某日、
ホウオウグループにて。
とある場所で、一人の少女が腰掛けていた。
独特の形をしたヘアピンがトレードマークの少女の顔は、可愛らしいながらも、どこか狂気を帯びていた。
とそこへ。
「…
マキナか」
「あれ、ホウオウ様じゃないか。珍しい」
少女が所属するグループの統率者、ホウオウが姿を見せる。
多くの者達は、この男を崇拝し、敬愛の念を抱いていた。
この少女―――マキナを除いては。
「何しに来たの?」
「それをお前が知ってどうする?」
「別にどうも?」
「なら必要ない…ところで」
「ん?」
「ゼアから聞いたが、
ジングウを狂愛しているらしいな」
「狂愛だなんて人聞き悪いなあ。純愛と言って下さい」
しかしケタケタと笑うその表情は、正に狂愛を抱く女の表情そのものだった。
「どうなのか聞いている」
「狂愛じゃないけどー、確かにジングウ様の事大好きだねえ」
「…そうか」
「あれ? ホウオウ様、嫉妬でもしてんの?」
「嫉妬…か。疑問の間違いではいか?」
「疑問? 何の?」
「何故あの男を狂ってまで愛するのか」
「狂ってる、かあ。確かにボク…狂ってるよねえ」
悲しげに言っているものの、その表情はそれとは正反対に快楽に歪んでいる。
ホウオウはこの少女を、『恐ろしい』と思ったことはない。
ただ、『悍ましい』とは思う。
たった一人の狂愛の念を抱く男の為に、どんな残酷な事も進んでやる。
正に、愛に溺れ、魅入られた少女だ。
「でもあの人はボクに、狂ってまで『欲しい』と思わせたもん。凄いよ」
「成る程…だが」
「ん?」
「行き過ぎた愛は、いつか己の身を滅ぼすぞ」
「別に死んでもいいよ。ジングウ様に殺されるならね」
「…つくづく狂った女だな、お前は」
「そうでしょ?」
マキナの目に一瞬、血色がさす。
だがその色はすぐに消えた。
当の本人は知ってか知らずか、無邪気に話す。
「あ、それでねー。ジングウ様にこう言ったんだー」
「ジングウ様の為ならホウオウグループも滅ぼすって」
その言葉を引き金に、二人の間に緊張と沈黙が走った。
ホウオウはマキナを鋭い視線で見据え、マキナは変わらず笑顔のまま。
ただ、先程とは違って、その笑顔は狂気がそのものだった。
するとその空気を緩める様に、マキナは戯ける様に言った。
「ま、今はまだその時期じゃないから、やらないけどさ」
「ならばその時期が来れば、グループを滅ぼすと?」
「…さあね。流石のボクの能力でも、ホウオウ様には勝てないし」
「…賢明な判断だな」
「でなきゃあ、ゼアさんの部下やってないよ」
「そうか」
狂女との会話をやめたホウオウは、その場から離れる。
マキナの狂愛にまみれた呟きを耳にしながら。
「欲しい…欲しいよ、ジングウ様…アナタを殺したいと、思ってしまうほどに…」
最終更新:2011年06月20日 15:48