ストレイト・クーガー◆o9OK.7WteQ
「ああっ、文化は本当に素晴らしい! 俺は文化が大好きだ!」
読み終えた本を閉じ、男は言った。
両腕を大きく広げ廊下を歩いている姿は、まるでこれから演説を始めるかのよう。
トレードマークの紫色のサングラスは前髪の一部に引っ掛けられていたが、その目は閉じられた瞼に遮られ見る事が出来ない。
「文化―――それは人の営みの中で育まれる素晴らしいもの、俺はその中でも本を推す、映画も良いが一定時間拘束されるという欠点があるからだ、
だが本は違う、本人の努力次第で拘束される時間を短縮出来る、それではじっくりと楽しめないだろうと思うかもしれないが、逆に濃密な時間を過ごせると考える人間もいる、俺がそうだ。
そして文化の中にはただ平和に生活するだけでは成長しないものもある、それは何か? それは“力”だ、人は昔から常に何かと戦ってきた、それは自分を守るため、狩るために襲い掛かってくる動物、理不尽だとも思える自然災害、
そして人間が戦ってきた中で一番の強敵は同じ人間だ、同じ人間同士が戦うことで力の文化は大きく発展してきた、そう、人は本来争う生き物だから」
圧倒的な言葉の奔流。
それを聞く者も止める者もこの場には誰一人存在しない。いや、いたとしても止められはしないだろう。
男は本を片手に持ったまま図書館を出た。貸し出しの許可を得ろと咎める人間もここにはいなかった。
夜の闇の中、男の言葉は途切れること無く加速していく。
「そして俺はその争いの中にいる、これは俺の最も愛するものを高めるために最適な環境、戦いは非文化的と言う奴もいるかもしれないがそんな事はない、
やり方による、それにここには歯ごたえのある奴がわんさかいそうだ、俺は戦闘大好きな馬鹿じゃないがさすがに胸躍った、それが俺の人生を縮める事になったとしてもだ、自分が成長する事を拒絶する人間がいるか? いや、いない!!」
男は目を見開くと手に持っていた本を天高く放り投げ、そのまま流れるように前髪をはじきサングラスをかけた。
「―――しかし俺はこうも考えている、他人に運命を左右されるとは意志を譲ったということだ、意志なきものは文化なし、文化なくして俺はなし、俺なくして俺じゃないのは当たり前、そしてぇっ!!」
この戦いが自然に起こったものだったら、例えそれが命のやり取りだとしても男はそれに参加していたかもしれない。
だが、この戦いは一人の男が一人の少年に復讐するために起こしたもの。それに参加する事は利用される事と同義。
この男は利用される事を良しとしない。
「ラディカル! グッド、スピィィィード!」
重力に負け落下してきた本が男の叫びに呼応するかのように粒子に変わり、同様に地面の一部も鋭利な刃物で抉られたかのような跡を残し光になった。
その虹色の光の粒子が男の両脚に絡みつき、
「脚部限定!」
銀色と紫色を基調とした輝く流線型の装甲を形作った。
かつて横浜を中心に原因不明の隆起現象が発生し、半径30kmにも及ぶ地域が本土と切り離された。その地は『ロストグラウンド』と呼ばれ、日本政府の尽力によりある程度の復興をみせた。
しかし、その支援は全ての人間には行き届かず、復興した市街の住人と崩壊した地区の住人、通称「インナー」と呼ばれる人間達とで分かれ、二層社会を形成してしまう事となった。
これだけならばまだロストグラウンドが日本に復帰する見込みは十分にあった。だが、現実はそう甘くはなく、誰もが予想しないものとなった。
それは、ロストグラウンドで生まれた新生児の中に『アルター能力』という特殊能力を持つ者が現れ始めたからだ。
アルター能力。精神感応性物質変換能力とも呼ばれ、自らの意思により周囲の物質を分子レベルまで分解し、各々の特殊能力形態に合わせ再構成する能力である。
その形態は千差万別で、例外を除けば同じ形状や能力のものは一つとして存在しない。理由としては、アルター能力が能力者自身の性格や願望を具現化したしたものだからだという説が有力だ。
そして、その説が間違いではないと最も思わせられる人物がこの男だった。
「衝撃のファーストブリットぉ!」
超高速で放たれた蹴りが図書館の外壁に大穴をあけた。
その速度、破壊力はすさまじく、常人ならば知覚することすら困難だろう。
「足りない! 足りない足りない足りないぞぉっ! 今の俺には―――」
だが、男はまるで満足していなかった。
蹴りを放ち終わったと同時に疾駆。それは破壊された外壁が巻き上げた砂塵を置いていく程の速度。
「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、は足りている! だがっ!」
しかし、その速度は、
「―――速さが……足りない! 俺が遅い、俺がスロウリィ……!」
男の満足するものではなかった。
男は文化と、そして何よりも“速さ”を愛していた。
それは彼のアルター能力、『ラディカル・グッドスピード』が、全てのものを速く走らせることが出来る、という力を有している事からもわかる。
だが、今はその速度が制限されている状態にあった。
それは何故か? 考えるまでもない。
「どこかで聞いているんだろう!? ジラーミンさんよぉ!」
……男は主催者の名前を間違えていた。
命は相手に握られている。首につけられた爆弾がその証で、威力の程は確認済みだ。
もし、これから言う言葉を本当に聞かれていたら、問答無用で首輪を爆発させられる可能性もある。
だが、
「お前は重大で決定的で取り返しのつかないミスを犯した、それは集めた人間の中に俺がいたって事だ、さらにその俺の前で明らかに戦う気の無い人間を殺した、さらにさらに俺から“速さ”まで奪った!
気に入らない! それが復讐のためだってんだから尚更気に入らないっ!!
つまり俺はお前に逆らった上で倒すと即決即納即効即急即時即座即答ォーッ!!!」
その程度でこの男は止まらない。
「…………」
少しの間待ってみたものの返答は無く、首輪も爆発しなかった。
しかし男はそれが、やれるものならやってみろ、という無言のメッセージだと勝手に受け取った。
男は自分の発した言葉があまりに早口すぎたため、相手が聞き取れなかったという可能性は微塵も考えていない。
「……ハッハッハッ、ハー!」
「―――さあ、始めるとしますか」
最強と呼ばれたアルター使い、ストレイト・クーガーは宣言した。
【D4/図書館前/深夜】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:健康
[装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス
[道具]:支給品一式 不明支給品(0~2)
[思考・状況]
1・ジラーミンに逆らう
2・ジラーミンを倒す
※ジラーミンとは、ギラーミンの事です
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最終更新:2012年11月27日 00:10