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14.Say anything - (2005/12/22 (木) 23:34:31) の編集履歴(バックアップ)


何か言ってください。
お願いです、何か言ってくださいよ。
何か。
喋ってください。口聞いてください。
ただでさえ緊張するのに…なんですか、冗談ですか。
だったら笑えないっすよ。
やめましょうよ。

昔からテレビでプレー見てました。
すげえって思ってました。
ずっと憧れだったんです。
同じチームになって近くで見て、改めて思いました。
……本当にすげえって、心の底から。

実はまだ、こうして向かい合うのだって勇気いるんですよ。
尊敬してるんです。
外野にコンバートされた時に、頑張れよって声かけてくれたじゃないですか。
憶えてますか。
あれ、俺、メチャクチャ嬉しかったんです。
その後もやっぱり、ほとんど見てるだけしかできなかったけど。
いろんな話をしたかったんです。
バッティングのこと、守備のこと、走塁のこと。
本当は色々、教えて欲しかったんです。


こんな首輪つけられて殺し合いとか言われたら、普通焦りますよね。
そうでもないですか…?でも、少なくとも俺は焦ってて。無茶苦茶焦ってて。
夢中で走りまくって、やっと人に会えてほっとしたんです。
しかも、一番頼りになる人に…って。安心したんです。
だから何か言ってくださいよ。お願いします。
取り合えず手、下ろしてください。だってソレ、銃じゃないですか……正直、ちょっと怖いんです。
だからすみません、やめてください。

やめましょうよ、嘘でしょう?
どうして何も言ってくれないんですか。
冗談だって言ってください。お願いします。
緒方さん!
何か…何か言ってください!お願いします!
「……………緒方さぁぁん!!」

― ぱんっ ―
緒方孝市(9)の右手で、乾いた音がした。
続けて二度、三度。
例えるならそれは、物語の途中で厚い本の表紙が閉じられた時の音に似て。
次いで訪れた静寂が、全てが終わった事を告げていた。

緒方は何も言わずにそこに立っていた。
その目の前で、井生崇光(64)の身体が、まるで朽ちた木が倒れるように崩れ落ちる。
左胸から流れ出た血が、舗装された道路に水溜りのように広がった。
それは月の明かりを白く映しながら、やがてゆっくりと地面に染み込んでいく。
海へ向かって緩やかなカーブを描く道の中央で、井生の時間はもう動かない。

緒方は何も言わずそこに立っていた。
【井生崇光× 生存者残り40名】



リレー版 Written by ◆yUPNqG..6A
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