その出来事は、本当に突然だった。
いつも通りの日常で、いつも通りの先生が、いつも通りの授業をすると思ってた午後。
食事の後の国語の時間は眠くなる。チャイムが鳴った時、由衣はうとうとしていた。
しかし、その眠気も一気に吹き飛んだ。
教室のドアを開け、入って来た教師が見なれない姿をしていたのだ。
若草色の袴姿。茶色い革製のトランク。よく見ると、トランクに黒い猫がぶら下がり、こちらを見ていた。
思わず
ユズキの方を見る。しかし、ユズキも驚いたような表情を見せ、首を振った。
入って来た男は出席簿をおき、此方を向いた。
「
はじめまして。突然ですが、先任の国語の担当講師に今まで代理を務めさせていただいておりましたので、今後、僕がこのクラスの国語を受け持ちます。」
あまりに突然のことで、教室がざわめく。
由衣は眼の前の男に釘付けになった。
「どういうことなんですか、今までの担当が代理だったって…。」
「本当は僕が受け持つはずだったのですが、諸事情で暫く学校を離れていたのです。」
「で、戻って来たから交代して…ってことか。」
「そういうことですね。詳しくは追って話しますが、まずは自己紹介でも。」
男はチョークをとると、整った字を縦に綴った。
「…っと。改めまして、本日よりこのクラスの国語を担当させていただきます、『音無 界夢』です。よろしくお願いします。」
授業終了のチャイムが鳴った。
結局授業の間眠れなかった由衣は欠伸を一つした。
机に体を預けるようにうなだれると、視界の端に誰かを捕えた。
螺良華が界夢先生に近づき、教科書を広げる。
(螺良華の奴、ああみえてちゃんと勉強してるんだ…。えらいな…。)
由衣は寝ぼけ眼でその姿を見、そのままつかの間の睡眠をとりだした。
別に勉強を聞きに界夢先生に寄ったわけではない。
教科書を開きカムフラージュしながら、彼女はテレパシーで『
カイム』に話しかけていた。
『え?
ゴクオー?あいつ、いつも屋上にいるんで、寄ってみたら?』
『ありがとう。すぐに寄ってみるよ。』
『主が態々貴方に頼んだのもわけがあるんだろうし。説得するんならきっちりやってきてね!』
『勿論。それでは、またあとで寺でお会いしましょう。』
螺良華が教科書を閉じ界夢先生から離れるまでの一部始終を、「その人」は余すことなく記憶に焼き付けていたことを二人は知らない…。
最終更新:2011年07月01日 22:13