
そのことをすっかり忘れてたな私……。
「憂ちゃんも純ちゃんも、本当にお疲れさま」
「ありがとうございます、澪さん」
「あっ、ありがとうございます! 澪先輩に労っていただけて、たいへん光栄であります!」
「ありがとうございます、澪さん」
「あっ、ありがとうございます! 澪先輩に労っていただけて、たいへん光栄であります!」
澪先輩からの労いの言葉で慌てる純がちょっと微笑ましい……なんて思っていると、
「梓、借りてってもいいかな?」
「いえいえ、借りるも何も梓はもう澪先輩のものでしょうし……」
「ちょ、ちょっと純! 何言ってんのよ!」
「いえいえ、借りるも何も梓はもう澪先輩のものでしょうし……」
「ちょ、ちょっと純! 何言ってんのよ!」
また何気にとんでもないことを言ったりしてて、思わずこっちが慌ててしまった。
「ん、ありがとう。じゃあ二人とも、また今度な」
「はい。澪さん、梓ちゃん。また今度!」
「はい。澪先輩、梓。また!」
「はい。澪さん、梓ちゃん。また今度!」
「はい。澪先輩、梓。また!」
これといって否定しない澪先輩も澪先輩だけど……と考えている間に、これから澪先輩と二人きりでいられるみたい。
とりあえずは、そのことを素直に喜ぼう。
とりあえずは、そのことを素直に喜ぼう。
「さ、行こっか梓?」
「は、はいっ」
「は、はいっ」
「梓、なんでも好きなもの頼んで。私が奢るから」
「えっ、そんな悪いですよ」
「センター試験で頑張ってきた梓への労いも兼ねて、さ。気にしないで」
「えっ、そんな悪いですよ」
「センター試験で頑張ってきた梓への労いも兼ねて、さ。気にしないで」
日が暮れる頃、今日は私の両親が泊まりがけで出かけていることもあって夕ご飯を食べに二人でファミレスに寄ることに。
「澪先輩、大丈夫なんですか?」
「ん? お金ならたまにバイトだってしてるから、一食分奢るくらいなんてこと……」
「そ、そうじゃなくてそろそろ寮に戻らないと怒られるんじゃ……」
「ん? お金ならたまにバイトだってしてるから、一食分奢るくらいなんてこと……」
「そ、そうじゃなくてそろそろ寮に戻らないと怒られるんじゃ……」
もう日も暮れているので澪先輩、大学の寮に戻らないと怒られてしまうのでは……と心配に思ったが、
「それなら大丈夫だよ。今日は外に泊まるって許可を貰ってきてるから」
「え、本当ですか?」
「ああ、もちろん」
「え、本当ですか?」
「ああ、もちろん」
どうやら取り越し苦労だったみたい。
外に泊まるっていうのは、私の家に泊まるってことだろうけど……何だか今からドキドキしてくるな。
外に泊まるっていうのは、私の家に泊まるってことだろうけど……何だか今からドキドキしてくるな。
しかし、そんな浮かれかけた私に、
「それにせっかくの自分の誕生日くらい、好きな人と一緒に居たいってものだろ?」
「……え?」
「……え?」
――ぐわん、とまるで脳が揺らされたような衝撃が走った。
いや、澪先輩が私を好きっていうことはすごく知っているし私にとってもったいないぐらいだけど……いやそれより、
いや、澪先輩が私を好きっていうことはすごく知っているし私にとってもったいないぐらいだけど……いやそれより、
「きょ、今日って澪先輩の」
「うん、私の誕生日だ」
「――――???!」
「うん、私の誕生日だ」
「――――???!」
し、しまった!
最近はずっとセンター試験のことで頭がいっぱいで、澪先輩の誕生日のことを忘れてた……! 私、なんてことを……。
最近はずっとセンター試験のことで頭がいっぱいで、澪先輩の誕生日のことを忘れてた……! 私、なんてことを……。
「ごっ、ごめんなさい先輩! 私、最近はセンター試験のことで頭がいっぱいで、澪先輩の誕生日のこと忘れてました……」
プレゼントなども何も用意しておらず、謝っても取り返しがつかないけれど、今の今まで忘れていた私にはただ謝ることしか出来ない。
けど澪先輩はそんな私に対して、
「いいよ、センター試験と誕生日なんかが被る私が悪いんだから」
「そんなっ……」
「いいんだよ、今年はこうして梓と一緒に居られるだけでさ」
「そんなっ……」
「いいんだよ、今年はこうして梓と一緒に居られるだけでさ」
私が誕生日を忘れたことを気にしないばかりか、
「それに、それだけここ最近は勉強に集中していたってことだろ? ならきっと合格間違いなしだ。
やっぱり、梓は私の自慢の後輩にして自慢の恋人だよ」
やっぱり、梓は私の自慢の後輩にして自慢の恋人だよ」
そんなコトを言いながら腕を伸ばし、私の頭を撫でてくれていた。
「うっ……うぅ、ひっく……みおぜんばいっ……」
「わわっ、泣かないでくれよ梓」
「わわっ、泣かないでくれよ梓」
誕生日を完全に忘れていた自分への情けなさか、またはそんな私に対してもすごく優しくしてくれる澪先輩のあったかさからか。
試験が終わってここ数日続いていた緊張感が薄らいだこともあって、私は涙をこぼしてしまった。
試験が終わってここ数日続いていた緊張感が薄らいだこともあって、私は涙をこぼしてしまった。
「ほら、ハンカチ。せっかくの可愛い顔が台なしだぞ?」
「うぅ……ぐす」
「うぅ……ぐす」
向かい側に座っていた澪先輩がやや慌てながら私の隣に来て、なだめてくれた。
もう、澪先輩は優しすぎです……。
もう、澪先輩は優しすぎです……。
「澪先輩」
「ん、どうした?」
「ん、どうした?」
ファミレスで夕ご飯を食べ終えてから家に帰ると、私は試験の疲れがどっと出てきたみたいで少し早いけど床につくことに。
もちろん、澪先輩も一緒の布団で。
もちろん、澪先輩も一緒の布団で。
「私……少し不安なんです。試験は今までやってきたことを十分出し切れたとは思ってるんですけど……」
「梓」
「もし、合格出来なかったらと思うと……怖くて……」
「梓」
「もし、合格出来なかったらと思うと……怖くて……」
一緒に布団に潜り込むと、私は今の心情を澪先輩に吐露した。
最近になってようやく、澪先輩の前では下手に強がったりせずにありのままの心を素直にさらけ出せるようになったって思う。
最近になってようやく、澪先輩の前では下手に強がったりせずにありのままの心を素直にさらけ出せるようになったって思う。
――十分に実力を出し切れたとはいえ、完璧に出来たというわけではない。
万一、もしもという可能性があることを否定することもまた出来ない。
そのことを考えてしまうと不安で、押し潰されそうに感じていた。
万一、もしもという可能性があることを否定することもまた出来ない。
そのことを考えてしまうと不安で、押し潰されそうに感じていた。
すると澪先輩は、
「抱きしめても、いいかな?」
私の耳元の傍で、そう問い掛けた。
その問いに対して私は少し驚きながらも、数秒と考えるまでもなかった。
その問いに対して私は少し驚きながらも、数秒と考えるまでもなかった。
「はい……お願いします」
「ふふっ、よかった」
「あっ……柔らかくてあったかいです……」
「ふふっ、よかった」
「あっ……柔らかくてあったかいです……」
布団の中でぎゅっと澪先輩と抱き合うと、澪先輩の柔らかさとあったかさが体を通して伝わってきて。
「大丈夫だよ、梓」
「みお……せんぱい……」
「だいじょうぶ……」
「みお……せんぱい……」
「だいじょうぶ……」
抱きしめながら、優しい声で私に語りかけ、ゆっくりと頭を撫でてくれて。
目を閉じ、澪先輩に身をゆだねると、心の内に広がっていた不安が少しずつ溶けていく。
目を閉じ、澪先輩に身をゆだねると、心の内に広がっていた不安が少しずつ溶けていく。
やっぱり、試験が終わった後にこうして澪先輩に抱きしめてもらいたかったんだな、私――
「……落ち着いた?」
「はい……ありがとうございます」
「はい……ありがとうございます」
顔を上げると、澪先輩が柔らかく微笑みながら私の顔をのぞき込んでいて。
別に今は泣いてるわけじゃなかったけど、何だか恥ずかしくなって私はまた顔を伏せた。
別に今は泣いてるわけじゃなかったけど、何だか恥ずかしくなって私はまた顔を伏せた。
「今夜はこのままずっと……抱きしめていてほしいです」
「うん……私も今夜はずっとこうして梓を抱きしめていたい」
「うん……私も今夜はずっとこうして梓を抱きしめていたい」
お互いに布団の中で何をするでもなく、ただ抱きしめ合う。
それだけで、今は十分だった。
それだけで、今は十分だった。
「愛してます、澪先輩」
「私も愛してるよ、梓」
「私も愛してるよ、梓」
――大丈夫。きっと大丈夫。
こうして澪先輩が一緒にいてくれると、不思議と何事にも負ける気がしなくなってくる。
こうして澪先輩が一緒にいてくれると、不思議と何事にも負ける気がしなくなってくる。
いつかの懐かしい明日は、きっともうすぐそこまで来ている――。
(FIN)