一方通行 ◆fCVqFlAXCI
「何なンだこりゃ……またクソみてェなゲームに巻き込まれちまったじゃねェか」
木々に囲まれた森の中、月明かりすら届かない空間で一人の少年が吐き捨てるように言った。
黒一色の空間に相反するようにどこまでも白く、白く、白く、白い印象を他に与える少年。彼の住む世界では一方通行と呼ばれたその男は、道を歩きながらぼんやりと考える。
(チッ……こンな場所に連れて来られて、殺しあえだァ?ふざっけんなクソったれ。ンな馬鹿げた事ホイホイ聞くわけねェだろうが)
一方通行は思う。
ならどうする?
殺し合いに参加するわけでもなく、かといって皆で主催者を倒そう!なんてのは論外。
今の一方通行には時間制限がある。
とある少女を救おうとして、柄にも無い事をした挙句演算能力の殆どを失い、今じゃ機械と妹達(シスターズ)に演算を任せきり、機械の電池が切れるまでの15分限定の最強に過ぎない。
反射が機能する間は文字通り無敵だが、15分を過ぎてしまえば喋る事すらできず、のたれ死ぬのを待つだけの存在となる。
そこでふと一方通行は気付いた。
(なンで普通に喋れてんだァ?名簿を見た分じゃアイツは愚か妹達すら参加してなかったじゃねェか……)
突如、一方通行の目が見開かれる。
「はっ……そォゆゥ事かよ」
頭に浮かぶのは一つの可能性。
この空間に来て一方通行の能力が普通に使えるその理由。
自分を含む数十人の人間を拉致できる能力。
何も、攫われたのがここに連れて来られた人間だけとは限らない。
「くそが……」
そこから推測される一つの可能性。
「くそったれがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
主催者達は打ち止め(ラストオーダー)をも拉致している。
(笑わせてくれンじゃねェか。精々てめェの望みどおりにケツ振って愉快に踊ってやンよ)
咆哮と共に一方通行は決意する。
(丁度良い生贄がいンじゃねェか)
一方通行の視界に獲物の存在が映る。
とても普通の人間とは思えない真っ赤な真っ赤な存在。
今、狩りが始まる。
*
「はっはァ!ンだァその逃げ腰は。愉快にケツ振りやがって誘ってンのかァ!?」
嘲笑と共に白い悪魔が駆ける。
状況は圧倒的に一方通行の有利だった。
目の前の赤い影の怪物は、高い身体能力を誇っているが、反射の前には全てが意味を成さず。
むしろ攻撃してきた赤い影の方にダメージが向かう。
これでもう何度目かになる繰り返し。
一方通行がベクトルの向きを変え、勢いを加速させた砂の弾丸を飛ばす。
赤い影は大きく右へ跳ぶ事で難なくそれを回避。
着地と同時に手に持ったナイフを額に向けて放ってくる。
「無駄だってのがわかんねェのか?」
対して一方通行は避けようともせず額でナイフを受け止たかと思えば、綺麗に斜線上を辿ってナイフは投擲者の下へ。
それをまた赤い影は避ける。
(チッ……負ける要素はねェが、こンな所で無駄に力ァ消費するのは勿体ねェ)
一方通行が一方的に押しているとは言え、参加者を皆殺しにするには成るべく消費を抑えなくてはいけない。
(一気に決めるか……っはァ!?)
一気に決めようとした一方通行の眼前に拳が現れる。
(真性の馬鹿かコイツ?ンなンじゃてめェの手首が砕けるだけだろォが)
いくら戦闘中に思考に意識を飛ばしていたとは言え、こうもあっさりと距離を詰め拳を振るう赤い影のスペックは高いが、それは全て一方通行の有利に働く。
このまま何もしなくても相手は自滅する。
……そう思っていた一方通行の顔面に、とある幻想殺しの比ではない威力の拳が突き刺さる。
「ガっ……ァ…っざけんなァ!!!」
有り得ない。
衝動的に叫んだものの一方通行の頭には?マークが浮かぶ。
(あの無能力者みてェな力か?いや、ンな力があンなら何で最初から使わねェンだ)
狼狽する一方通行を見て赤い影が口を開く。
「原理は良くわからないが……お前の力は反射……いやベクトル操作ってやつ、だろ?」
当たりだ。
反射ではなく、能力の本質を見切ったのは素直に感嘆する。
問題は、どうやってそれを突破したか、だ。
「だったら簡単だ。向きを変えられるなら、お前の方に拳が向かうよう調整すれば良いだけだ」
驚愕する一方通行を前に赤い影は淡々と言葉を放つ。
「はァ!?ぶっつけ本番で、ンな事が出来ると思ってンのかよ!」
一方通行の疑問は当然だ。
仮にこの能力の本質に気付いても状況は何も変わらない。
反射を防ぐ術など無い筈なのだから。
今赤い影が言った方法が唯一といっても良い。
……だが、失敗すれば腕がアウトだ。
確証も何も無い状況で、その作戦は無意味に過ぎない。
だが
「無論だ。何故なら、世界は俺の物だからな」
想像を絶する答えが返ってくる。
「この世界は俺のものだ。ひょっとしたら、この世界ってのは俺が見てる長い夢の中じゃないのかとさえ思ってる。
だってそうだろ?ひょっとしたらお前は幻かもしれないし、俺にはお前が本当に存在しているのか証明が出来ない。つまり、この世界は俺中心って事だと思ったわけだ。
俺が『できる』と信じた事は絶対に出来るし、 多分俺が寿命で死にそうな時、不老不死の薬とかが出来るに違いないさ。もしくは今見てる夢から覚めて、また別の夢に行くんだろう。つまり、俺の存在は永遠ってわけだ」
「なンで……なンでそンな都合の良い解釈ができンだよ!?シクれば腕がオシャカになンだろォが」
「俺は想像力に乏しくてな。自分に出来ない事が全く想像できない。考えられないんだよ」
イカれてやがる。
一方通行は目の前の存在をそう決定つける。
さっさと始末しようと力を使おうとする。
が
「おっと。もうタネは割れてるんだ。もう俺にはその力は通用しない」
言葉と同時に、拳が顔面に突き刺さる。
何度も、何祖も、何度も、何度も、何度も、何度も、何祖も、何度も、何度も、何度も、
何度も、何祖も、何度も、何度も、何度も、何度も、何祖も、何度も、何度も、何度も、
何度も、何祖も、何度も、何度も、何度も。
力を使う暇さえ与えられない。
鼻血が詰まり呼吸が出来ない。
「ガっ…………くそ……ったれ…が……」
そうして、白い少年の意識は赤に染まっていく。
*
赤い影……クレアは、目の前の白の呼吸が止まったところで殴るのを止める。
いきなり襲い掛かってきたこの少年。
奇妙な力を使うが自分の敵ではなかった。
「さて、どうするかな」
クレアにゲームに乗るつもりは無い。
今回は降りかかる火の粉を払うために迎撃したが、自分から積極的に動こうとは思っていなかった。
真っ赤に染まった白の前でぼんやりと思案する。
その思考がどちらに向くかは、今は誰にもわからない。
【一方通行@とある魔術の禁書目録 死亡確認】
【H-2 森の中 1日目 深夜】
【
クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:健康 拳が血でべっとり
[装備]:無し
[道具]:支給品一式×2 未確認支給品0~3
[思考・状況]
1:どうするかな
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最終更新:2012年11月27日 00:09