When They Cry(前編) ◆/VN9B5JKtM






「ああ……悲しい……悲しい話をしよう」

拍子抜け。
正直な感想を言えと言われれば、その一言だけで事足りる。

「姐さんが殺された……姐さんが殺されたんだぞ? それもラッドの兄貴の目の前でだ。こんな悲しい話があるか? いいや、あるはずがない。
 しかもだ。ギラーミンは『優勝して自分と戦い、殺せ』と、そう言ったんだぞ? 俺達の首にこんなものを付けておきながらだ。
 名誉挽回したければ最初から自分も参加者として同じ舞台に立てと言うんだ! それを優勝者と殺し合うだと? そんな話、信じられるか!
 殺される覚悟なんかこれっぽっちもないくせに自分を殺してみろと言う。ああ……これは明らかにラッドの兄貴に対する挑発だ。
 こんなあからさまな挑発を受けて冷静で居られるほどラッドの兄貴は器用じゃない。ラッドの兄貴が殺し合いに乗るのも当然じゃないか……」

駅の隠し部屋で見つけたフィルムを再生し始めたのが数分前。映像が流れるまでは、鬼が出るか蛇が出るかと身構えていた。
だがそんな中、始まったものは何かと言えば、単なるルール説明。この殺し合いの前にギラーミンが行ったアレだ。

「そもそも何だこの悪趣味な映像は!? ギラーミンの奴はこんなものを俺に見せて何がしたいんだ!?
 ハッ……!? まさか……これは俺に対する挑発か!? ラッドの兄貴を挑発するだけでは飽き足らず俺の事も挑発しようと言うのか!?
 くそう、どこまでもふざけた奴だ……! ダメだ! この怒りは奴の全身の関節をバラバラにでもしなければ収まりそうにない!」

ギラーミンを中心に十人余りが画面に映り、その説明に耳を傾けている。ただそれだけの映像だ。
人殺しがしたくて堪らなくなったりだとか、画面から怪物が現れたりだとかの、懸念していたような仕掛けが施されている様子は無い。
まだ断定するには早いが、どうやら本当にただの映像フィルムらしい。

「……ああ…………だと言うのに。ギラーミンを壊して壊して壊して壊して……この鬱憤を晴らしたいというのに、俺にはそれすら出来やしない。
 だってそうだろう? 奴はラッドの兄貴が自分の手でぶち殺すんだ。むごたらしく惨たらしく酷たらしく、これ以上ないってくらい残虐にな。
 それを俺が横から手出しなんかしてみろ、ギラーミンの前に俺がラッドの兄貴に殺されちまう」

とは言え、流石にその内容はグラハムにとって無視できるようなものではなかったらしい。
何しろギラーミンに撃ち殺された男はともかく、首輪を爆破された女はグラハムの兄貴分、ラッド・ルッソの婚約者なのだ。
これが本当にグラハムを挑発するために用意されたものなのだとすれば、その役目は十二分に果たしたと言えるだろう。

「だが! それなら俺のこの苛立ちはどこにぶつければいいんだ!?
 人間は悲しみの中で成長し、楽しみの怠惰の中で生を謳歌するものだと言う。
 ならば、苛立ちの中に放り込まれた俺は一体どうなると言うんだ? 成長も堕落もせず、ただその場に停滞し続けるだけなのか?
 こんなスッキリしない気分のままこの先何十年と続く人生を…………いや、今のはナシだ。そんな温い考えじゃあラッドの兄貴に殺されちまう。
 明日にでも死ぬかもしれないのに、こんな気分のままで生を終えねばならないのか? ああ、だとしたら何て悲しい……悲しい話なんだ……」
「ええい、いい加減にせんか……」

隣で語り続けるグラハムに耐え切れなくなり、文句を言おうとライダーが口を開いたその時、画面に変化が訪れた。
それまで映っていた十名ほどの参加者達が忽然と消え失せ、画面にはギラーミンだけが残された。
ルール説明が終わった、つまり集められていた参加者達が会場へと飛ばされたためだ。
これで終わりかと思った二人だが、続けてギラーミンが何者かに語りかけるのを耳にして表情を引き締める。


『――――――。なぜ君が最後までここに残ったのか、わかるかい?』
『――――――。安心してくれ。『その能力』には制限を加えていない』

一部、ギラーミンが口を動かしているのに音声が聞こえない部分がある。
更には画面外に居るはずの会話相手の声も聞こえない。
恐らくは個人が特定できる情報を隠すために、音声を加工しているのだろう。

『はは。まあ待ってくれ。さっきの質問の意味を教えよう』

そう言うと、画面の中でギラーミンの背後にモニターのようなものが現れる。
映し出されたのは、どこか個室のような場所。
そこにボロボロの白衣を身に纏い、サングラスをかけた禿頭の男が倒れている、そんな映像だった。

『喜んでもらえたかね。では、君に頼みがあるんだよ』
『忘れていないかね?彼の命は私が握っているんだよ?』
『さて。君への頼み、というものだが……。なあに、簡単な話。
 君には会場であるノルマをこなしてもらいたい。
 殺し合いを始めて24時間。
 その時点で……参加者65人を、半分以下の32人以下にまで減らしてもらいたい。
 24時間経過時点で、生きている人物が33よりも多かった場合――――――』

また口の動きに対して音声が途切れる。
文脈から判断するに、あの男を殺すとでも言ったのだろう。

『主催者として、少しはゲームを加速させないといけないのさ。
 他の殺人者に期待してもいいが、それで間に合わなくなったなら、君は後悔するだろう。
 自分が殺して置けばよかった、と。
 それまでは彼の安全は保障しよう。彼の声を6時間経過ごとに聞かせてあげてもいい。その手段は、6時間後にわかる。
 更に……君にはタイムリミットも設けよう。2日目が終わるまでに君が最後の1人になれなかった場合も、彼を殺す。
 わかったかね?君は殺戮者に回るしかないのさ。
 では、24時間後に彼の断末魔が君に届かないことを、祈ろう』


それで会話は終了らしい。
ギラーミンはそれ以上の口を開かず、上映室を静寂が包み込む。



そこに突如、パチパチと手を叩く音が響き渡る。

『ご苦労様。中々の名演技だったよ』

続いて若い男の声。
声の調子から判断して二十歳前後だろうか。

『君のために個室を用意してある。放送までは時間があるからね、それまでは休むといい』

その声に応じるように、コツ、コツと硬質な足音を響かせて、ギラーミンが画面端へと歩いて行く。
体の半分ほどを画面外にはみ出して立ち止まったギラーミンの肩に、何者かの手が乗せられる。
次の瞬間、その手と共にギラーミンの姿が消え失せる。
残されたのは、人質として捕らえられた男の映るモニターのみ。

更に二人が見守る中、そのモニター映像から男の姿だけが掻き消える。
まるで最初から人質など居なかったかのように。


『シルバー兄さん……これで良かったの?』
『ああ。バイオレット、お前にも手間を取らせたな』
『なるほどね。いつの間に人質なんか取ったのかと思ってたけど、ホログラムでそう見せかけてただけか』
『グリーン、戻ったか』

新たに女の声と、先程とはまた別の男の声。
そして再び先の男の声。

『でもいいのかい? 勝手に台本を書き換えたりして。この事はすぐに知れると思うけど……』
『構わん。万一の事を考えれば我々のような手足は必要だ。少しばかり意向に反したからと言って、そう簡単に消される事はないだろう』

その言葉を最後に画面が暗転する。
どうやら今度こそ本当に終了したようだ。



「ふぅむ、これはギラーミンの背後に何者かが居るという事か」
「そんなの関係ないだろ。相手が誰だろうと、何を企んでいようと、俺のする事は変わらない。奴らの計画を完膚なきまでに壊し尽くすだけだ」
「まぁその通りだわな」

この映像で分かった事は主に二つ。
一つ目は人質が居ると騙され、殺し合いに乗ったであろう参加者の存在。
だが、その参加者が誰なのかが分からないし、まだ生き残っているのかすら怪しい。
むしろ、こんなものを用意したのはその参加者が死んだからだと考えるのが当然ではないか。

二つ目はギラーミンの背後に居る何者かの存在。
ただしこちらも性別と声ぐらいしか分からないため、ほとんど何も分からないに等しい。
シルバー、バイオレット、グリーンという呼び名も本名だとは考え辛い。
ライダーという呼び名も本名ではなく聖杯戦争でのクラス名だ。ならばこれもコードネームだと考えるべきだろう。

結局は何も分からないのと同じようなものだ。
ライダーは画面から目を逸らすと、手元の探知機に視線を落とす。

「……むぅ? おい、グラハム。これを見よ」

そして隣の席に腰を下ろすグラハムへと呼びかけると、その目の前に探知機を差し出す。

「何だ、おっさん。俺は今どうやってこいつをバラすか考えて……って、ちょっと待て。何か反応が増えてねえか?」

グラハムはクリストファーの荷物に入っていた首輪を無言で弄くり回していたが、その手を止めて画面の一点を指差す。
中央付近には光点が四つ。これは自分達四人の反応と見て間違いないだろう。
グラハムが指差したのはそれとは別の反応、いつの間にか画面の端の方に増えていた五つ目の光点だ。
沙都子とアルルゥが部屋を出て行った時にも周囲の安全を確認するために探知機を起動させたが、その時には反応は四つしかなかった。
つまり、二人が映像を見ている間に何者かが近づいて来たという事だ。

「ふぅむ……しかしこやつは何故こんな所に居るのだ?」

新たに現れた光点の位置は、現在ライダー達が居る映画館から北西に1km余り。地図で言えばF-5エリアの中央に当たる。
周囲には目立った施設もなく、南と東は湖と禁止エリアに囲まれている。少なくとも他人との接触を目的として立ち寄るような場所ではない。
となると何者かに襲われて逃げてきたのか、それとも人の寄り付かない場所で休息を取ろうという腹なのか。
そこまで考えたところで、光点が新たな動きを見せた。

南へ真っ直ぐ。
スピードはそれほどでもないが、湖の上を進んでいるとしか思えない動きだ。

「ひょっとして、こいつは湖を突っ切ってこっちに来るつもりなのか?」
「うむ、恐らくはそうであろうな。今まで病院に居った何者かがここに向かっていると、そんなところだろう」

病院から映画館へ行くのならば、ライダー達がそうしたように駅から電車でG-7へと向かうのが普通だろう。
だが、湖を渡る手段があると言うのならば話は別だ。
わざわざ駅まで何エリアも移動して電車に乗るよりも、真っ直ぐに南へ進んだ方が早いに決まっている。
光点の現れた位置も最初は不自然に思えたが、そう考えれば得心が行く。
流石に湖を泳いで渡るというのは考え辛いため、何か水上を移動できる支給品でも持っているのだろう。
例えばライダーにV-MAXが支給されたように、この参加者にはボートのようなものが支給されているのかもしれない。
あるいはレッドに支給されたX-Wiやチョッパーに支給されたタケコプターのように、飛行可能な道具が支給されている可能性もある。

ともあれ『この参加者が湖を渡って映画館へ向かっている』という可能性は十分に有り得る。
二人は沙都子達にこの事を伝えるため、上映室を後にした。



   ◇   ◇   ◇



ひとしきり泣いた後、沙都子はトイレの個室から外に出た。
どれだけの間、自分が泣いていたのかは分からない。五分だろうか、十分だろうか。あるいは一時間だろうか。
まだ心の整理はつかないし、この先どうすれば良いのかも分からない。
悲しみが癒えた訳ではなく、ただ麻痺しただけ。
それでも、どうにか溢れ出る涙を止める事だけは出来た。

「…………ねーねー……ねーねー……」
「? アルルゥ?」

そして上映室に戻ろうとしたところで、廊下の壁に反響してアルルゥの声が聞こえてきた。
踵を返し、声の聞こえる方へと足を進める。
やがて映画館の入り口付近で、沙都子を呼びながら歩き回るアルルゥを発見した。

「アルルゥ! 何してるんですの?」
「あ! ねーねー! やっと見つけた!」

アルルゥは沙都子の姿を見ると、嬉しそうに駆け寄って来る。
沙都子も自らの感情を悟られないようにと、精一杯の作り笑いでアルルゥを迎える。

「アルルゥ、映画は見なくてもよろしいんですの?」
「ん。えいがより、ねーねーといっしょがいい」

そしてアルルゥは沙都子の目を見つめると、僅かに躊躇うような素振りをみせ、口を開く。

「ねーねー。ムリ、しないで」
「なっ……!?」

無理矢理作り上げた笑顔の仮面が呆気なくひび割れる。
頬が引きつっているのが自分でも分かる。
まるで笑い方というものを忘れてしまったように、笑顔が作れない。

「な、何を言うんですの? 無理なんてしてませんわよ……」
「ムリしてる。ねーねー、泣きたそうなのにムリして笑おうとしてる。
 どうして? アルルゥがいつも泣いてるから、だからねーねーもかなしいの?
 もう泣かないから。ワガママも言わないようにするから。だから……おいて行かないで……」
「ッ!! 置いて行ったりなんかしませんわ!」

反射的にアルルゥを抱きしめる。
沙都子の体全体が、アルルゥの漏らしたその一言を否定するためだけに動く。

「ねーねー?」
「そうですわ! 私はアルルゥのねーねーなんですもの、アルルゥを置いてどこかに行ったりなんかしませんわ!」

必死に涙を堪えるその姿が、にーにーが安心して帰って来れるように強くなろうとしていた過去の自分と重なった。
それを見捨てる事など出来るはずもなく、ねーねーとしてアルルゥを安心させようとする。
自分はここに居るのだと、どこにも行かないのだと、言葉ではなく行動で示す。



「おう、居た居た」

背後から投げかけられた声に振り返る。
視線の先、廊下の向こうからライダーとグラハムが歩いてくる。

「ライダーさん……グラハムさん……」
「済まんのう。ここで水を差すのは野暮だとは分かっておったのだがな」

ライダーが用件を伝える。
曰く、何者かがここに近づいて来ている。
曰く、探知機の反応を見る限りその参加者は一人で行動しているようなので、殺し合いに乗っている可能性は十分にある。
曰く、これから自分はその参加者に接触するが、沙都子達がここに残るつもりなら護衛としてグラハムを残していく。
そして最後に一言、「それとも、共に来るか?」とだけ付け加えた。


身の安全を考えればここに残るべきなのだろう。
もし危険人物だったとしてもライダーが対処してくれるし、殺し合いに乗っていない参加者なら何の問題も無い。

「……行きますわ! 私も連れて行ってくださいまし!」
「うむ、良い答えだ。それでこそ、余と轡を並べるに相応しい」

だが、誰かの後ろに隠れ続けて、それで生き延びて元の世界に戻ったとして。その先に未来はあるのか。
この殺し合いは悪夢としか思えないが、元の世界にも沙都子にとっての悪夢は待ち受けているのだ。
この先、沙都子が未来を掴むためには、勇気を振り絞ってあの叔父に立ち向かわなければならないのだ。
怖くても、ここで逃げる訳にはいかなかった。

「アルルゥも行く!」
「な……!? アルルゥはグラハムさんと一緒にここに残っていた方が……」
「や! ねーねーといっしょに行くの!」

これは沙都子の誤算……と言うか失念していた事だが、沙都子が行くと言えばアルルゥも一緒に行きたがるのは当然の話。
沙都子としては危険があるかもしれない場所にアルルゥを連れて行きたくはないのだが、さっき「置いて行かない」と言った手前、断り辛い。

「いいじゃねえか。離れたくないんだろ、だったら一緒に連れてってやればいい。
 心配は要らない。もしこれから会う奴が殺し合いに乗ってたとしても、お前たちは俺が守るからな」

グラハムにまでこう言われては、沙都子も何も言えなくなってしまう。

「ああ、それとこいつはあの赤目野郎が持ってた荷物だ。あいつの形見だと思って二人で分けるといい」
「そうですわね……。では、アルルゥにはこれを渡しておきますわ。危ないと思ったらこのボタンを押して投げるんですのよ?」
「ん!」

グラハムからデイパックを受け取った沙都子は、中からスピアーの入ったモンスターボールを取り出してアルルゥに手渡す。
アルルゥにも使えて、かつ身を守るのに役立つものは何かと考えた結果だ。


「では参るとしようか。出でよ、我が愛馬ブケファラス!」

出発の準備が整ったのを見届けたライダーが、象剣ファンクフリードを抜き放つ。
その切っ先を高々と掲げ、虚空を裂くように振り下ろす。
瞬間。
切り開かれた空間の中から、勇壮な駿馬が飛び出してくる。
ライダーは慣れた動作でその背に跨ると、馬上から沙都子とアルルゥに手を伸ばしてひょいと抱き上げる。
二人の少女を片腕で軽々と抱きかかえ、グラハムには後ろに乗るように促す。

こうして、まだ見ぬ参加者と接触するため、四人と一頭は西へと駆ける。



   ◇   ◇   ◇



D-6の湖で鍵を手に入れたミュウツーは第二の湖を探索するべく、F-5へと歩を進めていた。
その途中、病院での戦闘はもう終わったのだろうかと遠目から様子を窺い、

瓦礫の山と化した病院跡を目にする。


ミュウツーは思わず息を飲む。
つまりは病院を丸ごと崩壊させるほどの激戦が繰り広げられたという事に他ならない。
あの場に留まっていればミュウツーも無事では済まなかっただろう。やはり、早々に離脱したのは正しかったようだ。

安堵の息を吐く一方、ミュウツーの心には一つの懸念が生まれていた。
倒壊しているのはそこらに点在する民家ではなく、その何十倍もの規模を誇る大病院だ。
力が制限されている今の自分が全力を出したとして、あれほどの破壊が可能だろうか。
それほどの力を持つ何者かとぶつかり合った時に、自分は勝利する事が出来るのだろうか。

これまで様々な強者を見てきたミュウツーには、それが可能だと断言する事など出来なかった。

(だが、オレが死ねばマスターの命まで失われる……。オレは、何としてでも勝たねばならない……!)

武装強化の必要性を再認識し南へと進むミュウツーは、程無くして湖畔へと辿り着く。
周囲をざっと見回すが、特に不審な点は見当たらない。
ならば先程と同様、湖上に仕掛けがしてあるのか。
湖に視線を向けるミュウツーだが、その目には柔らかな月明かりに照らされた穏やかな湖面が映るばかり。
やはり今回も仕掛けを視認する事は不可能らしい。
ミュウツーは油断なくV-Swを構えながら念力で体を浮上させ、湖上を進んで行く。


数分後、ミュウツーは何事も無く対岸へと渡り切った。
敵の襲撃が無かったのは喜ぶべき事だろうが、期待していたような仕掛けも無かったのには落胆の気持ちを隠せない。
だが、考えてみればそれも当然。前回は『D-6に向かえ』と言われたため、そこに何かがあるのだと分かっていた。
対して今回は4エリアの中から褒美とやらを探し出す必要があるのだ。気を落とすにはまだ早いだろう。
気を取り直して周囲を探索しようとした矢先、夜の静寂をつんざく馬の嘶きがミュウツーの鼓膜を揺るがした。
ミュウツーの居る湖に向けて、森を駆ける馬蹄の音が近づいて来る。

もはや逃げる時間も無いと判断したミュウツーはV-Swを構え、臨戦態勢を取る。

「ほぉう……。誰かと思えば、貴様であったか」

森の中から現れたのは、数時間前にも交戦した巨漢だった。
以前見た鋼鉄の馬ではなく、男の巨体にも見劣りしない見事な駿馬に跨っている。
その背から群青色の作業着を着た男と二人の少女が地に降り立ち、巨漢から距離を取る。


この男達は西に向かう途中で、ここで会ったのはただの偶然なのか。
それとも、気配を察知するなどの方法でミュウツーがここに居る事を知っていたのか。
あるいは……あまり考えたくない事だが、この男達も湖に隠された褒美とやらの存在を知って、それを狙って来たのか。
いずれにしろ、激突は避けられない。


「さて、念のため確認しておくが……大人しく余の軍門に降る気はないのだな?」

男が、馬上から質問を投げかける。
ミュウツーは答えるまでも無いとばかりに無言でV-Swを構え直す。

それが、開戦の合図となった。




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最終更新:2012年12月05日 03:09