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東と大木といかせのごれ

「よぉう」

その日、霧波 流也は再びアカノミのもとを訪れていた。
ヴァイスに関してはとんと進展がなかったため、暇つぶしに話でもするか、とやって来たのである。
……理由の半分は、単に「帰る途中で迷ったから」なのだが。

「!」

妖怪達や春美を除くと、ほぼ唯一「彼」の意志を理解できる流也は、だから気付いた。その大木が、かつてないほど焦っていることに。

「どーした、何やら切羽詰まってるようだが」

見上げ、問いかける。ざあ、と枝葉が風に揺れる。

「…………ふむ」

アカノミの語った言葉を受け取り、顎に手を当ててその意味を吟味する。方向音痴ゆえに天然と思われがちな流也だが、頭の回転は決して鈍くはない。

「人外を狙う正義の味方、ねぇ。ヴァイスの奴とどっちがマシか」

正直な話、どっちもどっちと思ったのだが。

「んで、罪なき人を傷つけるのは罪人、しかしそれが人外ならば傷つけるのは罪なき人、ってか? ならば悪いのはどっちでしょう、と」

一秒足らずの沈黙の後、

「意外と頭カタいな、お前」

流也が返したのはそんな一言だった。

「あのなぁ、そもそも『罪なき人』ってのはどーゆうことだ? それってあれだろ、小説とかマンガでよくある『罪もない人~』ってのと同じだろ?」

露骨なまでに渋い顔で、「東」と位置付けられた男は語る。

「俺はそれが気になるんだよ。『罪なき人を傷つける』のは悪いことだ、こりゃ当然だ。じゃあれか、罪ある人だったら傷つけていいのか? 違うだろうがバカ」

びしっ、と指を突きつける。

「そいつがどんな極悪人でもな、俺たちが傷つけて、殺していい理由も権利も、ありゃしねぇんだよ」

ざあっ、と風が吹く。

「ああそうだ、無論俺も例外じゃねぇ。だが、権利も理由もなくとも、俺はヴァイスの奴を追う。そうしていいからじゃねぇ、そうするしかねぇからだ。誰が許さなくとも、俺は奴を追うぜ」

腕を降ろし、再び見上げる。

「そして、傷つけられるのが人であろうとなかろうと、傷つけるのは悪いことだ。これも当然だ。妖怪だろうと何だろうと、一方的に傷つけるならそいつは悪だ。断言してやるぜ」

そして、まったく今更のように言う。

「妖怪のことなら、多少は知ってるぜ。伝手が伝手だ。それに」

ふ、と息をつく。

「俺の故郷にも、お前みたいな大木があったからな。あの姉さん、どうしてるかな……」

そして、また視線を戻す。

「……で、だ。本題はなんだ?」

風が、吹き抜けて行く。





「……なるほど。要するに、俺にここにいろ、と?」

返事を聞き、流也は「おいおい」と手を振る。

「買いかぶり過ぎだ、アカノミ。世界はな、たかだか5人で支えられるような、ちっぽけな存在じゃねぇんだよ」

それに、と続ける。

「前から言おうと思ってたんだが、このいかせのごれって場所には『流れ』がある。どんなに手を尽くしても止め得ない、圧倒的な勢いが。だから、俺がいようといるまいと、悪い奴も、それを止める奴も出て来るぜ。大体『帰って来た』とか言ってたらしいが、俺はここの生まれじゃねぇぞ」

そこまで言うと、流也は目を僅かに細め、眼光も鋭く、

「秩序ってのはな……善悪表裏昼夜道外、そういうのを全部ひっくるめたものなんだよ。秩序が整えば恐ろしいものはなくなる……それは、間違いだ。いかせのごれは、俺達だけでどうにかできるようなものじゃねぇ。仮にお前の言う所の『東』『西』『南』『北』による秩序が整ったとしてもだ、それはつまり、『これ以上悪くはならない』ってことじゃねぇのか? や、よくわからんが」

明らかに動揺するアカノミに、己の見解を語る。

「言ってしまえばこのいかせのごれ全てが『アンバランスゾーン』だ……いつ、どこで、何が起きても不思議じゃねぇ。ここはそういう場所だ。……まあ、他に行く所はねぇし、奴をどうにかしたらアパートでも借りるさ。もし、その『秩序』とやらが俺がいることで保たれるんだったら、その意味はいずれわかるだろうさ」

じゃあな、と去りかけた流也だったが、その途中ではた、と足を止め。

「……おぉ、そうだ」

いかにも名案を思いついた、と言わんばかりに振り返り。


「せっかくだ。今度来るときは、残りの4人、全員連れて来るわ」


そんなことを、言ってのけた。



東と大木といかせのごれ

(とある大木の懸念を受けて)
(その男は己の考えを告げた)
(何も分からず、知らぬ者なりに)

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最終更新:2011年07月19日 22:00