……僕自身が覚えてる中で一番古いのは、ゲンブと一緒に暗がりを走ってる光景なんだ。
「暗がり?」
ああ。……僕があの施設に連れて行かれたのは、2歳か3歳くらいの時で、ほとんど覚えてない。父さんも母さんも必死で探してくれたみたいだけど、見つからなかった。……見つかるわけないよな、秘密施設にいたんだから。
「……」
僕がそこで受けたのは、この……(右手を見る)力を兵器として利用するための、精神改造。薬物で強化されたこともあったけど、大半はマインドコントロールと、その成果を見るための実戦テスト……だったらしい。
「らしいって?」
覚えてないんだ。後になってゲンブから聞いた話だから。
「……そう、なんだ。そういえば、亀さんはどうしてそこにいたの?」
それが、よくわからないんだ。どこからか拉致されて来て、僕と
同じように実験体になってたみたいなんだけど……どんな処置を受けたのか、そもそもどこから来たのか、家族はどうなったのか……そういうことを全然話してくれなかったんだ。
「話してないって、鳥さんにも? ……何かあるのかな」
さあな……ともかく、9年前に事故か何かがあって、施設は壊滅。僕はその時にゲンブに連れだされて、外に逃げ出したんだ。
「それが、さっきの……?」
ああ、暗がりの記憶だ。だけど、2年くらいしてから、僕もゲンブも倒れてしまったんだ。それを助けてくれたのが、ランカとシドウさんだったんだ。
「ランカちゃんが?」
僕らを迎え入れてくれて、しばらくそこにいた。ランカと話をしてる内に、僕も少しずつ自分を得て行ったんだ。
「得た? 取り戻したんじゃなくて?」
………今、こうして話してる「僕」は、その頃に形成された人格なんだ。施設にいた頃は気絶してるか、暴走してるかのどっちかだったから、自分なんて持ってなかったんだ。しかも、マインドコントロールの影響だけは残ったから始末が悪い。
「もしかして、それが例の衝動?」
そうだ。
「………」
……続けようか。保護されてから3年くらいして、シドウさんがいなくなった。後で聞いた話なんだけど、アカネさん……ランカのお母さんなんだけど、その人の仇を見つけて飛び出したんだって。
「ぇ……ランカちゃんのお母さん、殺されてたの?」
らしい。僕も詳しくは知らないけど。……ともかく、そのショックでランカは一気に体調を崩して入院、僕とゲンブはどこからか連絡を受けたウスワイヤに保護されて……。
「亀さんはアースセイバー、鳥さんはそのまま……ってこと? 何で鳥さんだけ?」
それはわからない……ゲンブは何も言ってくれなかったし。
「また? 亀さん、口堅過ぎだよ」
全くだ。甲羅もないのにな。……僕の髪、前は白かったろ?
「うん」
僕にとって、赤は血の色、弱さの色だった。記憶にはなくても、身体が施設にいた時のことを覚えてた。だから、僕は無意識の内に、赤い色と心の弱い部分を全部、奥に仕舞い込んでしまった。
「………」
そうして残ったのが、今までの「
火波 スザク」。だけど、強さ一辺倒の人格がもつはずもないだろ? あまりにも不完全すぎたせいで、一時は自我崩壊寸前まで行った事もある。
「ちょ、大丈夫なの!?」
見ての通り、今は大丈夫。……衝動がしょっちゅう顔を出してたのは、仕舞い込んだ弱さの部分が空白になってて、それを埋めるために誰かを欲したせい。
「? でも、鳥さんの衝動って殺戮だったよね? 意味がないような気がするんだけど」
ところがそうでもないんだ。誰かを求めてもいずれいなくなる、だったら殺してでも自分のものにする……それが無差別に働いてたのが、今までなんだ。
「……鳥さんって、ヤンデレだったの?」
……………非常に不本意だけど、白い髪の頃は確かにそうだった。だけど、僕はそのおかげでトキコを好きになった。
「え?」
一緒にいる時、僕は自然でいられた。仕舞い込んだはずの弱い部分を、表に出すことが出来た。……まあ、諸々がこんがらがって、アプローチはあんなおかしなものになっちゃったけど。
「さすがにあの時はびっくりしたよー。鳥さんの方から言って来るなんて」
まったくだ。で、その後ゲンブやマナから色々と手助けされて、自分の中で自分に整理をつけて、答えを出したんだ。
「それが、あの旅行の時の?」
ああ。
「そっかぁ……あっ。そういえば、蒼さんと初めて会ったのってあの時だよね?」
僕も驚いたよ。妹がいるなんて、ちっとも知らなかったから。転校して来た時はなお驚いたけどな。
「それ私も。冗談抜きで『へ?』ってなったもん。目の色以外ほとんど同じ顔で、髪の色も白だったし。……言葉遣いは何て言うか、お嬢様っぽかったよね」
ああ。……最近、学校の近くに作家の先生が引っ越して来ただろ? あれ、僕の叔母さんなんだ。
「え、そうなの!?」
一之瀬 ツバメ……母さんが死んだのが6年前で、それからアオイがお世話になってたんだって。……どっちかっていうと、アオイが世話を焼いてたらしいけどな。
「?」
叔母さん、時間には正確だけど他がものすっごいルーズらしくてさ。アオイが始終片付けとか、掃除とかしてたんだってさ。あ、それとあの言葉遣いだけど、叔母さんの知り合いの人のがうつったらしい。
「……何か、それ一発で想像ついた。だから蒼さん、あんなにしっかりしてるんだ」
僕もだ。……さて、僕のことに戻ろうか。この髪だけど……。
「! そうそう、それだよ。鳥さん、いつの間に髪が赤くなったの?」
さっき、弱さと一緒に赤を仕舞い込んだって言ったろ? 僕は、真っ二つになってた自分を元に戻したんだ。夢の中で、もう一人の僕と対話して、ね。
「鳥さんがもう一人? ど、どんな人だったの?」
んー……姿はこのまんまで、言葉遣いがトキコ、って感じかな。
「…………な、何か想像つかない」
無理もないよ、僕も面喰ったもん。とにかくそういうわけで、僕は今の「僕」になったわけ。……ただ、その後シドウさんがいきなり帰って来たせいで、絶対目標がなくなって自分の中に閉じこもっちゃったんだけど。
「確か『異能殺し』って人を探してたんだよね……もしかして、そのシドウさん、って人?」
ああ。ランカや僕達を巻き込まないために一人で飛び出したらしい。……アオイ達のおかげで、僕は何とか戻って来られた。まあ、そのすぐ後に
ヴァイスの騒ぎがあったんだけど。告白もその時にしちゃったし、ムードも何もなかったな。
「ううん、嬉しかったよ」
! ……そっか。それは、嬉しいな。
「うん」
……僕の知ってることは、おおまかにだけどこんな感じかな。まだ、知らない事も多いけど。
「たとえば?」
「うん、鴉さんだね」
アオイさぁ、何かあいつを目の敵にしてるんだよな。何でか聞いても「大したことじゃありませんわ」の一点張りだし。
「鴉さん、初対面でいきなり一杯喰わされたって言ってたよ」
すると、アオイの方は結構前から知ってたことになるな。何なのかな?
「さあ……」
あと、マナ。あいつ、何か事情があってヴァイスを追いかけてるみたいなんだけど、過去の事情が全然わからないんだ。聞こうにも聞けないし。
「それわかる。神出鬼没だし、家もわからないし。家族……はA君がいるかな? 苗字同じだし」
? ああ、詠人のことか。けど、あいつはあんまりマナの事を話さないんだよな。
「だよね? 何でかな」
嫌ってる……のかな?
「だったらもう少しわかりやすい態度とるよね?」
だよな? んー……わかんないや。まあ、その内聞いて見よう。
「そうした方がいいと思うよ」
後は……父さんかな。
「鳥さんのお父さん?」
うん……顔も覚えてないし、写真もないんだ。だから、僕は父さんがどんな人だったのか、知らない。アオイに一度聞いて見たんだけど、何か、すごく悲しいことがあったらしくて、泣きだして話が出来なかったんだ。だから、あいつが話してくれるまでは、聞かないことにした。
「……優しいね、鳥さん」
まさか。……臆病なだけだよ。
「(もぐもぐ)……鳥さん、好きなアーティストとかっている?」
んー、特にいないかな。歌の方が興味ある。
「? 特にこの人の曲がいい、とかないの?」
それは歌手のアイドル化と同じだな。そのアーティストのファンなら、後になって曲のスタイルが変わっても、「そのアーティストなら何でもいい」ってことになる。僕はそんなのは嫌だ。
「そ、そうなんだ。じゃあ、好きな曲はあるの?」
そうだな……「津軽海峡 冬景色」とか、「天城越え」とか。
「え、演歌?」
そうだよ。……あれ? 何か変かな?
「そ、そうじゃないけど、何か蒼さんといい、曲の趣味が変わってるなぁ、って」
あいつはロックが好きだしなぁ……この間、部屋でデスメタル聞いてるの見たし。
「うぇ!? …………ぜ、全然想像つかない……あ、蒼さんがデスメタル……?」
僕だって衝撃だよ。どうしてあれにハマッたんだか。
「…………あ、そ、そうだ。鳥さん、好きな本とかは?」
幻想物語シリーズ! これはもう即答だね。
「前に図書室で見せてもらったあれかぁ……」
簡単に言うと、シリーズごとに主役がいて、求めてるものがあるんだ。だけど、その求めてるものは全て幻想で、決して手が届かない。それでも掴もうと足掻いて、もがいて、そして……っていう話。
「なんか、深いね」
だろ? だから僕もハマってるんだ。……まあ、一部お子様お断りの部分もあるけど。
「……そうなの?」
そうなんだよ。僕はまだそこまで行ってないけど。
「気をつけて、読んでね?」
? う、うん……。
朱雀、自分語り
「(もぐもぐ)……そういえば、さ」
ん?
「鳥さんのドジって、お父さんとお母さん、どっち譲り?」
んー……父さん、かなぁ? 母さんはしっかり者だったって言うし。
「………諦めたんだね、鳥さん」
最終更新:2011年10月05日 21:35