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忙しい逢魔ヶ時

「……ふぅ。ようやく片付いたな」

シン・シーの襲撃から随分時間が経ち、ようやく白波邸の中は一応の収束を見せていた。
割れたガラスなどはどうしようもなかったため、ゲンブの伝手でアースセイバーから新しいものを運んでもらった。
なお、傷ついたアズールとマナはアカネの部屋に運び、寝かせてある。

「全く、俺の家がここまで……何を考えているんだ。あのシン・シーとか言う奴は」
「それは僕の方が知りたい。人外を狙ってるって話だったけど、何で僕を?」
「スザク。それはお前が、例の施設出身だからではないか? 確か、生体兵器としての強化を受けたはずだったな」
「確かにそうだけど……肉体改造とかは受けてないぞ。精神改造くらいだ」

その結果である「殺戮衝動」は未だ心の底に眠っており、充実した毎日を送る今となっても消えてはいない。

「奴にとってはそれで十分なのだろう、な。人ではない、それだけで」
「………」

難しい面持ちで黙りこむスザク。自分は何者なのか? 久しくなかったその問いが、今再び頭を擡げている。
そんな彼女の横にいたシドウだが、ランカを一瞥するなり踵を返した。

「む、もう行くのか?」
ヴァイスの件以外にも、俺には仕事がある。とある連中を追っていてな」
「仕事……そういえば、お父さんの仕事ってなんなの?」

全く今更の様な疑問を、ランカが父の背に投げかける。だが、シドウは振り返ることなく、

「……知らない方がいい」

それだけ言うと、足早に出て行ってしまった。





「……何だ、あの男は。それでも父親か」

憮然としたゲンブの呟きは、届いていない。




一方、部屋の反対側。
片付けの中で少しランカと会話をしたエトレクは、あれ以来会っていなかった理由を説明していた。

「……じゃあ、その鬼門……っていうんですか? そこにいたんですか」
「『いた』というより『在った』というべき哉。あそこは形が意味を成さない世界、というか空間だから。そっちはどうしたんだい?」
「えと、綾ちゃん……向こうの赤い髪の女の子なんですけど、その人が倒れてるのを見つけて……その辺りで運悪く体調崩しちゃって、つい最近まで入院してました」
「入院!?」
「今は元気ですけど、まだあんまり外には出られないんです」
「………………」
「あ、あれ? どうしたんですか?」
「い、いや、何でもないさ……(とほほ)」

同じ所を何度も探し回っていた自分の努力が徒労だったと知り、肩を落とすエトレクであった。

「ま、まあ、それはさておき」
「あ、そうだ。さっき、私を捕まえてた人の足を白い手が掴んでたのが見えたんですけど、あれは何なんですか? アズールやエトレクさんの友達なんですか?」
「真っ先に友達が出て来るのはどうかと思うけど……まあ、その通り。ミナと言ってね、俺と同じく百物語組の一人さ」
「ひゃくものがたりぐみ……アズールが言ってた、あれかな?」

そうそう、と頷く。

「主……秋山 春美という女の子なんだが、その人が『実際にあった話』として語った怪談や都市伝説を引き金に現れた、百人の妖怪たちの事さ」
「百人……やっぱり、最初とか最後は凄かったりするんですか」
「基本的に番号が多い……つまり話として新しい程力が強い。例外もたまにあるけどね。ミナもそうなんだけど、あの子はちょっとワケありでね」
「?」

首を傾げるランカに、エトレクは言う。

「あの子の元となった話は『心霊スポットから追いかけて来る怪異』なんだけど、主が語っている最中に何事かが起きたらしくてね。完全には鬼門から出て来ていないんだ。さらに悪い事に、主はその時のショックで話を忘れてしまったらしくてね。今は思い出し思い出し、少しずつ続きを話している状態さ」

なお、エトレク自身はその時の現場には居合わせていなかったことを付け加えておく。

「そういうわけで、今のあの子は妖怪ではなく、『心を持った怪奇現象』そのものでしかない。さっきの介入もあるし、この家でも何か起こるようになると思うけど、怖がらないでやってくれ」
「?」
「怖がると、その気持ちが向こうに映されて、ミナはますます人を怖がるようになる。決して悪意があってやってるわけじゃない、ただ自分を守るためのことだから」
「……わかり、ました」

さすがに不安は隠せないランカだったが、よく考えれば自分の所にはアズールがいる。
今更何を恐れることもないか、と思いなおし、答えた。

「そうか、ありがとう」
「おぅ、エトレク」

後ろから声を掛けられて振り返ると、ゲンブがそこにいた。

「あれ? えーと……」
「独立調査員の水波 ゲンブだ。今回の件について、百物語組及び秋山 春美と協議をする必要が出て来た。急いで向かってくれるか? 俺はこの件について、いくらか調べることがある」
「わかった。そう言う事なら、断る理由はない」

先だっての「訪問」は、「外に出る時に気をつける」ように警告するためのものだった。しかし、今回シン・シーは他者の家に殴りこむという暴挙に出た。これでは安全な場所がどこにもない。下手をするといかせのごれ高校が危ない。より早急に、対策を立てる必要があった。

「……そういうことだから、俺は行くよ。またな、ランカちゃん」

言うと、「怪人赤マント」は夕焼けに紛れるようにしてその場を去った。

「……挨拶、私まだしてないのに」

残されたランカは、ぽかんとしたまま呟いた。



忙しい逢魔ヶ時

(再会もそこそこに)
(怪人は仲間の下へ急いだ)
(新たな危険を知らせるために)

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最終更新:2011年08月21日 13:48