G not G in NT……?



「……01から各機へ。居たぞ、ドムタイプが2機に、ザク系のが3機。……多分ネオジオンだな、ありゃぁ。準備はいいか?」
 前回の出撃から数日。
 AICは、再び小隊規模の部隊を出撃させて居た。その甲斐もあってか、彼らはこの日もめでたく(と言って良いのかは疑問だが)敵部隊とエンカウント。今はとりあえず、敵方のセンサーに感知されないよう、岩山の影にぴたりと寄り添うようにしながら様子を伺っているところだ。
 確認から僅かな間の後、01へと複数の通信が返される。
「02了解。んじゃぁいつものようにやりますか」
「04オーライ。こっちも準備OKだ」
「……03了解」
 一つだけ、大分遅れた返答があった。……それが誰のものか気がつけば、01のパイロット、ハーディ・ロックバーンはひっそりと笑いを噛み殺す。
 その気配が滲まぬよう、苦心しながら。彼は遅れた返答の主……03、アルク・E・ガッハークへと反応を返した。
「03。……どうした、不満そうだな?」
 今度の返答は、先程よりも更に遅かった。
「…………。解りますか」
「そんだけブーたれてりゃ嫌でもな。なんだ、どうした。機体にトラブルでもあったか?」
「いや。……機体の調子は良好ですよ。ええ、これ以上無いってぐらいに。……モニター、センサー、バランサー。ついでに火器管制までオールグリーン」
「ほぅ、そりゃ重畳。……んじゃあ、何が問題なんだ? 今日の02のフラグが気に入らなかったか? それとも04のサングラスが似合わねぇって今頃気付いたか? ……まさかとは思うが、今日のベースの夕飯が嫌いなメニューだ、なんてオチはねえよな?」
「おい、ハーディ! そりゃねぇだろ!」
「っつーか、ちっちゃい子かよ!」
 軽口に、それまで黙っていた二機からも叫びが返る。……まぁ、他人事を決め込んでいたら、突然自分たちに飛び火したことを考えれば、当たり前かもしれないが。
 が、しかし。03、アルクはその横槍を華麗にスルー。……と、いうよりも。この場合は、反応するだけの余裕を見せられなかった、と言った方が正解か。
「何が。……何がと言ったか、アンタ」
 ……ぶるぶると、小刻みに03の機体が震える。恐らく、レバーを握ったまま肩を怒らせているのだろう。
 それを見て、ハーディはますます笑みの気配を深めながら――恐らく、他の二機のパイロットも同様だろう――言葉を重ねる。
「ほれ、言ってみ。聞いてやるから」
 ぶち。
 何かが切れた気配がした。
「……あぁ。それじゃぁ、言わせて貰うがなぁ……」
 ……普段は曲りなりにも敬語染みている口調が、素の口調に戻っていた。
 ゆらぁり。……そんな擬音が聞こえてきそうな挙動で、03が居住まいを正し。
 そして爆発した。
「なんで! 俺の機体が!! 今日に限って!! Mk-Ⅱじゃなくてジムなんだっ?! うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ……それに対して、返って来たのは3方向からの爆笑だった。


「いや、まぁ、しょうがねぇだろ? お前さんの機体は未だに片手がもげちまったままで、レストア中なんだから」
「それにしたって、ジムはねぇだろ、ジムは……」
 そう。
 この日、アルク・E・ガッハークが搭乗していた機体は、彼の愛機たるアーク=オブ=ノアではなく。……格納庫の隅で埃を被っていたカスタムタイプのジムだった。
 もっとも、埃を被っていた、というのは比喩に過ぎず、実際には演習時にその機体を使うパイロットの努力で、表面がピカピカになる程念入りに手入れをされていたのだが。
「ジムはイイ機体だぜ? ……後でエルカに礼言っとけよ」
 不機嫌そうなアルクに、もはや漏れる笑いを隠そうともせず。本気半分、からかい半分でハーディはフォローを入れる。
「大体、なんでこんなに修理に時間がかかってんだ……」
「さぁな」
 実際には。……片腕を繋ぎ、体裁を整えるだけであればサハラ基地の連中なら1日もあれば出来るだろうとハーディは踏んでいる。
 しかし、03が破損してから、既に一週間近くの時間が経っている。……そのことを考えれば、確かにアルクの言う通り、少しばかり疑念を抱かないでも無い。
 ……あるいは、基地を預かるガルシア・マックラーレンの手の込んだお説教……と、借り物のMSならば多少は自重するだろう、という幾らか荒っぽい教育的指導ではないか、と思わなくも無かったが。
「まぁ、あのオッサンはそこまで手の込んだことするようにも見えねぇしな……」
 となると。……問題は技術ではなく、物質的なもの、つまりは修理部品のストックなのだろう。
 ちら、と。ハーディは03の機体へと視線を向ける。
 ……それだけで、何かを感じ取ったのか。怪訝そうに、ジムのメインカメラが01を見返した。
 ――ハーディも、そしてアルクも知らないことではあるが、この際、修理が遅れたのは機体各部に仕込まれたバイオセンサーのストックが足りなかったことと。……もう一つ、未だその真価を見せぬC.SYSTEMの調整の為であり、実際にはハーディの読みは半分程しか的中していなかったのだが――。
「ほら、二人とも。……いい加減にしとかないと、敵さんが逃げちゃうぜ?」
 ……その思索は、メトロ・シングの注意で中断されることとなる。
「っと、そうだな。ちょいと話し過ぎちまったか」
「……うむ」
 見れば、既に敵部隊はこちらのセンサーの感知範囲ギリギリまで遠ざかっていた。
 それを見て、苦笑と共に01は意識を戦場へと戻し、03は重々しく頷いてレバーを握る。
「んじゃぁ、続きはお仕事が終わってからとするか。……04、いつも見たく出だしは頼むぜ」
「応よ! ……野郎共、スタンバってな! 3,2,1でぶっ放すぜ!」
 ――キッチリ4秒後。ゼロのカウントと共に、04から大量のミサイルが放たれた。



 ……圧倒的有利な状況からスタートした戦闘は、当然のように圧倒的有利のまま決着を見ようとしていた。
 数でこそ4対5と劣るものの、こちらの機体は(ジムを除いて)ワンオフものの高級機ばかり。パイロットもやたらとクセこそ強いものの各々が他の部隊でならばエースを名乗れる腕っこきばかりな上、トドメに開幕は不意打ちからのスタートと来ている。
 劣勢に追い込まれる要素は、何一つ無い。
 …………一つ問題があるとすれば、ジムであろうとお構いなしに――というか、むしろ機体の性能差を補おうとしてか、普段よりも積極的に――03、アルク・E・ガッハークが敵陣へと突撃を仕掛けたことぐらいだろうか。
「……一応、ソイツは俺の仕事だったんだがな」
 そのことに、苦笑半分。……面白半分で、ハーディ・ロックバーンはぽつりと呟く。
 03、アルク・E・ガッハークが配属されてから、彼の戦い方は変わった。……変わらざるを得なかった、と言っても良い。
 ハーディ・ロックバーンは、AICに所属して以来、自身の戦闘に於いての役割を「可能な限り敵の目を惹き付けること」だと考えて居た。……平たく言ってしまえば、白兵戦によるかく乱とデコイの真似事である。(尤も、メトロあたりに言わせれば「好き勝手に暴れてるだけじゃね?」とのことらしいが。)
 機動性と装甲を兼ね備えたジェガン・ランサーの機体特性は正にその役割には打って付けであり、これまでの彼はかく乱任務にかこつけてただ敵陣へと切り込んで居れば良かったのだが。
 其処に、同じような突撃型の03が加わったことで、コトは単純にかく乱任務に精を出せば良い、ということでは無くなった。
 ……同じ働きをする人間が二人になれば、効果も単純に二倍になる、というのは素人考えである。一人の際には一人の、二人の際には二人の、最大効率を導き出す動きというものがある。1+1をただ2にするだけのことにも、それなりにコツというものがあるのだ。……ましてやそれが、三人、四人と増えていけば、言うまでもない。
 ハーディ・ロックバーンは、連邦時代、実戦の中でそれを上官と仲間達から教わった。……軍を辞して以来、ほとんど忘れかけていた教えではあったけれど。存外、その根は深かったらしい。
 そのことに苦笑しながら、再び呟く。
「まぁ、こういうモンはリレーみたいなもんだからな」
 ……誰かがソレを、この無謀で無鉄砲で血の気の多い、愛すべき男に教えなければならないというなら。……自分がその役目を名乗り出てみる、というのも面白いかもしれない。
「……似合わねぇコトこの上無ぇがな。まったく、ひでぇ冗談だ。なぁ、相棒?」
「01、どうかしたか?」
「いや、なんでもねぇよ。……とりあえず、敵さんはこいつで終わりか?」
 ……メインカメラには、丁度、最後の一機となったドムに、ジムがライフルを突きつけている所が写っていた。
 02が其処へ回線を開き、降伏を呼びかける。……ドムのパイロットは、かなり頭の固いタイプだったようだが、戦況の不利を理解出来ない程無能では無かった。
 投降は時間の問題だろう。……そう思った瞬間。
「っ!?」
 ――ジムが突然、弾かれたようにあらぬ方へとライフルの銃口を向けた。
「……っ、バッカヤロウ!」
「ちょ!」
「SHIT!」
 刹那、三者三様の罵声が03へと飛ぶ。……当然、その隙を逃すドムのパイロットではない。せめて一矢を、とでも思ったのか。こちらも慌ててバズーカを構え――……。
「……ジオンに栄光あれ!」
「っ……は、な、なにー?!」
 ――ぼひゅん。



「……あ、あっぶねぇ~……。……取り回しの差で一本?」
 ……間一髪。
 バズーカの弾が発射されるよりも早く、02の切り詰め型ビーム・マシンガンが、ドムの機体を蜂の巣にしていた。
 一瞬の間に高まった緊張が、同じような唐突さで弛緩して行く。
「す、スマン」
 一拍遅れて、状況に気がついたのだろう。……助けられたらしいことを察したアルクが、メトロへと謝罪の言葉を向ける。
 それに対して返されたのは、ひらひらと、器用に軽めのニュアンスをつくりながら、MSのマニュピレーターを左右に振る動作だった。
「いいってこと。困った時はお互い様ってな。……つーか、なんだ、いきなりなんでビビったぞ。何かあったか?」
 メトロの言葉は、そのまま01と04の心情の代弁でもあった。……3対の視線が集まる中。所在無さ気に、03がメインカメラをうろうろと辺りへと向ける。
「いや。誰かに見られたような気がしたんだが……」
 ……流石に、その発言には、メトロも眉を潜めた。
 半径10キロ以上。ハイスペックを誇るAICの機体の何れのセンサーにも、彼らのMS以外の反応は示されていなかったのだから。



 ――気付かれた?
 ……AIC部隊が戦闘を行った場所より、おおよそ30キロ離れた地点。
 砂漠の砂に半ば機体を潜らせるようにして、青い機体がライフルのスコープを覗き込んで居た。
 スコープのレンズには、臨時の03となったジムの姿が写されている。――そのジムのメインカメラが、一瞬、レンズ越しに此方へと向けられた気がして。
 ……――ゾクリ、と。ホクト・Y・マドラーは、悪寒にも似た感覚が背筋を通り抜けるのを感じ取る。
 同時、静かな駆動音と共にブルースナイパーのジェネレーター出力が僅かに上昇し始める。……しかし。
 ――否。偶然。
 ホクトはそれを意識するよりも早く、ライフルのスコープレンズとモニターの接続をシャットアウトした。
「……任務完了」
 今回、彼女に与えられた任務は、あくまでブルースナイパー単独での偵察及びセンサー類の実地テストだ。……偶然、何れかの勢力の戦闘を感知出来たことは僥倖ではあるものの、必要の無い戦闘行為は主旨から逸脱する。
 そう判断を下しながら、ホクトは今しがたの戦闘を振り返る。
 ……片方は機体からネオ・ジオンだと予測はついたものの。もう片方の部隊は、一機を除いて第10小隊ばりのワンオフ機の集団だった。……機体に記された認識票は、AIC。聞いたことの無い部隊名だ。
 あるいは、前回遭遇したアンノウン部隊が彼らであるのかもしれない。……何れにせよ、報告の必要はあるだろう。
「撤退開始」
 まさか、その部隊に混ざっていたたった一機の量産型のパイロットが、自分が狙撃したMk-Ⅱのパイロットと同一人物とは想像することすらせず。
 ホクト・Y・マドラーと、ブルースナイパーは撤退を開始した。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月21日 23:59
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。