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LOSTMAN (ごかのあもう)

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ごぽん

冷たい、暗い、体が動かない。

ごぽん

息をしようとすると代わりに水泡が吐き出され、光の帯が差す上へ上へと浮かんで、弾けて、消える。
深海の底にいるような状態であるにもかかわらず水面が見えるほどに深さとしては浅い。

ごぽん

息はできないはずであるのに、少しも苦しくはない。
体が動かない以外、ほとんど陸にいるのと変わりはなかった。
それでも、動けないという束縛は解放されることは無い。

生きているということが苦痛だった。
こうやって精神の海の中を彷徨うどころか留まり続ける、活路を見出すために行動を起こすことすらできない。
体内時計の針はもう既に狂い、昼夜の違いもこの世界ではわからない。

――がしゃん

今更なんだ?
水面上で鎖がこすれあう音が聞こえ、見上げた水色の天井に波紋が広がる。
その中心から突き出るように現れたのが、先が鉤状となった一本の鎖。
少しずつ沈んでくるそれは、やがて自分の目の前で止まった。

捕まれというのか?
大罪を犯し、地獄へと送られた自分を見かねた御釈迦様が蜘蛛の糸でも出してくれたのかのように。
捕まる資格は無い、だが、捕まらなくてはいけない気がする。

今現在の持てる力を全て腕に集中し、辛うじてあがった腕で、鎖の鉤に手をかけた。


「・・・サルベージ、成功♪」

楽しげな表情を浮かべると、濡れた鎖を引き上げた。


壱夜 紅の始まり、紅の誘い


16歳、自宅から徒歩5分の某高校へと通学。
成績は中の上、体力は上の上、サッカー部の経験があるが現在は退部、委員会、部活共に無所属。
別段変わったことはない、ただただ普通の、どこにでもいる高校生。
それが、この少年――ロストマン・フォーリッシュの評である。

「・・・ちっ、あーもー」

軽くため息をつくと、右手に握られた広告を握りつぶす。

「面接で落ちんの、やっぱこれなんだろうかねぇ」

自嘲の意味合いも込めてつぶやき、自分の左頬に手を当てる。
別にのー族の母を恨むわけではない、眼はモナー族特有の似たくもない細い笑みを帯びた眼、しかし昔母に読んでもらった「カタワとダルマ」という童話のように、顔を含め体の左半分が全て紫色となっている。
かなり珍しいことであると、母は医者に言われたらしい。
だが、その珍しいことのおかげで現在3件目のバイトを断られているのだ。
接客に自信はあるほうだが、その気になれば用心棒にすら早変わりするぜ?
と、またくだらない妄想を考えては、不採用の悲しみを誤魔化していた。
そうして、当てもなくレンガ畳の街道を歩いていた、そんな折だ。

バシュッ

「・・・え?」

鈍い音と同時、ぐらりと前にいた歩行者の体が横向きに傾いていく。
重力に逆らうことすらせず、ただどさりと音を立てて倒れた。
黒いスーツの背中側、大きく裂けた部分があり、そこから滝のように流れている液体は、赤茶けたレンガの路を、真っ赤に染め上げた。

恐怖よりも驚きのほうが勝っていた。
素早く赤い水たまりの中に倒れている男に駆け寄り、肩に手をかけた。
揺さぶった体はだらんと力なく仰向けに転がり、眼はどこにも焦点が合っていない。
だんだんと、黒ずんだ意識が心の底から湧き上がり、ペンキで塗るかのように黒で埋め尽くされていく。

嘘だろ。
だって、どうして・・・

何もないのに、血を噴出したんだ?


「・・・あちゃー、見られちゃったか」

恐怖の色はすぐに消え去り、聞こえてきた声に自然と体が反応する。
燕尾服に身を包んだ男が、血塗れた男を通り越してそこにいた。
眼は自分と同じ、モナー族の細い目。
白い色も同じであったが、ただ耳が普通と違った形で、普通よりも大きい・・・モナー族の派生、大耳モナー族。

「たっく、タリーんだよ。見られなきゃ絶対に気付かれないのが俺の能力なのによ」

・・・まさか

はっとして周りを見回す。
そうだ、これだけの惨事にもかかわらず、そばを歩く通行人は視線すら送ってこない。
まるで、道端の小石を見るような。

「まあいい。どうせ見たのはお前だけだ。この空間からは逃げれねぇよ」

その言葉を聴いて、やっと気がついた二つ目のこと。
自分の周り、大耳の男も含め、僅かだが薄いガラスのような円筒状の膜が張られていることだ。
日光を受けて薄く光るそれからは、恐らく脱出は不可能だろう。

「じゃあな、一般人。能力者の手にかかれたことは、一生にあるかないかだぜ?」

白い指が服に隠れて見えなかった腰のソケットにかかり、そこから鋭い音とともに銀色の閃が煌く。
かなり大振り、肘から手首ほどの長さがあるそれは、俗にサバイバルナイフと呼ばれるかなり長いナイフ。
といっても特注なのかどうかは知らないが、刃が分厚い。
一振りするだけで、腕の一本もって行かれそうなほどに。

こちらへと、少しずつ歩を進めてくる。
恐怖のあまりその場に崩れるように座り込み、後ずさりをしながら距離をとる。
だが、背中に当たる固い感触は、絶望を表しているかのようだった。
逃げ場は、ない。

「・・・あかんなぁ、能力を一般人相手につかっちゃ」

丁度ナイフを振り上げた、それと同時だ。
真上から聞こえてきた声に反応し、風を切って振り上げたナイフが、突然停止する。
だが、大耳の男の意思で止めたにしてはおかしい位置で止まっており、“止められた”といったほうが正しそうだった。
結果、それは正しいものとなる。

半ば開いている眼で見上げると、ビルの一角に人影が立っていた。
そして、さらに驚いたのは次の瞬間だ。

ばっと着ている服をはためかせ、落下防止用の銀の柵に手を掛け、身を乗り出し・・・
高さにして、およそ30メートル上からの、命綱無しのダイブ。
常人であれば、あっさりと転落死のところだ。
常人であれば。

すとんと音を立てて、たった数メートル上から落下してきたかのように軽く着地する。
当然、傷など無い。

「ぐ・・・てめぇは・・・」
「お久しぶりニダ。ビッグイアー・モーゼン」

ビッグイアーと呼ばれた、大耳の男は、腕を振り上げた姿勢で固まっている。
そして、今更になって気付いたが、大耳の上げた右腕には何か細いものが絡まっている。

・・・糸?

直径0.1ミリほどの細い糸、それは大耳の腕に巻きつき、真上へと伸びる。
よく見えはしなかったが、上のポールに巻きつき、再び糸は降り、新たに現れた男の手に纏められている。
ニダー族の、男だ。

「ニーダ・シャオバイ・・・」
「おしゃべりはここまでニダ」

くん、とニーダと名のついたニダー族の男は、糸が巻きついた人差し指を曲げる。
たったそれだけで、ガタイのよい大耳の体はいとも簡単に持ち上げられてしまった。

「一般人に見られなくて丁度良いニダ。・・・傀儡人形―マリオネット」

空中で、紅い閃光が散った。


「さて、どうするかニダ・・・」

もはや((( TДT)))状態となっている自分に、仕切りに目を寄せてくる。
下手をすれば、今日でも天国のお母さんにも会える可能性があるわけだ。
それでも、まだまだ夢のある16歳という微妙な年齢で死にたくは無い。
かといって、一部始終を全部目撃してしまった自分に選択肢が残されているとは思ってもいなかった。
だからこそ、驚いたのだが。

「君はどうするニダ?」
「は、はいいいい!?」
「そんな驚かなくても良いニダ; ただ、君の返答によってはウリも処罰しかねないニダ」

ようは、返答しだいということで。
まさか、こんな歳で人生のターニングポイントがこようとは。
予定上今までに無い大脱線事故だ。

「君がイエスと答えてウリの仲間に入るんだったら助かるニダ。でもノーといえば・・・」
「いや、それ以上いわなくてもいいです」

未だ持続しているこの円筒状の空間の中で、もう既に汗びっしょりだ。
これはもうね、アボガドバナナかと。
選択肢、一つしかありませんじゃないですか。


・・・16歳、自宅から徒歩5分の某高校へと通学。
成績は中の上、体力は上の上、サッカー部の経験があるが現在は退部、委員会、部活共に無所属。
別段変わったことはない、ただただ普通の、どこにでもいる高校生・・・というステータスは、この瞬間に無くなった。
これが現在のこの少年――ロストマン・フォーリッシュの評である。


◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆―◆

▼character

▽name:ロストマン・フォーリッシュ
┣age:16
┣job:某高校生徒
┣ability:???
┗note:モナー族の父、のー族の母を持ち、半ば突然変異で左半分が紫色というカタワのような状態になっている。
母は13歳の時に他界、父とは現在別居中であり、アパートで一人暮らし。
ビッグイアーによる殺害現場に遭遇し、ニダーに間接的に助けられるが、強制的な入団命令が下る。

▽name:ビッグイアー・モーゼン
┣age:26
┣job:???
┣ability:空間―ディメンジョン
┗note:ロストマンが最初に遭遇した能力者。
わずかながら空間に干渉する能力を使用することが出来、一定範囲内の空間を別次元に固定する「空間固定」と、運動エネルギーに限定して一定範囲内の別の位置に転送する「空間移動」の二つ。
空間固定は、固定する瞬間を見られると見た者に限定して通常と同じ空間になる。
ニーダの能力によって死亡。

▽name:ニーダ・シャオバイ
┣age:35
┣job:???
┣ability:傀儡人形―マリオネット
┗note:マリオネットの能力者、詳細は不明だが、効果の一つとしてダイヤモンド以上の硬度を持つ細い糸をいつでも召喚することができる。
ビッグイアーを目的は不明だが殺害、口封じのためかロストマンを自分の仲間に勧誘する。
まだまだ謎が多い人物である。

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