一触即発 ◆SqzC8ZECfY





銃声を聞いて駆けつけた時にはすでに手遅れで、そこには物言わぬ一人の少年の死体があった。
頭を撃ちぬかれて絶命しており、手遅れなのは明らかだ。
その傍らに立って、それをじっと見下ろす男が一人。

「ひでえな……」

教室の窓から入り込む弱々しい月明かり。
男の頬には、その光を受けてきらりと輝くものがあった。
泣いていた。
男はこの少年と面識があるわけではなかった。
だが目の前で人が死んでいるという、ただそれだけで涙を流すには充分な理由だったのだ。

「理屈じゃない……人が死ぬのは、やっぱり御免だよ……」

次の瞬間。
どこかで銃声が聞こえた気がした。
男にとっては忌まわしい、だが今までの人生で数え切れないほどにその鼓膜が拾ってきた、聞きなれた音だ。
いかに遠くとも、小さくとも、それが銃声であるということは間違いなく確信できた。

「くそっ……」

躊躇うことなく走り出す。
銃声に恐れをなすことなど、この男にはありえない。
ただ、教室を出る際に少年の遺体を一瞥し、すまない、とだけ呟いた。
それは少年を守れなかったことか、ろくな弔いをする暇もなくなってしまったことを謝ったのか。
おそらくはその両方。
男は走る。
男はコートを纏っていた。それが夜の風になびく。
その色は『黒』。
そしてその髪の色も揃えたように『黒』。
夜の闇に溶け込むように。
だがその右腕の先には、そこだけが暗闇に染まらず、僅かに輝く細い光――――。


   ☆   ☆   ☆


森の中。
私は木の陰に隠れ、少年が近づくのを待ち構えていた。
だが彼は私からやや距離が離れたところで立ち止まり、そして言った。

「……あのー、誰かいるんでしょうか?」

静かな森に不安げな少年の声が吸い込まれていく。
ふむ、気づいたか? なかなかカンがいいようだ。見所があるかもしれない。
私は少し感心しつつ、彼に姿を見せてやろうとした瞬間――。

「は……はろろ~ん、です」

私とはまったくの別方向の木陰から少女が姿を現した。

ロングヘアーと短めのスカート。
闇夜のせいで薄暗くてよく見えないが、デイパックを持っているということは、私たちと同じ境遇か。

「お……女の子?」
「はい。あ、ほら、武器とか持ってませんよ? だから殺し合いとか野蛮なことは勘弁でー……ね?」
「も、もちろんですよ、僕だってそんな……」

少女は左手にデイパック、開いた右手には何も持っていない。
無害なことをアピールするかのように、少年に向かって手をぱたぱたと振った。
少年は相手が年頃の少女であること、そして戦う意思がないと言われたことで若干安心したようだ。
だが甘い。小さなナイフや拳銃を隠し持っているということも考えられるし、あのデイパックは理屈抜きで何でも入る不思議アイテムだ。
私に支給された道具は普通ならこんなものには入らない大きさだが、現在すんなりと私自身の持つデイパックに収納されている。
彼女がいきなり次の瞬間に、自身の荷物からとんでもない武器をずるりと取り出したとしても私は驚かない。

「――――皆さまにお聞きしたいことがございます」

少年と少女はびくりと身を震わせる。
なんと少年とも少女とも違う女の声が新たに聞こえてきた。
いきなりこんな多数の人間に遭遇することになるとは……。
新たに声を発した女は姿を見せない。
女は私と同じように森の木陰に身を隠しているのだろう。

「誰だ!?」
「貴方達と同様に、ギラーミンという男に首輪を嵌められてからここに放り込まれたものです。
 姿を見せられぬご無礼はお察しください。貴方達がいきなり襲ってくるとも限りませんので」
「そ、それはこっちの台詞だッ!」

女の声に少年が反論する。
どちらももっともな言い分ではある。

「……さようですか」

なんと女はあっさりと姿を見せた。
といってもその半身を木の陰に隠したまま、そこから近寄ろうとしない。
いつ攻撃されても即座に身を隠せるポジションだ。
三つ編み眼鏡にあれは……いわゆるメイド服だろうか。
なんともこの場にそぐわない。


「これでよろしいですか?」
「あ、はあ……」

女の服装に気を取られたか、素直に姿を見せたのが予想外だったのか、少年はなんとも間の抜けた声を出した。
だが女はそれを気にも留めず冷静な声で、そして私にとっては全く意表をついた言葉を紡ぐ。

「……そしてそこで身を隠しておられる方も、私の質問に答えて頂きたいのですが」
「……!!」

女の視線は私の隠れている方向に、はっきりと固定されていた。
少年と少女もその視線を追ってこちらを見つめる。
気づかれていた。
あの女、只者ではない。
仕方ない。

「すまない。盗み聞きも、いきなり襲い掛かるような真似もする気はなかった。
 だが質問に答えるだけならこのままでも構わんだろう。いいかね?」
「はい、結構です」

今まで隠れていた私を糾弾することもなくあっさりと承諾。
だが女の声は底冷えがするほどに、どこまでも揺らがない氷の冷たさを感じさせた。
さらにその奥には何とも言えぬ危うさのようなものも。
その迫力ゆえか、少年も少女も口を挟まない。

「皆様はここに放り込まれてから、我々のほかに誰かと接触なさいましたか?」
「いや、遭遇したのも、発見したのも君たちがはじめてだ」

少年と少女の答えも私と同様。

「では、あのギラーミンという男についての情報は?」
「わからん。あののびたという少年や、青い達磨のような生き物は面識があるようだったが……」
「そうですか」

残りの二人も首を振った。
我々は結局、だれも有益な情報を持っていなかった。
しかし、与えられたものや、目に見えるものだけに気をとられるようでは、誇り高きロケット団のボスは務まらない。

「だが、この殺し合いについて私なりに考えたことがある」
「……」

沈黙。
三人は、私の次の言葉を待っている。
私たちの位置関係は林道に少年。その少年から見て左脇の森に私。逆側の森の木に体半分を隠して、少女がこちらを見ている。
そしてメイドは少年の正面、私から見て左。道沿いの木のたもと。


「ギラーミンは『この殺し合いに勝ち残って、自分を殺せば望みは叶う』と言った。おかしいと思わんか?」
「――――あ」

少年の声。
察したか。
そう、目の前で殺人が起こったという異常事態に気をとられたものが多数だったせいか、私を含め誰もギラーミンにこのことを聞かなかった。
私の失態でもあるが、だがこれはよくよく考えれば、誰もが当たり前に思い至るはずだ。

「――ギラーミンが死んだら、誰が望みを叶えてくれるのだ?」
「それ……は」

森は静かだ。
私たち四人の声、挙動の他は何も存在しないかのような静寂に包まれている。
だから私の正面に位置する少女の発する、か細い、そして一瞬だけ息の詰まるような声もよく聞こえた。

「それに勝ち残ったものと奴が決闘というのも信用ならん。正々堂々? そんなわけがない。
 ならば最初から自分が我々と同じ殺し合いの舞台に立てというのだ。
 勝ち残った者の首輪を爆破して終わり。このほうがよほど可能性が高い。
 つまりこのデスゲームは最初から、何から何まで茶番だ。殺しあう意味など――何もない」

私が最後の言葉を発した瞬間、少女が震えた。
――殺しあう意味など何も無い。
まるでその言葉に怯えたかのように俯いている。
もしや……私の推測が正しければ、この少女は――。

「……どうしました、セニョリータ」
「え……あっ……」

メイドが冷たい声で、少女の不審な態度を指摘する。
ほんのわずか。薄暗い空間の中で、よく注意しなければ見逃してしまいそうな仕草を。
それを指摘されて、ロングヘアーの少女はメイドの顔をまともに見ない。いや、見れないのか。

「我々はこの遭遇以前に誰にも会ってはいない。皆、そう言ったはずですよ」
「あ……いえ、私は」
「ならば何故そう怯えるのですか? 大丈夫ですよ、落ち着いてください。
 貴女が『嘘をついて』いて、『もう誰かを殺してしまった』のでなければ」
「――――――――!!」

少女は大きく目を見開いてメイドを見つめていた。
わずかな月明かりに照らされたその顔は、普段であれば可愛らしい整ったものだろう。
しかし今の表情は恐怖に歪み、ぶるぶると全身を震わせているのが暗い視界の中でも分かるほど。
その態度が、メイドの言葉が真実であると告げていた。
そう。殺し合いに意味が無いと聞いて、安心するとまではいかずとも、気が抜けるくらいが普通の反応だ。
自分たちは殺しあうしかないと言われて、どんな人間も少しくらい緊張はするだろうから。
挙動不審になるのは、うしろめたい人間ぐらいだ。
この殺し合いに関することでうしろめたいといえば、大体は予測が付く。
まず思い浮かぶのはメイドの言葉通りのケース。
そしてそれはこの少女にとっては図星だったようだ。


命惜しさか、それとも他人を殺してでも果たしたい願いがあったのか。
そのために良心を押し殺して凶行に走る。だがそれは無駄だと言われたなら、そのような反応も無理からぬことだ。

「や、やだなー、何言ってるん――」

明るい声を出そうとして、少女の言葉は途中で途切れた。
メイドは少女に向かって、悠然と歩き出した。
その手には拳銃らしきものが握られている。

「う、あああああああああああああっ!」

撃たれる――即座にそう思ったのだろう。
少女はどこかに隠し持っていた拳銃をメイドに向けた。
ぱん、と乾いた発砲音。
私はメイドが撃たれたと、そう思い、心の中で舌打ちした。
早まった真似をするな。
少女にもメイドにもそう言いたい気分だった。
だが、その一瞬後――――その思いは驚愕という感情に取って代わられた。

「ぐぁっ……!」

少女のものと思われるくぐもった悲鳴。
続いて何かがどすんと地面に落ちるような音。
私は発砲音を着た瞬間、メイドが撃たれて倒れる未来を予想していた。
が、目の前にはそのメイドが発砲した少女の間接を極めて、組み伏せる姿があった。
メイドは弾丸をかわして、少女に近づき、あっという間に間接を極めて押さえ込んだ――と、理解するのに、目の前の光景を見ても数瞬の時間が必要だった。
恐るべき戦闘能力だ。
メイドは少女の腕を捻ってその手の銃を取り上げる。
そしてのしかかった体制のまま、それを少女の頭に向けた。

「ひっ……!」
「やめろッ!!」

今まで見ているだけだった少年が叫んだのは、その時だった。
いつのまにか機械とも生物ともつかぬ人形のようなものが出現し、少年の傍に浮かんでいたのだ。
なんらかのポケモンだろうか?
少年の目には輝きが宿り、強い意志が見て取れる。
なるほど。ギラーミンがいったとおりだ。
ここに集められた者たちは誰もが一筋縄ではいかない猛者ぞろいらしい。


「やめて下さい! この殺し合いには意味がないって、わかったじゃないですか!」
「……そうですね。そこのお方の仮説が正しければ、そうなのでしょう」
「だったら!」
「ですが……ある可能性を考えれば、そうとも言い切れません」

ある可能性?
それは一体、何だというのか。

「あのギラーミンの背後に黒幕がいる……それならば、どうなりますか」

――なるほど。
奴は傀儡に過ぎず、その後ろにいる者が、この殺し合いイベントの本当の主催者ということか。
メイドは続けて言葉を紡ぐ。

「私は絶対に生きて帰り、果たさねばならぬ目的があります。そのためならば殺人も躊躇わない」
「くっ……!」

冷たい目。
あの目を見る限り、メイドの言葉は真実と思える。
そう思わせる迫力がある。
手に持つ銃の引き金を、彼女はその気になれば、おそらく本当に引いてみせるだろう。
そうなれば……一つの死が、間違いなく確実に訪れることになる。
ここにいる者全てに空気が重くまとわりつく。
心臓の鼓動すらうるさく感じるほどの静寂が、緊張感を増加させる。
沈黙。
さらに沈黙。
さらに――――だが、それを破ったのはメイドがようやく紡いだ次の言葉。

「ですが……このセニョリータが誰かを殺害した、というのであれば、あと24時間は誰かを殺す必要はない、ということですね」
「え……!?」

少年の驚きの声。
メイドがゆっくりと少女に突きつけた銃の狙いを外す。

「現段階では殺し合いに乗るという選択肢には不確定要素が多すぎる。ここは一旦――――」

その時だった。



がさ、がさ、がさり。

木の枝を掻き分ける音。
近づいてくる。
この場の全員が音の発生源の方向に視線を集める。
新たな乱入者か。
――もしこちらを襲うつもりの者ならば。
途切れかけた緊張感が再び、冷たい汗を伴って私の体を支配する。
私の支給品である武器、投擲剣・黒鍵をいつでも取り出せるよう準備。

がさ、がさ、がさり。

――来る!


「殺し合いなんて馬鹿な真似はやめるんだッ!! ラァヴ、アンド、ピィィィィィスだッ!!」


姿を見せたのは黒いコートの……………………馬鹿?


【B-2 森 1日目 深夜】
ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]:健康 。メイド服。詩音を組み伏せています。
[装備]:グロック26(弾、8/10発)@現実世界 コルト・ローマン(5/6)@トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式 コルト・ローマンの予備弾42 確認済支給品0~2(武器の可能性は低い)
[思考・状況]
1: とりあえず殺し合いに乗るかは保留。
2:必ず生きて帰り、復讐を果たす。
【備考】
 原作6巻終了後より参加


【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品二式、不明支給品0~2個(確認済み)
【状態】:健康 。組み伏せられて身動きが取れない。
【思考・行動】
1、どうする……?
【備考】
 本編終了後からの参加


広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:支給品一式(確認していない)
[思考・状況]
 基本:皆を守ってギラーミンを打倒する!
 1:だれだろう……?
 2:同じ意志を持つ仲間を探したい
 3: ギラーミンと話していた少年に会う

※備考
 第四部終了した時間軸から参戦。
 名簿というか、ディパッグの中を確認してません。
 (支給品は次の書き手さんに任せます)。
 スタンドパワーの消費が激しいことに気付いてません。


サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:投擲剣・黒鍵 10/10@Fate/zero
[道具]:支給品一式、包帯(少量)、薬(胃薬)
[思考・状況]
 基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
 1:誰だ……?
※備考
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。


ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]:疲労、黒髪化
[装備]:???
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
 基本:殺し合いを止める
 1:ラァヴ、アンド、ピィィィィィスだッ!!
※備考
 原作13巻終了後から参加



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最終更新:2012年11月27日 00:20