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RNAサイレンシング

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 RNAサイレンシングとは、DNAからRNAへの転写、転写後のRNAの分解、RNAからタンパク質への翻訳を調節するしくみであり、生物の生存、形態形成、環境応答などに不可欠な過程である。近年の研究から、タンパク質をコードせず、翻訳されないRNA(non-coding RNAと呼はれる)が多数発見され、RNAサイレンシングに関わることがわかってきた。non-coding RNAは、タンパク質をコードしているmRNAの転写・分解・翻訳を制御していて、その機能が詳細に調べられており、生物の多様性の一端を担っていると考えられている。
 RNAサイレンシングは、均一な遺伝子発現の場から、不均一なパターンを生じるのに便利な機構であり、多細胞生物の形態形成において頻繁に用いられている。また、内的・外的な環境に応じて柔軟な遺伝子発現を行うのにも適しており、ホルモン応答や環境応答にも関与している。

 植物におけるRNAサイレンシングの役割を明らかにするため、以下の研究を渡辺雄一郎教授と協力して行った。
① micro RNAは約21塩基の小さいnon-coding RNAであり、相補的な配列を持つmRNAに結合して、mRNAの分解や翻訳抑制を行う。micro RNAの生合成や機能が欠損すると、植物は死んでしまったり、いろいろな形態異常を示して奇形になる。HYL1タンパク質はmicro RNAの生合成に必要なRNA結合タンパク質で、micro RNA前駆体のプロセシングを行うDicer-like1 (DCL1)と協力してはたらく。hyl1変異体では、葉が細くなり、上向きにカールする表現型を示すが、hyl1の表現型が回復した抑圧変異体を単離した。hyl1 抑圧変異体は、Dicer-like1 (DCL1)のhelicaseドメインの1アミノ酸に優性の変異を持っており、hyl1変異体におけるmiRNA生合成が回復するとともに、様々な形態異常が回復することがわかった(Tagami et al. 2009)。このことから、DCL1のhelicaseドメインとHYL1の機能的な相互作用が初めて明らかになった。
② trans-acting short interfering RNA (ta-siRNA)は、複雑な過程を経て生成される植物固有のsiRNA(二本鎖RNAから生じる約24塩基のRNA)の一種であり、葉の形態や成熟化、植物ホルモンのオーキシン応答にかかわる。ta-siRNAの生成には、SGS3とRDR6というタンパク質を含む細胞質中の顆粒状構造体(SGS3/RDR6-body)が必要であることがわかった(Kumakura et al. 2009)。
③ タンパク質をコードしているmRNAの分解は、5’のキャップ構造を分解することから始まる。キャップ構造の分解を行うシロイヌナズナのDCP1・DCP2の特徴づけを行い、DCP1・DCP2が細胞質の顆粒状の構造(RNAプロセシング体、RNA processing body)に局在することがわかった(Iwasaki et al. 2007)。また、DCP1・DCP2の変異体では、胚は形成されるが、発芽後に生長不全を起こして死んでしまう。このことは、DCP1・DCP2によるRNAの分解が、発芽後の発生に不可欠であることを物語っている。しかし、特定のRNAの分解が必要なのか、それともRNAのターンオーバーそのものが必要なのかわかっていない。
④ その他:micro RNAと結合して、mRNAの分解や翻訳抑制を行うARGONOTEタンパク質について、二重変異体を作成して解析した。また、異常な終止コドンをもつmRNAを分解する経路が器官再生に必要であることを見つけた。
 これらの研究により、植物の形態や環境応答におけるRNA代謝・サイレンシングの役割が明らかになることが期待される。
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Figure 1. 田上氏提供(Tagami et al. (2009)より)

RNAサイレンシングの論文
  • Tagami, Y., Motose, H. , and Watanabe, Y. (2009) A dominant mutation in DCL1 suppresses the hyl1 mutant phenotype by promoting the processing of miRNA. RNA 15:450-458.
  • Kumakura, N., Takeda, A., Fujioka, Y., Motose, H., Takano, R., Watanabe, Y. (2009) SGS3 and RDR6 interact and colocalize in cytoplasmic SGS3/RDR6-bodies. FEBS Letters 583, 1261-1266.
  • Iwasaki, S., Takeda, A., Motose, H. , and Watanabe, Y (2007) Characterization of Arabidopsis decapping proteins AtDCP1 and AtDCP2, which are essential for post-embryonic development. FEBS Letters 581, 2455-2459.
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