黄金の精神/誇り高き悪の牙 ◆SH/Mp7eP/Q




 制服越しにも関わらず、肌を撫でるようなうすら寒い風を感じた。

 唐突で不気味な感触に感触に反応した体が身体がわずかに震え、ほっそりと目を開くと、
 ぼくの背丈より遥かに高い木々が、数述センチ離れたところを一面覆うように並び立っていた。
 眼をこすり、ほとんどワケもわからないままくるりと視線を一周させると、どうやら全方位、すなわち360°
 ぼくの周りは木々で覆われていた。空には灰色の雲が能天気に漂っている。
 足元には、ちょっとした旅行に行くときに使いそうな、それなりの大きさのディパッグがぽつんと置いてあった。

 ここはどこだろう……?

 覚醒したばかりだからか、まだ思考回路にぼうっと霧が掛っている。
 ぼくは頭を掻き、それからゆっくりと今自分の置かれてる状況を思い返した。 

「え……っとぉ、ぼくはさっきまで【SUN MART】で露伴先生のマンガ立ち読みしてて……それで
 外が暗くなり始めてたから肉まんを買って帰って……」

 そこまで口にして、寝起きの様な頭が急にはっと覚醒した。
 まるで質の悪い目覚まし時計に叩き起こされたように、眼に力が入り、額からじっとりとした汗が滲み、
 身体ががくがくと震えだした。
 そう、ぼくの寝ぼけた意識をハッキリさせた思い出は、おそらくはこの世にあるどんな目覚ましよりも
 【タチ】が悪く、同時にぼくの中に、かつて相対した最悪の殺人鬼――吉良吉影――に対して感じた怒り
 と恐怖を思い出させた。

 ボンッと言う味気ない小さな音、吹き飛ぶ首、間欠泉のように、とめどなく噴き出す血――――


 ――そして、女の人に訪れた【死】。


 あの時、ぼくはいきなりはち合わせてしまった一人の女性の【死】に、全ての感覚を奪われていた。
 かろうじて、傍にいたガラの悪い男の人の呆然とした顔が、『何が起きているのかわからない』と
 言っていたこと、そしてそのすぐ後に血相を変えて、必死に名前を叫んでいたことは覚えていた。
 もう一人、たぶんぼく以上の怒りに動かされて銃を構えた人が、撃ち殺されたのも思い出す。

 身体が、また震えた。今度は外からの寒さじゃなくて、内側から吹き抜けた寒さで。
 じっと皮膚に張り付いたままだった汗が、一気に噴き出てくる。 
 【ギラーミン】とかいう奴は、明らかに手慣れていた。先に銃口を向けられて、しかし明らかな後出し
 にもかかわらず、撃ち倒してのけたのだ。倒れた体にさらに撃ち込んだとき、あの男はその顔に戸惑いの
 感情も浮かべてはいなかった。むしろ『邪魔くさい虫をハエ叩きでつぶす』程度にしか思っていない。
 そういった『顔』を、あろうことかあの場にいた全員に見せたのだ。





 はじめは、なんだかわからなかった。殺し合い? ぼくが? ぼくたちが? 
 しかし、もうすでに二人の人間が死んでしまったのだ。ぼくの目の前で、いともたやすく……。
 しかもそのうちの一人の死因となったものは、ぼくの首にもきっちり隙間なく嵌められているのだ。 
 考えると、なぜか身体の震えが止まり始めていた。
 そして、ぼくは身体の中からふつふつと、ある気持ちが湧き上がってくるのを感じた。 

「ゆるせないッ……!」

 心の底から灼熱のマグマのように込み上げて来たものは、悲しみでもなく恐怖でもなく【怒り】だった。
 【ギラーミン】という男は言っていた。この便所のゲロよりも最悪な戦いは、己が信用を取り戻すためだと、
 『殺し屋』という、自分の利益のために人の命を奪っていくことへの踏み台にして行くと。

 自分のために、欲望のためだけに、見ず知らずの赤の他人を殺し合わせる。
 外道だ。そんなの、あの男――吉良吉影――と同じ、【ドス黒い悪】そのものじゃあないか。

 「優勝したらなんでも願いがかなう」――――ともあいつは言っていたが、そんな言葉は信じない。
 前に仗助くんが言っていたこと。一度死んでしまった命は、どんなスタンド能力でも生き返すことはできない。
 仗助くんは、遠くを見るように悲しげな顔でこの言葉を言った。カフェ・ドゥ・マゴで、苦いブラックのコー
 ヒーを啜りながら。
 しかも、これはもともとあの承太郎さんが言ったことだとも。仗助くんは話してくれた。
 本来なんでも【なおす】ことのできる仗助くんが、自身の能力を否定する言葉を事実として口にした。
 憂いを帯びたそのセリフは、今も重く光を持ちながら、ぼくの心の片隅に残っている。 

 だからぼくは、その言葉を信じるッ!

 仮に、だ。
 本当にギラーミンがあらゆる――命を蘇らせることすら可能な――願いを叶える『スタンド使い』だとしても、
 ぼくはあいつには従わない。この場に一体何人の人間がいたのか、気が動転していたからわからなかったけど、
 ぼくは誰も殺さない! 仗助くんみたいに、ぼくのできる範囲でみんなを守って、そしてあのギラーミンを倒す!


 ――固く握った拳に、ぼくは強く、誓った。




 静かな森が、吹き抜ける冷たい風にあおられ、微かにざわめいていた。
 サカキは中身の確認が終わったディパッグに物を詰めている最中、不気味にささやく風と木々の音に気づいた。
 手を止めて、しばらく木々の揺れ動くさまを窓から見入った後、嘲るフッと鼻を鳴らす。

「くだらんことを考える……」

 吐き捨てるように呟くと、棚から使えそうな薬や包帯を少量ディパッグに入れ、森の中に建っていた学校を出た。



 いきなり木造建築の古びれた学校の校門に立っていたのには正直少し驚いたが、すぐに好都合だと答えが出た。
 学び舎というなら保健室に包帯や薬などの、怪我や病気をした時に役立つものが少なからずあるだろうし、
 特に人の気配を周囲に感じない以上、ここに落ち着いて道具の確認ができる。

 事実一歩足を出すたびにミシミシ軋みの反響する廊下を堂々と歩きながら、保健室と書かれた部屋に入るも、
 その中でゆっくりと持っている物の品定めをすることも簡単に行えた。 
 特に名簿と地図、『こういったこと』で基本的に重要となるこの二つを、早くに見て覚えることができたの
 は運がいいと言えるだろう。

 名簿にそこに記されていたいくつかの名前を思い出し、サカキは月の見えない空を見上げた。

レッド、イエロー。そして、ミュウツー……」

 名簿を手に思わずつぶやいていた。
 ギラーミンという男、なかなか人を見る目がある。ロケット団のボスであるこのわたし、ロケット団を壊滅に導き、
 わたしに唯一の敗北をもたらしたレッド。あの四天王ワタルを倒した、わが故郷トキワのイエロー。

 そして……最強のポケモン、ミュウツー。

 優秀な人材。その題目で殺し合いをするのなら、全員これ以上とない逸材だ。
 仮にわたしがこの『ゲーム』を開いたとしても、やはり似通った選択をするだろう。

 灰色の雲が所狭しと埋め尽くす空を眺めながら、サカキは嘲るような笑みを浮かべた。
 目に見える景色はその暗さゆえに狭く、短い。しかし、その先にある未来を見据えて、サカキは笑う。

「だがギラーミン、きさまはミスを犯している」

 閉じられた片方の口の端が、ゆっくりと釣り上った。





 レッドが、イエローが、ミュウツーが、そしてこのわたしが、こんな下らんゲームに乗ると、
 奴は本気で思っているのだろうか?
 レッドたちが、ましてやこのわたしが――きさまごときの掌の上で踊るとでも思っていたのだろうか?
 あの見せしめは見事だったと誉めてやろう。しかし、わたしの平静を乱すには足りなさすぎる。
 所詮、その程度のことなのだ。
 わたしは悪。そしてきさまもたしかな悪。だが、生憎とわたしは中途半端な悪でも、つまらん悪で
 いるつもりもない。

 誇り高き悪の牙――ロケット団のボス、サカキ。

 ポケモンは一匹としていない。ポケモンを持たぬトレーナーとなった今のわたしは、傍から見れば一般人に
 過ぎないのだろう。しかし、違う。 
 わたしをロケット団のボスたらしめているものは、結束のあの日、部下に語った誇りなのだ。

 サカキはこの暗闇の中で銀色に鈍く光る首輪の表面をなぞった。

 後悔をさせてやろうギラーミン。わたしをこのゲームに参加させたことを、
 レッドたちをこのゲームに参加させたことを。 

 そして、教えてやろう。
 わたしときさまの、悪としての格の違いというものを。






 薄暗い森の中を、サカキは黙々と歩いていた。
 光のないせいか分かりにくいその表情には、口の端を片方吊り上げた、余裕のある笑みが浮かんでいる。
 やがて前方に人の気配を感じ、やや猫背の体をぐっと伸ばして立ち止まると、傍に立っていた木の蔭に
 溶け込むようにして隠れた。

「あの……だれかいるんでしょうか?」

 近づいてきた気配の主は、黒い服を着た小さな少年だった。


 【B-2 : 1日目 深夜】

広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:支給品一式(確認していない)
[思考・状況]
 基本:皆を守ってギラーミンを打倒する!
 1:あれ? 人がいた気が……だれだろう……?
 2:同じ意志を持つ仲間を探したい
 3: ギラーミンと話していた少年に会う

※備考
 第四部終了した時間軸から参戦。
 名簿というか、ディパッグの中を確認してません。
 (支給品は次の書き手さんに任せます)。
 スタンドパワーの消費が激しいことに気付いてません。


【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:支給品一式、包帯(少量)、薬(胃薬)
[思考・状況]
 基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
 1:少年と接触してみる

※備考
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。


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最終更新:2012年12月06日 04:04