後日談:みんなの想いは? 後編


前編
後編





 首都インフェリアーレのよろづ屋、とても首都の一等地にあるとは思えない小さな店に、私は来ている。

「さーしゃ、いる?」
「あ、ノイエさんですね。少しだけ待ってくださいです」

 店の奥から返事がくる。この店の主、さーしゃだ。
 彼女は惑星再生に大きく貢献した1人。でも、こうして接しているとそんな感じには全然見えなくて、本当に私と同い年なのかと思うことがある。

「ノイエさん、お待たせしましたです」
「このくらいは待ったうちに入らないわ。それに、頼んだのはこっちだもん」

 さーしゃは、もっと幼い頃から店を営んでいたという。既に落としてしまったリムの、スフレ軌道沿いに元の店はあったというが、残念ながらそこへ足を運んだことはない。

「一応、確認してもいいかな。さーしゃの技術を疑ってるわけじゃないんだけど」
「はいです。持ってくるので、少しだけ待っててくださいです」

 再び店の奥に行っては、依頼したモノを持ってくる。
 と、来客を告げる鐘の音が狭い空間に響き渡った。

「久しぶり、さーしゃ」
「ココナさん! 久しぶりです。今日はどうしたんですか?」
「私だけじゃないよ」
「久しぶりね、さーしゃ」

 もう1人、入ってきた声に私は唖然とした。だって、この声って......

「わぁ、クロ姉! お久しぶりです」

 そう、クロ姉......クロ姉?

「あら、先客がいたようね」
「嘘でしょ......」

 さーしゃがクロ姉と呼んだのは、その実メタファルスの御子にして、最も高貴な存在。そんな人がどうしてここにいるのか。

「あー、固まっちゃってるよ、彼女?」
「ノイエさん、大丈夫です?」

 大丈夫じゃないから、こうして固まってるのよ……。

「ほら、クローシェ様も何か言ってあげないと。悪気はないにしても、原因は多分クローシェ様なんだし」
「そ、そうね......貴女、ここでは私も客の1人よ。固くなる必要はないわ」
「......あ、あの......」

 乾いた唇を、なんとか動かす。聞きたいことは、ただ一つだけだった。

「さーしゃとクローシェ様は、どういう経緯でこんなにも親しくなったんですか?」

 クローシェ様と一緒に来たココナという女性はまだ分からなくもない。けれど、さーしゃは?
 さーしゃはクローシェ様と一度視線を合わせ、頷くのを見て話しだした。

「それなら、さーしゃが説明するですよ。少し長くなりますけど」



「と、いうことなのです」
「......クローシェ様も普通の女の子だったんですね」

 それが、最も強く残った印象だった。
 御子だから。そんな理由で遠ざけてたけど、それは間違いだったのかもしれない。たまに見かけるルカさんも、すごく接しやすいし。
 御子かどうか、もちろん公の場では気にしなくちゃいけないけど、こういう場所では逆効果なのかもしれない。
 ふと壁にかけられた時計を見ると、どうやら20分くらい話を聞いていたことが分かった。

「ふふ、懐かしいわね」
「もう10年以上も前の話だもんね。そりゃ、懐かしくなるよ」
「それよりさーしゃ、彼女との用事は終わったの?」
「あっ、すっかり忘れてたです! すみません、ノイエさん」

 すっかり慌てた様子で、私が頼んだモノを差し出した。
 それを見たココナとクローシェが、ほぼ同時に呟いた。

「「あれ、それどこかで......」」
「何か、知っているんですか?」

 2人は顔を見合わせると、先にココナが答えた。

「うん。知ってると言っても、ほんの少し記憶に引っかかるくらいだよ。名前も分からないし」
「私も、似たようなものね。何せ大鐘堂の中では、そんな帽子をかぶったまま任務に行く人なんてほとんどいなかったのだから。人前でも取らないなんて、なおさらよ」

 クローシェ様が言うのだから、相当かも……。あれだけボロボロになってたのは、あの事故があったからじゃなく、常日頃使用していたからね

「でも......もう彼女はいないのよね?」
「クローシェ様、それって......」
「考えてみなさい。彼女はこの帽子をいつも着けていたのよ? それを、他人に受け取りに行かせようなんて思うかしら。私なら、絶対に自分で取りに行くわ」

 さすがクローシェ様。何もかもお見通しね......。

「クローシェ様の言う通りです。あの人は、メタファリカができる前に、I.P.D.暴走で亡くなりました」

 I.P.D.暴走。その言葉を聞いた瞬間、その場にいる全員の表情が固くなった。

「……やっぱり、殉職していたのね。それで、どうして貴女がそれを?」

 私は、こうなった経緯を掻い摘んで説明した。



 俺は、ノイエに紹介された花屋を訪れている。そこには、俺が思ってもみなかった奴がいた。

「あれ、カイ君?」
「シンシア?」

 シンシアと言えば、大鐘堂の中では指折りの武具職人で有名だったはず。花屋をやるという話は聞いていない。
 おそらく、あいつはシンシアが武具屋をやっていたことは知らないはず。ここで糸がつながったのは、偶然だろう。

「まさか、カイ君がここに来るなんて夢にも思わなかったよ。カイ君、こういうもの興味あったっけ?」
「いや、深く興味があるわけじゃない。ただ、ちゃんとしたものを選びたいからな。人に紹介してもらったんだ」
「ふうん。ま、ちゃんと選ぼうって気持ちがあるだけでも、私は嬉しいけどね。それで、どんな花を探してるの?」
「......」

 何と言えばいいのか、ほんの少しだけ考えて、言った。

「昔亡くした、大切な人に宛てる花だ」
「手向けの花だね。それなら......」

 特に何も尋ねることなく、目的の花を探し始める。しかし

「えーっと、どこにあったかなぁ......」

 店内には所狭しと花が並べられているため、見つけづらいようだ。

「シンシア、花の名前と、特徴を教えてくれないか?」
「いいわよ、これは私の仕事なんだから。椅子にでも座って待ってて」
「そ、そうか」

 探すのを手伝おうと思ったが、断られてしまった。手伝わせるのは嫌なのだろうか。

(そういえば、ノイエにも手伝いを断られたこともあったな......)

 その手の知識がない人は、下手に手伝ってもらうよりじっとしていた方が、作業を行う側の効率も良くなるということだろうか。

(戦いも同じ、か)

 足手まとい、そんな言葉が頭に浮かんだ。今の俺は、そんな状態ってことだな。
 適材適所、そんな言葉があるように、人はそれぞれにできること、できないことがある。俺にも、ノイエにも、シンシアにも。
 今は、何もせずに見守っていよう。



「おまたせ!」

 しばらくして、シンシアが濃い紫色の花と、薄い紫色の花を2輪ずつ持って来た。

「ねね、カイ君は花言葉って知ってる?」
「少し耳にしたことはあるが、詳しくは分からないな。それが、今持ってきた花に関係があるのか?」
「もちろん。昔、花に想いを託して恋人に贈るって文化があったんだって。これが花言葉の起源って言われているみたいなんだけど……って問題はそこじゃないね。
 薄紫色の方の花言葉は『追憶、君を忘れない、遠方にある人を思う』で、濃い紫色の方の花言葉は『変わらぬ心、途絶えぬ記憶』なの。昔亡くしたっていう人に贈るなら、これがぴったりだと思う」

 つらつらと語るその姿に、俺は素直に感心した。

「シンシアは花が好きなんだな」
「平和になったら花屋をやろうって決めてたくらいだからね。ーーそういえば、今カイ君は何をしているの? 大鐘堂にはいないんだよね?」
「あぁ、今はミント区にいる。今の生活にはそれなりに満ーー」

 満足している、そう言おうとしたところへ、ノイエが駆け込んできた。

「カイ! ごめん、待った?」
「ノイエ……ここが店だということを忘れてないか?」
「え、ノイエさん?」

 俺たちの様子に、目をパチクリとさせるシンシア。持っている花はなんとか落とさずに済んだようだが、少し固まっているところを見るとよほど衝撃だったに違いない。

「こんにちは。シンシアさん」
「いらっしゃい、ノイエさん……もしかして、さっき言ってたカイ君に紹介した人って……」
「それ、私のこと」

 ずばりと言ったノイエに、シンシアはこめかみを抑えている。

「カイ君。キミ、もうお相手がいたのね」
「ああ、そういやシンシアにはまだ話してなかったな」

 ちらっとノイエを見る。無言で頷くのを確認して、俺達の現状に行き着くまでの流れを簡単に説明した。俺がここに来た経緯も。

「......だから、手向けの花なんだね」
「ま、そういうことだ」
「でも、あまり引きずるのは良くないと思うよ。それに......」
「それに......何だ?」

 ふと、シンシアがノイエに顔を向けた。当の本人は何のことかと言うように困惑している。

「ノイエさんに逃げられちゃうよ?」
「......は?」
「ちょっ、ちょっとシンシアさん!?」

 まぬけな声が漏れる俺と、顔を赤く染めて興奮するノイエ。その様子にシンシアは吹き出してしまった。

「ぷっ、ふふふ。いやぁ、ごめんごめん。別に揶揄うつもりはなかったの」
「まったく、人騒がせな......」
「でも、そう思ったのはホントだよ。ノイエさんがそれでも大丈夫って言うなら問題ないけど。言ってる意味、2人とも分かるよね」
「「......」」
「よろしい」

 満足げに言うと、シンシアは持っていた花を袋に入れて手渡した。

「はいこれ」
「相変わらず、マイペースだな。ま、また機会があれば来るさ」
「いつでも待ってるからね」

 誤解を招くような発言だが、そこは笑って誤魔化し、店を後にした。




 気づけば日は落ちかけ、インフェリアーレは橙色に染まっている。首都というだけあって人通りはまだ多いものの、昼間に比べると活気は落ち着いているように見える。
 シンシアの店から駅舎へ向かう途中で、気になっていたことを切り出した。

「ノイエは、いつからシンシアのこと知ってるんだ?」

 少し前を歩いているノイエは、若干の間を空けて答える。

「シンシアさんが武具屋をやっていて、私がまだパスタリアの中層部に住んでいた頃だから十二年くらい前かな。あの時は......たしか、耳飾を作ってもらったわ。地上で崩落に巻き込まれた時になくしてしまったけれど」
「そうだったのか。そりゃ、あれだけ親しく話せるわけだ」
「あまり通ってたわけでもなかったんだけどね。ほら、武具屋って結構力が要るでしょ? 女性がやってるのって、珍しいじゃない。だから、すごく印象に残ってたのよね」
「それもそうか」

 ノイエの説明に納得して、しかしなおも思考を膨らませる。

(レーヴァテイルなのになかなか謳わないってのも、それはそれで珍しいと思うけどな......)

 武器を持つレーヴァテイルは知っている。だが、それも護身的な意味合いが強く、積極的に振るうレーヴァテイルはそうはいない。ソル・クラスタからの移民が来てからは、武器を提げるレーヴァテイルも増えたが。

「そういえば、カイってすっごく大変なこともあるんでしょ? 引き受ける依頼、選んだほうがいいんじゃ?」
「……ノイエには言われたくないぞ? 大抵は害獣や怪鳥、たまに現れるモンスターの駆除を引き受けているが、今のところは問題ない。それに、体を動かしていないとすぐに鈍ってしまうからな」

 リムにいた頃と違い、危険なモンスターはまずお目にかかれない。害獣や怪鳥などの駆除を頼まれることもあるが、大抵は接近される前に無力化できる。怪我をすることはごく稀だ。

「まるで、マークさんと似たようなことをやっているのね」
「たしかに似ているが、マークの場合は食料調達が主な目的だったんじゃないのか?」
「そそ、カイさんの言う通りだぜ」
「へー、マークってそんな生活してたんだな」
「まぁ……あの手際の良さを考えると、不思議ではないか」

 馴染みある明るい声と、知らない声が2つ聞こえた。
 振り返れば、マークに沙羅紗さん、カンナさんに、見知らぬ2人の姿があった。

「久しぶりね、ノイエさん。それに、カイ……さん?」
「やっほー! 二人とも!」
「あら、マークさんにフィズさん、ローレンツさんじゃない。それに、沙羅紗さんとカンナさんも。揃いも揃って、久しぶりね。マークさんとはひと月前にも会ってるけど。みんな揃ってるなんて不思議なこともあるものね」
「偶然だろ偶然。そもそも住んでる地域が違うってのに」
「ノイエさん。つかぬことを聞いてすまないが、そちらの方は?」

 俺の方を向いて訊いた青年は好印象に感じた。物腰が柔らかく、自然と人に気を遣っているような話し方だった。

「あ、そっか。フィズさんとローレンツさんは初めてだったわね。紹介するわ。私のパートナーのカイよ。こう見えても、私に銃の扱いを教えてくれた人なの」

 ……こう見えても、は余計だ。

「ノイエの紹介にもあったとおり、パートナーのカイだ。元騎士で、今は傭兵をやっている。荒事は断っているが、な」
「フィズだ。元騎士ってこたぁ、マークの先輩ってことか?」
「そういうことになるかもしれないが、俺はもう現役じゃないからな」

 今は違うと、首を横に振って否定する。

「俺はローレンツ、天覇の研究者だ。こちらこそよろしく」
「天覇......ソル・シエールから来たのか。休暇か?」
「いや、仕事だ。ノイエや他の人にも話しているが、俺はヒュムノスの研究をしているんだ。それでメタ・ファルスのレーヴァテイル......もとい、I.P.D.についても情報を集めようと思ってな」
「それは興味深いな」

 このままでは話が興じて、ずっと立ちっぱなしになってしまう。どこかへ移動した方が良さそうだ。

「こんなところで立ち話もなんだ。そこそこ大所帯だが、どこかで夕食でも食べながらにしないか?」
「そりゃ良い案だ。さくっと移動しようぜ」
「さんせー! ごはん!」





 席が空いている店を探している中で、ばったりニーナと遭遇した。同じ騎士のマークがいるのだし、彼女がどこにいても不思議ではないのだが、よりによってこんなところで会うとは。

「まぁ、みなさんお揃いでどちらへ? 見知らぬ方もおられるようですが」
「どうしてニーナがここにいるのよ?」
「お姉様。先に私の質問に答えてくださる? 質問に質問で返すのは無粋でしてよ」

 あからさまに不機嫌そうな顔を見せる。沙羅紗やローレンツはハラハラしていたが、爆発はマークによって止められた。

「ちょっとした仲でな。再開を祝して食事をしに行くところなんだ」
「あら、それなら私も混ぜてくださいませんこと? 丁度殿方と数も合いますし」
 いいこと思いついた、とでも言うように手を叩くニーナ。

「お、ノリがいいねぇ。嫌いじゃないぜ、そういうやつは」
「ニーナさんも一緒に食べよー!」
「……これだけの人数だ。今更人が増えたところで対して変わらないだろう」

 フィズ、カンナ、ローレンツと首肯したところで、反論を挟む余地がなくなってしまった。どうしてみんな疑問を持たないのかしら……。

「こりゃ、さらに騒がしくなるな......」
「たまには、良いんじゃない?」

げんなりとするマークに、沙羅紗はそっと相槌を打った。




 何軒か回って、やっと席が空いている店を見つけた。

「少し時間がかかってしまいましたわね」
「いーや、見つけられたことが奇跡じゃねーの? この時間に8人以上の席なんてよ」
「何はともあれ、ひとまず適当に座っていこうじゃないか」

 8人で座るには少々大きめな長方形のテーブルに、思い思いに座った。

「よーし、飲み物は?」「まずはビールだろ」「俺もそうしよう」「私、この白ワインで」「わたしもー!」「私はハーブティーにするわ」「俺はレモンティーにしておこう」「わたくしは水で構いませんわ」

 マークは店員を呼ぶと、自分のものも含めて飲み物を頼んだ。

「悪いな。勝手に仕切っちゃって」
「いいんじゃねーの? 俺らよりもマークの方が性に合ってるしよ」
「そーそー。どうせ私じゃうまくできないし」

 特に誰も咎めることはなかった。
 飲み物が来るまでの間に、それぞれ自己紹介を済ませた。

「家族構成を聞くことなんて滅多にないが、こうして聞くとやっぱりそうなんだなって」
「ノイエの妹のことか? 同じ時期に入隊したってのに、マークは知らなかったんだな」
「あぁ。ノイエさんのファミリーネームは知らなかったからな」

 ノイエの本名を知るのは、この中では本人を除いて3人だけだ。

「本名を名乗るのなんて、沙羅紗さんくらいよ?」
「たしかにそうだったな」
「そんなほいほいと本名なんて言うものではないのではなくて?」
「そりゃそうだろう。正式な場ならともかく、そうじゃなかったらあだ名がほとんどだ」

 研究者として、その機会があったのだろうローレンツには説得力があった。

「わたくし達はよく使いますわ、マーク」
「ん? まぁそうだな。騎士として報告する時とか、だいたいは本名だ」
「やっぱ、騎士ってのはお堅いねぇ」

 お通しをつまみながら茶々を入れるフィズ。まだ飲み物も来ていないが、すっかり宴会モードである。βにしては珍しく食に目がないカンナも同様に。

「ノイエさん、近いうちにメタファリカの案内、頼める?」
「もちろん。3人で一緒に回りましょ」
「わーい! ノイエさんと旅行だ!」

 はしゃぐカンナと、それを嗜める沙羅紗。その様子を見ていたニーナは、そっとため息を漏らした。

「本当に、仲がよろしいのですわね」
「二度も死線を乗り越えたんだ。それくらいなるさ」
「あら、意外にもマークも経験が豊富ですのね」
「意外とは失礼だな」

 狩人として過ごしてきたことも踏まえて、やや憤慨しているマークだったが、ニーナにはスルーされてしまった。

「それにしても、ヒュムノスの研究だなんて面白そうなことをしておりますこと」
「ありがとう、ニーナさん。さっきも紹介したように、俺は代々月奏の家系でね。話せば長くなるから省略するけど、ざっくり言うと、ヒュムノスの元となった魔法を使うのが月奏なんだ。なかなか聞かないかもしれないけどね」
「まぁ、そんなものが。わたくし、知りませんでしたわ」

 実際に見たことがあるかはさておき、今や詩魔法を知らないものはいない。しかし、存在そのものを知っていても、原理や歴史を知るものはそう多くない。自ら知ろうとしなければ、一生知らないままの人がほとんどだ。

「疑問なのだけど、貴女はレーヴァテイル?」
「違いますわ。わたくしは普通の人間ですわよ、沙羅紗さん」
「そう。ノイエさんがレーヴァテイルだから、貴女もそうなのかと」

 沙羅紗がその台詞を言った途端、事情を知る人は全員ぎょっとした。当の本人は、引きつった笑顔を貼りつけている。
 しまった、という顔をしているが遅い。この場にいる皆が聞いてしまったのだから。

「えーっと……ノイエさん、それは本当かい?」

 ローレンツが、事情を知らない人(と言っても二人だけだが)を代表して質問する。

「......まぁ、そうね。ついでに、この間ローレンツさんが言っていたI.P.D.も、私には当てはまるわ」
「そうだったのか」
「お前ら、あまり驚いてないって感じだな。知ってたのか?」

 疑念の矛先は、他に事情を知るマーク、カンナに向く。

「……うん、フィズ達より前に会った時にね。詩魔法を使ったからすぐに分かったよ」
「怒ってるのか?」
「それなりに大事なことだしな。ま、それも今更だ。誰が何であろうと、気にすることじゃねー。隠しごとの一つや二つは誰にもあるしよ」

 あっさりと身を引いたフィズに対して、ノイエはしばらく戸惑っていた。

「まぁ、せっかく集まったんだ。もっと明るく行こうぜ。飲み物も来たことだしよ」
「そうそう。人生明るく行かないとね!」

 いつの間にか運ばれてきた飲み物を配るマーク、それに同調してグラスを手に取るカンナ。 この間の諍いは何のその......というよりも、場所を弁えていると言った方が正しいが、仲が悪いようには見えない。
 その隣では、やや居心地が悪そうにしているカイの姿があった。

「俺は......割と部外者な気がするんだが」
「それを言ったら、わたくしもそうなりますわ。気にすることではなくてよ」
「別にいいんじゃない? ニーナさんはノイエさんの妹だし、カイさんはノイエさんのパートナー、でしょ?」
「そうですわ......って、今何と?」

 聞き逃したのか、きょとんとして催促する。その様子を見た姉は驚き呆れ、溜息をついて説明しようとした。

「お前らー、飲み物持ったかー?」
「はい、ノイエさん、ニーナさん。ひとまずは乾杯といこうじゃないか」
「ありがと、ローレンツさん。ニーナ、この話はまた後でね」

 タイミングが悪いとしか言いようがなかった。なお、この後話を聞いたニーナが悲鳴をあげたのは言うまでもない。

「よーし、それじゃ......

 住んでる場所が離れてたり、それぞれ生活がある中でこうして集まれたことに、俺はとても嬉しく思う。これからも......」

「あー、長えっての。やるならさっさとやろうぜ」
「フィズの言う通りだな。軽く一言で締めればいいじゃないか」
「そうそう。パパッとさ!」
「......レアード、みたい......」
「ほら、もう一回しっかりしなさい」
「お前ら......自分がやらないからって散々言いやがって......」

 フィズが抗議したところで、好き放題に文句を垂れるメンバー。どうやら、ここに味方はいないようだ。
 気を取り直して、もう一度。

「仕方ねぇな。
 それじゃ、皆の再会を祝してーー」



『乾杯!』






前編
後編



最終更新:2017年08月21日 00:04